どうも、修理屋です   作:にゃんさん

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修理しない日は休業日にすればいいと思ってるのそろそろバレるかなあ。


休業日③

 

 

『腕の良い修理屋なんだ。少しばかり子供臭いけどな』

 

 ここ最近、コーヒー牛乳が大好きな女の子の話をよく聞かされる。どうにかまた修理をしてもらうために、わざわざカーチェイスをして犯人を追いかけると言った時は、流石に頭目掛けて拳骨をお見舞いした。なんでも一時話題に上った大観覧車が一夜にして元通りになったあのニュースは、修理屋である彼女が関係しているらしい。目の前の幼馴染は、手際良くrx-7を直してくれたと言っていたが、彼女の好きなコーヒー牛乳を買っている間に真っ赤に染まった艶々のrx-7へ早変わりしていたり、一夜にして瓦礫の山がテーマパークへ元通りになったりと疑問に思うことが多々あった。

 

 コーヒー牛乳が好きな女の子か...と諸伏景光は考える。NOCバレして以来知り合った人間などたかが知れている。ハンバーガー大好きっ子なら知っているが、彼女は本に埋もれて生きる人間だ。恐らく違うだろう。

 

 

『とても不思議な女性だった。彼女が無邪気に笑っていられる社会にしたいと思ったよ』

 

 クソ真面目な上司にはやはりクソ真面目な後輩がお似合いだ。ハロの散歩で遅くなった風見さんは、ゼロにしこたま怒られたあと普段あまり見ない安らかな顔で彼女の話をし出した。「周りに居ない不思議な雰囲気を纏う人だった。日常を忘れてただの世間話に付き合った時間、これこそが癒しだったんですね」と話す現上司の風見さん。少し、いや結構引いた。そこまでは良かった。聞いている自分もゼロも引きながら良かったなと声を掛けただけで、問題は次だ。

 散歩中に壊れてしまった眼鏡が彼女と話している間に直っていたのだと、彼は語る。それに反応したのは俺じゃない、ゼロだ。最近はもっぱら着信拒否をされ続け、一時期本気で悲しんでいたくらいだ。ズルいぞ、風見!と子供のように掴みかかるゼロに苦笑いを浮かべるしかなかった。しかし、偶然にしては凄い確率なんじゃないか?ゼロが協力者にしたい女の子と風見さんが散歩中に会うだなんて、こんなことがあるんだなと他人事のように流したその日、久しぶりに俺も癒しを貰いに行こうかと本に埋もれる彼女のことを思い浮かべた。

 

***

 

「で?また来たの?暇なの?やっぱりニート?え~っと、名前は、、んー、思い出せない...」

「...もうわざとでしょ?ノアちゃん」

 

 相変わらず本の山に埋もれる彼女は、珍しく青黒い隈が出来ていた。いつもより機嫌が悪く見えるのは気のせいだろうか。いや、比べられるほど顔を合わせていないから何とも言えないな。

 世間話をするように上司二人のやり取りを話せば、ノアちゃんはげんなりした顔で俺を見た。え、俺なんかした?何語なのかもジャンルすらも分からない本を片手に、殴り書きするもう片方の手だけは止まらない。器用な人だ。

 

「それにしてもその風見さんって人ご愁傷様だねえ」

「まあ、例の修理屋さんのお陰で乗り切ってるよ」

「例の修理屋さん、ねえ」

 

 悪戯な笑みを浮かべるノア。どこかの猫にやりたい放題悪戯をするネズミの顔が頭に浮かぶ。謎の文字をスラスラと紙に書き綴りながらも、暇を持て余した俺の世間話に付き合ってあげようと会話を続ける。

 

「お兄さんニートじゃなかったんだねえ。意外だなあ」

「相変わらずさらっと失礼なことを言うなあ」

「いやあ、それほどでも~」

 

 いつもの緩い会話。ノアがさらっと貶すいつも通りの会話なのだが、何か物足りないような覇気がないような気がするのだ。決して特殊な性癖を持っているとかではない。不思議に思っていれば、ノアは真顔で呪文のようにぶつぶつと唱えだした。いったい今日はどうしたんだ。

 

「チェダーチーズバーガー、セットにポテト。塩気の強い食べ応えのあるパティにレタスとトマトが多めで中和されている。バンズは表面が香ばしくそれでいて噛むとフワッとしていて万人受けする美味しさだ。とろけるタイプのチーズは女性ウケ間違いなし」

「...ノアちゃん?」

「ん?」

「ハンバーガー好きすぎて頭おかしくなった?」

「お兄さんもだいぶ失礼だよ」

 

 うん、彼女は至って真剣だ。もしかして今書いてるのって、と聞いてみれば、この間食べた店のハンバーガーを評価しているのだと真顔で答える。字が汚いのか達筆なのか何を書いているのか読めたもんじゃないが、この真剣な口ぶりから真面目に食レポを書いていたのだろう。

 今更だが彼女の行動は一周回って何をするか分からない。関係ないであろう周りの本はもう用無しだろうか。

 

「この周りの本は?読んでないなら片付けるぞ」

「それまだ使うんだけど」

「え?」

「え?」

 

 お互いが?を頭に浮かべながら、先に口を開いたのはノアの方で、「あ、あー、いいよ。もうそろそろお昼だし」と癖のある万年筆を机に置いて立ち上がった。どうやら今日は足にされるわけではないらしい。と思ったが、隣の席に置かれた山でも登るのかと突っ込みたくなる大きさのリュックを得意げに見せつけられ、この間の段ボール二箱よりリュックになっただけマシかと自分の心の広さに泣きたくなった。

 

「まあまあ、流石に今日はお礼するからさ」

「まだ、運ぶなんて言ってない」

「え?運ぶ気満々の顔してたよ?」

「不服だけどな?お礼の前に眼科に行きなさい」

 

 先ほどまでの真剣な彼女は、黒縁の眼鏡を外した瞬間消えてしまった。いつもの軽口を叩く人使いの荒い女王様へと戻ってしまったのだ。ちょっとでも心配した自分が馬鹿みたいじゃないか。まあまあ落ち着きなさいよとリュックを手渡すノアに思う部分もあるが、「お兄さんあんまりお出掛けとかしないからたまには息抜きでもすれば~?」と言われ肩の力が一気に抜けた。

 思えば、ここに来る以外は常に人目が気になって気分転換の足しにもならない。決して自意識過剰などではない。組織の人間が潜んでいてもおかしくないこの町では、心が落ち着く場所は本当に少ないのだ。失礼だが、万人受けしない専門書ばかりが集まったこの図書館は人の波が無くて心底安心するのだ。それも理由の一つに過ぎなくて、本音は別だ。

 

「この間仕事で臨時収入が入ってねえ。毎日お高いハンバーガーを食べれて幸せだよ~」

「マジで身体に悪いから違うもの食べよ?」

「もう私にとってはルーティーンなのよ。日課なの日課」

「それっぽく言ってるけどただの偏食じゃん」

 

 風見さんが言っていたこと、少し分かるかもしれない。忙しない日々でちょっとしたどうでもいい会話が日常を忘れられる。日の目に出ない危険な任務をしている俺等にとって、彼女のような存在は自分を認識させてくれる光なのだ。

 馬鹿みたいに重いリュックを背負いながらそんなことを考える自分の心が綺麗すぎるなあと思いながら彼女の背中を追った昼下がりだった。

 

 

***

 

 

 タイミングが悪いシャッター音。肩を並べて撮った同期との写真はもう無い。遺留品として発見されたスマートフォンは、俺の死を意味する弾痕と血痕が浮かぶ。辛うじて生きている俺だけど、アイツらは許してくれないだろうな。ハンバーガー1つで笑顔になる無邪気な彼女が命の恩人だなんてあの時は思いもしなかった。間接的にだけど。

  ノアが掛けていた眼鏡を借りて気持ち程度に変装をしていた俺が甘かったのか。

 今の俺はあの時と同じくらい動揺している。『焦りは最大のトラップ』だ?

 マジでそれどころじゃない。

 

「諸伏景光クン?惚けても無駄だぜ?」

「何のことかなぁ」

「ったく、連絡一つ寄越さないかと思えば女とデートとはなあ」

「...ノアちゃん助けて」

「照り焼きチキンバーガーとベーコンレタスバーガーどっちがいいかなあ」

 

 ゼロ、ついに俺の正体が奴らにバレた。

 

 図書館から少し離れた場所にある彼女オススメのハンバーガー店。昼時を過ぎているにも関わらず店の外まで列が続いていた。小さな手帳を取り出しながらさあどれにしようかなと真剣に悩むノア。書類を捌いて、ゼロの破損報告書をまとめて、また書類を捌く毎日の俺にだって一つくらい普通の生活をしても罰は当たらないよなと自己完結し、一緒にメニュー表へと目を通した時だった。

 店の前のメニューが書かれた看板の奥から見える二人組。どこぞのヤンキーかチャラ男かと思った俺は悪くない。大丈夫、平常心平常心。幸いアイツ等は俺に気付いていない。やり過ごせやり過ごせとメニュー表をじっと見つめる。

 

「おい」

 

 世間的にはイケボというのだろうか?警察学校時代にやんちゃしていた野郎の声とは思えない。やばい、気付かれた。二人組と俺に挟まれるノアには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。それでも何とかならないものかと聞こえないフリをしていれば、思ってもみない状況になっていた。

 

「お前、ポアロに居たよな?」

「へ?すみません私人の顔覚えるの苦手で」

「珍しいなぁ、陣平ちゃんがナンパなんて」

「黙れ萩原」

 

 ノアちゃん?もしかしてそこにいるおっかないお兄さん達と知り合いなの?いつの間に?てか、今松田ポアロって言った?それゼロの潜入先じゃん。何この子、無意識に知り合い増やしてて怖い。

 

「あの探偵坊主と一緒に居ただろ?」

「...ああ!あのひじき毒殺事件ですね!」

「毒殺!?危ないことに関わっちゃ駄目だろノアちゃん!」

「あ?」

「あれ、その顔」

 

(しまった...)

 勢いよく会話に横入りしてしまった。もう手遅れなのは確かにわかる。蛇に睨まれた蛙ってこんな気持ちなのかなあ、と他人事のように天を仰ぐ。あ、まじで視線で殺されそう。こら、ノアちゃん。後ろの女性客に「修羅場?」とか言って他人のフリしないの。誰が修羅場だ誰が。

 

 こうして人気ハンバーガー店で地獄の取り調べが始まった。

 

 軽快なピアノのメロディと流れるように動くウォーキングベースが店内を彩る。ゼロもギターを弾きたいと言ってくれて自分がベースを弾いて、売れないバンドマンみたいな生活をしていた時期がもはや懐かしい。実際のところ流暢にそんなこと考えている場合ではないのだが。周りの客の声が一切聞こえないように何か細工がしてあるんじゃないかってくらい余裕はなかった。

 

「...ごめん。巻き込むのが怖かったんだ」

 

 自分でも情けない声を振り絞って呟く。自分の危険だけでない、巻き込んだ人間すべてが消される可能性だってある。必然的に警察である同期や兄に関わることは出来なくなった。ボンドでも接着剤でもくっつけられたんじゃないかってくらい口が開かない。そんな重たい空気もへらっと押しのける目の前の二人には本当敵わない。

 

「お前も、降谷もそういう部署に配属されたんだってくらい予想はつく。舐めんなよ?」

「でも、伊達のロッカーにあんな血生臭いスマホ入れるのはやめてあげな?あの伊達が男泣きしたぞ」

 

 そしてネチネチと嫌味を言われ続ける。

 言いたいことを言えてスッキリした二人は最後に声を揃えた。

 

「「おかえり」」と。

 

 

***

 

 

「なんか感動の再会の邪魔をして申し訳ないんですけど~、注文しません?」

 

 俺はここまで空気を読めない人間を知らない。メニュー表を見ながらぶっきらぼうに呟く彼女は図書館に居た時より不機嫌だ。ごめんね頼もうかと宥めるように話せば、「これでも空気読んで待ってたんだけど~」と伸びた声で話す。空気読んでたんだね、偉いね。

 

「ねえ、この子めっちゃ面白いんだけど諸伏の彼女?」

「違うよ、でも構いたくなる女の子ってやつかな」

「勝手にやってきて構って欲しいアピールするのはそっちでしょう?」

「分かった、店員さん呼ぶから許して」

 

 餌を前に待てを頑張った彼女はなかなか懐かない猫のようだった。お兄さんが悪かったから頼もうか。ほくほくした笑顔でハンバーガーを待ちながら、今日はひたすらメモ帳を片手に文字を綴っている。

 

「そうだ、なあアンタ。あの事件の日助かったぜ?ありがとうな」

「いえいえ、お仕事の邪魔になってないようで良かったです」

「ヒジキ毒殺事件だっけ?ねえ、ノアちゃんこの間くれた大量のひじきと関係ある?」

「やめて思い出したくない。軽くトラウマだから」

 

「まさか、乾燥ひじきがあそこまで増えるだなんて誰が想像できるか、だから料理は嫌いなんだ、しかもひじき料理なんて煮る以外思いつかないし、そもそもひじきは食べ物なのか?」と呪文を唱えだしたが、焼けたパンとBBQソースの食欲をそそる香りに今日一番の笑顔を見せる。

 

「待ってました!!!さあさあ食べましょ食べましょ!!」

「ノアちゃんはハンバーガーが好きなの?」

「ええそれはモチロン!馬鹿みたいに長い行列も意味わからん修羅場に巻き込まれても待つくらいの価値があります!」

「だから、もう少し言葉を選ぼうね?」

 

 そしてさり気なく萩原はハンバーガーに負けた。バスケットに盛り付けられたハンバーガーはチェーン店で出されるようなものとは比べ物にならないくらい分厚いバンズとパティだ。器用に両手で掴んだノアは、自分の口の3倍くらいあるハンバーガーにかぶりつく。

 かぶりつくその直前だった。

 

 

「全員大人しくしろ!!これが何か分かるよなァ!?」

 

 

 半分以上が女性客を占めている店内は頭に響く金切り声が止まらない。ガタンと倒れる椅子の音、氷がたっぷり入ったコーラは床に零れ甘い液体が染みる。いわゆるパニックという奴だ。

 これが何か分かるよなぁ?悲しいことにDYNAMITEとでかでか書かれれば分からない奴はいないだろう。

 犯人は爆弾を見せびらかすアホ1人、外で立ち塞ぐ馬鹿2人、そして客に紛れてハンバーガーを食っていた食いしん坊3人だ。さて、どう対処する?警察学校時代に班長とゼロが人質に取られ、チョリースとチャラ男を演じたあの日はもう何年前になるだろうか。今や目の前の二人は冷静に爆弾の中身を分析しているようだ。流石元爆発物処理班。

 爆弾片手に叫び散らす犯人のボスのような人物は真っ先に俺たちの座るテーブルに目を向ける。

 

「おいそこの女!お前これが見えてねェのか!?」

「ほぇ?ほぇんなひゃい、はむぁっへへふらひゃい~」

「何言ってるか分かんねえよ!」

 

 周りに気を取られ過ぎて、目の前の彼女が何事も無かったように食事に夢中になっていることすら気付かなかった。ああ、分かった、分かったから「それでよく公安が務まるな」って脳内に直接語り掛けないでくれ、ゼロ。

 

「松田、萩原。ゼロに応援を頼んだ、外の奴はすぐに片が付く」

「はっ、俺等は爆弾に専念しろってかァ?」

「頼りにしてるよ」

「俺と諸伏ちゃんは他の仲間を取り押さえようか、爆弾は松田に任せよう」

「了解」

 

 それから早かった。一般人に装ったバリバリの公安部が外の連中をあっさり取り押さえ、店内の仲間がそれに動揺を見せた隙に縛り上げて見せた。相手が悪かったなあとしか言いようがない。客も外へと誘導し、問題無いかと思われたが苦戦したのはまさかの爆弾だった。

 

「松田、やれるか?」

「うっせ!今やってるだろうが!クソ、なんであの頭無さそうな奴らがこんな面倒くさい爆弾持ってんだよ!」

「ありゃりゃ、これは無駄にトラップが多いな」

 

「ほい、ニッパー」

「おう、あんがとよ。まずはこの導線を切って、」

「あ、このバッファー水銀レバーの手前に噛ませてくださいな」

「おっと危ねえ、見落としてたぜ。って....」

 

 客は居ない、店員も外、犯人は取り押さえた。

 爆弾の前には、諸伏、萩原、松田だけのはずだったのだが。

 バスケットに入ったウェッジカットのポテトをもそもそとウサギのように食べる彼女。爆弾のカウントはもう5分も無いのに、3人の時間が止まったかのようにノアを見つめる。手術中の賢い助手のごとく工具を手渡すノアに、松田は冷たい視線を向ける。

 

「おい、なんで逃げてねえんだ」

「へ?だってここのハンバーガー屋さん吹っ飛んじゃうの勿体ないから」

「俺等が何とかするから引っ込んでろ!」

「へ~い」

 

「ちぇ、手伝ってあげたのに」と言葉を漏らすノアは、大人しく店の外へと向かっていた。厳しい言葉を掛けながらも松田の手は止まらず解体作業を続けている。「もうすぐ終わる、外で待ってろ」そう話す松田の声はいつもより焦りを含んでいるような気がした。

 

 1分。

 すっかり入れ替わった機動隊の面々が店の前を取り囲む。

 まだ爆弾がある、近づくな!

 自分は居ない筈の存在であることも忘れて、根っからのハムだなと内心笑う。

 

 30秒。

 周りの警備隊も避難した店の人間も野次馬も全員が緊張の糸を張りつめている。

 松田、松田...。

 祈るように手を合わせる、信頼も込めて。

 

 残り15秒を切っても、松田は現れない。居ても立ってもいられない萩原は警備隊に抑えられている。柄にもなく焦った素振りを見せる松田を思い出す。彼なりにいつもと違う爆弾を目の前に冷静さを失っていたのかもしれない。

 

 もうダメだと思ったその時だった。

 

 諦める俺の横を頭二つくらい足りない身長の少女が走り出した。掌を合わせながらぶつぶつと横文字を唱えていた気がする。呆気にとられた周りの人間も残り10秒を切ったその空間で自分を取り戻すことは出来ない。

 

「....ノアちゃん!!!」

 

 なぜこういう時に限って他人行儀になれない?

 君は一般人で、民間人で、失っていい人間じゃないだろ?

 

 もう後がない。瞼を固く閉じてから何秒立っただろうか。来て欲しくない爆発の瞬間は待てども待てども来ることは無かった。へたりと力が抜けその場に倒れ込む俺を他所に、萩原も安心したように深いため息を零す。

 

「ヒロ、どういうことか説明してくれるよな?」

「げ、」

「あれ?安室さんだ。おつかい?」

「ええ、丁度小麦粉の在庫が切れそうだったので。それより中にもう一人警官の方がいらっしゃるのでは?」

「そういえば、松田もノアちゃんも戻ってこないね」

 

 ピンクのベストを着込んだ甘いベビィフェイスの男が立っていた。俺と萩原の態度が全然違うのは気のせいだろう。そんなんでいいのか、潜入捜査官。不発したと分かってからだいぶ時間が経ったのに現れない二人を確認しようと店内へ急ぐ。

 様子を確認する諸伏と萩原の後ろで、降谷は小さく呟いた。

 

「...ノア?ノアが居るのか?」

「え、ゼロ?」

 

 店内の真ん中には解体に使ったニッパー、カッター、ペンチ等が転がっている。その隣には爆睡した松田も転がっていた。どういうことだ。

 

「...ヒロ、ノアって言ったよな?お前がよく町の外れの図書館に出入りしている理由はそれか?」

「う、」

「そうか、ヒロ覚えておけ。俺が協力者にしたい人間は、修理屋のノアだ」

 

 ピースが埋まったような、解けなかった数学の方程式が急にスラスラ解けるようになったような。

 やけに風見さんと話が合うような気もしていた。そういえば何回か彼女がコーヒー牛乳を口にしている所も見た。ゼロが言う子供臭いなんて、そのままじゃないか。

 

「ははっ、なるほどなあ...」

 

 ゼロの言う修理屋=ノアちゃんだと分かった今、俺は以前ゼロが話していたことを思い出す。

 

『彼女はあまり自分の話をしない。頑なに何かを隠している気がする』

 

 ここまで彼女に対しての考えが合うと、逆に怖くなってくる。幼馴染で親友の強みだろうか。

 確かに、ノアちゃんは何かを隠している。

 あの観覧車もrx-7も直して見せたのがノアちゃんだということに驚きを隠せないが、自分の膨大な知識を生かしたスキルだなと感心もした。

 

 ごめんね、ノアちゃん。

 俺はこれでも、公安警察なんだ。

 君の事に探りを入れるのはもう合法だ。

 

 転がった工具と松田。

 消えた爆弾とノアちゃん。

 

 彼女を公安の協力者へと導く人間がまた一人増えた瞬間だった。

 

 





一方その頃、ノアはというと...

「ふふふ、この面白い爆弾を改良してあんなことやこんなことを...」
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