「
「「「は?」」」
百合の謎発言が爆発。
でも帰ってきた答えはその場にいる全員からの辛辣なキレ気味ボイス。
十六夜百合の生きる現実は非情である。
「珍しくカッコつけてんのにアンタなに言ってるの?
バカなの?死ぬの?」
流石に空気を読めなさすぎな百合にあたし---千葉エリカは怒りを通り越してただただ呆れた。
昔っから空気読めないのは相変わらずと言うかなんというか…
「何度も言うがお前本っ当ひでぇな?!」
「百合兄様……流石に今のはちょっと…」
「空気読めよ」
「深雪に達也まで?!」
「ふざけやがってぇっ……」
百合には悪気はなかったのだろう。
きっと本人は少しでも雰囲気を和ませてこの場を自然な流れでやり過ごそうとしたのだろうがどうやらそうはいかないようだ。
寧ろ一科生陣営のボルテージをあげるような結果になってしまった。
「お前はなんでウィードの肩を持つんだよ!!
何で自分よりも弱い……
ヒーロー気取りかお前は?!
実技の結果が少し良いからって調子に乗ってんじゃねえよ!!
お前は一体何様なんだよ、十六夜百合!!」
ボルテージ最高潮の茶髪の男が百合を指差して怒気の籠った声を放つ。
「おいてめえ今なんつっ---」
「待てレオ」
その言葉に反応したレオを百合は窘める。
「百合……お前良いのかよ?!
こんなに好き放題言われてさ!!」
「俺のことなんてどうでもいい。
でも森崎、レオ達に謝れ」
「は?
なんで格下のウィード共に---」
「こいつらに屑って言ったことを謝れって言ってんだよ」
百合の口から紡がれる言葉はひどく冷めきっているがその中に明確な怒りという感情が感じ取れる。
「この世界には強者なんていない。
この世界にはお互いに助け合わなければ生きていけない弱い人間しかいない。
それなのにお前らはなんなんだ?
自分が少し有能だからって才能のない人間を見下して、蔑んで、挙句の果てには屑呼ばわり……最低な野郎だな」
「お前……もう一度言ってみろ!!」
「ああ、何度でも言ってやるさ、お前らは最低な野郎だってな。
さっきも言ったが別に俺はお前が俺に対して言った言葉に怒ってるわけじゃない。
確かにヒーロー気取ってるってのはあながち間違いじゃないかもな。
だからこそお前がこいつらを屑なんて呼んだことに怒ってるんだよ。
友達の尊厳を、心を守るために怒ってるんだよ」
「百合……」
十六夜百合ってやつは昔っからこうだ。
自分がなにをされてもへらへら笑って受け流して…でも友達が何かされると鬼のように怒って…
本当にアイツは自分の周りに居る人間が大事で、すっごく優しいやつなんだろうなって今の言葉を聞いてても思う。
「そんなお前らレベルが何人束になってこようが俺は負けない。
寧ろ俺が負けたらお前らになんでもしてやるよ」
「お前……言わせておけば!!」
百合の挑発に乗せられてCADを蹴り飛ばされた男以外の一科生が一斉にCADを操作し始める。
腕輪型、携帯端末型…各々の形を持つそれに光の輪が形成される。
そして複数の光の弾が百合に向かって放たれる。
「百合!!」
「遅い」
百合がそう言った直後に鳴り響く複数の銃声。
百合に向かって飛んでいった光は全て消え去り、それらを放った奴らの視線はある男に向かって殺到する。
その目線の先の男、十六夜百合のその手に握られていたのは二艇の真っ白な拳銃。
「あのCAD……『
その銃口からは一筋の煙が天に向かって昇っていた。
◇ ◇ ◇
「本当にただの見学だったのだな?」
「いまさらシラ切っても無駄だと思うんでぶっちゃけるとあれはただの喧嘩です」
「そんな気がしていたからあまり気にしてはいないけど」
橙色に染まる空を眺めながら俺は缶コーヒーをすする。
俺が四人相手に圧勝した後、騒ぎを聞きつけた姉上と生徒会長もとい真由美さんが現れた。
先に手を出してきた相手も悪いんだが相手を挑発した俺も悪い。
大人しくお縄に掛ろうと思っていたところ達也の巧みなお言葉の数々によって言いくるめられた上に真由美さんによる追い打ちによって今回の件は不問となった。
そして今俺は夕日の差し込む生徒会室で姉上と真由美さんから事情聴取もとい尋問を受けていた。
「にっがぁ?!」
「お前、コーヒー嫌いなのになんで飲んでるんだ?
しかもブラックで」
「ごほっごほっ……
いや、深雪が淹れてくれる甘いやつは飲めるから大丈夫かなって……
でもさ、今更俺が本当のこと言ったところで一回不問にしちゃったらそのまんまでしょう?」
「そうね。
後々掘り返してまた喧嘩になったら堪らないもの」
クスリと笑いながら真由美さんは答える。
……今更だけどみんなで帰れなかったのが物凄い残念で仕方ないんだけど。
エリカのドヤ顔が頭に浮かぶ。
今頃みんなで美味しいもの食べてるんだろうなぁ…
「そう言えば姉上」
「なんだ?」
「風紀委員ってどんな仕事すればいいんですか?」
「摩利……あなた弟分に仕事の説明くらいしてあげなさいよ」
「すまん……時間がなかったもので」
真由美さんも呆れ顔。
こればっかりは仕方がない。
だって人間だもの(適当)
「風紀委員の主な役割は簡単に言えば学内で起こった喧嘩を止める事だな。
特に先程のような魔法使用による非公式な戦闘行為についてはお前がやったとおり実力行使でも構わない」
「そのために風紀委員は常にCADの携行が許されているんですね」
「そう言うことだ。
少々危険を伴う仕事だと思うが改めてよろしく頼む」
「何だかんだ言って姉上との付き合いは長いんだ。
断る理由はないですよ」
「ありがとう百合」
感謝の言葉を述べると姉上は俺と同じ銘柄のコーヒーを一口すする。
「ところで姉上」
「なんだ?」
「彼氏できた?」
「ぶほぉ?!」
姉上が柄にもなく盛大にコーヒーを噴き出した。
その先にあったのは俺の顔面。
当然のことながらそれは俺の顔を茶色に染めた。
「す、すまない百合今拭くってうわぁ?!」
慌てふためく姉上は地面に落ちていた紙を踏んで滑り盛大に尻餅をついた。
「大丈夫ですか姉上?」
「ああ……なんとかな」
そんな姉上に俺はポケットのハンカチで顔をふきふきしながら手を差し伸べる。
俺の手を取り立ちあがったのは良いが姉上の顔は恥ずかしさと怒りで真っ赤になっていた。
「なんでそんなことを唐突に聞くんだ?!」
「え?
だって姉上中学の頃よりも女の子らしくなってるからさ。
そんなあからさまに動揺してるってことは図星?」
「百合くん!!
男の子が女の子にそのようなことを聞くんじゃありません!!
例え気になったとしても本人にばれないようにこそこそ調べる、それが大人の対応よ!!」
「ただの変態じゃにゃいか!!」
真由美さんの本心なのかボケなのかわからない発言に顔を耳まで真っ赤にしながら姉上は叫ぶがその声にはいつもの覇気と余裕はなく、噛んでしまっている上に声もうわずっている。
傍目から見ても明らかに動揺しているのが目に見えて分かる。
「ほ、ほら!!
事情聴取も終わったことだしお前たちも家に帰れ!!
百合もあんまり遅くまでいると司波さん達が心配するだろう!!」
取り繕ったようなその態度にはまだ動揺の色が見え隠れしている。
これ以上弄るのは流石に可哀そうになってきた…そっとしておこう。
「それじゃ、お先失礼しまーす」
そう言って俺は生徒会室を出る。
そしてふと時間を確認しようとポケットから携帯端末を取り出す。
時計を確認しようと取り出したのだが、その画面には新着メッセージ1件の文字が表示されている。
そこをタッチしてウィンドウを開く。
差出人はエリカだった。
そこには一言、「待ってる」の文字。
何を待っているのだろうか……取り敢えず家に帰ろう。
◇ ◇ ◇
「お疲れ様」
「おお、待ってるってそういう意味だったのか」
重い足を引きずりやっとこさ辿り着いた校門にはエリカが立っていた。
どうやら待ってると言うのはこういう事だったらしい。
「じゃ、行こうか」
「ね~あたし疲れた~
おんぶしてよおんぶ~」
「はあ?!」
両の手をぶらぶらさせながらエリカはただをこね始める。
……昔からそういうの多いよなお前……
「仕方ねえな~
ほれ、してやるよ」
「うそぉ?!」
「何驚いてんだ?
してくれって言ったのはおまえだろ?」
「いや……でも……本当にOK貰えるとは思ってなくて…」
俺の了承の言葉に驚いたと思えば今度はもじもじし始めるエリカ。
俺はエリカの気持ちなんてさっぱりわかんないので見てるこっちからしたらころころ変わる表情がただ単に面白いだけだ。
「で、どうすんの?」
「お、お言葉に甘えさせてもらうわよ!!」
「結局乗るのかよ……」
しゃがんでいた俺の背中に重さがかかり、エリカの細い腕が俺の首に巻きついた。
……これ、今更だけどものっすっごい恥ずかしいんだけど。
「そういやさ、アンナさん元気?」
「ああ……母さんなら2年くらい前に死んじゃったんだ……」
「そうか……」
エリカの返答によって俺は返す言葉もなくただ頷く。
やっちゃったよ!!
久々に会った幼馴染みとの会話で一発目から地雷踏んじまったよ!!
どうすんだよ……どうすんだよ?!
---ライフカード---
んなもんねえよ?!
「ねえ百合」
「ふぇ?!」
胸中のシャウトを察されまいと必死にポーカーフェイスを取り繕っていた俺にエリカの方から声を掛けてくれた。
まさかこんな事にはなるまいと思っていたので思わず変な声が口から洩れる。
「あんたの使ってるCAD、美奈さんと浩二さんが使ってた『
「ああ、今は『
美奈さんと浩二さん、俺の母上と父上の名前だ。
俺の両親は二人とも警察官であり、二人が出会ったのは職場が初めて。
所謂職場内結婚というやつだ。
母上は左利き、父上は右利きでこの二艇で一セットであるCADを結婚祝いに貰ったという。
そして俺の十二歳の誕生日、エリカ達との誕生日会を終え家に帰った俺を迎えたのは真っ赤に染まって冷たくなった二人の遺体と俺の妹-十六夜千鳥のものと思われる腕だった。
三人を殺した犯人は四年経った今でも見つかっておらず、千鳥の腕から先の部分は見つかっていない。
俺の家「十六夜家」は百家の本流に名を連ねる名家で、俺の両親そして祖父はみんな職業は警察官、主に国際犯罪組織や非合法な活動を行っている反魔法団体の
そして横たわっていた二人の腰のホルスターには二艇の血のついた真っ白な拳銃、それがこれである。
ようするにこれは俺の両親の形見なのだ。
「なんで名前変えちゃったの?」
「まあ、俺が嘘吐きだったってことだよ」
「?」
エリカは首をかしげる。
俺が父上と母上が死んでからの一年で何をしたかを知らなければ当然の反応か。
「まあいいわ。
それとね、あんたさっき自分のことをヒーロー気取りって言ってたよね」
「ああ」
「あんたは自分のことをヒーロー気取りって思ってるだろうけどあたしにとってはずっとあんたはヒーローで、そんなかっこいい百合のことがずっと大好きだったんだよ?」
「え?」
「っと……今日はありがとね。
じゃ、また明日!!」
いつの間にか駅に着いていた。
何か深い意味が籠ってそうな一言を言い放ちエリカは俺の背中から降りて駅の構内へと走っていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに!!