森の端から分け入って暫くの距離。
開拓の名残、夢の残骸。高台にあって身を隠せるようにか、大岩で三方を囲まれた場所。
緩やかな坂を登った先、平坦な地面は鬱蒼と生い茂る草花に沈んでいて、かつてはあったという人工物も全て風化し、往年の姿はなに一つとして見つからなかった。
それでも僅に、周囲とは異なる様相に見えたのは感傷だろうか?
擦りきれた古い地図に見つけたベースキャンプ地。
最初の遠征はその再発見を目指した。
想定日数を多めに取り、村の近くでキャンプ技能を磨いて望む。
森の外に陣地を張って荷物を隠し、2度3度と様子を伺いながら出入りを繰り返す。
遠く聞こえる何かの鳴き声が心底恐ろしく、逃げる際に身軽で居られるよう剣だけを背中に背負って。
少しずつ奥に進んだ。
迷わないように大木に傷をつけ、若木の枝を折って目印に。
時に戻って書き写した地図で進路を確認した。持っては行けない、なくしでもしたら標を失う。
特徴的な岩や茂みがあればその景色を刻み込み、前後左右と視線を巡らせて頭の中に俯瞰図を描いた。
入り組んだ地形は避け、見晴らしのよい道を探す。慎重に、慎重に。
迷った、死ぬぅ。
気を付けて進んでいたのに。
一度戻ろうと背後を振り反れば見知らぬ風景に変容していた。何で。
あれだけ注意しながら進んでいたのにと記憶を辿って、空回る頭を押さえ来た道を戻ろうとする。
歩き続けて何とか傷を付けた木を見つける。
しかしその先、外へと繋がるはずの道を思い出せない。
どこを向いても初めて見る風景にしか思えなかった。
冷静に努めて考えるもそろそろお昼だご飯にしよう、変に暢気な自分がいることに驚いた。
驚きのまま近くに捉えた猪へ襲いかかったのだからやはり混乱していたのだろう。
すこぶる幸運だった。恐らく2度目はない。
傷つき逃げたした猪を追って走ることしばし、開けた場所が目の端に映ったのだ。
追うことをやめてそちらに向かえば森の端、草原に辿り着いた。
天を突く霊峰におおよその方角の当たりをつけて、境に沿うようにして進めば陣地を見つけた。安堵のままに倒れた。
日も高い内から眠った翌日。
朝靄も漂う中、心機一転とばかりに森へ向かう。
剣を吊り下げ大鉈を手に、地図と食料を背嚢に押し込んで。
無意識に初めて見た原生林から圧倒されていたのだろうと。
遠慮しすぎていたのだと進む方向へとにかく鉈を振るい、周囲も巻き込んで片っ端から草木を刈っていく。
茂みがあれば散らして石で引き均し、邪魔な岩も動かせそうなら脇にどかし。
そうして振り返れば乱雑にでもはっきりと分かる道が出来ている。
つまるところ、狩人の抜群な体力はこのためにあったのだ。世界の真理を得た思いだった。
コツを掴めば早く、2日3日と順調に道を拓いて進む。
はぐれか単体で襲いくるランポスとは死闘を演じ、数が多ければ息を殺して撤退し。
猪を見れば命の恩人だと威嚇に留めて追い払い、モスはごちそう、豚がキノコを背負ってくるのだから森の恵みと有り難く頂戴した。
蛇腹に伸びる道も長くなった頃、一抱えもある虫を邪魔だと蹴り飛ばして崖を登れば漸く目的地を発見したのだった。
夜の暗闇に焚き火を光源に、地べたに広げた竜皮紙へと今日の成果を書き込んでいく。
キャンプを基点に方々へ足を伸ばした結果、手製の地図もずいぶんと充実してきた。
鉱石の採取地に薬となる草花の群生地、キノコと木の実は稀少なものでなければ其処ら中に見えるから特に書き入れない。足場が悪く立ち入るには危険な区画を丸で囲み、良く見る生物を注釈として並べれば、この一帯は既知の領域と呼べるだろうと満足げに息を吐く。
森全体で見れば一画のそのまた一部でしかないだろうが、それでも確実に進歩していることを喜ぶ。
古い地図を隣に広げ比べれば時代の変遷だろう、地形も一部変わって見えたが、大きな崖や露出した鉱床なんかはそのままにあったから探索の苦労を減らしてくれた。
先人の知恵はかくも偉大であると一人ごちる。
背伸びを一回、地図を丸めて背嚢にしまえばそろそろだろうと火の脇で温めていた食事に手を伸ばす。
麦粥に少しの根菜と葉を入れた熱い小鍋を落とさぬように木の皮で包み、平らな石の上で焼いた獣肉を枝で摘まんで投入する。最後の仕上げに少量の岩塩をまぶしたならば完成だ。
木匙で混ぜ掬うそれは村での食事と殆ど同じ。欲目を言えば堅焼きのパンを持ち込みたいといつも思っているが、結局は面倒臭さに麦を大袋で持ってきてしまう。
匙をすすめながらさて明日はどうしようかと考える。
森に滞在して10と少しの日が過ぎた。出掛けに話し合った帰還予定日を思えばもう数日の猶予がある。
依頼にあった収集物はなまもの以外をおおよそ揃え、隅に置かれた荷台に山と積んであるから急ぐほどでもない。残る素材は所在を全て知っているし、帰還の前日に歩き回れば集まる量だった。
少し、そう少しだけ森の奥へと足を踏み入れようか?涌き出た好奇心が燃え上がろうとするも、冷静な部分が馬鹿なの?死にたいの?と冷水を浴びせて鎮火する。
少しの残念を揉み消すように油断慢心ダメ絶対と腕を擦りながら心の中で繰り返す。
森林遠征の何度目か前、素材の豊富さに目が眩んで飛び込んだ森の中層も奥で、案の定とばかりにランポスの群れに襲われた。
やつらの塒に近かったのだろう、それまでにあった何度かの交戦で不干渉を結んだはずが、その時ばかりは本気で殺しにかかって来たのだ。
あの時は本当に生きた心地がしなかった。
即座に転進して逃げ出すも執拗に追い立てられ、挙げ句は逃げ道を塞ぐように左右からの襲撃を喰らえば肝も冷えに冷えた。
道具も使って殆ど相討ちのように一頭を仕留めて見せれば怯んだのか、塒から離れたこともあったのだろう威勢も弱まり逃走に成功したが、代償は背負った籠に拾い集めた素材を全て、そして腕に胴にの深い傷だった。
狩人特有の超回復がなければ死んでいたと、幸い後遺症はなくも体に残った傷痕を思えばまずは地理を明らかにする必要があった。危地に踏み込んだ原因だって結局は無知故だ。
知ってれば回避できたのだから。少しずつ、森の奥への視界を広めるしかない。知識こそが力である。
そしてなにより、装備の更新。武器に防具が優秀ならば多少の無茶を通せると知識で知っていた。
ちなみに消極的敵対から積極的敵対に移行してしまったランポスの群れとは後日、ドスファンゴ一頭を手打ちに和解できた、恐らく。
意志疎通なんて出来ないから行動から推測するしかない。
煩く響いた威嚇の声も少なくなったのだから、そう間違っていないと考えるのは楽観的だろうか。
ともあれ、森の奥への観察を重点に、古くなった消耗品も作り直そうと心に決めればあとは寝るだけだ。空になった小鍋に匙を拭って片付けたなら獣皮の寝袋に潜り込む。夜の帳が降りてはもう、出来ることなどないのだから。
☆こぼれ話☆
主人公のハンターとしての才能は高いよ、簡単には死なないさ
ただ先駆者が身近にいないから困難が多いよ、何せ全て独学だから仕方ないよね
生前のゲームの記憶?生の野生環境だよ?初見殺し位は防げるといいね