「この感じ……エリカも戦い始めたか」
バイクのハンドルを握る力を強め俺は呟いた。
それに伴って俺の腹に巻き付いていた優輝の腕も少し力が入っていた。
俺がエリカの想子を知覚する五分程前にいざなの想子が活性化するのを知覚した。
つまり二人とも既に戦闘状態にあると言うことである。
ズダダダダダ
思考の海に沈んで行く意識が側面から響いた銃声により一瞬にして覚醒した。
音のした方へと視線を向けるとバイクの斜め後ろにサブマシンガンを持った二人の男が追ってきていた。
加速系の魔法を使えばこの程度の事は可能だろう。
その点に於いても特に気にしていなかった。
問題は……
「おいおい……魔法を使ってる気配なんて全くなかったぞ」
「特殊な力を持っているのかもしれません。
気を付けてください」
「迎撃を開始する。
優輝、これでやれ」
俺は優輝にもしもの為に持ってきた拳銃を渡し、想子による糸を二人の男に向けて伸ばした。
体に特に変なところはない。
ただ、一つ気になったのは額にある規則的に配置された瘤のような突起だ。
「これは角か?
鬼みてぇだな」
「鬼……茨木の百薬枡……?」
「知ってるのか?」
「注がれたお酒をあらゆる怪我や病気を治療する薬酒にする酒器です。
健康体に服用すれば一時的ではありますが驚異的な身体能力を発揮することができます。
ただ、服用後一定時間が経過すると性格が鬼のように凶暴化し、肉体が鬼のそれに変質してしまうという副作用も備わっています。
その酒器は数週間前に持ち主である
「確かに魔法を使ってる気配もないしその枡の所為ってのが濃厚だな」
そう言い放った俺は男の片方に右手に持った拳銃を向け引き金を引く。
連続で弾が放たれたそれによって男の両膝から血飛沫が飛んだ。
足を撃ち抜かれ転倒する男に目もくれずバイクのギアを上げる。
優輝の方も片付いたようで左側の男も居なくなっていた。
「そう言えばお前、枡をあたかも自分が実際に使ったように話していたがまさか……」
「飲んでません!!
お酒なんて飲んでませんから!!」
何故か優輝の霊子の光が暴れまわった。
不規則に動くそれは確実に動揺している人間から見られるものだった。
「別に怒ったりしねぇよ。
俺だって偶に酒くらい飲むし。
ただな……」
「ただ?」
「あんま飲み過ぎると発育に影響出るらしいから気ぃ付けろよ」
「……は、はい」
暴れまわっていた光が一瞬にして力をなくした。
まるで殺虫剤を浴びせられた羽虫のようにころりと元気がなくなった。
……これは少しまずったかな?
「そ、そうだ!!
今度一緒に飲もう!!
エリカとか纏とかみんな誘って---」
「要石「天地開闢プレス」!!」
突如空から降ってきた声と同時に上空で想子が膨れ上がった。
魔法を使用してバイクの勢いを殺し後輪を滑らせ一気に止まる。
俺達の目の前に大岩が落ちてきた。
数センチずれていたら潰されていたかもしれない。
「
また面倒な者が……」
「面倒とは失礼ね。
紅魔館のメイドの癖に。
まあ、あなたのことはどうでもいいの」
岩の上から帽子を被った青い髪の少女が現れた
どうやらこの少女と優輝は知り合いのようだ。
「そこのあなた!!」
「俺?」
「そう、あなたよ!!
私と勝負なさい!!」
「はあ?!」
威圧感が一ミリたりともないと言っても差し支えのない程可愛らしい宣戦布告をされた俺は大いに困った。
それを表情には出していないものの内心大いに困っていた。
「悪いんだが……ひなないさん……だっけ?
俺は山の上に居る奴らを助けに行かにゃならんのよ。
悪いが君の御要望には答えられないな」
「ははーん?
私に負けるのが怖いの?」
「へ?」
「外の世界の人間は女は男よりも弱いと決めつけているって聞いたことがあるわ。
そんな風にあなたを育てた親の顔が見てみたいわね」
「あなたいい加減に……!!」
今にも怒り出しそうな優輝の前に腕を出し強引に宥める。
「百合兄さ---」
「優輝。
悪いが先に行ってくれ」
「……はい。
百合兄さん、御武運を」
「あ、そうだ。
優輝、これを」
走り出そうとした優輝にジャケットのポケットある物を取り出し放り投げた。
「懐中時計?」
「ただの時計じゃあないぞ。
それ自体がお前の魔法をサポートしてくれる。
叔父上謹製の逸品だ」
「ありがとうございます」
優輝は小さく頷きそう呟くと山の方向へと走っていった。
優輝の姿が見えなくなると俺は手に持った拳銃の銃口を目の前の帽子を被った少女-比那名居天子に向ける。
「俺の悪口を言うのは一向に構わねぇ。
だがな、この場に居ない人間、ましてや死人の悪口を言うのは流石に駄目だよなぁ?」
明らかに喧嘩腰の口調。
しかし俺の頭の中は酷く冷め切っていた。
寧ろ醒めきったと言った方が良いのかもしれない。
「まあ、俺もそこまで暇人じゃあない。
だから速攻決めさせてもらう」
続けざまに二回引き金を引く。
二発とも帽子の少女の顔目掛けて飛んでいく。
しかしそれは彼女の顔に穴を穿つ事はなく、どこからともなく取り出した緋色の刀身を持つ刀に切り裂かれた。
「この弾丸はどうだぁぁぁぁああああ!!」
移動系統魔法を用いた擬似瞬間移動で相手の後方へと回り込み銃口を肩に密着させ引き金を引く。
ドムッ
弾丸は確実に当たった。
しかし彼女から血が吹き出す事はなく、何故かよく分からない鈍い音がなった。
「痛いじゃないのぉ~!!」
涙目の少女は振り向き様にその手に持った剣を振り抜いた。
空中に作った想子の足場を蹴ることで難なく回避したがそれ以上に驚くことがあった。
先程撃った弾丸は彼女の肩に少しめり込んだ状態で回転を保っていたのだ。
「おいおい……レベルⅢのボディアーマー撃ち抜く弾を魔法も無しに防ぐかよ……」
今この銃に込められている弾はSS190+P。
SS190はそれこそ百年前に作られた弾だが、その貫通性能は最新式の弾薬に劣らない。
しかもこの弾の火薬は通常よりも高い圧力を発揮する強装弾で、七.六二ミリ弾をも防ぐレベルⅢのボディアーマーを軽々と撃ち抜く貫通力を持つ。
ただ、弾自体の威力は小口径弾であるがために低く、ストッピングパワーに欠けるという弱点もあるが、装弾数が、そこそこあるこれには大した問題ではない。
その弾を魔法の行使も無しに防ぐとかこの人が人間かどうかを疑うレベルである。
「何その鉄の塊!!
スッゴく痛かったじゃないの!!」
「普通痛いで済む代物じゃあないんだけどなぁ」
単純な挑発で受けてしまった事で始まったこの戦い。
非常に面倒な物になること未来が今垣間見えた。
◇ ◇ ◇
しばらく走り続けると妖怪の山の中腹に着いた。
多分この辺りは五合目だろう。
「酷い有り様ね……」
そこに広がっていた光景は血を流して倒れている天狗と人間達を見て私は呟いた。
天狗達は気を失ってはいるもののの命に別状はない。
しかし倒れている人間は大半が絶命しており、息のある者も想子の減少が著しく助かる見込みは無かった。
とぅおるるるるるるるるんとぅおるるるるるるるるん
そんな中、明らかに場違いな着信音がメイド服のポケットから鳴り響く。
「はい、こちら十六夜咲夜」
「出た!!
……良かったぁ咲夜が無事で」
「出たって何よ?
お化けでも見たような口振りで。
それに本物のお化けはあなたの方でしょう妖夢」
「あはは、仰る通りで」
電話の相手-魂魄妖夢は可愛らしくも乾いた笑い声を上げる。
電話口からBGM代わりに三人の女性の声が聞こえてきた。 一人は「野郎ぶっ殺してやぁぁぁぁああある!!」と叫び、一人はその声の主を「お、落ち着いてください!!椛さん起きちゃいますから!!」と宥め、もう一人は「これはいい記事が書けそうです!!もっとやれー!!」と最初の少女を煽っていた。
「あなた今どこに居るの?
随分と賑やかだけど」
「永遠亭です。
怪我をしていた椛を運んで来たんです。
一緒に居るのは文に妹紅、あと外の世界から来た天之纏さん」
「纏がそこに居るの?
すぐに代わって」
犬走椛-この山の警備を担当する白狼天狗の一人だ。
彼女が傷を負った理由はこの惨状を見れば余程の馬鹿でもない限り理解できる。
生憎、私はその馬鹿にカテゴライズされる人種では無いためそこには触れなかった。
ただ、そんな事以上に私の知っている名前が出たことに驚き、彼女と代わるように妖夢に頼んだ。
「知り合いなの?」
「外に居た頃のね」
何か聞きたそうな妖夢に一言で返答する。
電話口からゴソゴソと音が鳴る。
どうやら電話の主が変わったようだ。
「お電話代わりました。
天之纏です」
「久し振りね纏。
優輝よ」
「優輝さん?!
良かったぁ……やはりこちらにいたんですね」
「まあね。
やはりっていざなから聞いたの?」
「はい。
姉さんから優輝さんと一緒だから心配無用だと」
「そう。
ところでそちらはどう?」
「はい。
此方では大亜連合製と思しきアサルトライフルで武装した人間に襲われました。
使用弾薬は七.六二×五十一ミリNATO弾。
銃の形状や構造を考慮するとFN社のFN FALの改造モデルと思われます」
「もうそこまでわかっているの?
流石ね」
「勿論です。
プロですから」
端末を頭と肩に挟み横たわっている男が抱えていた小銃とその男の懐にあったマガジンを手に取りそう言った。
私はあまり銃に詳しい人間ではないがこれを見ただけでそう答えられるのは持ち前の洞察力と記憶力があってこその物だろう。
「ただ、一つ気になる点がありまして」
「気になる点?」
「マガジンに残っていた弾丸に刻印型術式のような物が刻印されているんです」
纏が実物をその場で見ているような口振りでそう言った。
私もマガジンから弾を一つ取り出し、それを見る。
確かに弾頭の部分に幾何学的な模様が彫られていた。
この術式が体内で発動する事により妖怪達の力が著しく弱っているのかもしれない。
そして多分この術式は対象が死ぬまで解除される事はなく、使用者の想子を食らうのだろう。
それの所為でこの辺りの人間は息絶えた、私はそう解釈した。
「所で優輝さんは今どちらに?」
「妖怪の山よ」
「妖怪の山……ってそこは敵---」
「心配無用よ。
今日の私は押せ押せモードだから。
じゃあ、切るわね」
「え……ってあっ!!
ちょっ---」
通話終了のボタンを押して端末をポケットに放り込んだ。
そして私は走り出す。
比那名居天子が起こした異変の時は殆ど観光程度に登ったこの山だが今回の話は別。
この先から魔法の気配する事から多分防衛線を抜けた敵は
山頂に近付けば近付くほどに銃声が近くなってくる。
そして神社の前に辿り着くと銃弾を撃つ男達の姿と神社の前に立ちはだかる緑色の髪の少女が居た。
「スペルカード……
幻葬「夜霧の幻影殺人鬼」」
手元に現れた花札のようなカードを握り潰す。
すると自分の周りの世界がピタリと動きを止めた。
舞い上がる砂埃も、少女に向かって飛んでいく弾丸も、発射の際に排夾口から飛び出す薬莢も、全てが動きを止めた。
私の使用する魔法の名前は「
BS魔法に分類されるそれは「時間を操る程度の能力」を有する。
ここに住む人間は皆何らかのBS魔法を使用でき、この世界で生活している人間が作り出す「スペルカード」はその能力の具体的な作用を記憶する能力を持つ。
と、私は考えている。
実際のところスペルカードは今の博霊の巫女である霊夢が殺し合いを遊びに変えるために作ったシステムらしいがシステムを作った本人にもスペルカードの原理は謎でありそれを体系化した
紅魔館に住むパチュリー様や魔法の森に住むアリスは外の調査に行った際に「幻想郷と外の世界では漂う情報体の性質が違う為にスペルカードを生成出来るのではなかろうか」との事だがその証明にまで至っていない。
私も外から此方に来て直ぐには使えなかったが数週間後に起きた(正確には起こした)紅霧異変の際には気付いたら使えていた。
……閑話休題。
私は体の至る所に隠し持っていたナイフを空中で有りっ丈を投げつける。
そしてそのナイフ達は数メートル進まない内に動きを止めた。
「遊んでる暇は無いの」
ナイフを投げ終え指を鳴らすと止まっていた世界が動き始めた。
砂埃は舞い上がり、小銃から放たれた弾は少女へと飛んでいき、薬莢は地面に落ち、宙に浮いていたナイフは
訳がわからないまま体を次々とナイフに穿たれる男達。
そして刺し傷や切り傷から血が吹き出し力無く倒れた。
「あなた達の時間も私の物」
私は紅魔館のメイド長「十六夜咲夜」。
私の役目は「お嬢様方の日常を損なう可能性のある者の排除」。
それだけである。
今回はホントのプロフコーナーはお休みです。
ゆっくり実況始めました。
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