今季の麦の収穫予想量を息子と話している途中、扉を叩く音が聞こえて入室を許せば、今帰りましたとの挨拶と共に扉を開けたのは去年成人したばかりの少年だ。
家に寄らず直接こちらに来たのだろう、茶色に染まった革鎧を着込んでそのままに、早速と狩猟の結果を報告し始める。
草竜の大を1に中を1、道すがら摘んだ薬草をいくらか。竜肉は暫く足りると思いますが、詳細は仕分け方の親方に別途お願いしますと慣れた様子で話す姿は堂々としたもの。
同年代では長身の部類に入るその全身に目を通し、怪我はないかと厳しく問えばふわりと笑って否定する言に安堵を得る。
村にとって替えが効かず、また孫程に愛するからこそ成果よりも先に無事を喜ぶ。
草原狼や青鳥竜、村の脅威を道中に見なかったかと、息子が少年と話し出すのを見遣りつつ心中にあるのは持ち帰られた資源の配分を考える思考に無事を喜ぶ想い、そしてまだ僅に残る喪失への恐怖だ。
代々継承され、今なお加筆され続ける村の歴史。
元は国家主導で組織されたいくつもの開拓団のひとつであったという。
黎明期には国からの潤沢な支援物資に支えられ、腕に覚えのある狩人達と共に未開領域に挑み、苦労は多くも開拓は順調であったようだ。
遠くも人の足で届く距離には他に入植した村々もあり、交流も盛んに物や情報が行き交っていたらしい。
全て過去形なのは失われたからだ、何もかもが。
曰く始まりに予兆などなかったという。
最初は国からの節使。
例年であれば秋口に催す祝祭には顔を出す国の使いが年を跨いでも現れなかった。
届くはずだった物資も。
次は狩人。
不安を覚えた村民の願いを受けて、問い質して来て欲しいと狩人の一人に封書を託した。
誠実さに信頼されていた男は、快諾と共に最低限の旅装を整え旅立つも見送った背を最後にそのまま帰ることはなかった。
裏切るなどあり得ない、ならば。
震える筆跡はそこで途切れる。
残る狩人は四人
それからの数年は多少の混乱があれどまだ安定していた。
物資が届かずとも何とかして見せようと、皆が前にも増して精力的に働いた。
その甲斐もあってか、以前に比べれば多少劣ろうとも成果が上がり続けたのだ。
実績に支えられたか、不安も薄れた頃に再びの凶事が訪れる。
切っ掛けは隣村からの一報。
息も絶え絶えに、力の限り走ってきたのだろう男から伝えられたのは他村の壊滅。
男の村へ逃げ込んできた者から発覚した竜災害、大小様々な竜の群れに飲み込まれたらしいと。
村の危機にだれもが慌ただしく動く中、一組の狩人達からの提案を通してしまったのは予想にもなかった異常事態への混乱からか。
状況を把握するための隣村への偵察。場合によっては避難民の誘導。
冷静に考えれば許可を出すべきではなかった。貴重な戦力を吐き出す愚、距離を離しての入植ははこうした事態での全滅を避けるすべだった。所々に滲む墨は慚愧の念によるものか。
用意を整え夕暮れに出発した3人は後日、災害の跡地に遺品が見つかったことで死亡とされた。
残った狩人は一人
災害から逃げ延びた十数人への聞き取りから、どの村も西から流入した群れに呑まれたと判断される。
発生原因は不明、被害は推定で当村を除いた全入植村の全滅。幸運ではあったが、竜達が国家の中央部から外に向かった事実が不気味だった。
祖国に、首都に何があったのか。
次に行われたのは他村民の探索。これは最後の狩人と村民から募った健脚な者達によって実施された。異常を察知したら即座に帰還することを徹底しながら。
数組の発見に至ったのは幸いだったのだろうが、それでも幾人かの犠牲を出しての結果だった。
人口の増加に併せて行われた村の拡張。将来は街に発展することを期待しての選定地故土地には困らなかった。しかし長年に溜め込まれた資材は潤沢ではあっても全てを賄える量になく、中断されていた未開領域の切り取りが急務となった。
そうして迎えた最後の悲劇
流入した竜達による環境の激変期
増大した負担に精彩を欠いた彼女はそれに気付くのが遅れて
報告書に残るのは、狩人1に村民数十が死亡したとだけだった。
まさしく栄光からの転落劇。
二代目から当代まで続く記述は全てが挑戦と挫折の記録だ。
恵まれた土壌に大河の支流が近くにあって食料に困ることはなかった。
しかし日常に使う物品の損耗は緩やかにでも明らかだった。
備蓄のやりくりに工夫の手立てを加えても増えることはなく、いずれ底を着く。
欲する全てが眠る未開領域に手を伸ばした記録は僅かな成果に多大な被害で占められいる。
両輪だったのだ
持ち帰る彼らと鍛えあげる我ら
どちらが欠けても上手くいかないのは明白だった。
故に待望の子なのだ。
初代より幾年。失われて久しい狩人の血を継ぐ子供。
曰く只人の内に現れる超人。曰く道なき道を行く頑健なる開拓者。
文明から孤立したこの地にあって何よりも欲していた存在。
契機とも呼べる日。
まだ幼かった少年が初めての成果を村へ持ち帰った日のこと。
期待をしていた、狩りの準備に走り回る少年に叶う限りのものを与えた。
心配をない交ぜにして送り出した朝。気もそぞろに待ちわびる内に飛び込んできた一報は想定した中でも最善の結果だった。
停滞に膿んだ時代が終わる音が聞こえた。
ここからまた始められると。我らの本懐を遂げられると。
しかし歓喜の狂乱が過ぎ去った後に現れたのは尽きぬ苦悩だ。
待望の子なのだ。
初代より幾年。失われて久しい狩人の血を継ぐ子供。
けれどそれは手中にあって輝く宝ではなく。危険に満ちた世界にあって輝く宝で。
脅威の数は両手に数えてもなお多く、大きさなど計り知れない。
それでも任せるしかない。だがもしもがあれば。
少年が村を出発するたびに最悪の事態が脳裏を横切る。
だからこそ与えよう、叶う限りの物資を、脈々と受け継いで来た叡智を。
その助けになることを祈って。
人手を連れて行かせることはできない。只の足手まといにしかならないと。
一度だけ、草原への狩猟に同行した息子にそう言われた。
仕留めた獲物を運ぶにも何人もの男手が必要で、もし最中に襲われたらどうしようもないと。
外界にあって我らは弱者だ。
村の防備を使ってすら、青鳥竜の一匹に数人での対処が必要なのに、村の外ではなおのこと、備えがあっても出会えば逃げられるかも怪しい。
故に村の外は少年に任せるしかない。それが我らの総意。
故に村の内は我らが栄えさせる。それが我らの決意。
すべてを背負わせるものかよ。
例え直接の助けになれずとも、頭を使い腕を奮い、文明の灯を再び熾すのだ。
遺された知識をかき集め、持ち込まれる資源を生かし、実験と実証を積み上げて。
初代より途絶えることなく受け継がれてきた我らの本懐。
もう一度回すのだ、歴史の歯車を。
果たすのだ、遠き日に与えられた役割を。
偉大なりしシュレイド王より託された、東方未開領域の開拓をーーー
結構むりくり感
けど最後のはどうしても入れたかったから仕方ない
頭の中に描いた世界観は大事にしたいよね、例え上手くアウトプットできなくてもさぁ!