魔法科高校の劣等生-嘘吐きの百合-   作:ぼいら~ちん

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第九射 十六夜の剣は…

「剣術部の番までまだ一時間以上もあるじゃない、桐原君!!

どうしてそれを待てないのっ?!」

 

下の板の間から大きな女の子の声が聞こえてくる。

声のした方を見るとなかなかに筋肉質な剣道着姿の男とさっきまで試合をしていた女子生徒が竹刀の切っ先を互いに向けあい対峙していた。

黒髪にすらりと細い体とその凛々しくも可愛らしい顔はその腕も相まって勧誘向けの部員だなぁと思う。

 

「心外だなぁ壬生。

こんな未熟者よりも俺が相手してやろうって思ったんだ。

ありがたいと思えよ」

 

「無理やり勝負をふっかけておいて!!

暴力を振るってきたのはあなたの癖に!!」

 

「暴力ぅ?

おいおい壬生、人聞きの悪いこと言うなよ。

俺は防具の上から、竹刀で、面を打っただけだぜ?

剣道部のレギュラーの癖に面打たれたくらいで泡吹くなよ。

それに先に手を出してきたのはそっちだろう?」

 

「桐原君が挑発してきたからでしょう!!」

 

…何にせよ状況はわかった。

でもこれくらいの対立じゃあ俺達が止めに入ったところで寧ろ騒ぎが大きくなるだけだ。

 

「なんか面白そうなことになってきたね」

 

子供のような無邪気な瞳で二人の試合を見るエリカ。

それを少し見ていたと思ったら俺の方へとその視線を向けてくる。

本当に手出ししないで欲しいときとかってコイツはこういう目で俺を見てくるんだよなぁ…

 

「異議なし。

よし、見に行こう」

 

この何かに夢中なエリカの瞳には昔から勝てないのが十六夜百合という男である。

それは何時になっても変わらない。

 

「ゆ、百合くん?!

止めなくて良いんですか?!」

 

「俺達の仕事は飽くまでも魔法の不正使用者の取締りだ。

これはただの喧嘩、要するに管轄外ってやつだ。

それ以上にこの戦いの続きを俺は見たい」

 

「そんな無責任な…」

 

美月はそう言いながらも渋々という表情で下に降りて行く俺達について来る。

人混みを掻き分けやっとこさ最前列へと出られたその頃には既に二人は竹刀の切っ先を互いに向けていた。

 

「おぉお!!

よく見たら壬生紗耶香に桐原武明じゃないの!!

これは夢にも思わなかった好カードですなぁ」

 

「ん?

アンタが知ってるなんて珍しいわね」

 

「直接のコネクションはないし試合見た程度だけどな。

どうせお前も見たことあるんだろ?」

 

「まあね」

 

ふふんと自信ありげに胸を張るエリカ。

そんなエリカとは裏腹に人集りの中央にいる二人の間には緊張感による沈黙が漂っていた。

 

「心配するなよ壬部。

剣道部のデモだ、魔法は使わないでやるよ」

 

「剣技だけであたしに敵うと思っているの?

魔法に頼りきりの剣術部の桐原くんが、ただ剣技にのみ磨きをかけたこのあたしに?」

 

「大きく出たな壬部?

だったら見せてやるよ…身体能力の限界を越えて競い合う剣術の剣技をよ!!」

 

桐原先輩の言葉を皮切りに彼は壬部先輩の剥き出しになった頭部目掛けて竹刀を振り下ろす。

そして鳴り響く竹刀同士の接触音。

 

「女の子の方は壬生紗耶香。

一昨年の全国で二位取った子でその見た目から剣道美少女とか剣道小町なんて呼ばれてたりしたんだ」

 

数秒遅れて悲鳴が聞こえてくるが俺は二人への説明を始める。

 

「それでも二位ですよね?」

 

「まあ…一位はルックスが…ね?」

 

俺の言いたいことをを察してくれた美月はそれ以上その人のことについて聞いてくることはなかった。

 

「で、男の方が桐原武明。

こっちは一昨年の関東剣術大会のチャンピオン。

要するに正真正銘の一位ってわけ」

 

「全国大会には出ないのか?」

 

「中学の剣術部って部員自体が少なかったからなぁ。

全国開けるくらい中学生で魔法使える奴がいないから」

 

「そう言うことか」

 

達也が納得したとおり中学生と高校生だと魔法を使える人の割合が物凄い増える。

それでも国内全体で見た魔法を使える人間の割合はそこまで多いとは言えず、今この学校で雑草(ウィード)と蔑まれている二科生も傍目から見ればエリートなのだ。

 

「それにしてもあの実力で全国二位って一位はどれだけ強いんだ?」

 

二人の試合を見ている達也は呟く。

確かに今の壬生先輩の剣道は男子の全国大会に混ざってもなら遜色のないレベルの動きになっている。

 

「いや…あたしの知ってる壬生紗耶香とは別人って思えるくらい上達してる…

二年でどれだけ力をつけたって言うのよ…」

 

「確かに壬生先輩はめちゃくちゃ強くなってる。

でも何て言えば良いのかなぁ…

「強くなりたい」って思いに不純物が混ざってるような感じがする」

 

「なに?

いつもの第六感ってやつ?」

 

「まあそうなるな」

 

剣道などの武術というものは「鍛練を積むことによって己の肉体と同時に己の精神も鍛える」ということを基本理念となっている。

壬生先輩からは確かにそう言うものを感じるのだがそれ以外にモヤモヤした何かを感じる。

つまり俺の言う不純物というものはそのモヤモヤのことだ。

 

「そろそろ終わるな」

 

「おぁあああああ!!」

 

俺がそう言うと同時に桐原先輩の雄叫びが闘技場に響き渡る。

二人とも真っ向勝負での剣の打ち下ろし。

相討ち…かのように見えたが壬生先輩の方の剣は桐原先輩の肩に食い込み、方や桐原先輩の剣は壬生先輩の左上腕を捕らえるのみに終わった。

 

「くっ…」

 

若干悔しそうな表情をした桐原先輩は左手の力のみで壬生先輩の剣を払い上げると同時に後方へと飛び退いた。

 

「途中で狙いを変えようとした分打ち負けたな」

 

「そうか。

だから剣勢が鈍ったのね。

完全に相討ちのタイミングだったのに…結局非情になれなかったか」

 

「それだけ桐原先輩が優しいってことだろ」

 

「あら。

アンタにしては随分と優しいじゃないの?」

 

「何て言えば良いのかなぁ?

桐原先輩がこんなことするのって壬生先輩の為だと思うんだよね」

 

「根拠は?」

 

「勘」

 

闘技場内の全員が決着を確信し安堵の表情が浮かぶ。

 

「真剣なら致命傷よ。

あたしの方は骨に届いてない。

大人しく負けを認めなさい」

 

厳然とした態度で勝利を告げる壬生先輩。

しかしそれに対して桐原先輩の表情は…歪んだ笑みを浮かべていた。

 

「ふ…ふははは…

何が「真剣なら」だぁ?

壬生、お前真剣勝負がお望みかぁ?

だったら真剣(・・)で勝負してやるよぉ!!」

 

その三日月型に歪んだ口から紡がれた言葉に俺の頭の中にエマージェンシーが鳴り響いたような気がした。

次の瞬間、闘技場に黒板を引っ掻いたような身の毛のよだつような音が体を震わせた。

そして桐原先輩は一足飛びで間合いを詰め左手に持つ竹刀を壬部先輩に振り下ろした。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

ガァンッ

 

「おっとぉ…桐原先輩?

それ以上はお痛が過ぎますよ」

 

しかしその振り下ろされた竹刀は壬部先輩と桐原先輩の間に割って入った百合によって止められた。

いつの間にか壬部先輩は百合の後ろで尻餅をついており当の本人も何が起こったかわかっていない様子だ。

 

「なんだてめぇ…!!」

 

「一年A組十六夜百合。

風紀委員として先輩の魔法の不正使用の取り締まりに伺いに来た次第です」

 

「…だったら止めてみやがれ!!」

 

「おっとっと」

 

百合の180cm近い体が軽々と飛ばされる。

しかし百合に慌てた様子はなく地面に手をつきバック転がよろしく回転しながら勢いを殺す。

そして決めポーズを取った百合には賞賛の拍手。

おい、ふざけてるんじゃないよ。

 

「じゃあ力ずくで止めますが一つ俺と勝負をしませんか?」

 

「勝負?」

 

「俺と桐原先輩で試合をしましょう。

俺が勝ったら大人しく部活連本部までついて来ること。

俺が負けたら俺はこの事を見て見ぬ振りをしましょう」

 

百合の提案に闘技場全体がざわめきだす。

あたし-千葉エリカとしてはただただ呆れることしか出来ないわけだが。

 

「…なんでそんなことするんだ?」

 

「そりゃあ良い試合を見せて下さったお礼ですよ。

もう一つは…」

 

百合はニヤリと口を綻ばせながら言葉の続きを紡いだ。

 

「俺が負ける理由なんてありませんから」

 

「てめぇ…言ってくれんじゃねえか…」

 

ビキビキという効果音が相応しい表情をする桐原先輩。

しかし攻撃しないのはまだ百合が竹刀を持っていないからだろう。

 

「あ、すみませーん!!

剣道部の皆さーん!!

小刀持ってる方居ませんか~?」

 

「あ、私持ってるよ!!」

 

「じゃあ貸して下さい、二本」

 

「え?

一本じゃなくて?」

 

「はい、二本」

 

ニッコリと微笑む百合の表情に頬を赤らめる剣道部の女子生徒。

 

「剣道の二刀流って大刀と小刀の二種類を使うんじゃないのか?」

 

「百合のはあれであってんの。

あれが十六夜流のやり方」

 

百合は受け取った竹刀を普通とは逆に持ち体を低くかがめて構えた。

 

「百合の剣見るのは久しぶりだなぁ…

それこそ小学生以来か~」

 

「でも百合くんってそんなに剣の扱いは上手くないんですよね?」

 

「うん。

確かに純粋な剣技だけで言っちゃえば剣道やってる小学生にも勝てないだろうね。

でも剣術の分野になればあいつは…」

 

「始め!!」

 

目の前の試合が剣道部員の少女の声によって火蓋が切られた。

 

バァン!!

 

「すっごい強いよ」

 

その瞬間、桐原先輩の握られていた竹刀は百合の一発によって地面に叩き落とされた。

 

「な…?!」

 

「竹刀落としましたね。

反則一回ですよ」

 

「…この野郎…!!」

 

ニヤニヤしながら百合は桐原先輩に事実を叩きつける。

竹刀を広い上げた桐原先輩は再び位置につき百合と対峙する。

開始の合図と同時に百合は桐原先輩の目の前に移動して両の手に持った竹刀でのラッシュを見舞う。

桐原先輩はそれをガードするもののそれがやっとといった様子でなかなか攻勢に転じることが出来ない。

それどころか剣術の特徴である魔法の発動も出来ないほどに同様していた。

 

「武器が二つなら手数も二倍ってねぇ!!」

 

「ぐっ!!」

 

「ところで達也くん、百合の剣がどんな事を得意にしてるか知ってる?」

 

二人の激闘に完成や悲鳴が上がる中、あたしは達也くんに会ってから思っていた疑問を投げかける。

 

「ああ。

加速術式と変幻自在の構えによる奇襲や不意打ちが得意なんだろ。

…そう言われてみると剣術の戦術としては少しおかしいかもな」

 

「そう。

剣術ってのは後ろからの打突は一本に数えられない。

なのに何故不意打ちを得意とする流派が存在するのか?

それは十六夜流の大元が忍者である事に由来するのよ」

 

「…百合とは三年程の付き合いだがそんな話しは一度も聞いたことはないぞ?」

 

「十六夜家とそこと縁のある家の人しか知らないことだから。

で、十六夜家は四国のとある武将に使えていた忍者が元祖だと言われているの。

正当後継者の百合曰く「忍者の機敏な動きと日本刀の威力を合わせたら最強じゃね?」っていう考えの下でこの流派は出来たらしいよ」

 

「…随分適当な理由ですね」

 

「百合のお父さんもあんな感じだからきっとあいつの先祖はみんなあんな感じなのよ」

 

昔からアイツの適当な考えに振り回されていた光景がフラッシュバックする。

言われてみると誰とでも仲良くなれるが人間関係への頓着が薄いあたしにしてはアイツとはよく一緒にいたと思う。

アイツがあたしについてきてただけかもしれないけど。

 

「そろそろ疲れてきたんじゃないですか?」

 

「うるせえ!!」

 

桐原先輩の大上段から振り下ろされた竹刀は百合の下段からの待っていましたとでも言うかのような狙い澄まされた一撃によって弾き返され、百合の連撃によって疲弊していた手から竹刀は飛んでいった。

しゃがんでいた百合は立ち上がり袖口から取り出したCADを顔の前で構えた。

 

「我が十六夜の剣はァァァァァァァアアア世ェ界一ィィィイイイ!!」

 

「うっさいわよバカ!!」




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!
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