剪定時空カルデア〜魔界転生〜   作:サルオ

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8.サーヴァント・・・

 

仮面ライダークウガ───。

 

『仮面ライダー』という特撮映像作品がある。いわゆる変身ヒーローってやつだ。日曜日の朝早くにやっている、子供向けのテレビ番組。僕が知ってる知識なんてのはその程度のものだ。

 

僕は仮面ライダーのオタク、ではない。たまたま好きになったヒーローが仮面ライダーと呼ばれるシリーズ作品の一つだったってだけで、クウガと呼ばれた仮面ライダーの魅力に僕が引き込まれただけだ。それ以上の知識は、仮面ライダーっていう昔から続いている有名なヒーロー物のシリーズがある、というくらいかな。

 

ただ、有名っていってもそれは日本の中でだけであって、世界的に有名かと言われると、ちょっと疑問だ。ハリウッド映画なんかで有名なア○ェンジャーズとか○パイダーマンとか、そんなレベルでは無いと思う。まあ、オタクという文化は世界中に散らばっているので知ってる人もいるんだろうけれど、少なくとも「名前を聞いたことがありますか?」と聞かれたら、世界の大半の人が「何それ?」って聞き返すだろう。仮に「仮面ライダー」は知ってる人だとしても、じゃあ「仮面ライダークウガは知ってるか?」と聞かれたら、「はい」と答える人は極々少数だろうね。

 

まあ、何が言いたいかというとですね・・・。

 

「仮面ライダー?クウガ?何よそれ?」

 

目の前の薄幸そうな美人所長が仮面ライダーなんて存在を知るはずもなく。

 

「ヒーロー番組、ですか?わたしはよくわかりませんけど、先輩はそういうのがお好きなんですね」

 

ニコニコと地味ぃ〜に僕のオタク心を抉ってくる無邪気なマシュや、もちろん江戸時代の人間の武蔵ちゃんもわかるはずがない。

 

とりあえず僕の手にある、この変身ベルト。これの説明をカルデアの面々に僕の知ってる限りで説明したのだが、理解を得るのは相当難しそうだ。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

そんな中で、ドクターロマンだけが沈黙を守っていた。

 

「あの、ドクター?」

 

僕がその様子に疑問を持っていると、

 

上代(かみしろ)くん。会話の端々でなんとなく察してはいたけど、キミは日本人のオタク、だね?』

 

ちょっと?確かにその通りではありますけど、そんな真面目な顔で聞かれると返答に困る質問を投げかけないでほしいのですが??

 

『・・・キミを見込んで頼みがあるんだ』

 

ドクター。いつになく真剣だな。

 

「な、なんでしょーか・・・?」

 

『キミは・・・・・・、マギ☆マリを知っているね?』

 

「いえ、知りません」

 

ドクターが通信の向こうで息を呑んだ。

 

『ば、バカな!キミはジャパニーズオタクだろう!?オタクの聖地、いや、発祥国の住民じゃないか!なのにマギ☆マリを知らないなんて事があるのかい!?』

 

・・・あー。あれだ。これはオタク特有のアレだわ。

 

オタクなら全員共通で自分の推しキャラや推しアニメ、アイドル、そういったものは全て知識として網羅していると勘違いしちゃう、アレだ。

 

「いやぁ、ちょっと聞いたことないですね」

 

『う、うそだ!ネットアイドルのマギ☆マリだよ!?キミの国でもトレンド入りしてるってもっぱらの・・・』

 

「あ、ネットアイドルなんですか。すみません、そのあたりは全然詳しくなくて」

 

『ガッデム!!』

 

思いっきり罵られたんですが。

 

いや、さすがに守備範囲外のことを知らないのはしょーがなくない?

 

ていうか、この口ぶりだと・・・。

 

「ドクター、まさかとは思いますが貴方も・・・」

 

『え、あ、え!?な、なんだい?なんのことだい上代くん?』

 

「まだ何も聞いてないのにキョドりすぎでは??」

 

まあいーや。その反応で大体わかったから。

 

「まあ日本に帰ったら調べてみますよ、マギ☆マリ。欲しいグッズは後で教えてくれれば送りますよ?」

 

『ほ、ホントに!?ありがとう上代くん!キミとは仲良くやってけそうだよ!』

 

「手のひらがグルングルン回ってますよドクター」

 

「アンタたち、さっきから何の話してんのよ?」

 

おっと。オタク同士ならいざ知らず、一般人を置いて盛り上がってしまうのは良くなかったな。

 

「いや、所長。大したことではないんですが、僕とドクターとでちょっと知識の共有をですね・・・」

 

「それは今のこの状況で役に立つ話題なのかしら?」

 

ジト目で睨まれた。ゾクゾクしちゃう。

 

「いやぁ、関係あるかと言われればなきにしもあらず、ってやつなんですけど。・・・ねえ、ドクター。逆に聞きますけどドクターは仮面ライダーを知らないんですか?」

 

『いやぁごめん。ボクもそのカメンライダー?っていうのは聞いたことないんだ。これでも日本の文化には割と詳しいつもりだったんだけど』

 

「いや、しょうがないですよ。僕もマギ☆マリは知らなかったんですし」

 

『そうかい?そう言ってくれると助かるよ』

 

「マスター?さっきからよく話が見えないんだけど、マスターが手に持ってるソレに関係がある話、ってことでいいのかしら?」

 

「ああ、うん。コレ、僕の好きなヒーローが身につけてたものなんだ」

 

僕はベルトを持った手を軽く上げる。

 

「テレビの設定では、これを身につけた人がヒーローに変身できるっていうアイテムなんだ。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「これ、完全に石化してるんだよね」

 

そう。僕の手にある変身ベルト。本来であれば、真ん中にはめられた石は赤く輝いており、その周りの装飾ももっと色彩豊かだったハズなのだ。それが、今僕の手の中にあるコレは完全に石化していて、とてもそんな力を持っているアイテムには見えない。

 

「それを身につければ、変身できるんですか?」

 

「たぶん?いや、テレビ番組だからそんな力は無いとは思うんだけど・・・」

 

「試しにですが、先輩がはめてみたらいかがですか?」

 

「え?僕が?サイズ的に入るかなぁ・・・」

 

などと謙遜しながらも、ちょっとワクワクしている僕であった。もしも、だよ?これでワンチャン、ホントに変身できようもんならもう僕のテンション鰻登りだね。

 

な〜んて考えてみても、現実ってやつはそんなに甘くないようで。

 

「何も起きませんね」

 

「あはははははは!マスター、お腹の肉がはみ出てるわよ!?」

 

「わかってるよ!わかってましたよ、この展開は!」

 

無理矢理装着したベルトは、うんともすんとも言わないのでした。

 

「・・・ブタ。それはホントにアンタが知ってるアイテムなの?」

 

そんな僕を笑わず、所長が真剣な目で僕を見つめる。

 

「え?」

 

「英霊召喚が不完全なものであったとはいえ、そこから出てくるのが何の役にも立たないゴミである、と片付けるのは早計だわ。それは何かしらの礼装である可能性がある。アンタの話が本当なら、かなりマイナーではあるけれど、ある意味英雄に関する代物である可能性は否めない」

 

「いや、そんなもんなんですかね?釣りとかと一緒でハズレがあるって事もあるんじゃ」

 

「ブタがやった儀式だからその可能性もあるけどね。調べてみるに越したことはないわ。何か役に立つものであればいい。その程度のことよ」

 

所長が髪をバサっと掬い上げる。

 

「マシュ。ブタの持っているそれをスキャンしてロマニに送って。ロマニはデータを元に調査を始めなさい。いいわね?」

 

「はい!」

 

そういってマシュがいそいそと準備に取りかかる。

 

「とりあえず、これはアンタが持ってなさい。重要なアイテムの可能性があるんだから取り扱いは慎重に。わかった?」

 

「は、はい」

 

そんなこんなで、僕がベルトを預ることになったのだった。

 

 

 

ただ、さっきから気になっていることがあるんだよね。

 

 

 

この変身ベルト。仮面ライダークウガの第一話では、今の状態と同じ、石化した状態で古代の遺跡から発掘されたのだ。そのベルトは主人公である『五代雄介』が手に取るまで全く反応しなかったのを覚えている。そして、主人公が手にした際、古代で戦っていたクウガのヴィジョンを見たことも、僕は鮮明に覚えている。

 

ベルトを手にした僕にそういったヴィジョンが見えないのならば・・・・・・。

 

もしかして、いるのか?

 

この世界のどこかに、『五代雄介』が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在に至る。

 

所長からカルデアの来歴やさまざまな発明品についてありがたい講義を受けた僕は、ようやっと事態の深刻さが少しだけ理解できた。

 

・・・・・・うん。さっぱりわからん!

 

なんか「やべぇな〜(他人事)」っていうのが「あ、これヤバいんじゃない?」に変化したくらいだ。

 

「あの、所長。質問があるのですが」

 

マシュがおずおずと手を上げて所長に伺いを立てる。

 

「資料にあった冬木の街と、この冬木の街はあまりにも違います。一体この街になにが起きたのか、所長はどうお考えですか?」

 

マシュの質問に、所長は手を顎に当てて考え込んだ。

 

「・・・・・・そうね。きっと歴史がわずかに狂ったのよ。そうとしか思えない」

 

そう結論を出した所長は僕たちを見回して言った。

 

「マシュ。ムサシ。あとブタ。一度しか言わないからよく聞きなさい。カルデアは、カルデアスという地球モデルで未来を観る。同時に、ラプラスという使い魔で過去の記録を集計する。公にならなかった表の歴史、人知れず闇に葬られた情報を拾ってくるのがラプラスの仕事と思えばいいわ。そのラプラスによる観測で、2004年のこの街で、特殊な聖杯戦争が確認されているのよ」

 

「聖杯戦争・・・。それってさっき先輩が言っていた?」

 

マシュが隣にいる僕のほうを見る。

 

「え?なに?そこのブタ、聖杯戦争を知っているの?」

 

「あー・・・、はい。なんか、今の所長の話そのものをゲームにしたものがありましてですね」

 

「は?ゲーム?それと今のこの状況となんの関係があるっていうのよ」

 

「いや、実はそのゲームの舞台がまさにこの冬木の街ってところでして、ゲームのストーリーも聖杯戦争がテーマなんですよ。もちろんマスターやサーヴァント、令呪って単語もバンバン出てきまして・・・」

 

「な、なによソレ!?なんでそんなモノが出回っているの!?お父さ・・・いえ、前所長ですらこの事実に気付いたのは2010年なのよ!?」

 

「そ、そんなことを言われても・・・」

 

『所長!その事はあとでゆっくりと検証しましょう。今はそれより「どうしてこんな状況になっているか?」を考察するのが重要ですよ』

 

所長が激昂しかけるのを、ドクターが横から抑えてくれた。心の中で礼を言っとこう。ありがとう、ドクター。

 

「くっ!後で絶対に問い詰めてやるから・・・!」

 

「肝に銘じておきまーす。それで、さっきの続きですが・・・」

 

「絶対だからね。・・・オホン!つまり、この冬木の街はサーヴァント発祥の地、という事よ。かつて、ここで七騎のサーヴァントが競い合った。結果はセイバーの勝利で終わったわ。街は破壊される事なく、サーヴァントの活動は人々に知られる事なく終わったハズなの」

 

そう言って、所長は辺りを見回す。

 

「なのに、今はこんな事になっている。特異点の発生の結果、歴史が変わったと見るべきね。2004年のこの異変が人類史に影響を及ぼして、その結果として100年先の未来が見えなくなった」

 

所長の顔は険しい。

 

「だから、私たちの使命はこの異変の修復よ。この領域のどこかに歴史を狂わせた原因がある。それを解析、ないし排除すればミッション終了。私もアナタたちも現代に帰れるわ」

 

その表情は真剣そのもの。だからこそ、責任の重さが十分に伝わってきた。

 

「ねぇ、所長?純粋な疑問なんだけど、カルデアでは他にサーヴァントは召喚しなかったのかしら?」

 

世間話をするような気軽さで質問をする武蔵ちゃん。ただ、武蔵ちゃんの顔も真剣だ。そんな武蔵ちゃんを、痛いところを突かれたように所長はキッと睨んだ。それをサラッと受け流しつつ、武蔵ちゃんが注釈を述べる。

 

「ごめんね、彼我兵力差はなるべく把握しておきたいの。未熟なサーヴァントの身であるからこそ、使える手があればなんでも使いたい。それを『知らなかったから』ってだけで負けました、なんて展開にはしたくないのよ」

 

「・・・・・・もちろん、しました。でもうまくいかなくて、成功例は数えるほどです。資料では合計で三体呼び出せたらしいけど」

 

「え!?じゃあそのサーヴァント達をこっちに呼び寄せれば、戦力大幅アップじゃないですか!」

 

僕のそんな喜びを、所長は「はんっ!」と鼻で笑った。

 

「それができていれば最初からやってるわ。レイシフト機能が故障してるって話をもう忘れたの?そもそも私が資料で知ってるのは二体だけ。第一号は前所長時代にいたらしいけど詳細は不明。いまどこで何をしているかもわからないわ。第二号は、マシュと融合したようね」

 

「おお!じゃあマシュがどんな英霊と合体したのか、所長は知ってるんですね?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ない」

 

「え?」

 

「知らないって言ったのよ!仕方ないでしょう?忙しくてそんな資料を隅から隅まで見てる時間なんかなかったんだから!!」

 

「す、すみません!」

 

チッと所長は舌打ちを打つ。アレ?でも、残り一体の英霊はどこに行ったんだ?

 

「第三号はカルデアに住み着いたあの変人、レオナルド・ダヴィンチよ」

 

僕の心を読んだように、所長が僕の疑問をあっさりと片付けてくれた。

 

「変人?」

 

「先輩。ダヴィンチさんはかなり偏屈な方でして、基本的に興味のある事が無ければ自分の部屋からはあまり外に出ようとされません。例えレイシフト機能が故障していなくても、救援に来てくれるかは微妙なところです」

 

「ええ・・・。なにそれ。所長の話だと人類ヤバいじゃん。それなのに出てこないとか、すげぇ偏屈なんだな、レオナルド・ダヴィンチって」

 

「話してみると気さくで、話しやすい方なんですが、確かに今の状況ではちょっと・・・」

 

「う〜〜〜む。そうなると、やっぱり手持ちの戦力で間に合わせるしかないって事でいいわね?所長」

 

「そう、ね。そうするしかないでしょう・・・」

 

武蔵ちゃんの最終確認に、所長が目に見えて肩を落とした。

 

「だからこそ、今回は特異点の原因究明に留めて、この世界からさっさと退去することにしたのよ、私は。・・・悪い?」

 

「「全然?」」

 

思いがけず、僕と武蔵ちゃんの声がハモる。

 

「お先にどうぞ?」

 

「あら、じゃあ遠慮なく」

 

武蔵ちゃんがすっと所長に向き直る。

 

「所長?その判断、全く間違ってるとは思わないわ。確かに、最善は特異点の原因の排除でしょうけど、戦力不足っていう現状を鑑みれば偵察に留めるのは将として冷静な判断です。逆に『ここで何としても敵の首を!』とか言い出してたら、私はマスター担いでオサラバしてます」

 

冗談めかして言ってるけど、多分これはマジだろーなぁ。

 

「はい。マスターの番!」

 

「僕?いや、武蔵ちゃんが言いたいこと言ってくれたんでなんもないんですけど。まあ強いて言えば『いのちだいじに』、ですかね」

 

「あ、今先輩が素敵なことを言われました!生命大事に!です、所長!」

 

マシュが所長の手を両手で掴んでブンブンと振る。

 

「ちょ、ちょっと!肩が抜ける!」

 

「あ、すみません!」

 

慌ててマシュが手を離す。勢いをつけたまま、所長の手を引っ張るように下向きに。

 

ビターン!と、盛大な音が響いた。所長が地面に顔を打ちつけた音だ。サーヴァントの膂力で振り回されたのだ。仕方のない事なのだろう。

 

・・・・・・・・・うわぁ。超痛そう。

 

「・・・マシュ」

 

「は、はい・・・」

 

「帰ったら覚えておきなさい」

 

「は、はい・・・」

 

怒気を孕んだ所長の声に、マシュはすっかり縮み上がってしまった。

 

「あと、ブタ」

 

「はい?」

 

「アンタ、生きてカルデアから出れると思わないことね」

 

「なんで!?」

 

それは単なる八つ当たりでは????

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、どれくらい歩いたでしょうか。

 

あてもなく街を、それも燃え盛る街を歩き続けるのって普通にしんどいよね。てかさぁ、この炎、全然消える気配が無いんだけど。これも魔術ってやつなのかしら?

 

「ふう。今回もなんとかなりましたね、先輩!」

 

元気よく報告してくるマシュから目を逸らす。正確には、マシュが盾で作ったミートパイ(材料ゾンビ)から。

 

・・・スプラッタすぎんよ。ちょっとそっち方面の耐性はあんまりないんだよぉ。なんかマシュが盾を持ち上げるとき「ニチャァァ・・・」って音するし。この辺のゾンビ、水分多めじゃない?

 

「先輩・・・?」

 

「あ、いや。ありがとうマシュ。お疲れ様!」

 

なるべく平静を装います。紳士なんで、僕。

 

「すみません、先輩。気持ち、悪い、ですよね・・・」

 

「そ、そんなこと!」

 

「いいんです。先輩の考えてること、少しはわかりますので・・・」

 

涙を浮かべるなぁああ!

 

「とりあえず、マシュと私の連携はサマになってきたわね」

 

「そうね。どこかのブタはただの置物でしかないクソの役にも立たない家畜未満だけれど、2人はもう完全にサーヴァントとしてやっていけるんじゃない?」

 

残る女子2人は我関せずって感じで談笑してるし。てか今気づいたけど、男1人に女子3人てバランス悪くない?せめてもう1人男子がいれば・・・。

 

「先輩・・・、こんな私でも、マスターのままでいてくれますか?」

 

なんでそーゆー思考になるの?なんかの小説の影響?

 

「マシュ。そんな事言われなくても、僕はマシュのマスターだよ。むしろゴメン。僕のほうかもっとしっかりしないといけないのに」

 

「先輩・・・・・・!」

 

「「なにその茶番」」

 

うっさいよ女子2人!

 

『ごめん、みんな!話はあと!すぐにそこから逃げるんだ!』

 

ピピッという音と共に、ドクターの焦った顔が空中に映し出された。

 

『まだ反応が残ってる!しかもこれは───』

 

 

 

 

 

全身の肌が泡立つ。

 

 

 

 

 

「こ、これって・・・」

 

 

 

 

 

全身から汗が噴き出す。僕は武蔵ちゃんを見た。

 

武蔵ちゃんの殺気?武蔵ちゃんが刀を抜いて僕に駆け寄ってくる。その姿はいやに遅く感じられて・・・・・・。

 

いいや、違う。

 

 

 

 

 

「活きの良い獲物ね」

 

 

 

 

 

武蔵ちゃんは、すでに斬りかかっていた。

 

 

 

僕の背後に現れた、武蔵ちゃん以上の殺気を放つ、得体の知れない敵に向かって。

 

「ふぅん。セイバーのサーヴァント。おかしいわね?セイバーのサーヴァントはアイツ1人のハズだけど」

 

その斬撃は止められる。指で。

 

「な・・・・・・!」

 

武蔵ちゃんの目が驚愕に見開かれる。

 

「まあ、驚いた。どこの雑魚なの?アナタ」

 

「マスター!!」

 

反射的に僕は走り出した。武蔵ちゃんが少しでも時間を稼いでくれる間に───。

 

「ダメよ?」

 

僕の首に、いつのまにか鎖が巻き付いていた。グンッと強い力で引き戻される。

 

「ごきゅっ!?」

 

変な声出た。首が絞まるどころじゃない。急激に締め上げられた僕の首は、衝撃が骨まで伝わり悲鳴をあげた。

 

「マスター!」

 

「先輩!!」

 

マシュが僕の背後の敵に急接近し、持っていた大盾を振るった。

 

「まあ野蛮。私、盾って嫌いなのよ」

 

敵が武蔵ちゃんの刀を摘んだまま、クイッと傾ける。たったそれだけで、武蔵ちゃんの体が宙を舞い、マシュの盾と激突した。

 

「がっはぁ・・・・・・!」

 

「武蔵ちゃん!」

 

仲間を攻撃してしまったショックで、マシュの動きが一瞬止まる。

 

(ダメだ、マシュ!止まっちゃ・・・!)

 

「鈍いわね」

 

マシュの顔がかち上がる。敵の放った蹴りが、マシュの顎を蹴り抜いたのだ。蹴りの衝撃で脳を揺さぶられたマシュはそのまま気絶してしまった。

 

「マシュ!」

 

「静かにしてね?」

 

「ぐえっ!?」

 

鎖が僕の首を締め上げた。

 

「・・・・・・サーヴァントが2人。それも存在するハズのないセイバーに、盾のほうはクラスも不明。そして、サーヴァントを2人も従えているマスター。興味があるわね。何者なの、アナタ?」

 

僕の首を締め上げながら、敵が僕の顔を覗き込む。そこでようやく、僕は敵の顔を見ることができた。

 

女性だ。眼帯で目を隠した、それでも隠しきれない美貌を持った、女性のサーヴァント。ただ、その顔には血管が浮き上がっていて、その中を黒い何かが通っているのがわかる。

 

「ひ、人に名前を尋ねるときは、まず自分から、でしょ・・・・・・」

 

「あら!うふふふふ。そうね、確かにそう。でもアナタ、聖杯戦争のマスターでしょ?サーヴァントに真名を尋ねて答えが返ってくると思って?」

 

「せ、聖杯戦争・・・」

 

「まあ、クラス名くらいは教えてあげる。私はライダー。ライダーのサーヴァントよ」

 

女性の、ライダーの口が三日月型に広がる。

 

「口裂け女、みたいだね・・・」

 

「あながち間違いでも無いわよ?私、人間じゃあないから」

 

「・・・・・・そんなにヒントを与えていいの?」

 

「駆け引きしたいの?でもね・・・」

 

首を支点に、僕の体が浮かび上がる。

いつのまにか首の鎖が近くの電柱にくくりつけられていて、僕は首吊りの状態になった。

 

「・・・・・・・・・っ!!」

 

い、息が!!

 

「駆け引きって、それに見合うだけの実力があってはじめて成り立つのよ。一つ勉強になったわね?」

 

ライダーが、その手に握った鎖をぶらぶらと揺らす。その度に、僕の首の鎖に力が伝わりギリギリと締め上げていく。

 

「アナタ、色々知ってそうね。私の質問に答えてくれる?オーケーなら右手をあげて?そうすれば、少しだけ鎖を緩めてあげる」

 

「ガンドッッ!!」

 

所長の声と共に、ガチンッと、何かがライダーの顔に直撃した。その拍子に、ライダーの体から力が抜ける。当然、その手に握っていた鎖からも。

 

僕は重力に従って地面に落下する。

 

「先輩!!」

 

気絶から立ち直ったマシュが僕をキャッチした。

 

「マシュ!そのままブタを担いで!逃げるわよ!」

 

「はい!」

 

「逃すわけないでしょ?」

 

衝撃から立ち直ったライダーがゆらりと立ち上がる。

 

「なるほど、そっちの女は魔術師だったのね。サーヴァントの動きを止める魔術を行使するなんて、見た目に寄らず優秀ね?もしかして、そっちもマスター?」

 

『まずい!もう立ち直った!みんな急いで・・・』

 

そう叫んだドクターの声は途中で止まる。驚愕で。

 

僕らの周囲20メートルくらいを、鎖が取り囲んでいた。

 

「これで、あとはギュッと絞めておしまい」

 

ライダーが凄惨な笑みを浮かべている。

 

 

 

僕は、今日1日だけでどれだけの死を感じただろう?

 

 

 

平和な日本での生活のなかで、明確な殺意を向けられるなんて事はなかった。

 

 

 

なんだか、感覚が麻痺してしまったように感じる。僕の目の前に、明確な死が迫っているというのに。

 

 

 

鎖の輪が閉じられる。

 

サーヴァントの力で、本気で締め上げられる。きっと僕たちの胴体は鎖によって引きちぎられるだろう。

 

なのに。

 

この、僕の心に伝わってくる、強い意志はなんだろう。

 

「死なせないって言ったでしょ?」

 

「ぐぎぃ!!?」

 

ライダーの左腕が宙を舞う。同時に、閉じられようとしていた鎖も力を失って地面に落ちた。

 

「武蔵ちゃん!!」

 

ライダーの背後に、武蔵ちゃんが両手に刀を携えて立っていた。

 

「ありがとう。雑魚と思ってくれて。おかげで私の間合いです」

 

武蔵ちゃんが凶暴な笑みを浮かべる。

 

「キサマッ!」

 

「慌てないで。お互い必殺の間合い。どうせならゆっくりやりましょうよ。どちらかが動いたら開始よ」

 

ライダーが左腕を庇いながら、武蔵ちゃんに向き直る。

 

「アナタ、バカなの?今のうちに斬りかかっていれば、勝てたかもしれないのに」

 

「別に?せっかくの格上との勝負だもの。不意打ちで勝つのもつまらないなって思っただけです。ねえ、わかるでしょ?もう逃げられないって」

 

2人の距離は、手を伸ばせば相手に届くほど近い。

 

「舐められたものね・・・」

 

「使ってもいいわよ?宝具。あるんでしょ?」

 

「使うまでもないわ」

 

2人の周囲の風景が、ぐにゃりと曲がっていく。錯覚じゃない。2人の濃密な殺気が、実際に風景を曲げてるんだ。

 

先程までの激しい攻防とは違い、静かな殺気が周囲を侵食していく。

 

何分?何秒?互いが互いの出方を伺っている。2人の殺気が、徐々に収束していく。それに伴い、2人の気が高まっていくのがわかる。

 

 

 

「令呪を、もって命ずる・・・・・・」

 

 

 

僕は呟くように言葉を紡ぎ、

 

 

 

「『勝て』」

 

 

 

2人のサーヴァントの動きがブレた。

 

 

 

「が・・・・・・・・・・・・!!」

 

 

ライダーの動きが止まる。ライダーの喉に突き刺さっているのは武蔵ちゃんの刀、ではなく、蹴足。刀の動きに注意を払っていたライダーにとって、予想外の攻撃。人体の急所である喉を突かれたライダーの思考が驚愕で一瞬止まる。

 

それは致命的な一瞬。

 

鋏のように両側から迫った武蔵ちゃんの刀が、ライダーの首を斬り飛ばしていた。

 

 

 

「・・・・・・ふぅーーー。」

 

武蔵ちゃんが大きく息を吐き出す。

 

「ふっ!」

 

そして、首を飛ばされてなお立ったままのライダーの身体に、2本の刀を突き刺した。

 

それと同時に、ライダーの体が、まるで黒い塵のように散って消えた。

 

「か、勝てた・・・。武蔵ちゃんが勝ちました、先輩!」

 

「あ、ああ。本当に勝てた・・・。絶対ダメだと思ったのに・・・」

 

「令呪まで使っておいて、それはないんじゃない?マスター」

 

武蔵ちゃんが刀を鞘に収めながら、フラフラとした足取りで近づいてくる。その顔は、少しむくれているようでもあり、同時に、勝利を噛み締めているようでもあった。

 

「よ、よくやったわ!ムサシ!マシュも!サーヴァントを倒すなんて凄いじゃない!!」

 

所長も珍しく興奮してる。

 

「あいたたたたたた。これはしばらくどっかで休んだ方がいいわね」

 

「す、すみません武蔵ちゃん。さっきは、その・・・」

 

「気にしないの、マシュ。相手のほうが遥かに格上だったんだから、命があるだけ儲け物よ」

 

そういって、「どっこいしょー!」とオッサンくさい声で地面に座り込んだ武蔵ちゃん。笑顔を絶やさないようにしているが、武蔵ちゃんのダメージは相当なもののようだ。武蔵ちゃんだけではない。顎を打ち抜かれたマシュも。僕も首のダメージが結構デカい。ここで少し休んでいかないと・・・・・・。

 

『・・・・ゴメン。休んでるヒマはないんだ』

 

「ドクター?」

 

 

 

 

 

『今の反応と同じものがそちらに向かっている。・・・・・・どうするべきか、言わなくてもわかるね?』

 

「な・・・!?」

 

冗談だろう!?今のと同じ反応って。

 

「ブタ!走るわよ!急ぎなさい!!」

 

所長が慌てて僕の手を引く。

 

「武蔵ちゃん!わたしの肩に捕まってください!」

 

「・・・やれやれ。まぁ、常在戦場であればよくあることか」

 

 

 

新たなサーヴァントが来る。

 

 

 

僕らは脇目も振らず、その場から撤退した。

 

 

 

つづく

 

 

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