無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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そして無職の物語を読んでいただいている全ての皆様に、この場を借りて感謝と御礼を申し上げます。

どうにか拙いながら今章も走り切った……
節目の記念に相応しい内容か? これが?


陽気な不審者

 □■王都アルテア

 

 デスペナ明けのあなたは王城を訪れた。

 姿を見せた途端、兵士の警戒心がMAX。

 誠に遺憾である。あなたは無害だというのに。

 

「何事ですか!」

 

 門前払いで睨み合う事しばし。

 あなたの鼓膜は福音に震えた。

 

 一秒前と雰囲気をガラッと変えて、リリアーナに大きく手を振るあなた。居合わせた兵士はその変貌に風邪を引いてしまう事だろう。

 春、暖かな日が続いたと思えば、急に冬の寒さを思い返すような、そんな温度差であり寒暖差だ。

 

 もうすぐ春ですね。

 ちょっと気取ってみてもよいだろう。

 駆け寄るリリアーナを受け止めるべく、両腕をフルオープンするあなた。

 安心してください、空いてますよ。

 

 嗚呼、なんということでしょう。

 涙を浮かべたリリアーナは喜び勇んで、あなたの胸に飛び込もうとする、

 

「ネフィ!」

 

「ママ!」

 

 わけがないのである。

 

「勝手にいなくなったらダメよ」

 

「ごめんなさい……」

 

 リリアーナはあなたを素通りして、真っ先に愛娘を抱きしめる。熱い抱擁は家族の証。これが愛だ。

 あなたは慈愛が漲った。薄汚れた醜い殺意は、尊さの前に浄化されるのである。

 

「あのね、お友達できた」

 

「あらそうなの。……もしかしてこの三日間はお友達のところに?」

 

「アイちゃんとレオナちゃんとデミくん。エヴァママのおやつ美味しかった! あと舎弟のサンタ」

 

「待ちなさい。舎弟なんて言葉どこで覚えたの」

 

 あなたは殺意が漲った。

 スラムのツリーハウスピラミッド幼稚園は、子供にとって刺激が強すぎるらしい。

 お迎えの時点で殺しておけばよかったか。あなたのフレンドは誰も彼も教育によろしくない。

 

「……それで、あなたは何ですか」

 

 心底嫌そうに彼女はあなたと向き合う。

 リリアーナの好感度がゼロ超えてマイナスに。

 おかしい。これが世界の七不思議であるか。

 

 あなたは復活後、死ぬ前に【ジュエル】を預けたアイが所属するクラン<テン・コマンドメンツ>の本拠地カルディナまで、ネフィを迎えに行った。

 道中はセーブポイントが使えず面倒を強いられたが、砂漠越え程度あなたは容易い。

 

「いえそうではなく。服を着なさい」

 

 あなたは毅然と反論する。

 ご覧の通り服は着ている、と。

 

「その格好でネフィを連れ歩いたと。正気です?」

 

 言葉の棘が鋭すぎる。

 あなたは改めて、自分の装備を見直した。

 

 まず顔を隠すための紙袋。

 脳筋プリンスと破壊神クマーに特典武具を破壊されたので、あなたはミスティコの修復まで、顔バレ防止の装備を身につける必要があった。

 

 次に薄く透ける布地の羽織り。

 砂漠の日差しは強烈だ。日光を遮り、風通しのよい涼しげな素材で作られた、商人イチオシの品だ。

 

 最後にセパレートタイプの水着。

 やはりおかしな点は存在しない。

 

「水着とネグリジェと紙袋の組み合わせはどう考えても全部おかしいでしょう」

 

 しかし商人は砂漠の夜も熱く、噴き上がる汗も気にならない生地で出来ていると言っていた。

 目利きあなたの見立てに狂いはない。……店は少しばかり大人な品揃えであったが。

 

「それは夜とg……寝室で女性が身につけるための衣服ですから。外着には適しません」

 

 じゃあリリアーナに進呈するか。

 

「はい?」

 

 リリアーナなら有効活用できるだろう。

 是非着てもらいたいとあなたは言った。

 

「いい加減にしなさい」

 

 お、おう。

 

「そういったものは人目を憚る行為です。ネフィもいるんですから時と場合を考えてください。それに一度あなたが袖を通しているものを着てくれだなんて……他の方に同じ事をいったら即通報ものですよ。<マスター>だって社会的に終わりですから、もう少し奇行を自覚してください」

 

 怒涛の剣幕に気圧される。

 

「だいたいですね、事件の後始末や今後の対策で胃が痛いのに、ひょこっと現れて何にも変わらない様子でいつも通り。私がどれだけ悩んだかご存知です?」

 

 あなたは正座した。

 

「分かっています。あなたは友人の私を大切に思ってくれている。それはとても嬉しい事です。だからこそ、あなたは今回の暴挙に出た。世界を滅ぼすかもしれない選択肢を簡単に決めてしまえる……率直に言って、私は恐ろしいと感じました」

 

 ティアンと<マスター>の埋まらない溝。

 根本的に、両者は別世界に生きている。

 特にあなたのような遊戯派は、自他問わず、どうしたってデンドロでの命を軽視する傾向にある。

 

 一人のために世界を敵に回す。

 地竜の王国に喧嘩を売れる。

 衝動的にそれを実現する力がある。

 極論リリアーナの言動が引き金となり、あなたは再び暴走するかもしれない。

 

「私はこの国が大事です。ネフィにミリア、殿下、インテグラ。皆の事が大切です。だから私の大切なものを傷つける人は()()です」

 

 その言葉はあなたに突き刺さる。

 悲しみに染まった衝動で手を伸ばす。

 情けなく惨めに縋り付いたあなたを振り払う事もできただろうに、リリアーナはそうしなかった。

 

「ちょっと。重いです。離れて」

 

 あなたは拒否した。

 高速で首を横に振り、あなたは公衆の面前でみっともなく泣き喚く用意があると宣言する。

 なけなしのプライドを投げ捨てて、だ。

 自尊心があなたの人生で役立った回数など天地における常識的で心優しい博愛主義者の人数ぐらいしか存在しない。つまりゼロという事である。

 一時間のお仕事にも繋がらない不良債権はポメラニアンにでも食わせておけばよい。

 

(こうしていると妙な背徳感が……いえダメよ)

 

 力関係の逆転で新しい扉を開きかけるリリアーナだったが、空気を読んで自重する。

 今は真面目な話をしている場面なんです。

 

「反省してます?」

 

 不肖あなたの蛮行は実に愚かであった。

 誠に慚愧に堪えない。忸怩たる思いである。

 反省の証として、あなたは基本的にどのような要求を出されても受け入れる腹づもりである。

 

「なら、私の大切なものを軽んじないで。あなたと過ごした思い出だって含まれてるんですからね」

 

 今日の出来事をあなたは生涯忘れないであろう。

 交わした視線の熱、瞳の奥で煌めく輝き。

 真の意味で対等に、目線を合わせたリリアーナのかんばせは、あなたに燃えるような衝撃を齎す。

 

 うーんガチ恋距離。

 やはり女騎士は最高でござるな。

 ビジュが最高すぎる。顔面国宝かよ。

 

「っ……あなたという人は、また……!」

 

 あなたの荒んだ精神は完全回復した。

 愚かな真似はしない、と誓いを立てる。

 やるなら圧倒的かつ確実に。目指すは犠牲を出さないパーフェクトゲームのハッピーエンドだ。

 あなたは悲劇も嗜むが、やはり喜劇が好きなのだ。

 

 テンション特盛出血大サービスのあなたから、ここで大事なお知らせだ。

 

 あなたはこれから告白する。

 

「「「!?」」」

 

 野次馬はお仕事に戻るがいい。

 仮にも首都、王族のお膝元で生温い警備を敷いているようでは王家の沽券に関わるというものだ。巡り巡って近衞騎士のリリアーナに責任が生じてしまう。

 あなたは友人とその上司に気遣いができるタイプの遊戯派であるから、兵士を持ち場に追いやった。

 

「ちなみに……お、お相手は」

 

 異なことをおっしゃる。どうやらリリアーナはまだ、自分の状況を理解していないらしい。

 

「私ですか!?」

 

 他に誰がいるというのだろう。

 あなたの視界にはリリアーナしか映らない。

 もはや、とっくの昔から。

 

「いえ! その手には乗りません。まだ許したわけではありませんから。あなたにはしっかりと反省していただいて、今後の身の振り方を考えてもらうつもりで」

 

 意見の一致は成された。奇遇である。

 あなたはリリアーナと今後について大事な話をしなければならない。

 

 普段の十割増しで真剣な表情を浮かべるあなたの異様な雰囲気に感じるところがあったのか、リリアーナは知恵熱でのぼせあがるまで思考を働かせる。

 

(待って。()()()()()なの? 今じゃないでしょう! まだ昼間で職場だしネフィも見ているのに……空気を読まないのはこの人らしいけれど心の準備ができていないのに私はきちんと向き合う事ができる?)

 

 せめて堂々とした態度で話を聞こうとリリアーナは背筋を伸ばした。

 結果、お出しされたのは極度の緊張と困惑でしどろもどろになりまともに受け答えができないデロデロに溶けかかった女騎士のようなナニカだった。

 

「え、ぁ……はう……」

 

 思考と顔面がまるで連携できていない。

 これが俺達の憧れた副団長か……?

 物陰で出歯亀する新兵くんは涙を流した。

 

 ……否、否、否!

 

 彼女はリリアーナ・グランドリア。

 アルター王国近衞騎士団副団長。

 恋愛にうつつを抜かして色ボケ化する常春頭とは生まれが違う。犯罪者予備軍で無職の不審者に言い寄られた程度で屈すると思ったら大間違いである。

 

 限界化したリリアーナに天啓が降りる。

 

(そうよ。きっといつものだわ)

 

 オーバーヒートした彼女の麗しい脳細胞は熱と蒸気とIQ168を叩き出した。

 

 あなたが端的に付き合ってもらいたいと告げた瞬間、同時にリリアーナが大声で遮った。

 

「“罪”を! 罪を告白するって意味ですよね!?」

 

 …………。

 

「ま、任せてください! 本職の聖職者ではありませんが懺悔を聞き届けるくらいなら私だって務め上げて見せますので! ええ! もちろんですとも!」

 

 …………。

 

「あ、すみません。ちゃんと聞こえています。休日でよろしければ付き合いますよ。買い物でも何でも」

 

 …………はい。

 

 友達百人と称された、あなたの天才的コミュニケーション能力の歴史的敗北であった。

 誠に遺憾である。あなたは密かに涙した。

 それはどんな刑罰よりも的確にあなたの心を折る、最大最強の処刑であり。あなたにマリアナ海溝を超過するレベルの深い自省を促したのである。




・主人公
因果応報。

・リリアーナ
致命的失敗のカットインが入る。

・ネフィ
はぁ……やれやれなの。世話がやける両親。
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