魔法科高校の劣等生-嘘吐きの百合-   作:ぼいら~ちん

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しばらくはこのペースでの投稿となりますが、なにとぞよろしくお願いします。


第二十五射 すり抜けた刃の先に

「大丈夫?」

 

「はい、何とか」

 

敵が地に伏すや否や神社の前に立ちはだかっていた少女-東風谷早苗(こちやさなえ)は糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちた。

 

「立てる?」

 

「……肩を貸して貰っても良いですか?」

 

「ええ、勿論よ」

 

足を広げてぺたんと地面に腰を下ろしている-所謂女の子座りをしている早苗の手を取り肩に掛ける。

彼女はこの守矢神社の風祝(かぜはふり)(巫女のようなもの)でありこの神社に居る二人の神「八坂神奈子」と「洩矢諏訪子」に仕えている。

多分早苗は二人が逃げる時間を稼ぐためにここで敵を足止めしていたのだろう。

 

「「早苗!!」」

 

しかしその頑張りも虚しく二柱の神は本堂から走って来る。

 

「神奈子様、諏訪子様?!

お逃げになってくださいと申し上げたじゃないですか!!」

 

「お前を置いて私達だけ逃げるなんて事は出来ないよ」

 

「そうだよ!!

逃げるのならみんな一緒だよ!!」

 

二柱の神は早苗に寄り添って怒るようにも語りかけるようにも捉えられるような口調でそう言った。

 

「ありがとう十六夜咲夜。

お前が来なかったら早苗はダメだったかもしれない」

 

「偶然この辺りを通りすがっただけよ。

まだ残党が残っているかもしれないから三人とも中へ」

 

「本当にご迷惑をお掛けしてすみません咲夜さん」

 

「いいのよ」

 

そう言うと三人は守矢神社の本堂へと入っていった。

それを見送ると私は血に塗れた死体へと歩みを進める。

 

「やはり、あれ(・・)の影響を受けていたのね」

 

遺体の額を見つめながら私は小さく呟いた。

辺りにばらまかれたナイフを一本ずつ集めながら私は他の男達の額を見やる。

最初の男と一様に額に角のような尖ったこぶを見つけた。

全員「茨木の百薬枡」の影響を受けていたのだ。

これなら天狗達があの様な惨状に見舞われたのも納得がいく。

 

「さて……天狗達を永遠亭(あそこ)に運びましょうか」

 

私はそう言って来た道へと引き返す。

私が守矢神社の境内を去ると遺体達は一瞬にして朽ち果て消え去った。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「やぁあっ!!」

 

大上段から振り下ろされた緋色の刃を俺は最小限の体の捻りのみで避ける。

 

「ふっ!!」

 

続く切り上げも避け、

 

「たぁっ!!」

 

横薙ぎの一閃も後方に向けて移動術式を使うことにより難なく避けれた。

 

「どうした、その程度か?」

 

筋は悪くは無いんだが無駄があるなと俺は思った。

思わず声に出てしまった期待の籠もったそれはどうやら天子には挑発に聞こえたようだ。

 

「むきぃーっ!!

まだ本気出してないだけよ!!

スペルカード、気性「勇気凛々の剣」!!」

 

俺の挑発(意図していない)に意図も容易く乗っかった天子はガラスが割れた様な音と共に剣を振り下ろした。

するとその剣の軌跡から大小様々な緋色の弾が飛んでくる。

 

「うおっ?!」

 

咄嗟に「黎明のクェーサー」を起動し数発弾を放ち撃ち消したものの撃ち漏らしが此方に飛んでくる。

 

「とうっ!!」

 

「わっぷっ?!」

 

それを横っ飛びに避けるが弾幕の中から現れた天子に斬撃を見舞われる。

ゴロゴロと転がされる俺の体。

幸い咄嗟に発動した加速術式のお陰様で腹部の服が斬り裂かれ腹の一部がその剣の切っ先に触れて皮膚が裂かれていたが致命傷ではなかった。

しかし、体が非常に重い。

まるで体から精気を奪われたような、そんな感覚だ。

 

「やっと当たった。

どう?

「非想の剣」の味は?」

 

「……なんか元気なくすような味だな」

 

冗談を抜かしながらおぼつかない足取りで俺は立ち上がる。

そして、

 

「コォォォォォオオオオ」

 

息を吸い込んだ(・・・・・・・)

かつて俺の母、十六夜美奈が俺にやって見せたのを見様見真似で真似たのだ。

 

「なんで……なんで今し方奪ったばかりの気質がそんな高速で(・・・・・・)回復しているのよ?!」

 

「息を吸い込む」、ただそれだけの事なのに体の奥底から力が湧き出るような感覚を覚えた。

 

「今度は俺のターンだ!!」

 

右の人差し指と中指だけを立てる。

その二本の指の隙間には硝子のように透き通ったカードの様なものが現れる。

 

「スペルカード……魔筒(まどう)---」

 

無意識のうちに紡がれる言葉と同時にそのカードの様なものに百合の花が現れた。

それを真上に投げあげ、

 

「---「Star grows」」

 

拳銃で撃ち抜いた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「おぉぉお!!」

 

「くっ!!」

 

ガキンと甲高い金属音が森に響き渡った。

桐原先輩と遭遇してから数分、私達はお互いに攻めきれずにいた。

あたしとしては桐原先輩を昏倒させるのが目的で今すぐにでも距離を取って大技を使いたい所だが、高周波ブレードの使い手である彼としては間合いを開けさせたくないらしく、思うような展開に持ち込めなかった。

 

「どうしたぁ?!

剣の魔法師つってもその程度かよ!!」

 

「くぅっ……!!

るっさい!!」

 

あたしは鍔迫り合いの状態になった刀から一瞬だけ力を抜いた。

そして刀を操り桐原先輩の刀を流した。

数瞬ではあるが隙を作ることが出来た。

 

「ぐっ!!」

 

その数瞬で桐原先輩の背中に蹴りを入れその反動を使って移動魔法を行使、五メートル程度間合いを開ける。

そして続けざまに別の魔法を発動。

今度は一気に間合いを詰める。

 

「やぁぁぁぁあああああああっ!!」

 

バキィン

 

「ぐあぁっ?!」

 

そして大上段で構えた警棒を桐原先輩に向かって叩きつける。

桐原先輩はその手に持った刀を水平に構えるが魔法で硬化されていてもそれはいとも簡単に砕け散りそれを砕いた警棒は先輩の右肩へと吸い込まれていった。

 

「くっそぉ……何だよ今のは……」

 

「いくら桐原先輩と言えども教えるわけにはいきません」

 

今の技は千刃流の秘剣にあたる「山津波」という魔法だ。

術者と剣にかかる慣性をごく小さいものに改変し、剣がインパクトする瞬間にその改変した慣性力を上乗せし、それを加速度と共に対象に叩きつける魔法だ。

本来はこれの発動に適した得物を使うのだが……よく警棒(これ)が壊れなくて済んだなぁと思った。

 

「千葉、一つだけ頼みがある」

 

「何ですか?」

 

「壬生の事を……頼む」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

何度目かわからない地震が私-アリス・マーガトロイドの体を震わせる。

それと同時に辺りに生えている木々が私目掛けて倒れてくる。

地震で地盤を緩め、木の根を切り落とし、木が倒れる軌道を操作する。

あの一瞬でかなり複雑な処理を行っている辺り流石と言わない訳にはいかないが……

 

「都会派魔法使いとしては自分の力量に見合った魔力運用をお勧めするわ」

 

倒れてくる木々を上海達に木っ端微塵に吹き飛ばさせる。

 

「くっ……これなら、どうよ!!」

 

先程よりも更に大きな地震が私の体を揺らす。

そして私の足は三度、液状化した地面に飲み込まれる。

そして次に倒れてくる木の本数は……

 

「十本……?!」

 

大体戦いが始まってから三十分程経ち、先程からオーバーペース気味の彼女がまさかここまでしてくるとは思わなかった。

つまり文字通り彼女の命を懸けた全力というわけだ。

それなら……

 

「スペルカード……

試験中「レベルティターニア」!!」

 

硝子の割れた音と共に私が従えていた上海達が巨大化し、私と同じくらいの大きさに変化する。

その手に持っていた剣を、槍を用いて降りかかる大木を切り捨て、突き飛ばした。

 

「もうやめなさい!!」

 

何が彼女にここまでさせるのかはわからなかった。

でも、彼女を止めなければきっと悲しむ人が居るだろう。

彼女の家族、友達、そして恋人。

そんな事を考えながら私は人形達を操り彼女の首筋に槍の切っ先と剣の刃をあてがった。

 

「あなたの負けよ。

大人しく降伏なさい」

 

「私の……負け……」

 

少女は小さくそう呟くと力無く正面に向かって倒れ込む。

 

「ごめんね……(けい)……」

 

「危な---」

 

震えた声で、自らの弱さを悔やみながら……

 

「何やってんだよ、千代田ぁ!!」

 

しかしその行動は横合いから走ってきた男によって阻まれた。

男は千代田花音を突き飛ばし、上海達の刃から彼女を守ったのだ。

 

「いやぁ危なかったぁ……

アリスも桐原先輩もありがとね」

 

そう言って森の奥から現れたのは茶髪の少女-千葉エリカだった。

 

「くそっ……何で怪我人の俺がこんな事……」

 

「そっちの方が格好いいじゃん」

 

「ねぇエリカ、彼は?」

 

「ああ、この人はあたしの先輩の桐原先輩。

訳あってあいつらに協力してたんだって」

 

「ああ、俺の……その、友達がな……奴らの人質に取られちまってな……

本当にすまねぇ!!

アンタ達に刃を向けたことは謝る!!」

 

「良いわよ別に。

守りたいものの為に仲間にまで刃を向けられるということは相当な意思の持ち主ね。

凄いことよ」

 

「蛍ぃ……蛍ぃぃ……」

 

視界の端では今度は花音が誰かの名前を呼びながら泣いていた。

 

「どうしたの?」

 

「コイツは恋人を人質に取られたんだ。

解放条件はあの白黒の魔法師とアンタ、そして千葉の殺害だ」

 

「だからあたし達を狙ってきたのね。

納得納得。

まあ、一応桐原先輩の話だとさーやと蛍先輩は星達が最初に先輩達を見た無縁塚……だっけ?

そこに居るらしい」

 

「助けて!!

あなたくらい強ければアイツを倒せるはずよ!!

だから……蛍を……」

 

どうやら蛍と言うのが彼女の恋人の名前らしい。

藁に縋るような思いで声を張り上げながら花音は私のスカートを掴んで懇願する。

 

「このことは誰かに言ったの?」

 

「一応あたしの連れ二人と魔理沙には連絡したよ。

連れは片っぽしか出てくん無かったけど」

 

つまらなそうな表情で私の問い掛けに答えたエリカ。

それを聞いて思わず表情が綻んだ。

 

「そう。

なら魔理沙の家に戻りましょうか」

 

「大丈夫なの?

魔理沙一人に任せて」

 

「大丈夫よ。

あなたの友達も呼んであるのでしょう?」

 

「まあそうだけどさ……」

 

「魔理沙一人で大丈夫よ。

寧ろ頭突っ込んだらこっちまで怪我を負いかねないわ」

 

渋々と言った表情で頷くエリカ。

桐原と花音も友人を救いに行く手助けができないのを悔やんでいた。

 

「魔理沙なら必ずやってくれるわ。

だって、幾度となく幻想郷の異変を解決してきたのだもの。

今回も大丈夫よ」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ぶえっくし!!」

 

突如として出てしまったくしゃみ。

むず痒い鼻の下を少し擦りながら私-霧雨魔理沙は自分の体調に異常が無いことを確認した。

 

「誰かが私の噂でもしてんのかな?」

 

誰が答えるわけでもない質問を呟きエリカに示された敵の本拠地へと進んでいく。

 

「っ?!」

 

その時、空気が震え、それに伴い莫大な量の魔力が放出されるのを知覚した。

それの発生源である妖怪の山の方向に目を向けると光の柱が天に向かって伸びていた。

数秒もしないうちにその柱は消えた。

 

「今のは誰がやったんだ?」

 

幽香……いや、今日は確か家でハーブティー作りの準備をすると言っていたからそれはないだろう。

それなら誰があんな強力なものを……?

 

「ターゲットの白黒だ!!

撃て!!」

 

「うぉっ?!」

 

突如聞こえてきた声と銃声に思わず声を発してしまう。

飛んでくる弾丸をバレルロール(パチュリーの図書館にあった本の飛行技術)を駆使して回避する。

 

「お前らのちゃちな弾幕に構ってる予定はないぜ!!

星符「メテオニックシャワー」!!」

 

こういう時も慌てず焦らずと誰かに言われた気がしたのを思い出し、冷静に手元に現れた花札のようなカードを投げ上げ横凪に叩き壊す。

すると私の背後から黄色い星のような形の光が男達に降り注ぐ。

降り注ぐ星々は次々と男達の意識を刈り取っていく。

そして視線の先---無縁塚の近くの小屋の扉の前には男が一人立っていた。

第一印象は少し気持ちの悪い感じの奴だと思った。

別に顔が際立って悪いという訳でもなく、滅茶苦茶太っていたり痩せていたりする訳でもない。

寧ろそういう意味では結構整っていると言えよう。

ただ、その顔に張り付いたどことなく狂気を宿したその表情、それに対しては悪い印象しか覚えなかった。

 

「おや?

あなたがここに来たという事はお二人は任務を失敗なされた様ですね」

 

「そう、お前らの企みは私の仲間が潰したぜ!!

そしてお前のやってる悪事については調べさせて貰った!!

さあ、その小屋に捕らわれてる二人を返して貰おうか!!

おっと、抵抗してくれてもいいんだぜ?」

 

腰の辺りにぶら下げたホルスターから掌サイズの八角形の厚い板を取り出す。

 

「力付くは大好きだからな」

 

「そうですか……

霧雨魔理沙、あなたも惜しいことをする」

 

「どういう事だ?」

 

「決まっているじゃあないですか。

あなたの様な優秀な魔法師を殺してしまうことはとても惜しいことだと言ったのです」

 

「……お前、名前は?」

 

「狭間……狭間巳弦(はざまみつる)

 

男は三日月のように口を歪ませ言葉を紡ぐ。

それと同時に目の前の男-狭間の纏う狂気はより濃密なものへと変化した。




「ホントのプロフ」コーナーは不定期のコーナーにしました(独断)
ゆっくり実況始めました。
投稿者ページのURLからどうぞ。
次回もお楽しみに!!

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