「失礼しまーす」
「遅かったじゃないか百合」
やっとこさ委員会本部の場所を見つけ出し中へ入る。
そこにはご機嫌そうな表情をした姉上が座っていた。
散らかった長机の向こう側に。
「なんで放送で呼び出したりしたんですか姉上!!」
「だってお前の端末の番号なんて知らなかったから」
「あ、そうですか……」
「まあ、散らかっているが適当にかけてくれ。
えっと……君は?」
「はい!!
1年E組、西城レオンハルトであります!!」
「真っ先にあたしに紹介する友達が二科生とは…昔から差別の二文字が嫌いだったおまえらしいな。
ああ、知っていると思うが私は風紀委員長の渡辺摩利だ。
よろしく頼む、西城」
「は、はい!!」
一科生の美人さんに握手を求められて動揺するレオ。
それを慌てふためきながらこなすとレオは姉上の方へと向き直る。
「つかぬことお伺いしますが、お二人はどんなご関係なのでしょうか?
姉上って呼んでいますし義理の姉弟とか?」
「そんな畏まんないで良いぞ。
どうせこの人、暇なときはベッドでゴロゴロしながら漫画読んでるような人だから」
「な?!
人のプライベートをさらっと暴露するな!!」
姉上が恥ずかしいプライベートを暴露され顔を真っ赤にして怒鳴る。
完璧超人な姉上を弄るのって結構面白いんだよね~
「すんません。
えっとだな、俺たちの関係って一言でいえば幼なじみってやつなんですかね?」
「そうなるな。
私の通っていた道場の師範と百合の父上が知り合いでな。
それで道場を訪れる回数を重ねるうちに今のような関係になったんだ」
「俺の生家、「十六夜家」と姉上の通っていた道場、「千葉家」は扱う分野が似ているから家族絡みで仲が良かったんだよ。
家からも近かったし」
「ふーん……所で、百合の使う魔法ってなんなんだ?」
「うーん……説明するのも面倒だし実際に見てみれば?」
◇ ◇ ◇
「こんな広いところ俺一人の為に使ってもいいんですか?」
「入学式ってだけあって使うやつも居なかったしな」
姉上に案内されてやってきたのは遠隔魔法用実習室、通称「射撃場」と呼ばれる部屋だ。
俺達が立っている場所から数メートル先にホログラムでできた的が等間隔で複数置かれており、かなりの大勢での演習も可能のようだ。
明日行われる専門課程見学でここを訪れることも可能だったのだが一足先に来れたので少々お得感を感じている。
「ところで百合」
「なんです姉上?」
「なんで的と逆向きに立っているんだ?」
「…説明するのも面倒だし実際に見てみれば?」
俺が右腕を上に向かって振り上げると同時に袖口から真っ白な拳銃型のCADが飛び出してくるのをキャッチする。
「ほう……特化型CADか」
「いいえ、武装一体型ですよ」
俺は姉上達の居る方向に向かって引き金を引く。
パァンという大きな炸裂音とともに放たれた弾丸は数秒もかからぬうちに俺の真後ろの的の中心を捉え、青かった的の中心には弾丸が貫通した跡が残っていた。
「……どうなってんだ?」
「弾丸自体はただの訓練用のゴム弾ようだが…」
「これが俺の魔法『ベツレヘムの星』です」
ベツレヘムの星。
東方の三賢者にイエス・キリストの誕生を教え、その3人をキリストが誕生するベツレヘムへと導いた星の呼び名だ。
他にもクリスマスの星なんて呼ばれていたるするらしい。
「今の起動式は移動と収束の二種類の系統魔法から成り立ってる。
移動系魔法は単純に弾丸の軌道を変えるため、そして収束系魔法は---」
「移動系魔法による軌道変更時に生まれる急激なGに弾丸自体の強度を変えて変形することを防ぐため、だろ?」
「おお、やるじゃんレオ」
「ま、収束系硬化魔法は俺の得意分野だからな」
得意げな表情で胸を張るレオ。
見かけによらず結構頭いいな…実際第一印象的に脳筋だと思っていたのはここだけの話ってやつだ。
「それにしてもすごいな……
弾丸などの高速で飛行中の物体を魔法で遠隔操作するというのは難度が高い。
移動系統魔法は物体の強度や特定のプロセスを組み込まないと操作している物体自体が破損する恐れがある。
それを硬化魔法のマルチキャストで自壊を防いでいる上であの精密射撃は流石としか言いようがないな」
「ま、これで姉上の俺の力を試すっていう目的も達成できたし良かったでしょ?」
「ふっ……やはりバレていたか。
お前に隠し事は通じないな」
「ん?
どゆこと?」
状況理解がいまいち遅いレオは再び首を傾げた。
「風紀委員へのスカウト、でしょ?」
「ああ!!
そういうことか!!」
「確かにお前の言うとおりだ。
在学中の風紀委員会のメンバーの一人が事故で学校をやめてしまってな。
その空いた一枠の決定があたしに委ねられてな、お前を推薦しようと思う。
あれだけの精密制御が出来るんだからこちらとしては寧ろ大歓迎だ」
「じゃあ……俺が風紀委員に入るに当たって二つ条件を提示しても良いですか?」
「物によってはな」
「そんな大それた物じゃないですよ。
一つは俺の過去をあまり詮索しないこと」
「何故だ?」
「男の子には言いたくない過去の一つや二つあるもんなんですよ」
俺は自らの提案に対する質問を適当にはぐらかす。
しかしそうは問屋が卸さないようだ。
「……っ!!
誤魔化すな!!
この四年間、私もシュウもエリカも、どれだけ心配したことか…説明して貰えないと納得するものも納得出来ん!!」
「じゃあこうしましょう、来る時まで詮索しない。
期限付きでどうでしょう?」
姉上は少し考え込むような素振りをすると渋々といった表情の貼りついた顔をあげる。
「……わかった。
その来るべき時というものまで待ってやる。
あともう一つとはなんだ?」
ムスッとした表情の姉上は言葉を続ける。
「まあまあ、落ち着いてください。
もう一つの条件……と言うよりもお願いなんですけど」
「お願いか。
なんだ、言ってみろ?」
「これから友達へのプレゼント探しを手伝って貰ってもいいでしょうか?」
「プレゼント?
誕生日のか?」
「高校の入学祝いです。
なんせそいつらの両親が忙しいらしくってまともなもの貰ったことないらしくて。
せめて俺からでもあげれればなって思って」
「昔からお前は贈り物のセンス無いからな。
誰かに頼るのは間違っていないと思うが……そうだ!!
私も一人友達を呼ぼう。
そいつならその手のことを頼んでも大丈夫なはずだ」
「決まりっすね。
レオも行くだろ?」
「ああ、ついでにハンバーガー奢ってもらうからな」
「シェイクも付けてやる」
「よっし決まりぃ!!
っと思ったが……事務室からCAD取って来なきゃいけないから先行っててください」
「あたしもその友達と連絡を取らなきゃならないから先に行っててくれ」
「はぁい」
◇ ◇ ◇
耳に付けたヘッドホンから流れ込んでくる軽快なリズムと共に紡がれていくフレーズを口ずさみながら校門の端の方でボーっとしている。
「ごめん百合。
遅くなった」
「いいっていいって。
頼んだのこっちだし」
レオの声がヘッドホン越しに聞こえてくるとそれを外し辺りを見回す。
どうやらまだレオだけのようだ。
「何聞いてたんだ?」
「21世紀初頭に発売した曲。
俺、流行りの曲とかよりも昔の曲とかの方が好きなんだよな。
クラシックと言えばショパン、ロックと言えばビートルズとRADWIMPS、みたいな?」
「そんなこと俺に言われてもな……
あ、でもショパンは知ってるぜ。
別れの曲とかノクターンだろ?」
「そうそう---」
「おーい百合ー!!」
レオと音楽の話で盛り上がっているさなか、後ろから姉上の声が聞こえてきた。
振り向くと姉上は黒髪の女性と共に歩いていた。
あれ……あの人は確か……
「あなたは昼間の……七草会長!!
さっきはありがとうございました」
「真由美でいいわよ」
「あ、だったら俺も百合で良いです。
こっちは同じ学年の西城レオンハルト」
「西城です!!
よろしくお願いします!!」
「よろしくね百合くん、れおくん」
「なんだ。
お前達既に知り合っていたのか?」
「入学式の後にちょっと。
ね、百合くん?」
「深雪が達也に会いに来た時にちょうど会ったんですよ。
姉上が呼んでるってのは真由美さんから聞いたんですよ」
「深雪と達也って新入生総代の司波深雪とその兄の司波達也か?」
「はい。
今はあいつらの家に同居させて頂いてます。
司波家が十六夜家の遠縁の親戚だったもので、事情を説明したら両親が家を空けていて部屋も余っているから暮らしたらどうだって」
この話は半分本当で半分は嘘のようなものだ。
こうするのも姉上やエリカには悪いと思うが今はまだ本当の過去を話すには時期尚早だと思うからだ。
「今更だけどあの時は何も言わずに出て行ってごめん」
「あたしはその言葉が聞けて満足だ」
俺の謝罪に対して姉上は太陽のような微笑みを浮かべる。
昔から嘘を吐くのには慣れて(正直慣れるのはマズいと思うが…)いるがこんな表情で返答されると心が痛い。
本当にごめんなさい……
「所で百合、その入学祝いのプレゼントってのは司波兄妹宛てのものなのか?」
「はい。
でもそう言うのには疎くて……」
「ダメよ百合くん!!
女の子の相手するときはそう言うの覚えとかなきゃ。
女の子はアクセサリーとかお花、男の子には時計って大体相場は決まってるのよ?
男の子だったらご飯食べに行くとかもありね」
「確かに俺も高校の入学祝いは高い時計と家族みんなで高級ホテルのバイキングだったな」
真由美さんすげぇ……
「そうとわかったら行くわよ三人とも!!」
「行くっていってもどこに?」
「第一高校の最寄り駅の近くにはその手のお店が結構多いの。
その辺りを物色すればきっと気に入ったものが見つかるはずよ?」
「そうとわかれば善は急げだな」
「そうですね」
俺達は真由美さんに連れられ駅の方へ向かって歩き出す。
どんなのが良いかなぁ……?
◇ ◇ ◇
「今日はありがとうございました。
お陰で気に入ったものが見つかりました」
「いいのいいの。
こちらこそアイス奢らしちゃってごめんね」
「いいですよ。
お礼の気持ちという事で」
買い物を終えた俺達は学校からの最寄り駅のホームに居た。
真由美さんや姉上、そしてレオのアドバイスで達也達への入学祝いをちゃんと見つけることができた。
本当に持つべきものはいい友達とハイスペックな先輩だよなぁ…
「じゃあね百合くん」
「またな百合」
「また明日な」
「じゃーねー」
手を振って3人を見送る。
さてと……俺も帰りますかな……
「百合兄様ー!!」
「あれ、深雪?
先帰ったんじゃないの?」
名前を呼ばれて振り向くとそこにはなんと深雪が居た。
「少し買いたいものがありまして。
この辺りのお店をエリカ達と回っていたのです。
彼女達は先に帰ってしまわれましたが」
「そっか。
俺達も帰ろう。
何か飲む?」
「先程みんなでお茶してきたので大丈夫です」
「なら行くか」
俺達はいつも通り二人乗り用のキャビネットに乗り込む。
キャビネットとは二人または四人乗り用のリニア式小型車両の事で現代風電車である。
昔の電車とは違って待ち合わせが出来ない代わりに痴漢被害もなくなった上に目的地までの快速急行だ。
楽なことこの上ない。
「百合兄様」
「ん?」
「学校は楽しめそうですか?」
「ああ。
エリカに美月、姉上も居るし、それにお前たちが居るからな。
きっと楽しくなるだろうさ。
あ、今日さ、新しい友達が出来たんだぜ!!
あとさ、会長が結構良い人でさ---」
俺は今日起こった出来事を嬉々として深雪に話しまくった。
それを楽しそうに聞いてくれている深雪はやっぱりかわいかった。
◇ ◇ ◇
「ただいま~」
「ただいま帰りましたお兄様」
「お帰り二人とも」
家に帰ってきた俺達を出迎えてくれたのは私服姿の達也だった。
靴を脱ぎ、荷物をリビングのテーブルに置く。
「?
百合、その袋はなんだ?」
「あ、バレた。
ま、今日中に渡すつもりだったからいいか。
ほれ二人とも、プレゼントだ」
テーブルの上の袋から水色の箱と青い箱を取り出し、水色を深雪に、青を達也に渡す。
「入学祝いのプレゼントってやつだ。
高校入学ってのはやっぱり凄いことだし全国有数の名門校に入ったんだ、それこそお祝いしなくちゃな」
「中身は……時計か?
ありがとう。
ちょうど欲しかったんだ」
「わあ!!綺麗なネックレス!!」
達也には●万円のアナログ式腕時計、深雪にはこれも●万円のネックレスだ。
達也のは彼のイメージにあわせて特に飾り気のないシンプルなものを、深雪には清楚なイメージにあわせて純潔の花言葉をもつ百合を象ったネックレスを。
二人とも気に入ってくれて良かった。
「ありがとう百合。
それでだな……」
「私達からも……どうぞ」
深雪から白いラッピングされた箱を渡される。
深雪に渡したのと同じような形の箱だからアクセサリーか何かだろうか?
「おおっ!!
開けてみても良いか?」
「ああ」
包装紙を丁寧に箱から取り外し箱を開ける。
中には昔とスマートフォンと呼ばれていたそれのような形の携帯端末が入っていた。
しかし今の通信手段と言えば仮想型ディスプレイ端末もしくはとスクリーン型ディスプレイ端末と呼ばれるものが主流で既に俺はスクリーン型を持っている。
「これCADか!!
汎用型一台は欲しかったんだよ!!」
「お兄様のお手製です。
裏を見てください」
その携帯端末型CADをひっくり返すとそこには黒のボディに白い線で花の絵が描かれていた。
「こっちも百合か」
「はい。
百合兄様にもっと威厳が欲しいなと思って」
「俺ってそんな安い男だったのか……」
「よく言えばフレンドリー、悪く言えば人たらしだな」
「達也まで?!
……もう良いよ……どうせ俺は人たらしですよ」
俺が膨れっ面なのに対してその表情を見ている二人はにこにこと笑っている。
「お夕飯の準備を致しますので少し待っていて下さい」
「いいよいいよ。
今日くらい俺がやるから」
「いや、百合も深雪も待っていてくれ。
今日は俺がやろう」
「じゃ、三人でやるか」
「それも良いかもな」
「そうしましょう」
俺の提案に二人も笑顔で頷き台所へと向かう。
確かに俺は大切な家族を失ったが、今はこいつらが家族みたいなもんで……姉上達もめちゃくちゃ心配かけたけど会えてものすっごい嬉しい。
こんな素晴らしい日常が長く続けば良いなと思ってる。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに!!