剪定時空カルデア〜魔界転生〜   作:サルオ

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6.さーて、これからどうすっぺ?

 

「え?こっちの世界だと武蔵って男なの?しかも凄い有名なんてびっくり!

 

 

 

それはそうと、マスター。私の間合いには入んないでね?間違えて斬っちゃうから」

 

「ちなみに具体的にはどのくらい?」

 

「だいたい一里、ってとこかしら?」

 

「現代の距離に換算すると、約4キロメートルですね」

 

「オッケー武蔵ちゃん、ちょっと話し合いをしよう」

 

「ごっめーん!私、面食いだからさぁ!」

 

 

初っ端からこの言われよう。

 

信頼を築こうにもそもそも近づく事さえ許されない。

 

てか4キロってアンタ。まるで僕が前科持ちのストーカーみたいじゃないか。

 

 

「しかしそれにしても、まさかこのブタが世界的に有名なムサシ・ミヤモトを呼び寄せるなんてね・・・。ここが日本だから、呼びやすかったってのもあるのかしら・・・」

 

「いやぁ〜はっはっはっ」

 

「ムカつくからやめなさい、そのドヤ顔!」

 

なんでや!大当たりに変わりないんだから少しぐらい良いやろがい!

 

「ん〜、盛り上がってるところに水を差すのも気が引けるんですけども、私はこっちの世界の武蔵とは別人だからねぇ〜」

 

「いやいや武蔵ちゃん、僕は君に会うためにここまで来たんだよ」

 

「あ、マスター。鯉口切っちゃうから少し静かにしててくれる?」

 

「そんなに僕のこと嫌い!?」

 

「嫌いというか無関心でいたい対象ね!」

 

「人生においてお会いしたくなかったという事ですね、先輩・・・」

 

「めっちゃ良い笑顔で言われたよ・・・」

 

 

流石に涙ちょちょぎれそうだよ、僕も。

 

 

「マスターに話の腰を折られちゃったけど、私自身はまだまだ未熟。剣の腕も道半ば、といったところ。だから正直そんなに頼られても、期待に応えられるかは微妙なところね」

 

「あら?貴方もサーヴァントとして英雄の資格があるのだから、『私に任せろ!』くらい言えないの?」

 

 

所長が怪訝な表情で武蔵ちゃんに尋ねた。

 

 

「他の事ならいくらでも大仰に言えるけど、剣士として己の力量を見誤って死ぬのは恥ずべき事だからね。それにアナタたちを巻き込んでしまったなら、それこそ死んでも死にきれません。そこは正直に言っておかないとね」

 

「ウソでしょう!?最強と言われた剣士がそこまで弱体化してるっていうの!?」

 

「だから私はこっちの世界の武蔵とは全然違うんだってば!それに私がさーゔぁんと?っていう存在である事はなんとなくわかるんだけど、正直意味がサッパリなのよね。宝具、とかいうモノもよくわからない状態だし・・・」

 

 

その言葉にオルガマリー所長が崩れ落ちた。

 

 

「な、なんてこと・・・。大当たりを引いたかと思えばとんだ期待外れ、宝具も使えない英霊なんてどーすりゃいいのよ・・・」

 

「ちょっとちょっと!勝手に期待しておいて流石にそれはないんじゃない?私にだって得意なことの一つや二つはちゃんとありますぅ!」

 

「たとえば?」

 

「逃げること、とか?死ななきゃ負けじゃないってね!」

 

「それってその辺のザコ兵士の発想じゃない!ホント役立たずね!!」

 

 

あ、やばい!武蔵ちゃんの額に青筋が立った!

 

 

「い、いやいやオルガマリー所長!宝具を使えないっていう意味でいえばマシュも同じですから!逆に考えましょう、マシュと同等の戦力が2人に増えたと思えば・・・!」

 

「そ、そうです所長!わたしもまだまだ自分の事が把握できていませんが、武蔵さんと2人ならこの状況も切り抜けられると思います!」

 

 

僕と、僕の意図にすぐさま気付いたマシュとで必死に所長を説得する。でないと多分、所長は死ぬ。だって僕の背後で武蔵ちゃんがすんごい殺気を放ってるのが分かるもん!

 

 

「それに所長!今回は偵察任務なんですから、そこまでの戦力を求められても!ホラ、僕ってば完璧など素人マスターですから!」

 

 

もう僕のせいにするんでもなんでも良いから、とにかく後ろの武蔵ちゃんの殺気を収めたい!

 

 

「え、マスターって素人なの?普通に魔術師とかではなく?」

 

 

ここに来て武蔵ちゃんが僕に声をかけてきた。これを逃す手はない。

 

 

「そーなんだよ武蔵ちゃん!僕は魔術なんて今までの人生で一度も触れてこなかったし、当然、魔力なんてものがあるかも分からないんだ!だからどっちかと言うと武蔵ちゃんが弱体化したんじゃなく、僕がヘボだったからって事なんだよ、きっと!」

 

 

 

 

 

「・・・それって私に喧嘩売ってる?」

 

 

 

 

 

逆効果ぁ!!なんでッ!?

 

 

「いくら私が未熟だからとはいえ、それは全て私自身の責任。私自身が弱い理由を、私以外の誰かを理由にされるなんてのは幾らなんでも我慢できません。それならまだ真正面から『お前は弱い』って言われるほうがマシというもの。今の私はサーヴァントとして現界したからやらないけれど、アナタがマスターじゃなかったらこの場で斬り捨ててるわ」

 

 

武蔵ちゃんの鋭い視線と殺気が僕を穿つ。

 

ゾッとした。

 

やばい。

 

これはもはや信頼どうこうの話じゃない。

 

僕は完全に武蔵ちゃんの逆鱗に触れてしまった。

 

触れるどころじゃない、踏み抜いてしまった。

 

 

「・・・いいわ。お互いハズレくじ同士。適当に距離を置いて適当にやりましょう?とりあえず、この場をなんとかして切り抜ける、ってことでいいのね?マスター?」

 

 

・・・これほど冷たい声を聞くのは本当に久しぶりだ。全く感情の篭っていない、いや、心の底から嫌だが仕方がないといった、侮蔑の声。

 

それは尾前(おまえ)が死んだときの、僕の周囲の人間と同じで・・・。

 

僕はその場で吐きそうになるのを、必死で堪えた。

 

 

「先輩!?」

 

 

マシュが、その場にうずくまってしまった僕の肩を支える。

 

 

「だい、じょうぶ・・・。大丈夫だよ、マシュ」

 

「大丈夫って・・・。そんな真っ青な顔して何を言ってるんですか先輩!」

 

 

マシュが本気で心配してくれているのが分かる。だけど、これは僕の迂闊な言動が招いた結果だ。この場を収めるには、僕が何かを言わなければならない。

 

でも、何を言えばいいんだ・・・?

 

 

「この程度でへたばるなんて。どうやらマスターが素人っていうのは本当のようね」

 

 

武蔵ちゃんが僕を見下ろしているのがわかる。でも、今の僕は彼女の顔を見る事ができない。

 

怖い。

 

 

「アナタの感情、凄く嫌だけど伝わってくるわ。そんなに怖いなら、契約を破棄したら?」

 

 

・・・え?

 

契約を破棄?

 

そんな事、どうやったらできるんだ?

 

 

「簡単よ。『令呪』を使って私に『自害しろ』って命令すればいいだけ」

 

「っ!そんな事・・・!」

 

「できないって?別に私はいいけど、今のままでマスターは平気なの?目の前に死ぬほど怖い女がいるのよ?どんな命令も聞かせる事のできる、嫌な女が。私だったら迷わず殺すけど?」

 

「ま、待ちなさい!そんなことは許さないわよ!」

 

 

へたり込んでいた所長が立ち上がって武蔵ちゃんに抗議するが、武蔵ちゃんは鋭い視線を向けるだけ。たったそれだけで、所長は「ひっ」と小さな悲鳴を上げて、再びへたり込んでしまった。

 

 

「アナタもその程度か。それじゃあ確かに、雑兵でも手元に残しておきたいわよねぇ」

 

 

武蔵ちゃんの目が、完全に僕たちを見下しているのがわかる。

 

 

「先に言っておくけど、マスター。私は自分では絶対自害しないわよ。剣の道に生きると決めた時から、私が自分の命を諦めることは決してない。どんなに醜くても生き汚くても、泥を啜っても命乞いをしても媚を売っても、最悪女を売ってでも、私は生きることを諦めない。剣の道を究めるまで、私は自分の道を自ら閉じることは絶対に無い。故に、現界した私は、自分の意思でマスターを殺す事もしない。私を目の前から退かしたいなら、令呪を使うしかないって理解してね?」

 

 

最後に僕らに向けられた笑顔は、何でもないときに見れば見惚れてしまうようなステキな笑顔だった。だけど、今この時はただの最後通告。

 

武蔵ちゃんは、この先も協力はしてくれるだろう。だけど、僕の事を信じてくれることは、きっと無い。

 

そう思わせるだけの決意を武蔵ちゃんが持ってしまった事を、僕は理解した。

 

 

「あんまりです。武蔵さん・・・」

 

 

マシュが、僕の横でゆらりと立ち上がる。

その言葉には怒気が込められていて。

 

 

「マシュ・・・?」

 

「先輩、もっと自信を持ってください。先輩は武蔵さんを怒らせたかったんですか?」

 

「それは・・・」

 

「違いますよね?先輩は、この短いやり取りの中で一生懸命に武蔵さんと仲良くなろうとしただけです。わたしには分かります。わたしは、先輩のサーヴァントなんですから」

 

 

マシュが武蔵ちゃんを睨んでいる。武蔵ちゃんは笑顔を張り付けたままだけど、その目は全く笑っていなかった。

 

 

「武蔵さん。貴女も分かっていたはずです。貴女も先輩のサーヴァントなんですから」

 

「そうね。大変不本意ながら、ね。まさか出会って早々、私の矜持を踏み躙られるとは思わなかったわ」

 

「それは武蔵さん、貴女の事をまだ知らなかったからです。先ほどの所長の失言を先輩が必死に取り繕おうとしたのも、貴女を思っての事でした」

 

「それで結局、こっちの虎の尾を踏まれたんじゃたまったものではありません。ソレとコレとは話が全く別。吐いたツバが飲み込めないのは、男児なら誰でも心得ているでしょ?」

 

 

2人が睨み合う。

 

ダメだ。このままでは平行線だ。

 

僕の事を思って、武蔵ちゃんに噛み付いてくれたマシュ。僕の言葉を、絶対に許せない武蔵ちゃん。

 

2人の会話の落とし所は、どこにある・・・?

 

 

「ねぇ。マシュちゃん、でいいのよね?アナタはマスターとは長い付き合いなの?」

 

「・・・いいえ。総合時間でいえば、1時間に満たないかと」

 

「へぇ!それは意外ね!そこまでマスターを庇うんだから、さぞかし強い絆があるんだろうと思っていたけど」

 

「時間は関係ありません。わたしがサーヴァントになった時から、わたしは先輩をマスターとして認めていますから」

 

 

ふうん、と武蔵ちゃんが探るようにマシュを見つめる。

 

 

「こういうのを聞くのは野暮ってものだと理解はしているけど、どこにそんな魅力を感じたの?もしかして一目惚れ?」

 

「ひとッ!?・・・い、いえ。そういった感情ではありません」

 

「じゃあ、なんでそんなに必死になるの?人としての礼儀も弁えていない、そんなガキに」

 

 

その言葉に、マシュの怒気が膨れ上がったのがわかった。

 

だが、マシュはそれを周囲に撒き散らすことはしない。代わりに、努めて冷静に、一言を返した。

 

 

「手を、握ってくれたから、です」

 

「へ?」

 

「わたしは、冬木に来る前に一度死にかけました。サーヴァントになった事で一命を取り止めましたが、わたしはその時、自分の命を諦めていました・・・。そんな時に先輩が来てくれました。明らかに死に体のわたしの命を決して諦めず、わたしを助けようとしてくれました。会って1時間も経ってない、わたしの命を、です」

 

「ふぅん?素敵じゃない?」

 

 

明らかに興味が無いといった態度の武蔵ちゃん。だが、マシュは止まらない。

 

 

「先輩は、わたしを置いて逃げる事もできました。実際、そうするべきだったと思います。でも、そうしなかった。死に行くわたしのそばで、わたしの手を握ってくれたんです。それがわたしは、とても嬉しかった」

 

「だから、アナタはマスターに従ってる。そういう事ね?」

 

「はい。わたしのマスターは、先輩を置いて他にありません」

 

 

マシュがキッパリと、断言した。

 

でも、マシュには申し訳ないけど、僕はそんな風に思ってもらうほど立派な人間じゃない。

 

僕は目の前で、幼馴染を死なせてしまった。そんな想いを、もう2度としたくなかったから。

 

そんな、自己中な理由でしか無いんだ。マシュを助けたのは。

 

 

「先輩がどう思っているのかは、なんとなくですがわかります。でも、それでもわたしは、先輩以外のマスターなんて考えられません」

 

「マシュ・・・」

 

「確かに先輩が魅力的な外見をしているかといわれれば疑問を感じますが」

 

「マシュ!?」

 

「そんなものよりもずっと暖かいものを、わたしは先輩に感じたんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?その事が私にとってどんな意味を持つのでしょう?」

 

 

底冷えする様な武蔵ちゃんの声が、今度は僕とマシュ、ついでに尻餅をついたままの所長を包んだ。

 

 

「私から聞いておいてなんだけど、だから何だ?って感じ。マシュちゃんはそれだけの恩義を感じたかもしれないけれど、私には全く響かないわ。マスターの為人(ひととなり)を知るために聞いた事でしたけど、私とマシュちゃんが違う人間だっていうのは勿論分かるわよね、マスター?」

 

 

先程よりも強い殺気だ。最早吐き気どころではない。腰が抜けて立てない、という経験は初めてだ。

 

 

「さっきマシュちゃんは時間は関係ない、って言ってたわよね?そこについては色々思うところはあるけれど、この場合は概ね賛成よ。だってマスターは初対面で大変な無礼を働いてくれたんだからね」

 

「む、武蔵ちゃ・・・」

 

 

 

言うが早いか、僕の首が飛んだ。

 

 

 

そう錯覚するほどの殺気をぶつけられていた。

 

実際、武蔵ちゃんは刀を抜いている。それから庇うようにマシュが立っているが、その頬を汗が伝っていた。

 

 

「いい加減にしてほしいわね、マスター。馴れ馴れしいにも程があります。サーヴァントって特殊な立場であるだけで、こっちは人間なのよ?初対面の人間に対して『武蔵ちゃん』?礼儀作法というものを知らないのかしら。それとも、本当にそういった教育を受けられる環境にいなかったのかしら。どっちでも知った事では無いけれど・・・。それで、いつまでそうやって女の子の後ろで震えてるつもり?」

 

「れ、令呪を使いなさい!上代ユウ!」

 

 

武蔵ちゃんの殺気に気圧された所長が叫んだ。

 

 

「令呪を使って、命令しなさい!『自分に対して絶対服従しろ』と命じなさい!このサーヴァントは危険よ!さっきロマニも言ってたでしょう、サーヴァントが必ずしも協力的ではないと!!」

 

「・・・ふぅん?別にそれでも私は構わないわよ?その前に、マスターではない貴女の首は貰うけど」

 

「ひぃっ!」

 

「やめてください!!」

 

 

僕は叫んだ。腰は抜けたままだが、それでも構わない。僕はズルズルと地面を這いずって、武蔵ちゃん、いや、宮本武蔵の前までやってきた。

 

怖さはある。でも、こんなんじゃダメだ。僕がどれだけ異常な事態に巻き込まれていようと、今会ったばかりの彼女には知ったこっちゃないんだ。全て武蔵の言う通りだ。

 

這いずって来れたのはちょうどいい。どうせ立ち上がれないんだし、僕ができる最大限の事は、今はこれしか無いんだから。

 

 

「宮本武蔵さん。全て貴方の言う通りです。知らない事とはいえ、貴方が不快に思われたのは、全て僕が至らなかったからです・・・。本当に、すみませんでしたッ!」

 

 

僕は這いつくばりながら地面に頭を振り下ろす。ガツっと嫌な音がした。オデコが生暖かい。血が出たんだろうが、知ったことか。構やしない。

 

僕の首を、目の前の英霊に差し出す。彼女の刀が容易く届く距離だ。今の僕にできるのは、僕にできる最大限の誠意を見せる以外にない。

 

 

「・・・まさか土下座とは。ここまで軽い土下座も見た事ないわね。首を差し出した、と言いたいのだろうけど、生憎と今の私はサーヴァント。マスターが死ねば消える存在だって分かっててやってるんでしょう?さっき私が言った『私はマスターを殺さない』を逆手に取ろうというわけね。打算が見え見え。これが私の主君ってんだから、自分の信念曲げてでもここから退去したくなってきたわ」

 

「・・・令呪を以て命ずる」

 

「・・・!この糞餓鬼ッ!!」

 

「『僕が死んだら、僕の魔力を全部貴方に捧げます!』」

 

「・・・は?」

 

「先輩!!?」

 

 

マシュが悲鳴をあげる。同時に、僕の右手から、何か膨大な力が溢れ出たのを感じた。

 

 

「こ、これで・・・、あ、貴方は自由です。僕が死んでも、消えることはない・・・。気に入らなければ、ど、どうぞ、斬ってください・・・!」

 

「ダメです先輩!そんな事したら・・・」

 

「黙ってて、マシュ!!」

 

 

怖い。死ぬほど怖い。僕は普通の現代人だ。こんな時代劇みたいな思いなんて味わったことは当然ない。

 

でも、それ以上に恥ずかしい。僕は今の今まで、彼女をゲームのキャラクターとしか見てなかった。そんな態度を取られた人間はどう思う?知らず知らずのうちに見下されていると感じた人間は何を思う?これはゲームじゃない。僕が生きている現実なんだ。

 

武蔵が見下した?とんでもない。見下していたのは僕の方だ。ここまで本気で彼女を怒らせたのは、僕のせいだ。

 

礼儀作法を知らない?その通りだ。人を怒らせたなら、1番最初にしなければならないのは『ごめんなさい』だ。それをこんな場面になるまで言えなかった僕は、無礼者以外の何者でもない。

 

武蔵と僕では生きた時代が違う。彼女の時代なら、切り捨て御免がまかり通っていたんだ。価値観が違うのは当たり前だ。それが分からなかった代償として命を失っても、僕は文句を言える立場じゃない。

 

 

「こ、このブタ!アンタ、正気!?自分が何やってるか判っているの!?アンタはこの場にいる唯一のマスターなのよ!?アンタが死んだら・・・」

 

「所長!!」

 

 

所長の言葉を遮る。

 

 

「お、お願いです。少し静かにしていてください・・・。そんなんじゃ、武蔵さんも矛を収めてくれません・・・」

 

「サーヴァントに令呪使ってまで土下座するマスターなんて聞いた事ないわよ!そんなんでムサシがアンタをマスターとして認めると思ってんの!?」

 

「ま、マスターとか、サーヴァントとか、そんなの今は関係ありません。彼女はいま、礼儀の話をしているんです・・・」

 

「礼儀とかそんな下らない話をしてるんじゃないわよ!アンタが死んだら、私たちはどうなると思ってんの!?」

 

 

所長には悪いけど、僕にとってはそんな事よりこっちの方が大事な話なんだ。

 

 

「宮本武蔵さん。そのかわり、一つだけお願いがあります・・・・・・。僕が死んだら、マシュと所長を守ってくれませんか?」

 

「はい?」

 

「僕は、知らなかった事とはいえ、貴方を侮辱してしまいました。こ、殺されても文句は言えません・・・。でも、僕が死んだら、彼女たちはこの世界から脱出できません。だから、どうか、彼女たちを守ってやって欲しいんです!それを叶えてくれるなら、僕は喜んで僕の首を貴方に差し上げます!!」

 

 

ウソだ。誰が喜んで死にたいもんか。

 

でも、そうでもしないと、武蔵は納得しないじゃないか。

 

誰かが目の前で死んでいくのなんて、僕はもう見たくないんだ。

 

僕が死んでも、マシュも所長も助かるなら、僕はそっちを取りたい。

 

それに、無礼を働いてしまったけど、武蔵ちゃんはやっぱり僕の推しキャラなんだ。その彼女を怒らせて、しかも令呪で強制的に自殺や絶対服従なんて、そんな事したくない。

 

そうやって考えれば、僕が死ぬのが、ここでは1番良い選択としか思えないんだ。

 

 

「お願いします!どうか、どうか!!」

 

 

僕は頭を地面に強く擦り付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのぅ先輩・・・。先輩は一つ勘違いなさっています・・・」

 

「・・・・・・・え?」

 

「サーヴァントは、魔力だけでは現界できません。もちろん、現界を維持するための魔力は必要なんですが、それともう一つ、現世に留まる為の要石として、マスターの存在は必要不可欠なんです」

 

「・・・・・・・・・・・・そうなの?」

 

「はい。だから、マスターが令呪を使っていくら魔力を武蔵さんに注いでも、マスターが死んでしまったら、どの道消えてしまうんです・・・」

 

「そ・・・それでも魔力があればしばらくは大丈夫なんだよね・・・?その間に他の誰かと契約できれば・・・」

 

「それは、確かにそうではあるのですが・・・。非常に言いにくい事に、今この場にはマスター適性があるのは先輩しかいません」

 

「え、でも所長は・・・・・・?」

 

「さっき言ったでしょう!?私にはマスター適性が無いんだって!アンタまさか聞いてなかったの!?」

 

 

 

え。

 

 

 

え。

 

 

 

あれぇ?

 

 

 

なに?じゃあ僕のやった事って、無駄に令呪を一画を使って、武蔵ちゃんに『僕を殺しても少しの間だけ現世に残れる』ようにしただけ?

 

 

 

「え、マジで意味ねーじゃん」

 

 

「すみません先輩。否定できません・・・」

 

 

「ちょっと!マジでふざけるんじゃないわよ!?アンタ一体この責任をどうやって取るつもり!!?」

 

「え、あ、う、えぇと・・・・・・・・・、どうしましょう?」

 

「アンタ本当に殺すわよ!!?」

 

 

ヤッベぇ!所長の右手になんかオーラみたいなのが集まってる!本気だ!

 

 

「ふ・・・くくく・・・」

 

 

僕が所長の攻撃をどう回避するか必死に脳細胞を働かせてる後ろで、武蔵ちゃんの声が聞こえた。

 

 

「あっははははははははははははは!ひいー!ひぃー!う、嘘でしょ!?こんな馬鹿な事ってある!?うく、うははははははは!お、お腹痛い!死ぬ、死ぬぅ!!あははははははははははは!!!」

 

「へ?」

 

 

武蔵ちゃんが爆笑しながら転げ回っていた。

 

 

「こ、こんな阿呆な人間見たことないぃッ!うわははははは!く、首を差し上げますぅ!?な、なんの為によ!?ぶふっ!し、死ぬ!笑い死んじゃうぅ〜!!」

 

「あ、あのう、武蔵さん・・・?」

 

「む、武蔵さん!!や、やめてぇ〜!その無駄に丁寧に接しようとするのやめて!あ、ダメだ。また思い出しわはははははははは!」

 

 

やべぇ。こっちはこっちでよく分かんないけど、なんかやべぇ。

 

武蔵ちゃんはひとしきり爆笑した後、地面に横たわったままピクピクと痙攣している。衝動的に突っついてみたくなったけど、多分それやったら本当に僕の首は飛ぶんだろうな。

 

 

「はぁ、はぁ、はあ〜〜〜。マスター、よぉ〜くわかったわ。アナタ、本物の大莫迦ね!?」

 

「え」

 

「すっごい不本意だけど、マスターの謝罪が心の底からのものだって事は、マスターとの繋がりから嫌ってほど伝わってきたわ。その上で、全く意味のない行動を本気でやっちゃう大莫迦者!しかも、それが自分にとって正しい選択だと本気で信じてぶふぅッ!」

 

 

セリフを言い終わらないうちに、また思い出し笑いで自爆する武蔵ちゃん。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・。まずい。本当に笑い死ぬわね、私」

 

 

どうにか呼吸を整えた武蔵ちゃんが僕に向き合う。

 

 

「いやぁ、最初は本当に殺してやろうかと思うくらいアナタに腹が立ってたけど、私の記憶の中でもここまで笑ったのは無いかなってくらい。大変貴重な体験でした!」

 

「武蔵さん・・・」

 

「うぐっ!・・・い、いいわよ。武蔵ちゃんで。これ以上やられると私、動けなくなるから」

 

「いや、でも・・・」

 

「だから良いんだって!最初に言ったでしょ?『おもしろおかしく過ごさせてね』って。出会いは最悪だったけど、これはこれで中々おかしい体験をさせてもらったってことで。マスターとしては『これからに期待!』ってところかしら」

 

「あ、ありがとう?」

 

「どういたしまして!」

 

「・・・武蔵ちゃん。本当にごめんね。これからよろしくお願いします」

 

「うん、こちらこそ!さっきの令呪の件もあるし、まあ死なせるつもりもないけども。改めてよろしくね、マスター!それからマシュも。お互い未熟者同士、仲良くやっていきましょ?」

 

「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」

 

 

・・・まあ、なんだ。とりあえず少しは関係構築できたのかな?

 

でも、僕の対人スキルの低さには自分でも驚いた。思えばカルデアに来てから、会う人のほとんどとマトモなコミュニケーションが取れていなかったもんな。きっとこの先も色んな人に出会うだろうし、ここは僕の明確な弱点だ。しっかり意識して、成長していこう。

 

とりあえずオルガマリー所長が右手に溜め込んでいる魔力をどうにかするのが目下の課題かな。さっきからすっげぇ睨んでくるし。

 

 

『あ、もしもし。所長、聞こえますか?・・・・・・なんだい、この状況?』

 

 

通信からドクターの声が聞こえてくる。

 

なんだい?って聞かれても、なんと答えれば良いのやら。

 

 

 

さーて、これからどうすっぺかなぁ。

 

 

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