剪定時空カルデア〜魔界転生〜   作:サルオ

3 / 8
3.炎の中で見たものは

 

「ところで、自己紹介がまだだったよね?」

 

マシュちゃんの後ろを付いていく僕は、彼女にまだ名乗っていないことを思い出した。

 

紳士を目指す僕としては、あるまじき行為だった。

 

「僕は上代(かみしろ)ユウ。マシュさん、本当にありがとうございました。あのままだったら、僕は本当に死んでいたかもしれません」

 

僕は深々と頭を下げる。

 

いや、ホント。あのクソ紳士、マジで僕を殺そうとしてたからね・・・。

 

 

 

あの目は、本気だった。

 

 

 

冗談みたいな流れで、冗談みたいに殺されかけたけど、アイツの目だけは本気だった。

 

僕のことなど、心の底からどうでもいい、と。

 

めんどうだから、消してしまえ、と。

 

そのくらい軽い命なのだと、あの目が、物語っていた。

 

そういうの、僕はわかってしまうんだ。昔から。

 

 

 

「あの、顔を上げてください。先輩」

 

 

 

マシュさんが、僕に優しく声をかけてくれる。

 

「わたしの方こそ、勝手に話を進めてしまい、申し訳ありませんでした。不愉快では、なかったですか・・・?」

 

「不愉快だなんて、そんな!感謝してもしきれないですよ!」

 

彼女のほうが僕よりも深く頭を下げてしまった。

 

なんで??

 

僕はそういうの慣れてないんで、本気でどうすればいいのか、わからなくなってしまうんだけど・・・。

 

「すみません。こういう時にわたし、どうすればいいか良くわかってないもので・・・」

 

顔を上げたマシュちゃんは、心底困った顔をしたいた。それこそ僕なんかよりもずっと困っているみたいだ。

 

どうしよう・・・。

 

気まずい沈黙が僕たちの間に流れてしまった。

 

「・・・笑えば、いいんじゃないでしょうか」

 

「え?」

 

僕の口から自然とこぼれたセリフ。

 

某アニメの有名なセリフだったけど、なんでか、今の僕の気持ちが素直に出たような気がした。

 

「こういうの、僕も慣れてないですから合ってるかはわかんないんですけど。でも、とりあえず僕は本気でマシュさんに感謝しているし、マシュさんの笑顔が見れたら、なんか安心できるっていうか・・・」

 

あるぇ??

すっげぇ独りよがりなセリフになったぞ、オイ。

僕が安心するために、笑えってのかよ。

確かに僕の素直な気持ちだけどさぁ!

 

「すみません、なんか勝手なこと言っちゃって・・・」

 

「いえ、そんな・・・」

 

ほら、見ろ。マシュちゃん困っちゃってるじゃないか。

 

・・・ええい、ままよ!

 

「大丈夫ですよ!」

 

大きな声で、マシュさんに笑顔を向けた僕。突然の大声にビックリしたマシュちゃんにとっては、きっとキッショいカオに違いない。

 

でもいいや。なんか、テキトーでもこの場が収まれば。独りよがりでもなんでも、こんな空気をマシュちゃんに味わってほしくないし、僕もいい加減、疲労感MAXだ。何も考えずにとりあえずしゃべってしまえ!

 

「僕、本当にめっちゃ嬉しかったんです。さっきはみっともなく喚いちゃいましたけど、そこにマシュさんが来てくれたの、本当に嬉しかったから!自分がなんでこの場所にいるのかもわからないから、僕、不安だったんですけど、マシュさんと会えて、助けてもらって、本当に良かったです!」

 

「え?え?」

 

「マシュさんのしてくれた事、僕にとっては100点満点でした。だから、大丈夫です!」

 

笑顔で言い切って、僕は親指を立ててぐっとマシュちゃんの目の前に突き出す。

 

サムズアップ、って言うんだっけか。

 

僕の大好きな特撮物の主人公がいつも使っていた合図。それを僕も真似させてもらった。

 

自分が誰かに向けてやる事なんて想像もしてなかったけど、やってみると自分でも本当に大丈夫って気がしてくるから不思議だ。

 

根拠はないけどね。でもなんか、胸の奥が暖かくなった。

 

「・・・ふふ」

 

おっと、笑われてしまったか。

 

「先輩は、不思議な方ですね」

 

マシュちゃんの表情が柔らかくなる。

 

「はい、先輩の言う通り、大丈夫!って思えました。先輩は、そういった魔術を使われるのでしょうか?」

 

「へ?魔術?」

 

「はい。先輩もカルデアに来られたのですから、何かそういった、人を元気にする魔術を扱っておられるのかなって」

 

「いやぁ、魔術とかマジックとかは使えないかなぁ」

 

「そうなんですか!?」

 

ビックリされてしまった。マシュちゃんは知的でおとなしいイメージがあったけど、表情がコロコロ変わるから見ていて飽きないな。

 

「うん。これはおまじないなんだ。僕にとっての。昔、憧れていた人がやっていた癖みたいなものでね。それを見ていると、不思議と元気が湧いてくるんだ」

 

「すごいですね!その方は先輩のお師匠様なのですね!?」

 

「いやぁ、残念ながら会った事もないんだ。一方的に知ってるだけで」

 

「そうなんですか・・・?」

 

「うん」

 

心の中に思い浮かぶ、特撮ヒーローの笑顔。

 

「でも、あんな人になりたいなって、いつも思ってるんだ」

 

所詮はテレビの中のキャラクターだ。演技でしかないことはわかってる。でも、あの人に僕は勇気をいつももらっていたから、いつか、あの人みたいになりたいっていうのは本当だ。

 

「このサムズアップってのはね、古代ローマの皇帝が、納得のいく行いを行ったものだけに送るプレゼントなんだって。僕も詳しくは知らないんだけどね」

 

「ふふふ。先輩はその方が本当にお好きなんですね」

 

「相手は男だけどね。憧れてるんだ・・・」

 

うん、いつかは僕も・・・、なんてね。

 

「申し遅れました。わたしはマシュ・キリエライトです。よろしくお願いしますね、先輩!」

 

「はい!こちらこそお願いします、マシュさん!」

 

僕は勇気を出して、手を差し出す。マシュちゃんは一瞬のためらいもなく、その手を握ってくれた。

 

本当にいい子だなぁ。

 

心の底から安心するなぁ。

 

女の子の手ってこんなに柔らかくって、暖かいんだなぁ。

 

はあ。本当、天にも登るような心地良さ・・・。

 

「先輩?・・・先輩!?」

 

あぁ、マシュちゃんの声が遠くなっていく。

 

最期に聞けるのがマシュちゃんの声なら、悪くない人生だったかもしれん。

 

まぁ、死ぬとは思ってないけど。そこは、まぁノリで。

 

そのまま僕は眠るように気を失った。

 

 

 

=============================

 

 

 

『素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 


降り立つ風には壁を。

 


四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 



閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。

 



――――告げる。


 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 


聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 



誓いを此処に。


 

我は常世総ての善と成る者、

 


我は常世総ての悪を敷く者。



 

汝、三大の言霊を纏う七天、

 

抑止の輪より来たれ、

 

天秤の守り手よ―――!』

 

 

 

 

 

「かぁ〜〜〜っこいい!!なぁ!カッコいいだろ!?」

 

「あぁ、はいはい。厨二乙」

 

「バッカ、お前ぇ!ちょっと前まで俺たち中ニだったんだぞ?あの頃の気持ちを忘れんなよ!なんでそこで諦めるんだよぉ!」

 

「はいはい、修造乙。てか暑苦しいよ!」

 

 

 

アレ・・・?ここは・・・?

 

 

 

あ、なんだ。尾前(おまえ)の部屋か。

 

僕の幼馴染。幼稚園の頃からの腐れ縁。

 

なんか知らんけど家は近いし、趣味も近いし、不思議とウマが合う、僕の大切な友達。

 

そんなコイツが、僕に薦めてきた、昔のゲーム「Fate/stay night」。なんか知らんけど、最近ハマっているらしい。知らんけど。

 

「ていうか、これ何十年前のゲームだよ。よくこんなの見つけてきたな・・・」

 

「バッカやろう!ユウ。お前はこのパッケージに刻まれた文字が目に入らんのか!」

 

「な・・・、なにィィイイイイイイ!!?」

 

バカな・・・!その、文字はッ!

 

「R18・・・だと・・・?」

 

「エロのためになら、俺は例えゴミ山だろうとこの身を投げ出すことに躊躇いはないんだぜぇ?」

 

「なんだクソゲーか」

 

「ちゃうわボケぇ!!・・・いや、確かに最初はさ。なんか有名なゲームみたいだし、しかも調べてみたら最初は18禁のゲームだったらしいってんで○mazonとかで探し回ってんだけどな。絵はちょっと微妙だなぁって思いながらやり始めたことは否定しないよ」

 

うん。そこは僕もそう思う。決して下手ではないんだが、な〜んか、そそられない絵柄してんだよなぁ。

 

「だがな、俺はそんな不純な事を考えていた過去の俺を殴り飛ばしてやりたいぜ。これは間違いなく神ゲーだ!もともと同人ソフトからスタートしたゲームが大ヒットして全年齢版が発売され、スピンオフも大量に生み出され、今現在でもスマホのアプリランキングに名を連ねているだけの力がこのゲームにはある!!」

 

「ああ、なんだっけ?fgoとかいう・・・」

 

「そう!フェイト、グランドオーダー!俺はな、とりあえず原点もスピンオフとかも全部やってからアプリをやり始めたから後続勢だけど、これもやっぱり神ゲーだ!」

 

「ふーん」

 

「なぁ。そんな冷めた目をしないで、とりあえずコレ(stay night)だけでもやってみろって。エロ自体は悪くないし、それ目的でいいからさ」

 

「まぁ・・・そんなんでハマるかよって思いはするけども?」

 

僕はまんざらでもない様子でソレを受け取った。

 

「・・・受け取ったな?」

 

「え?」

 

「予言しよう。お前が明日の朝一番に俺に言う言葉は『Fateオモシレーな!』だッ!」

 

「あ〜・・・、まあ、そうかもしれないけども」

 

「もし俺の予言が当たったら、お前もfgoやろうぜ!俺、まだリアルの友達でフレンド枠いなくてさぁ。俺もまだ序盤だし、ユウと一緒にストーリー進めてぇんだよ!」

 

「わかった、わかったよ。とりあえず、コレはやってみるから落ち着けよ。な?」

 

どう見ても布教活動ですね、わかります。

 

まあ、そんな軽い気持ちでやり始めたゲームだったけど、確かにこれは神ゲーだった。厨二病もガチでやればカッコいい。それをこのゲームは体現していた。

 

だから、翌朝の僕は尾前に対して、尾前の予言通りのセリフを言ったんだ。

 

その日、尾前と2人で帰路につき、アプリをダウンロードしながら自分のキャラの名前をウンウン唸りながら考える僕を面白がって見ていた尾前は、

 

 

 

僕の目の前で、トラックにはねられた。

 

 

 

==============================

 

 

 

「あ、気がついたかい?」

 

あれ。ここは・・・?

 

「あっ!先輩、良かった!目が覚めたんですね!」

 

「マシュ・・・ちゃん?」

 

「ちゃん!?」

 

どうやら僕は、どこかのベッドに横になっていたらしい。僕の顔を覗き込んだマシュちゃんが、顔を真っ赤にして驚いている。

 

「あ、あ〜ごめん。いきなり『ちゃん』付けはまずかったよね・・・」

 

マシュちゃんに謝りながら起きあがろうとした僕を、別の人の手が優しくベッドに押し戻した。

 

「ダメだよ。キミはもう少し休んでなきゃ」

 

なんだかホッとするような、優しい声。男の人だ。オレンジがかった髪に、めっちゃ整った優しい顔つきの人。白衣の下に手術をする時に着るような服で、なんだかお医者さんみたいだ。

 

「あ、すみません。あの、あなたは?」

 

「ああ、ごめん。自己紹介がまだだったね。ボクは医療部門トップのロマニ・アーキマン。このカルデアに所属する、ただの医者さ」

 

ニッコリと、ロマニさんは僕に微笑んだ。まさか本当にお医者さんだったとは。

 

「ロマニさん、ありがとうございました」

 

僕がそう言って一言礼を言うと、ロマニさんはとても驚いた顔をした。

 

あれ?なんかヤバい地雷踏んだ??

 

「あの、なにか・・・」

 

「いやいやいや!久しぶりに本名で呼ばれたもんでね。みんな、ボクの名前を呼びにくいっていうんで『Dr.ロマン』と略されるんだよ」

 

「あ、そうなんですか?」

 

「うん。まあ確かに呼びやすいと思うし、簡単だからキミも遠慮なく『Dr.ロマン』と読んでくれていいとも」

 

「え、いいんですか?」

 

「もちろん!実際、ロマンて響きはいいよね。格好いいし、どことなく甘くていい加減な感じがするし」

 

ああ、ゆるふわ系の人なんだなぁ・・・。

 

「じゃあ、ありがとうございます。ドクター」

 

「どういたしまして」

 

またまたニッコリと微笑んだDr.ロマン。

 

ちくしょう、イケメンめぇ・・・。様になってるなぁ。

 

「フォーウ」

 

若干、イケメン医師の笑顔に見惚れていると、さっきの謎のリスが僕のお腹に乗っかってきた。

 

あと断っておくが、僕は男だ。その性癖を否定はしないが、ゲイでもホモでもない。

 

「あ、フォウさん。ダメですよ。先輩はまだ体の調子が良くないんですから」

 

マシュちゃんが僕のお腹から謎リスを抱き上げる。

 

「うわっ!それってもしかして、マシュがいつも言っている噂の怪生物?初めて見た!」

 

「はい!フォウさんです」

 

「本当にいたんだねぇ・・・。どれ、ちょっと手懐けてみようかな」

 

言いながらDr.ロマンはポケットからビスケットの袋を取り出した。

 

「はい、お手。うまくできたらお菓子をあげるぞぅ」

 

「・・・・・・フウ」

 

謎リスことフォウさんは、とても哀れなモノを見る目でこの場を去っていった。

 

思ってたより知能指数が高いのかもしれない。

 

「あ、あれ。いま、すごく哀れなものを見るような目で無視されたような・・・」

 

Dr.ロマンは残念そうだ。そりゃ、そうだろう。僕だって動物にあんな目で見られたら確実に凹む。

 

「あの、ドクター。それではわたしもそろそろ管制室に・・・」

 

「ん?ああ、ごめんねマシュ。ここはボクに任せて行っておいで。くれぐれも、無理しないように、ね」

 

「はい。それでは先輩、失礼しますね」

 

そう言って、マシュちゃんも駆け足で部屋を出て行った。

 

「あの、ドクター?一体、何がどうなって・・・」

 

「ああ。キミはね、ついさっき気を失って、この医務室に運ばれてきたんだよ」

 

ああ・・・、やっぱりか。という事は運んでくれたのはマシュちゃんてところか。

 

「なんか、すみません・・・」

 

「謝る必要なんかないさ。ボクは医師だからね。急病人であれば、例え不審者だろうと診ないワケにはいかないんだから」

 

「・・・やっぱり僕って、不審者ですよね」

 

「そりゃあ、そうだとも!こんな南極大陸の山奥に、Tシャツ短パンの男の子なんかいるハズないんだから」

 

「な、南極!!??」

 

僕は驚いて飛び起きた。雪山だし、たぶん日本のどこかだろうと思っていたのに、まさかホントに南極とは・・・。

 

「その様子を見る限り、本当にキミは何も知らないんだね」

 

ドクターの声は僕を責めるようなものではない。むしろ、僕を不憫というか、心配してくれているようだ。

 

「一から説明したほうがいいかい?」

 

「・・・はい。すみませんが、お願いします」

 

「いいとも」

 

ドクターはベッドの横の椅子に座った。少し長い話になりそうだ。

 

「まず初めに、キミは魔術を信じるかい?」

 

「え?魔術、ですか?」

 

そりゃあ、存在自体は知ってる。色んなマンガやアニメ、ゲームなんかでよく使われるからな。

 

だが、信じるかって言われると、「むしろ、そんなのが存在する世界があるなら行きたい」ってくらいだけど。

 

「その様子だと、『知ってはいるけど信じてはいない』ってところだね」

 

「えっと・・・すみません」

 

「そんなに謝らなくていいんだよ。そもそも、魔術ってのは秘密主義でね。普通の人たちには知られないようにしてるんだから信じられないのは当たり前さ」

 

ドクターは優しく言った。

 

「ここ、カルデアはね。簡単に言ってしまえば魔術と科学を織り交ぜた、人類の未来を観測するための研究所なのさ」

 

「え、魔術って本当にあるんですか?」

 

「あるよ?一般の人が知らないだけで、魔術はそりゃあ古い歴史を持ってるんだ。1000年以上は続いている魔術の名家もあるくらいだからね」

 

そうなのか、知らなかった。現実って、意外とファンタジーだったんだな。

 

「魔術の名家があれば、当然、派閥とかも存在する。詳しくはいえないけど、ここカルデアはそんな派閥の一つである『時計塔』って呼ばれる組織が作り上げた研究所なんだよ」

 

「はあ・・・」

 

・・・ん?『時計塔』?

どこかで聞いたことのあるような。

 

「全部を理解しようとしなくてもいいよ。ボクも君に全部説明はしてあげられないからね。・・・まあ、そんな『時計塔』に所属する魔術の名家の一つがこんな事を考えたのさ。『人類はいつまで続くんだろう』『人類が絶滅するのはいつなんだろう』『人類が絶滅しないための方法は存在しないのだろうか』ってね」

 

「え、そんな事ができるんですか?」

 

「それをやっちゃうのが魔術師なんだよなぁ」

 

ドクターが苦笑する。

 

「魔術師たちは考えた。魔術だけでは足りない。じゃあ科学ならどうだ?いやいや、科学だけでも未来を測る事はできない。じゃあどうしよう?そうだ!魔術と科学を両方使えばイケるんじゃないか、ってね」

 

「で、できちゃったんですか・・・」

 

「できちゃったんです」

 

ドクターが悪戯をしている子どもみたいに笑った。意外とおちゃめな人物なのだろうか?

 

「カルデアは、人類の未来を観測するために4つの発明をしたんだ。事象記録電脳魔・ラプラス、地球環境モデル・カルデアス、近未来観測レンズ・シバ、そして守護英霊召喚システム『フェイト』」

 

「フェイト!!?」

 

つい驚いて大きな声を出してしまった。ドクターも驚いた様だけど、僕の反応に対してドクターの顔が途端に険しくなる。

 

「キミ、知っているのかい?フェイトを」

 

「い、いや・・・、最近そういう名前のゲームをやったもんでして・・・」

 

「・・・ふーん」

 

な、なんか分からんけど、まずいかもしれない。さっきドクターは『魔術は秘密主義』って言っていた。僕の知ってる『Fate』とドクターの言うフェイトが同じ名前なのは偶然かもしれないが、フェイトってのが重要なものであることは、これまでのドクターの話からしても明らかだ。それを、名前だけとは言え一般人である僕が知っているのは怪しすぎる。

 

でも、『英霊』って・・・。

 

それってまんま、『Fate/stay night』に出てきた英霊召喚じゃないか・・・!

 

こんな偶然があるのか?

 

「あ、あのう・・・」

 

「ん?なんだい?」

 

止せばいいのに、僕は余計な事を聞こうとしている。

 

だって、これを聞けば、もしかしたら分かるかもしれないんだから。

 

ここが、『この世界』が、一体なんなのか。

 

「魔術師の名家って、もしかして『アインツベルン』って名前だったりします?」

 

ドクターの目が驚愕に見開かれる。

 

「キミは、本当に・・・」

 

ドクターが僕に何かを聞こうとした、その時だった。

 

『ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?』

 

ドクターの持つ通信機から、あのクソ紳士の声が聞こえてきた。

 

『Aチームの状態は万全だが、Bチーム以下、慣れていない者に若干の変調が見られる。・・・これは不安から来るものだろうな。コフィン(霊子筺体)の中はコクピット同然だから』

 

ドクターはその声を聞いて、明らかに迷っている。この場で明らかに怪しい僕を残してもいいものか、と。

 

だが、仕事の内容的に考えても、ドクターがその場に必要なのは確かだろう。

 

『・・・ロマニ?』

 

「あ、ああ、済まないレフ。ぼーっとしていたよ。確かにそれは気の毒だね。ちょっと麻酔をかけに行こうか」

 

『ああ、急いでくれ。今医務室だろう?そこからなら2分で到着できる筈だ』

 

そう言って、レフの通信は切れた。

 

「・・・今の男はレフ・ライノールと言うんだ」

 

ドクターが視線を僕に戻した。まるで脅しをかけるように。

 

「さっき説明した近未来観測レンズ、シバを作った魔術師だ。・・・シバはカルデアスの観測だけでなく、この施設内のほぼ全域を監視し、写し出すモニターでもある」

 

まるで、ではない。脅しだ。

 

僕が少しでも不審な動きを取れば、今度こそ容赦しないと脅してるんだ。

 

「ぼ、僕は・・・」

 

なんだ?何を言えばいい?何を言えばこの警戒心を解いてもらえる?

 

「魔術師でも、なんでもない・・・。誓って本当です。このまま、ここで大人しくしています」

 

「本当だろうね?」

 

間髪いれずに聞き返すのやめてよ!

 

「本当です。僕、さっきからウソだけは言ってません・・・!」

 

「ただ本当の事を言ってないだけ、じゃないのかい?」

 

「本当の事ってなんですか!僕だってワケがわかんないんだ!なんで僕がゲームの『Fate』の世界に入ってるんだよ!?」

 

 

 

「は?ゲーム?キミは何を言って・・・」

 

 

 

突然、部屋の明かりが消えた。

 

 

 

「なんだ?明かりが消えるなんて、何かーーー」

 

ビィー!!ビィー!!

 

『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました』

 

「なんだって!?」

 

ドクターの「信じられない」といった声が聞こえる。明かりが消えているから、その顔までは見えないが。

 

『中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから退避してください。繰り返します・・・』

 

「今のは爆破音か!?一体何が起こっている・・・!?モニター、管制室を映してくれ!みんなは無事なのか!?」

 

ドクターの問いに答えたのだろうか。不意に部屋の中央が赤く光る。

 

そこに映し出されていたのは、炎に飲み込まれた、管制室と思われる場所であった。

 

「これはーーー」

 

「ドクター、これって・・・」

 

なんかの、ドッキリ・・・?

 

だけどドクターの顔は真剣そのもので。

 

「上代くん、だったね。キミはすぐに避難してくれ。ボクは管制室に行く」

 

「え?」

 

「もうじき隔壁が閉鎖されるからね。その前にキミだけでも外に出るんだ!」

 

「え?え?でも、だって僕・・・」

 

「時間がない!早く!」

 

ドクターはそう叫ぶと、急いで医務室を出て行った。僕もドクターの勢いに負け、急いで医務室を出ようとした。

 

でも、僕の足元に、いつの間にかフォウさんが座っていた。

 

「うおっ!?」

 

危うく踏んでしまうところだった・・・!

 

「・・・・・・」

 

フォウさんが僕をじーっと見つめてくる。

 

「き、君も一緒に逃げないと・・・」

 

僕はフォウさんを抱き上げようとして、ある事に気付く。

 

管制室って、さっきマシュちゃんが・・・。

 

「フォウ!」

 

フォウさんが鳴くよりも早く、僕は駆け出していた。

 

医務室を飛び出し、左右を見渡す。ドクターの背中が見えた。

 

急いでそのあとを追いかける。

 

「え・・・速ッ!?」

 

僕の足音を聞いて振り返ったドクターを、僕は一気に追い越した。

 

「キミ、そんな体型で!?」

 

うっせぇ!こっちはそれどころじゃないんだ!

 

「ていうか何してるんだ、キミ!?方向が逆だ!第二ゲートは向こうだよ!?」

 

知ってらぁ!自分が逆方向に行ってることくらい!

 

「ああ!もう、速すぎる!戻るんだぁ!!」

 

ドクターの声を無視して、僕はカルデアとかいう施設の廊下を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイレンが鳴り響く。

 

僕は、管制室の扉を開けて、立ち尽くしていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

炎に包まれた、管制室と思われる場所。

 

金属やプラスチックだろうか。なんだか変な匂いがする。

 

それに混じって、肉の焼けるような匂いも。

 

不謹慎にも、「おいしそうな匂いだな」とか思ってしまった。

 

「何が」焼けているのかは、想像したくなかった。

 

「・・・・・・生存者はいない。無事なのはカルデアスだけだ」

 

ドクターが僕に追いついたようだ。

 

僕は目の前の光景から目を離せない。

ドクターの言うカルデアスとは、部屋の中央にある巨大な地球儀のことだろうか?

 

「ここが爆発の基点だろう。これは事故じゃない。・・・人為的な破壊工作だ」

 

ドクターの声に、明らかに敵意が混じっている。

 

向けられている先は当然、僕だ。

 

『動力部の停止を確認。発電量が不足しています。予備電源への切り替えに 異常 があります。職員は 手動で 切り替えてください』

 

場内アナウンスが、実に機械的な音声で現状を報告している。

 

『隔壁閉鎖まで あと 40秒。中央区画に残っている職員は速やかにーーー』

 

「ボクは地下の発電所に行く。カルデアの火を止める訳にはいかない・・・」

 

僕の後ろで、ゴツッと、音が聞こえた。きっとドクターが、壁でも殴ったんだろう。

 

「・・・ボクはこれでも医師の端くれだ。たとえ犯罪者だろうと、命の危機にある者を見捨てる訳にはいかない」

 

・・・なんだよ、それ。

 

まるで、僕がこの惨劇を引き起こしたみたいじゃないか。

 

「キミは急いで来た道を戻るんだ。まだギリギリ間に合う。余計な寄り道はしないでくれよ・・・」

 

僕が、まだ何かしそうだから、か・・・?

 

僕じゃ、ないのに・・・。

 

「・・・大したやつだよ、キミは」

 

ドクターが去り際に吐き捨てるように言ったセリフ。

 

「・・・・・・・・・」

 

『システム レイシフト最終段階に移行します。座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木』

 

取り残された僕の上で、アナウンスが無機質に喋る。

 

『ラプラスによる転移保護 成立。特異点への・・・』

 

うるせぇ・・・。

 

なんなんだよ、これ。

 

僕が、何をしたって言うんだよ。

 

僕は、何もしてないじゃないかよ。

 

・・・あの時と一緒だ。

尾前が僕の目の前で、死んだ時と。

 

あの時もそうだ。「目の前で親友がトラックにはねられそうになった時、お前は何をやっていたんだ!?」と、みんなが僕を責めた。

 

だって僕はその時、アプリで遊んでたんだから・・・。

 

尾前が勧めてきた、Fateのアプリだったんだ。一緒にやろうって言われてたから、僕もすごく楽しみにしていて・・・。

 

直前まで、一緒に、笑ってたんだから・・・。

 

「ちくしょう・・・」

 

まあ、親御さんや、クラスメイトからしたらさ。そりゃあ、ふざけてるのかって思う気持ちもわかるよ?

 

でも、僕がふざけてる訳ないだろう。

 

親友だったんだぞ?

 

幼馴染だったんだぞ?

 

それが、目の前でぐしゃぐしゃになったんだぞ!?

 

ふざけられるわけ、ないだろうがよ!!

 

 

 

 

 

「先輩・・・・・・?」

 

ハッとした。

 

この声は・・・

 

「マシュちゃん!?どこだ!どこにいるんだ!!」

 

熱い。炎ってこんなに熱かったのかよ。

 

熱で息もできやしない。

 

「ごほっ、げほげほ!」

 

少し煙を吸い込んでしまった。

 

「・・・!見つけた!」

 

僕はマシュちゃんの元に駆け寄って、

 

 

 

 

 

 

そこで、下半身が瓦礫に挟まれて潰れた、死にかけのマシュを見つけた。

 

 

 

 

 

反射的に、僕は瓦礫とマシュとの間に手を差し込み、瓦礫をどかそうと試みた。

 

びくともしない!

 

「くそぉ!くそ、くそ、ちくしょうが!!」

 

なんでだよ!?なんでまた、目の前で・・・!

 

「しっかり!今助けるから!!」

 

「・・・・・・いい、です・・・助かりません、から。それより、早く、逃げないと」

 

「うるさい!黙ってろよ!それ以上血が抜けちゃったら・・・!」

 

瓦礫をどかそうと、僕は更に力を込めた。ビリっと指先に痛みが走る。切ったか、爪が剥がれたか。構うもんかよ!

 

「!?」

 

瓦礫の向こう、管制室の中心に鎮座したカルデアスの色が、変わった?

 

『・・・による近未来観測データを書き換えます』

 

こんな時に、何を?

 

『近未来100年までの地球において、人類の痕跡は 発見 できません』

 

・・・・・・は?

 

『人類の 生存 は確認できません。人類の 未来 は確認できません』

 

「カルデアスが・・・真っ赤に、なっちゃいました・・・。いえ、そんな、こと、よりーーー」

 

「しゃべっちゃダメだよ!!」

 

僕の後方で、何かガコンッ!と大きな音がした。

 

「隔壁、閉まっちゃい、ました。もう、外には・・・」

 

そんな事、どうでもいい。

 

今、この場でこの娘を助けられないなら、

 

僕の目の前で、また誰かが死ぬくらいなら、

 

僕はこのまま、ここで、死んでしまいたい。

 

「・・・・・・」

 

だけど、最後まで諦めない。

 

この娘が、少しでもいい、わずかな可能性でも生き残れるんなら、

 

神さま。

 

僕の命なんて、あげるから。

 

 

 

「マシュを、助けてくださいよおお!!」

 

 

 

熱い。

 

炎が僕たちを包み込もうと、少しずつ近づいてくる。

 

何かアナウンスが言っているが、そんなモノは耳に入らない。

 

「あの、先、輩・・・」

 

僕が足元のマシュを見遣る。

 

マシュはまるで、血の海に浮かんでいるようで。

 

 

 

「手を、握ってもらって、いいですか・・・?」

 

 

 

もう、絶対助からない。

 

 

 

僕は、マシュの手をゆっくりと握った。

 

 

 

マシュが、安心したように目を瞑って、

 

 

 

僕らは、炎に飲み込まれた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。