「スペルカード?!
その言葉を神無から聞いたのですか?!」
ベッドの上に体を乗り出し目と鼻の先まで俺に顔を寄せる纏。
しかし普段から親しき仲にも礼儀あれという言葉を忠実に守り実行するタイプの彼女は直ぐに自らの行動に気付き後ろへと退いた。
「ご、ごめんなさい!!
つい興奮してしまったもので……」
「……何かあった?」
「なんでもな……
いえ、どちらにしろ百合さんにはこれについて頼み事があるので話さなければなりませんね」
「頼み事?」
纏の言葉に妙に含みのある表現が混じっていたことから首を傾げて質問する。
「はい。
先日私が話した帰って来た理由、覚えていますか?」
「ああ、確か一身上の理由がどうとか言ってたよな」
「はい。
姉さんが……行方不明になってしまったのです」
「いざなが?」
俺は纏の口から語られた言葉に絶句する。
いざなとは纏の一つ年上の姉であり、彼女も纏と同じく十六夜流の門下生だった。
纏は普通科の高校に通う傍らで自らの能力を生かして私立探偵を営んでいるが、いざなは俺と同じく国立魔法大学付属第一高校に通っている。
纏のスキル的には一校の人間に劣ることは全くないのだが彼女は一高の入試を受けていない。
「これを見てください」
そう言って渡されたのは纏の携帯端末。
画面にはメールの文面が表示されている。
そこには「キャビネット降りた先で友達の手伝いをしなければならないので暫くは会えません。
またね」と書かれていた。
そして送られてきたのは半月ほど前。
「これって……あの怪談の?」
「知っていたんですか?」
「ああ。
横浜に行った女の子が妹にこれと同じ文面のメールを残して消えたって内容の話だ。
まさか本当にあったんだな……」
何故俺に頼まなかったのかという事を聞きたかったのだが多分俺の周囲の環境の変化や事件の後という状況を省みての判断だろう。
だから怒ろうにも怒れない。
「でもその話には続きがあるんです。
これを見てください」
端末を操作して画面が下にスクロールされ、その文面の続きが表示された。
そこには「追伸。
そこに住んでる人みんな優しいから心配しないでいいよ!!
ゆうちゃんも居るし!!」と書かれている。
「随分友達多いな……
それにしてもこのゆうちゃんって……」
「ええ。
多分百合さんの従兄妹の
姉さんがその様な渾名で呼ぶのはは彼女だけですし」
十六夜優輝……その名前をもう聞くことはないと思っていた。
俺の父上の弟であるもう一人の伯父上、
五年前、何者かによって彼女の家族は皆殺しにされた。
しかもその犯人と思しき集団も別の何者かに殺されており真相は闇の中。
しかも優輝の遺体だけは現在も見つからない。
千鳥の場合とは違い血液などの痕跡は残されておらず、生死不明のまま現在に至る。
「で、場所は?」
「ええと……数日前に姉さんのGPSを辿って調べたのですが……
富士の樹海のど真ん中です」
「また物凄い所にあるなぁ……」
「あと百合さんに伝えておきたい事が……」
「百合!!
目が覚めたって!!」
「ようエリカ。
元気そうでなによりげぼぉ?!」
俺と纏が話をしているとエリカが病室に飛び込んでくる。
そして俺の姿を確認するや否や俺に飛びついてきた。
「心配ないじだんだがらぁぁ~
もう、もう怪我なんてしながら戦ったりじないでよね!!
確かにあだし、あんたより弱いけひっく、あんたの力に少しでもいいからなりたいんだから!!
もう少しあたし達の事も頼ってよ!!」
そして俺の胸でエリカは泣いていた。
その光景を笑みを浮かべながら見ている纏をよく見ると目元にはうっすらとクマが出来ていた。
ああ……そうなのか、と俺は思った。
昔の俺にも守りたいものはあった。
コイツらとか……他の民間人とか……色々あった。
でも、今は俺を守ろうとしてくれる人が居て、俺のために泣いてくれる人が居るんだよな。
いや、きっとあの時からそうで、ただ俺は気付いていなかっただけだったのかもしれない。
「……悪い。
ごめんな、心配かけて」
「ううん……大丈夫。
あんたが無事に目を覚ましてくれたから……
良かったぁ……」
コイツらを全力で守ろう。
そしてコイツらの笑顔を守るためにも全力で生きよう。
絶対に帰ってこよう、そう思った。
◇ ◇ ◇
「んうぅ……ゆりぃ……よかったよぉ……」
「寝ちまったか」
俺の膝を枕に寝てしまったエリカの頭を撫でながら呟く。
こんな無防備な姿を晒しているエリカと言うものはなかなか見ないものだ。
なんというか……可愛い。
「仕方がないですよ。
あなたが寝ていた間、面会時間ギリギリまで看病してくれてたんですから」
「そっか……今度何か奢ってやらなきゃな」
「起きたのか百合」
「百合兄様!!
ご無事で何よりです!!」
エリカの時と同様に左側から声がしてそこには達也と深雪が立っていた。
「本日もお疲れ様です達也さん、深雪さん。
他の皆様はどうなされたのですか?」
「少し野暮用があるとかでどこかに行ったよ。
なんでも、百合の---」
「入るぞ百合……ってあれ?
先客がいる感じ?」
「ち、千葉警部?!
なんでここに?!」
達也が何かを言い掛けるとタイミング悪くドアが開く。
そこから現れたのは銀色のアタッシュケースを持った男性---
俺の上司であり苗字の通りエリカの兄貴である。
「ちょっと
君らは百合の友達?
悪いんだけど少し外して貰っても良いかな?」
「あ、それなら俺達にジュース買ってきてよ。
金は後で払うから」
「えっと私は……」
「ああ、纏ちゃんは大丈夫。
多分君にも関係あるし」
「……わかった。
行くぞ深雪」
「はい」
寿和さんがそう言うと達也は深雪を伴って病室を出て行く。
なんか悪いことしたなぁ……後でなんか奢ろう(二回目)
「悪いな百合。
せっかく目ぇ覚めたってのにすぐ仕事の話なんて」
「いいですよ。
公私混同しない主義ですから。
ところでなんですか仕事って」
「それがな……山梨の辺りまで出て貰いたいんだが……
正確に言うと富士山のふもとだ」
「と言うと?」
寿和さんから出てきた言葉と纏が言っていた幻想郷の場所……やけに被るな。
「お前が寝てた五日間に一校の生徒数名が姿を消した。
ダメ元で彼らが所持していた端末の位置情報を辿ってみたところ富士の樹海のとある場所に集まっていることがわかった」
「私にも見せて下さい百合さん!!」
寿和さんが俺に手渡してた資料を首を突っ込んできた纏と共に見る。
そして纏の端末の座標と資料に載っている座標を見比べる。
「同じだ……」
「いざなちゃんの端末のGPS座標とだろ?
だから妹である纏ちゃんには残って貰ったんだ」
「私がエリカさんが来る前に話そうとしていたのはこれのことです。
だから警察のコネを使って何か手掛かりを探して貰おうと思って……」
「それなら一つだけある。
富士山関連の資料を漁ってたら出てきたんだ。
富士山って六十年位前に一回噴火したらしいんだよ。
それ以前の地図に神社があってな。
噴火による環境の変化に伴いその神社は無くなった。
ただ、その神社には少し不思議な噂があってな」
「不思議な噂?」
「その神社はまだ残っててその鳥居は別の世界に繋がってるって噂がな。
しかも普通の人間は辿り着けず、異世界に行った者も帰っては来ない」
「変な噂ですね。
帰ってきた奴が居ないってのにあるってわかってるなんて……」
「衛星写真があるんだよ。
ほれ」
渡された資料を見ると富士の樹海の真ん中にぼんやりとだが緑色の屋根の建物が見える。
多分苔蒸している所為でそう見えるのだろう。
「兎に角、急を要する仕事だ。
お前の怪我もあと二、三日で大丈夫だって医者から聞いたから……」
「そうは言われても……武器持ってないですし……」
「それならコイツを見てくれ」
そう言って俺のベッドの横の机に手に持っていたケースを置いた。
開けて見ろと促されるがままに俺は折れていない左手を使いロックを外しそれを開けた。
「これは……ライアー・リリー?
直してくれたんですか?!」
銀色の金属で出来たケースの中には真っ白な金属の銃身に黒いゴム製のグリップ。
そしてスライドのグリップの真上に位置する部分には両脇に百合の紋が彫られている。
これはまさしく俺の両親の形見であり叔父上の最後のCAD……ライアー・リリーだ。
「お前の叔父さんがな。
俺はただ偶然会って渡すように言われただけ」
その拳銃を手に取り、マガジンを挿入する。
カチャリと金属と金属が接触する音が部屋に木霊する。
そして銃自体を改めてじっくりと眺める。
「……少しバレルが長くなってる?」
「そこに気が付くとは流石だな。
お前の叔父さん曰わくバレルにコンペンセイターとしての機能を追加して反動を軽減したそうだ。
最後に、この銃はただのライアー・リリーじゃあない。
それこそライアーリリーの究極系『ライアー・リリー
「-ex……」
Extremeの頭二文字を取ってexなんだろうなぁ……
叔父上の考えそうな事だ。
「ただし、この-exは実験機、experimentの意味も含んでいて不調を感じたらすぐ叔父さんの所に持って行くこととも言われた」
「実験機……新たなシステムでも搭載されてるんですか?」
「
「……それは感謝しなくちゃな。
これで全力で戦える」
「ん……んぅう……百合?
それに……和兄貴?!」
「おおエリカ。
久し振り、元気だったか?」
俺らが結構大きな声で話していた所為で寝ていたエリカを起こしてしまったようだ。
そのエリカは寝始めた時に居なかった寿和さんの存在に驚きが隠せない様子だった。
本来ならまだ横浜に居るはずなんだよなぁこの人……
「元気だったかじゃないわよ!!
なんで和兄貴がここに……」
「ああ。
俺の仕事の話だ。
なんでも学校の奴らがさらわれたらしくていざなと優輝の奴も同じところに居るらしいんだ。
どうだ、一緒に言ってくれないか?」
「……いいの?
足手纏いになるかもしれないよアタシ」
「お前だって十分戦える。
いざとなったら守ってやるよ」
エリカの質問に俺はおふざけを一切混ぜずに真面目に答える。
その言葉にエリカの顔はは熟したりんごのように真っ赤になる。
「まあ、行くって言ってもまだ二日先ですがね。
ところで、その神社の名前、なんて言うんですか?」
「ああ、言ってなかったな。
確か……ここに……」
寿和さんは今一歩記憶に名前が留まって居なかったのか手に持っていた資料をペラペラと捲る。
「おお、あったあった。
えっと……その神社の名前は……『博麗神社』だ」
◇ ◇ ◇
とある洋館。
そのテラスには桃色を基調とした服を着た少女が一人椅子に座って館の敷地内の庭園を眺めていた。
酷く暇そうな少女は足をぶらぶらと揺らしながら頬杖をついている。
「お嬢様、お茶のご用意が出来ました」
「ありがとう。
あら?
今日は一段と豪華なのね。
何か良いことでもあったのかしら?」
館の中から現れた青を基調としたメイド服を来た少女が一瞬にして台車の上にあったお菓子やティーポットを桃色の服の少女の前に並べてみせる。
その様子を普段から見ているのか彼女は驚くような素振りを少したりとも見せず、むしろ普段よりも豪勢なお茶菓子に驚いていた。
「流石はお嬢様。
やはり隠し事は出来ませんでしたか」
「いえ。
これくらいのことなら
なにせあなたの表情が昨晩から緩みっぱなしなのですもの」
「はっ……?!
申し訳ありません、お見苦しい所を……」
一瞬驚いたような表情をしたメイドの少女は表情を引き締め一礼する。
しかし、その行動に対して桃色の服の少女はクスリと笑った。
「いいのよ。
誰だって嬉しいことがあれば笑うわ。
それは人間だろうが、妖怪だろうが、吸血鬼だろうが一緒のことだもの。
ところで、何があったの?」
「……近いうちに久方振りに私の家族や友人にと会えるのです。
その事を考えていると自然と表情が……」
フフフと笑うメイドを見ながら桃色の少女も笑い出す。
「なら、あなたの家族が来たときには丁重におもてなしして差し上げましょう。
この紅魔館に招いて……ね?」
「お嬢様の仰せのままに」
深々と、そしてお淑やかに礼をするメイド。
二人は主従関係という壁を感じさせない素振りでその後も話を続けた。
来るべきもてなしの日の為の話を……
最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!
それにしても東方のBGMはいいよなぁ……