どうも、修理屋です   作:にゃんさん

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依頼4 壁穴

 

***

 

 ガシャン、ガシャン、ガン!ガン!ガン!ガン!

「ねえ、お姉さん」

 ガガガガガガガ……

 

「お姉さんってば!!」

「聞こえナーイ」

「なんでこの前発信機に気付いたの?」

「発信機?ナニソレ。あたし知ーらナーイ」

 

 アホみたいに煩い電動ドライバーとアホみたいに煩い犯罪者予備軍と思われる少年。何で自分から発信機とか言っちゃってんのかねこの子は。服の袖を掴みながら構ってくる小さな少年は、傍から見れば可愛らしい坊やにしか見えないかもしれないが、ノアからしたらただのめんどくさい餓鬼でしかない。もうその仕草は発信機をつける為のポーズにしか見えんのだよ。

 やれやれと、頭一つ入りそうなくらい開いた壁の穴を修理していく。久方ぶりの一般的な修理依頼でスムーズにその作業をこなしていく。それにしても一体何があって穴など開いたのだろうか。これコンクリだぞ。ボロボロだった穴の周りを補修した後は、パテ板に持ち替えて素早くその穴を埋めていく。

 

「いやあ、派手にやったねえ」

「すみません……連絡してすぐに来て頂き助かりました」

「なんのその仕事ですから~」

「まさか壁を軽く殴っただけで穴が開くなんて思わなくて……」

「……はい?」

「もしかしたら、元々老朽化が進んでいたんだと思います!」

「いや、バリバリしっかりした作りでしたけど……」

 

 え、壁殴ったら穴開いたの?いや、そんな剛腕一人居れば十分よ。落ち着け落ち着け、こんな細腕の可愛らしい女の子が、まさか、ね。あまり深く考えないようにパテをぬりぬりしていると、ついに少年がぶっこんできた。

 

「蘭姉ちゃんは空手の都大会で優勝してるよ?」

「え、あ、そうなんだ。す、凄いっすね~」

「えへへ、ありがとうございます」

 

 え、何、都大会優勝する人って壁に穴開けるの普通なの?てか、まだまだ上いるってこと?この町本当どうなってんの?見知らぬ女に発信機付ける小学生と壁に穴開ける女子高生?よし、早く帰ろう。それに尽きる。1.5倍速に作業スピードを上げれば、みるみるうちにその穴は埋まっていった。後は乾けば大丈夫だろう。

 

 乾かしている間は、怪力少女もとい蘭ちゃんがコーヒーを入れてくれた。「ブラック飲めなくて」と伝えれば、ほぼ牛乳と砂糖の甘々カフェラテを作ってくれた。おお、これぞコーヒー牛乳!怪力少女から女神へとレベルアップした蘭ちゃんにお礼を述べれば、座ってホッと一息つく私に前屈みになって質問を始めた。

 

「ええっと、修理屋さん、あの……」

「ノアでいいですよん」

「ノ、ノアさん!私の母の事務所のパソコンも修理して下さったんですよね!?その話を聞いてノアさんに頼んだんです!」

「お母さん?ああ、あの弁護士さんの?」

(ああ、あの黒焦げの炭か)

「はい!母も一週間後の裁判に間に合って、とても助かったって言ってました!」

「それは良かった~。蘭ちゃんも依頼ありがとうね~」

「こちらこそ、何もないですがゆっくりしていって下さいね」

 

 ゆっくりしてと言われるとそわそわ落ち着かなくなるのは私だけだろうか。つまらないテレビのニュースを眺めながらコーヒーを口に運んだ。音のノイズとジリジリ砂嵐の混じる画質が少し気になっていた時、事務所の扉が開いた。

 

「ふぅー疲れた。帰ったぞ」

「お父さん、おかえりなさい」

「お、おう」

 

 ノアは察してしまった。壁に穴が開いたのは親子喧嘩だなと。隣でブラックコーヒーを片手に座る少年は呆れた顔で笑っていた。てか君、ブラック飲めんの?解せぬ。

 

「おじさん、今日の依頼は何だったの?」

 

 少年は、気まずい空気を断ち切るように笑顔で問うた。君、空気も読めるのか。

 

「目暮警部に頼まれて今日は捜査協力に行っていたんだがな、あれは事故としか言いようがないものだったな」

「詳しく聞かせて!」

「お前には言わん!めんどくせえ!」

「え~、ちょっとでいいから教えてよ~おじさ~ん」

(うっわ、猫被るの上手すぎ)

「そうよ、お父さんよりコナン君の方がいつも活躍してるじゃない」

「お、おい、蘭」

 

 ガヤガヤと流れ出す会話に流石のノアも気まずくなってきた。チラっと壁の様子を確認しても、塗ったばかりのその壁は乾いてくれない。2対1となった口論の勝敗は、恐らく親子喧嘩で落ち度があったのだろう父親の完敗に終わった。

 約束通り彼は事件の詳細を話したのだった。

 

「亡くなったのは農業を営む夫婦の妻。椎茸を栽培していたんだとよ。ビニールハウスには加温用に練炭コンロが置いてあった。そのビニールハウスに足を踏み入れて妻の女性が一酸化炭素中毒で死亡が確認された」

 

 語り始める彼、毛利さんの声はどこか諦めているような声色だった。現場検証が行われたが、いくら調べても事故としか疑いようもないものだそうだ。換気を怠った不注意としか言いようがない。現場に訪れた警察も、夫も途方に暮れたと毛利さんは話す。

 顎に小さな手を当て考え込むコナン君は次々に疑問をぶつけていく。

 

「旦那さんは何か資格とか持っていたりしないの?」

「ボイラー技士だとよ」

「ビニールハウスに変わったものはなかったの?」

「ダニ用の殺虫剤ならあったが」

「他には!?」

「それ以外ねえよ!しつけえなあ!」

「......」

 

 ふうん、ダニ用殺虫剤(・・・・・・)ねえ。

 

「毛利さん、毛利さんや私もちょいと質問いいですか?」

「お、おお。きな臭い話をして悪いな、なんだ?」

「匂い、とかどうでした?」

「匂い?そりゃ炭の焼ける匂いだったぞ。ああ、一瞬酸っぱい匂いならしたかもな。ビニールハウスに入ってすぐのほんの一瞬だったが」

 

 ニヤリと不敵に笑うノアとハッとひらめいた表情を見せる少年。どうやら、二人の意見は合致したらしい。

 

「一酸化炭素は硫酸とギ酸があれば作れるんですよ~。まあ、その殺虫剤の中身を調べてみれば良いと思いますよん。硫酸は手に入りやすいですけど、ギ酸はなかなか手が届きにくいですからねえ」

「だが、一酸化炭素を作った証拠がないぞ」

「証拠なら毛利さんが感じた酸っぱい匂い、かな。上手く練炭コンロで誤魔化そうとしたんでしょうけど。もう少し調べた方が良いかもしれませんよ~?まあ、小娘の戯言ですけどねえ」

「……」

 

 黙り込む毛利さんはすぐにデスクへと向かい、警視庁へと連絡を入れた。証拠品になるかもしれない、購入履歴を見直した方が良い、と真剣な顔で電話口へ叫ぶ。甘々な液体を一気に流し込むと、じっと見つめられているような気がして隣に視線を移した。

 私とは正反対の表情で睨みつける少年が口を開く。

 

「……ねえ、お姉さんって何者なの?」

「『armstrong』店主、ノアだよん。てか、君こそ何者?」

「江戸川コナン、探偵さ」

 

 硫酸とギ酸並みに混ぜるな危険な二人は、調子の良い笑みを浮かべる。ノリノリで自己紹介したノアだったが、後悔するのはそう遠くなかった。

 

 夕刻を過ぎ、壁がしっかりと乾燥して出来上がったのを確認したノアは、「また壁壊したら言って下さいな」と悪ノリとともに頭を下げて帰ろうとドアノブに手を掛けた。それを阻止したのは、なんと毛利さんだった。

 

「お嬢ちゃん、君何歳なんだい?」

「へ?ええっと……」

「英理から聞いてはいたが、まだ未成年じゃないか?」

「あちゃ~、実は19歳で~す」

「え!?私とほぼ変わらないのに、お仕事されてるんですか!?」

「ちと、訳アリでねえ」

 

 あはは~と笑いながら逃げようとするノアだったが、生憎現役空手女子に腕を掴まれてしまい恐怖のあまり立ち竦んでしまった。コナン君は相変わらず呆れ顔だし、毛利さんは読んでいた新聞を置いてこちらに向かってきた。

 

「蘭、今日の晩飯5人分な。英理も後から来るそうだ」

「!!うん!ノアさん何が好きとかありますか!?なんでも作りますよ!」

「え、い、いやあ、せっかくの家族水入らずってやつですから、私は」

「食ってけよ。家族で世話になったんだからほんのお礼だ。親に連絡しとけよ?」

 

「……そう、ですね」

 

「ノア姉ちゃん?」

「なんだいコナン君」

「い、いや別に」

 

 コナンだけが彼女と会うのは2度目だった。発信機を潰された時もついさっき事件の真相に助け舟を出した時も、その余裕そうな表情を崩さなかった。掴み処の無い飄々とした雰囲気が今一瞬崩れたような気がしたのだ。それに気付いたのは初めましてじゃなかったコナンだけだっただろう。

 

「ノアさん好きな食べ物とかあります?」

「ハンバーガーとコーヒー牛乳!」

「ふふっ、家庭的なご飯とかあまり得意じゃないですか?」

「今何で笑ったのかな蘭ちゃん。まあ、強いて言うなら……」

 

 クリームシチューかなあ。

 その一言から今日の夕食が決定した。

 

 ・  ・  ・

 

「ごちそうさまでした~!美味しかったです~」

「また、いつでも来なさい」

「遠慮なんてしないで、何かあったら大人を頼るのよ?」

 

 ちょっぴり狭いちゃぶ台を囲んで、蘭ちゃんの美味しいクリームシチューを頂いた。表情を崩さないように人懐っこい笑みを貼り付けて事務所の階段を下りていく。お見送りの面々が居なくなったのを確認して、もう一度探偵事務所のドアノブに手を掛けた。

 

 薄暗い事務所で、コツコツと自分の足音だけが響く。

 

「……お礼をするのは、私の方かもしれないなあ」

 

 パン!と軽快に手を鳴らし、昼間気になっていたお目当てのテレビに手のひらをくっつける。キラキラと反射音が聞こえてきそうなほど綺麗になったテレビ。満足そうに微笑めば、ノアは毛利探偵事務所を後にした。

 

「『大人を頼りなさい』か……」

 

 冷たい風が染みる寒空の下、ぽつりと漏らしたその声は誰にも届かなかった。

 ただ、自分に言い聞かせるようにその言葉を頭の中で繰り返した。 

 ポケットの中の銀時計を握りしめながら。

 

 

***

 

 

 後日、毛利探偵事務所の下にある喫茶ポアロに、蘭ちゃんとコナン君とランチをするため、足を運んだ。メニュー表を見ながら、二人はその後の事件の真相を話してくれた。

 

 結果的に捕まったのは夫だったそうだ。

 毛利さんが警視庁へ連絡してすぐの事、亡くなった女性には数千万円を超えるすさまじい金額の生命保険がかけられていたことが生命保険会社の連絡により発覚した。徹底的な捜査の結果や、数々の薬品や機材の購入履歴から事故ではなく事件として扱うことになったそうだ。

 

 犯人である夫は、数々のネズミによる実験を繰り返し、作成したガスにはネズミを即死させるだけの効力があることも確認していたようだ。保険金という後押しが無ければ、完全犯罪として闇に消えていたかもしれない。

 

「ノア姉ちゃんの言った通りだったね」

「たまたまよ~」

「お父さんも褒めてましたよ、またいつでも遊びに来てくださいね!」

 

 探偵事務所に遊びに行くなんて、考え難い話だな。

 まあ、そんな重い話はあま~いカフェラテで流そうじゃないか。辛気臭い雰囲気など関係なくズコーっとストローを啜っていると、カランとドアベルが軽快に鳴り響いた。

 

 淡いミルクティーな髪色、褐色の肌、自分より薄い青い瞳。

 

「...ふるやさ」

「いらっしゃいませ。初めまして、安室透です」

「へ?ふるやさ」

「安室透です」

 

 目の前に立っていたのは、かつて私の口コミサイトに初めて5段階中2の評価を付けた男だった。ニコニコと笑う彼とその名前を聞いて、ノアはすぐにスマホで検索にかけた。

 ドッペルゲンガー、と。

 

 




皆様、来年のコナンキャスト陣見ましたでしょうか?
キャスト発表をあつ森から発信するって画期的ですよね。
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