修理するモノが無くなったとかそんなんじゃないんだからね()
「えっと、、どうしたのかな?哀ちゃん」
「デートするわよ」
「へ?」
成人手前で私、初めてデートに誘われました。
***
蒸し暑い日が続く今日この頃、最近は専ら冷房や冷蔵庫の修理が多くなった。暑い暑い言いながら修理を終え、丁度博士の家の近くを通っていた私は、ちゃっかり涼もうと押し掛けた。案の定、キラキラした笑顔で発明品やらゲーム機やらを運んでくる博士に私も負けないくらい欲に満ちた笑みを浮かべて、博士に近付こうとした時だった。
「ノアさん」
「ありゃ、哀ちゃん!久しぶりだねえ」
「ちょっと付き合ってくれない?」
ササっと現れた哀ちゃんが私と博士の間に立ち塞がる。「え、でも、発明品見たいから、、」と告白を断る様な雰囲気で話すと、「そんなものいつでも見られるでしょ」と悪気も無くぶった切った。哀ちゃん、後ろで博士が涙目になってるよ。
「ちょっと準備してくるわ」
「あ、ハイ」
有無を言わさない哀ちゃんはそのまま自室へと向かった。ああ、スケートボードの馬力が増したらしいし、子供達がいつも遊んでいるゲームはクオリティが高いから気になっていたんだけどなあ。やれやれと発明品を抱える博士の表情は、哀ちゃんの厳しい発言を受けただけじゃない気がした。
「...哀君は、何を悩んどるんじゃ」
...博士、そういう気になることは、心の中で留めて欲しいなあ。
***
「ねえ、哀ちゃん。他の子達と行った方がさ、ホラ、年も近いし話しやすいんじゃない?」
「子供たちは今日、少年探偵団としての活動中よ」
「いやいや、子供たちって、哀ちゃんも子供じゃん」
私よりもちょっと先を歩く哀ちゃんに、何かくだらない話でも良いからと会話を飛ばすが一方に続かない。いつもの賑やかな彼等は、少年探偵団という活動で汗を流してるそうだ。この間のツインタワービルで出会った人の一人が、どうやら殺害されたらしい。積極的に子供が捜査をする事に対して怒る大人は居ないのだろうか。頭の中で、この町の犯罪率を計算している自分がいる。
「哀ちゃんは参加しないの?」
「あたしはパス」
何その台詞格好いい。その冷たい視線と雰囲気で「あたしはパス」なんて言われたら、「あ、そうっすよね」としか言えないよ。私も今度、快斗君に面倒事押し付けられそうになったら私はパスとか言ってみようかな。馬鹿にされる未来しか見えないけど。と、一人でくだらないことを考えていれば哀ちゃんが立ち止まった。
「着いたわよ」
「...映画?」
「ええ」
「それ以外に何があるのよ」と聞こえてくる私は被害妄想の塊なのだろうか。いや、口にはしてないけど絶対心の中で言ってるよこの子。それにしても、映画とはね。戦隊ヒーロー?美少女戦士?猫型ロボット?どれにする?と問いかけようと思ったが、流石の私も馬鹿ではない。どうみても、この子が子供向けアニメを見るとは思えない。
妥協してホットドッグとコーラを買って席に着いた。哀ちゃんはアイスコーヒー。なんか悲しくなった。外を歩いている時も映画館の中でも彼女はフードを被っている。暑くないの?と聞いてみたが、別に、とそっけない返しをされた。それもそうだ、もうすぐ映画が始まるから。
<兄さん、、兄さん!!>
<俺は所詮、裏切り者だ。こうなる、運命だったんだ、、>
<っ、、兄さん!!!!>
腐りかけの廃ビルで、兄は帰らぬ人となった。
僕がもう少しうまくやれば、兄が死ぬことは無かった。
手に伝う黒が、僕の心も黒に染める。
どうすれば、、どうすれば、兄は、、
*
*
*
END.
(いや、重くね?)
真っ暗だった館内が徐々にオレンジ色に染まる。ばれないようにチラッと哀ちゃんを見れば、無表情に今だスクリーンを見つめている。そこまでしてこの映画を見たかった?いや、この様子だと大して映画自体に興味がなさそうだ。博士の言葉が頭をよぎる。自分の滅多に働かない良心がこんな時に限って働くのだ。それだけじゃない、やっぱり彼女とは重なる何かがあるのかもしれない。
「哀ちゃん哀ちゃん」
「なによ」
「今度は私に付き合って?」
きょとんとした顔の哀ちゃん。
こんなんでも私お姉さんなんだからね?そんな意味も込めて、彼女の手を取った。
***
「で?また食べるの?アナタ意外に食べるのね」
「いやぁ、最近碌なもの食べてなくてさ、一回食べると止まんないね」
「隈も酷いし、不規則な生活はやめなさい?博士みたいになるわよ」
「わお、辛辣~。でも哀ちゃんに言われたくないなあ」
哀ちゃんだって立派な隈さん飼ってるじゃん。そう呟けば哀ちゃんはプイッと顔を反らした。昼時を過ぎたCOWバーガーはいつもよりも混んでいない。一人でパパっと食事を済ませたいときはよくここに来る。「なんでも好きなもの食べていいからね~!」と気前よく言ったのに、哀ちゃんはアイスコーヒーしか頼んでくれないから無理矢理ポテトやらナゲットを買ったのだ。
さて、ここからが本題だ。
「哀ちゃん、何を悩んでいるんだい?」
「あら、何の話かしら」
「惚けても無駄だよん。女の子同士なんだからさ、恥ずかしがらないでいいんだよ?」
で?誰が好きなの?
「...は?」
「だ~か~ら~、コナン君?光彦君?元太君?誰で恋煩いしてるんだい?」
「なっ、アナタねぇ?!」
いやあ、我ながら気を使える人間になりましたよ。自分から相談事をしやすい空気に持ち掛け、核心に迫る会話の始め方も文句無しだ。これがガールズトークってやつかあ。小学一年生で恋煩いだなんて早すぎる気もするけど、哀ちゃんは心も味覚も大人だから、まあ誤差の範囲内さ。そりゃ博士に言いたくないよね、分からないけど分かるよ~その気持ち。
「ほらほら、ここは大人の私が答えてあげるよ~」
「へえ、ノアさんはどういう恋愛してきたのかしら?」
「へ?あぁ~、ん~、言えないよう、な?」
「あら、詳しく聞きたいところね」
「え、、」
「ふふ、悪いけど勘違いしないで。別に恋愛に興味ないから」
まじか、これ私が一番恥ずかしい奴じゃん。
小学生相手に何やってんだ私は。
な~んだ~、と項垂れる私を他所に、窓を見つめながら哀ちゃんは呟いた。
「私には、居場所が無いのよ」
「...」
「まあ、最初から在ったようで無かったかもしれないけど」
ガヤガヤと陽気なBGMが流れている筈なのに、誰かが耳を塞ぐように聞こえなくなった。
<さあ、新しいのが入ったわよ。はやく解析しなさい>
<嫌だ、やめろ。頼むから殺さないでくれ、、お願いだ>
<弱者が偉そうにお願いなんかすんなよなあ?>
<ホラ、早く殺れよ。錬金術師さん>
「ノアさん?」
「...ん?」
頭の片隅に留めていた記憶がどろどろと溢れる。咄嗟に右目を押さえ、そのまま自分の頬を撫でる。ねっとりした気持ち悪い液体の感覚は無くて、代わりにじんわりと汗が滲んでいた。
「顔、青いわよ、大丈夫?」
「はは、なんでもないよ~、哀ちゃん困ったらこの電話番号に連絡するんだよ...」
「そういう居場所が無いじゃないんだけど?」
「あれ?ならよかった」
まあ君みたいな子がいじめっ子に負けるなんて想像できない。程よく塩気が付いたポテトを指でつまみ、口に放り込んだ。舌に乗る塩気と痛む右目が現実なんだと教えてくれる。私がこんなんだからだろうか、哀ちゃんは私を落ち着かせるように話す。これじゃあ、どっちが大人かわかりゃしないね。
「...大切な人を、失ったの。私のせいで。唯一の居場所だった人を失った。あれ以来、私が誰なのか分からなくなった。なんで、生きてるんだろうって、、」
「哀ちゃん哀ちゃん、なんで居場所が無いって思うの?」
「それは、、」
「博士は哀ちゃんのことを大切だと思ってるし、少年探偵団だって、居場所の一つでしょ?」
もちろん、私もね?
自分でも珍しいくらい優しい声で問えば、哀ちゃんはぱっと顔を上げる。
彼女のこれまでを知らないくせに謎に確信した。
目に見えない居場所を求める気持ちは痛いくらい分かる。
「ねえ、哀ちゃん。めっちゃ今更なんだけどさ」
「...」
「私達結構気が合う仲だと思うんだよねえ」
「...あら奇遇ね。私もそう思うわ」
ホラ、居場所、見つかったでしょ?
得意気にニヤリと笑って見せれば、哀ちゃんは呆れたように笑ってくれた。
照れ笑いだったらいいのになって思う自分が居る。
今ならアイスコーヒーなんて余裕で飲めそうなくらい甘い雰囲気で、
哀ちゃんから一口貰った私は盛大に吹き出し、やっぱり現実なんだなと受け入れた。
「ノアさん、たまに電話してもいいかしら。アナタ化学分野に精通しているんでしょ?話を聞きたいわ」
「落ち着きたいから声を聴きたいって、言ってくれてもいいのになあ」
「あら、何のことかしら」
「素直じゃないねぇ、まったく」
バンズ、パティ、レタス、トマト、丁度良く重なっている部分にかぶりつく。
「なぜ、化学分野に?アナタちゃんとすればそれなりの見た目なのに」
「生憎とうちの隈さんは頑固でねえ。んー、理由かあ」
_ただの自己満だよ
生きる為ってのもあるかなと付け足せば、哀ちゃんは黙って目を伏せた。
あの頃の私は、何が正しいとかを根本的に理解出来ていなかった。
役立たずの私にも役が回って来たんだって、正当化していた。
今でも私は、胸の奥の消えない罪を背負って生きるのだ。
「なあ、博士。最近灰原のヤツ電話多くなったよな?」
「相手はノア君らしいぞ。姉妹のようで微笑ましいのお」
妹の方が強そうだな...
「まぁ、亡くなったお姉さんの声を聴くために電話してたあの頃よりはマシになったみてぇだな」
ただの自己満だよ(作者)