※映画ネタをいじっております
※時系列という名の時計は壊れました
※懲りずに映画ネタでストーリー動かそうとしています
頭上から浴びるように怒号が聞こえる。
これがクレーマーってやつか。いや、修理する前からクレーマーだなんてただの野次晒しだ。
いつから私は壊し屋になったんだっけ?
「おい、嬢ちゃん!!なんてことしてくれるんだ!!ったく!!」
「...スミマセン」
「お父さん!皆無事だったんだからいいじゃない!みっともないからやめて!」
「あ"あ"ぁ、俺のレンタカーライフに終止符を打たせてくれよォ!!!」
「...なんか、スミマセン」
はぁ、なんでこんなことになったんだろう。
屋上のプールの上には、フォード・マスタング・コンバーチブルがぷかぷかと浮かんで気持ちよさそうだ。私もそうなりたい。
小さな子ども達が得意げにはしゃいでいる様子を横目でチラッと覗けば、その奥は燃えまくっているビル。
うん、もう一回言おう、なんでこうなった。
「ノアさん!今日という今日は説教よ!!覚悟しなさい?!」
園子ちゃん、一ついいかな?
ぶっちゃけ君がオープンパーティーに誘わなければこんなことにならなかったよ?ねえ、コナン君。他人事みたいにこっちを見ないでくれるかな?怒られてるのは君のせいだよ?
ごめんね、もう3回目だししつこいけど言わせて、なんでこうなった?
***
『――次のニュースです。今日の14時、米花町の人気ハンバーガーショップで強盗が爆弾を使って脅迫するという騒ぎがあり、一時騒然としました。幸い、店内の勤務時間外の警察官が対処し怪我人は無かったそうです。』
「あれ?ここの配線どうだったっけなあ~。ここをこうして、、こう?ん~、違うな。あ、わかったわかった。火薬増やすか」
「なんでやねん」
「さてさて、硝酸カリウムと硫黄の瓶はどこだったっけなあ。炭素は確かここに...」
「なあ、ノア」
「へ?」
「その爆弾みたいなやつ、どっから持ってきた?」
「ん~、、拾った~」
「.....」
話が早い人は好きだよ。そう声には出さなかった。快斗君は私の何倍も頭が回る賢い子だから。お互い深いところまで干渉しないのはもう暗黙のルールに近い。
間一髪。あの時の事を思い返せば、間一髪という言葉がぴったりだ。残り5秒あったのかな、柄にもなく必死になって爆弾の構造を頭の中で組み立てていた。助けてあげたんだから、爆弾の一つや二つ許してほしい。お陰様で、だらしなくにやけながら爆弾を改造するこの時間は楽しい。あはは。
「俺のお手製催眠スプレーはどうだった?」
「うん、快斗君天才かな?って思った」
なんだ、そこまで話が分かるのかい君は。彼の頭の中では、事件当時の状況が予想出来ているんだろう。呆れた目で見ないで欲しいけどなあ。催眠スプレーを使ったことも、爆弾を盗んできたことも快斗君の想像の範囲内であることがなんだか悔しい。
でも、彼がよく使う催眠スプレーはなかなかのものだった。猛犬みたいな天パさんを一発で仕留められたのだから、悪い人たちは喉から手が出るくらい欲しいだろう。ハンググライダー直したお礼が催眠スプレーなのはちょっと治安が悪いけれど。
快斗君がコンビニで買ってきてくれたアイスティーのカップは汗が滴って小さな水溜まりが出来ている。ゴロゴロ入っていた氷はほぼ溶けてしまった。え?アイスティーは飲めるのかって?紅茶って味はもちろんだけど私の中では香りを楽しむものだと思ってる。
「ノア」
「ん?」
快斗君がソファに座りながら壁紙と化した本棚を見つめる。その中で隅に追いやられた小さな手帳が並ぶ列。こっちに来てから私が書き溜めた手帳だ。昔から自分さえ読めれば汚くても問題ないと思っていたから解読は誰も出来ないだろう。おっと、硫黄入れ過ぎた。
「お前、どっか行くのか?」
入れ過ぎた硫黄を匙ですくっていたのにパラパラと零れた。
「なんでそう思ったの?」
「なんとなく」
「珍しいね。君がはっきりしないのは」
薄くなったアイスティーのストローに口を付ける。
最近までおもちゃで遊ぶ暇すらなかった。おもちゃじゃ無かった、爆弾だった。冷蔵庫直しに行ったら家に籠る、自転車直しに行ったら図書館に籠る毎日だった。実は快斗君と出会う前からこんな感じよ?
「俺には何か準備してるように見える」
「へえ、準備ね」
なんか、、嫌だ。
「快斗君が何言いたいのかよく分かんないなあ」
「なあ、ノア。お前...」
~♬
本に吸われた音は着信音じゃなかった。メールの送り主は園子ちゃん。こういう時に限って電話を掛けないのよあの子は。適当に理由を付けて快斗君を追い出そう。今日は君と話さない方が良さそうだ。
無言でバイクのキーを差し出せば、雑な手つきで掴んで行った。私がこれ以上は話さないってことも理解してくれる数少ない友人だ。ただ君は、普通の友人じゃない。多分、私も普通じゃない。
快斗君の長い指が私の目元をなぞる。それだけで言いたいことは分かる。
「あんま、無理すんな」
「りょーかい」
バタンと重い扉が閉まれば、一気に静寂に包まれた。
防音に優れたこの家のメリットでもありデメリットでもある。
一人になった瞬間の虚無感にはもう慣れた。
快斗君が見つめていた本棚の一番下の手帳に手を掛ける。もうすぐこの本棚は手帳専用になりそうだ。反対からページを開けば、そのまま小さい写真が床に落ちる。5人と1匹、いままで裏に挟んでいたことすら忘れていた。
最後にちゃんと寝たのはいつだろう、一回シャワーでも浴びたいし、本当はストレートティーじゃなくて甘ったるいコーヒー牛乳が飲みたいなあ。
目を閉じると、浮かぶ赤。
『俺はなあ、俺に期待したいんだよ』
カフェインが詰まった飲料を取り込めば、眠気を邪魔するように言葉が流れる。別に私は退屈でいいよ、ルパンさん。退屈ってことは平和な証じゃないか。つまらなくなんかない、寧ろ私は退屈を求めているんだ。一番古かったその手帳を本棚に戻し、一番新しい手帳と分厚い本何冊かを机に広げる。
踏みそうになった写真を拾い上げて、堪らなく声を漏らした。
「お姉ちゃん、頑張るよ?ウィンリィ」
写真に写る小さい頭を指でそっと撫でる。残り僅かのライフを最小限に削りつつ、またボールペンを走らせた。あ、園子ちゃんのメール見てなかったや。
左手でスマホを操作し、メールボックスを開く。ただでさえ静かなこの部屋が一段と無音になった気がした。
「__絶対、ハンバーガー奢らせる」
***
「「キャンプ♬キャンプ♬明日もキャンプ♬明後日も~!♬」」
「園子姉ちゃん来れなくなったんだってさ、ノア姉ちゃん」
(逃げたな、園子ちゃん)
というわけで園子ちゃんのメールを要約すると『子供達の子守』をして欲しいそうで、私は家に籠りたいんだと声を大にして言いたかった。ただあの天下の鈴木財閥を敵に回すのは怖すぎるし、園子ちゃんに恩を売るのも悪い話じゃないだろうと重い腰を上げたのだ。
オートキャンプ場に到着すれば博士はせっせとテントを張り、子供たちは薪を集めたり食事の準備を始めている。この国には余るほど文明の利器があるというのに、わざわざ手間のかかるアクテビティをする意味が私には分からなかった。
いつもなら捻くれた思考に辿り着かない筈なのに、連日の疲れが溜まっていたのか頭の中が真っ黒だ。散歩でもするかとその場を離れようとしたが、小さな白い手が私のパーカーを引っ張った。
「アナタ暇なら少し手伝いなさい」
「...暇、じゃないっす」
前から思ってたけど、このウェーブがかった茶髪の女の子、ちょっと怖い。
「働かざる者食うべからずって知ってる?」
「いやぁ、育ちが海外なもので、あはは」
「いいから手伝いなさい」
「...ハイ」
こんなことになるなら、薪を大量に錬成した方が手っ取り早かったのに。
普段、極力術に頼らない生活を心掛けているノアだったが、ここ最近はそんな余裕も無かった。キャンプ飯らしく定番のカレーを作るそうで、子供とは思えない包丁さばきで野菜の皮を剥く彼女。なんでピーラー使わないの?ピーラーの方早いじゃん。玉ねぎのみじん切りだるくない?ブンブンチョッパー使おうよ~。と心の中で抗議していた筈だったが、しっかりと口にしていたらしい。
「あのね、そんなに道具を増やしたら洗い物も荷物も増えるでしょ?」
そんなことも分からないの?と、副音声も聞こえた。今時の小学生本当に怖い。やれやれと肉の塊を一口大に切り分けた。硬くて切るのが大変だなあという気持ちも込めて小さくため息を吐き、また私はいらないことを呟く。
「はぁ、一晩寝かせたカレーがいい」
「...なんですって?」
「あ」
落ち着こう?話せばわかる。今にも睨み殺すんじゃないかってくらいドスの効いた鋭い視線は怖過ぎる。またネチネチ言われるんだろうなと心構えを決めれば、納得したように話す落ち着いた声が聞こえた。
「まあ、確かに分かるわ。そう思って飴色玉ねぎをペーストにして持ってきたし」
「へ?天才?」
「あら、どうも」
その一言から打ち解けたようにお互いが持つ知識という名のカードを出し合う時間が続いた。玉ねぎのブドウ糖、果糖、ショ糖などの糖が炒めると濃縮されて甘味が増すんだよね。ブイヨンも一晩寝かせることで「冷ます」と「温める」が繰り返されて素材の旨み成分がよく混ざりあい、熟成が進むのよ。尽きないほどのカレー知識を話していれば、いつの間にか私は哀ちゃんと彼女の事を呼んでいて、カレーを食べる前から打ち解けた私達は不思議な関係かもしれないなあ、と思いながら美味しそうなカレーをかき混ぜた。
「どうした?新一」
「い、いや。科学者と雑学王の会話が思った以上にヤバかった」
その様子を見るコナンが遠い目をしていたことなんて二人は知らなかった。
「このカレーすっげえうめえ!」
「お店みた~い!」
「な、なに入れたんだ?」
「「科学の力」」
***
滞りなくキャンプは終わり、帰りに新しく出来た西多摩市のツインタワービルを通ることになった。いつの間にそんな話になっていたのか哀ちゃんに聞いたら、アナタ行きの車爆睡だったわよ、と軽く言われて納得した。それにしても昨日のカレーは美味しかったなあ。
294mののっぽな双子。間近に見れば、首が折れるくらい高かった。子供たちと同時に「うお~!」と叫ぶ私に、哀ちゃんもコナン君も呆れていた。だって、大きいんだもん。
そろそろ帰るぞと博士が声を掛けた時、大きすぎるエントランスに一台のタクシーが止まった。私の役目は終わったしさっさと帰ろうとヘルメットを被る。子供たちはタクシーの乗客に目が留まっていた。
「...げっ」
ヘルメットのせいでくぐもっていたけれど、その声だけは聞き逃さなかった。声色に冷や汗を感じるぞ?ヘルメットを被ったまま、タクシーの方に顔を向ければ焦った顔をした令嬢の姿を発見した。はは~ん?
「そ~の~こ~ちゃ~ん?」
「ノアさん怖い!ヘルメット被ったまま寄ってくるの怖いって!」
「次郎吉おじさんの付き添いで海外に行くって聞いてたけど何してるのかな~?」
「そ、それは、、」
「あれぇ?もしかして園子ちゃん、私に面倒事押し付けたかっただけ、とかぁ?」
「ごめんなさいごめんなさい!!今度うちのシェフに特製ハンバーガー作らせるから!」
「え?まじ?もうしょうがないな~、分かればいいんだよ分かれば~」
「ノアさんってチョロいのね」
「はは、只者じゃないオーラは感じるんだけどな」
嘘をついてまで子守が面倒だったのか、泣きそうになっている園子ちゃんを脅すことに成功し、今までで1、2を争うかもしれないハンバーガーを作らせると言質を取った。いつも気取っている園子ちゃんを言い負かしたのはちょっぴり気持ちがよかったりもする。
そして帰ろうとした私だったが、少年探偵団+毛利家に行く手を阻まれ気付けばツインタワービルの中へ足を踏み入れていた。このビルは常盤財閥というコンピューター関係の会社が8割方を占めていて、見れば見るほど興味をそそられるものばかりだった。なんでも、常盤財閥の令嬢さんが毛利さんの大学の後輩らしい。世間は狭いなあと勝手に関心した。
正直に言えば帰りたかったが、私を帰らせまいと説得するかのように最先端のコンピューター製品が邪魔をする。ああ、博士、話し掛けないで。これ以上ホクホク顔で面白そうなものを持ってこないで欲しい。心の中では自重していたつもりだったが、なんと右手にはペン、左手には手帳。ああ、帰りたいのに。
「は、博士!これ見てください!」
「ノア君こっちも凄いぞ!」
小学生にも負けないワクワクオーラ全開でフロアを見学しながら、社会科見学のごとく殴り書きを開始。ここにいるほとんどの人が初めましてのノアだった為、若干引いていた。
「園子姉ちゃん、あんまり驚かないんだね」
「あたしはもう慣れたわ、いつものことじゃないの?」
あれがいつものノア姉ちゃんなら、ほどほどにしろと止めるべきなのでは?と思うコナンだったが、あれを止める方法など思いつかなかった。
また、コナン君が失礼なことを考えているなあと思っていれば、水を差すようにスマホの着信音が流れた。ちぇ、良い所だったのに。
「は~い、修理屋のノアで~す。はあ、クーラーが故障したんですね~?いえいえ、こんな暑いときですからねえ、すぐ行きますよ~」
通話を切れば、子供たちが寂しそうな顔で駆け寄ってきた。ついでに博士も寂しそうな顔をしていたから笑ってしまった。
「ノアお姉さん、お仕事?」
「うん、キャンプ楽しかったよ!また遊びに行こう」
「うん!もちろん!」
「ノア君!今度また遊びにおいで」
「あはは、面白いお話待ってますね!」
そんな本気で寂しそうな顔をしないで欲しい。
最初から私に居場所は無いのにね。
ひらひらと手を振ってツインタワービルを後にした。
そのビルの上から見下ろす悪に気付かずに。
*
*
*
「見ぃつけた」
忌々しい金色と、見透かすような青い瞳。あら、右眼隠してるのね。
あなたみたいな目立つ子、どうして見つけてあげられなかったのかしら。
研究室に籠り切って机に噛り付いていたあの子は、今は小さな少年と笑っている。
水すらも飲まずに死体を眺めていたあの子は、ジャンクなパンを頬張っている。
会話も碌に出来なかったあの子が、人に囲まれて声を上げている。
「平和ボケも大概にしなさい?錬金術師」
碧眼なんて笑わせる。あなたの目は澄んだ蒼い目じゃないわ、血塗られた赤よ。欲に飢えて、知識を取り込んで、心理を知りたいだけの独りよがり。人間は本当に、愚かだわ。今すぐ可愛がっていたグラトニーの餌にしてあげたいところだけど、殺せないのが惜しいわ。
「まさかあなたが、人柱だったとはね」
《閑話休題ってやつ》
「おい光彦!まだ米粒残ってるぞ!一粒でも残せばバチが当たるって母ちゃん言ってたぞ!」
「元太君たくましいなあ」
「元太君の言う通りじゃぞ。お米は農家さんが手間暇込めて作っとるんじゃ」
日本人は律儀だなあ。こんなに小さいときからマナーを学ぶのか。私と哀ちゃんコンビで作ったカレーはみるみるうちに無くなり子供達も満足そうだ。さて、さっさと後片付けをしてしまおうと立ち上がる寸前に、博士が急にではここでクイズじゃ!と可愛らしく声を上げた。は、博士?どしたん?
「88歳を漢字で米寿と書くが、では、44歳は漢字でどうやって書くかなあ??」
「ヒントは漢字一文字にカタカナ三文字じゃ!寿はつけなくていいぞ~!」
そう得意気に話す博士を子供たちはこれでもかと呆れた顔で見ている。なに、この空気。私も分からないし、子供達も考え込んでいるが正解は導き出せない。コナン君が横で「分かったけどすっげーくだらねえ」と零す。でも、なぞなぞってそういうものじゃない?
「それじゃあ答えじゃ!44は88の半分、88は米、米は英語で『ライス』。44はその半分じゃから答えは『半ライス』じゃ!」
「「「・ ・ ・」」」
そっか~!なるほど~!といった歓声も無く、小学一年生の彼等はげんなりした表情だ。答えが先に分かっていたコナンもほらな、だから言ったろと苦笑い。ただ、一人を除いて。
「博士、それはヤバイわ」
「え、ノ、ノア君?」
こんな若い女性にまで呆れられちゃあ、博士も自分のなぞなぞのくだらなさに気付くだろう。これに懲りて、自分のなぞなぞが白けた空気を作っている事を自覚するんだな。
「センスの塊過ぎるんだけど、え、天才?」
「は?」
「そ、そうじゃろ!?ほれ見たか、コナン君!」
ノア姉ちゃん?まじかよ。
「やっぱりワシのクイズも捨てたもんじゃないのお!半ライス~♬三回よそえばサンライズ~♬」
「え、ちょ、待って博士。天才過ぎてついて行けない」
いや、アンタらの会話について行けねえよ。