無職さんのデンドロ履歴書 作:リリアーナを照れさせ隊
□■決闘都市ギデオン
さあ始まりました<超級激突>。
中央大闘技場は観客で満員となっています。
それもそのはず、なにせ今から繰り広げられるのは東西の<超級>同士による興行試合。頭のおかしい試合になることは疑いようもありません。
あなたは観客席を練り歩き、背中に備え付けたサーバーのキンキンに冷えたエールを売り捌く。
お兄さんお姉さん、一杯いかがですか。
王国内でも指折りの【大醸造家】から仕入れた特製エールが、今ならたったの五百リル。
ええ、今回限りの出血大サービスですとも。
ちなみにこれは闘技場を通した依頼のため売上の六割が中抜きされる契約である。かなしみ。
ただエールサーバーはあなた個人の私物。
最近受けたお仕事の報酬として特注した。
鮮度保存と冷却機能がついたワンオフものだ。
類を見ない泡立ちを実現する至高の一品である。
さすがは機械の国。皇国の技術力は世界一ぃ!
観客の皆様は冷たいエールが美味い。
売上が伸びて闘技場は潤う。
あなたは成果に応じた歩合をもらえる。
まさにウィン・ウィン・ウィンの関係だ。
未成年のお子様はソフトドリンクをどうぞ。
出場者とコラボしたメニューを取り揃えている。
『XD』
「よかったですねベヘモット」
このように若い女子にも大人気。
監修したあなたの鼻は天を衝くほど高い。
さながら嘘八百したピノッキオである。
クマさんの器を抱えて喜ぶハリネズミと、彼女を抱えて観戦する青髪の女性。
裕福な者特有の余裕があるオーラを感じ取って欲を出したあなたは追加注文は必要かと尋ねる。
どうです、そちらのメイデンの<エンブリオ>様。
「……何故、私がメイデンだと?」
女性の警戒心が跳ね上がった。解せぬ。
目の前の女性は左手に紋章を刻んでおり、相応の強者が纏う風格のようなものを醸し出している。
しかし女性からは
具体的には、積み上げてきたであろう経験値、リソースの溜まり具合が人間範疇生物と異なる。
天地で過ごした弊害か、あなたはリソースの流れを知覚する術を身につけている。正確には身についてしまったと言うべきか。こんなもん修羅に片足を突っ込んでいるようなものじゃないか。ジーザス勘弁してくれ。
後は「紋章を刻んだ
女性型なのでTYPE:メイデンと導き出せる。
QED。実に初歩的な推理だ。ワトソン君も頭を抱えるアキュラシーである。
以上を早口で説明し、あなたは颯爽と逃げ出した。
漏れ出る殺気が洒落にならなかったからだ。
世の中には関わってはいけない連中がいる。
戯れに殺意をぶつけるやつとか、<超級>とか。
閑話休題。
やべー女性をえんがちょしたあなたは、いよいよ開幕となるメインイベント直前の休憩タイムを最後のかきいれどきと見てとった。
このままではエールの在庫がくたびれたアラサーリーマンの三段腹の如くだぶついてしまうことは明らか。
泣く泣く定価の一割引(自費負担)を決断し、サーバー内の黄金水をスプリンクラーのようにばら撒いた。
「すみません。こちらにも一杯」
毎度あり!
「……うん。美味しい。海属性魔法で低温を保つようにしてるのかな。だとするとかなりの腕前ですね」
アラビア風の衣装を着た男性は企業秘密をあっさりと見抜いた。おそらく只者ではない。
「今ので最後ですか? もし暇なら一緒にどうです?」
あなたはお言葉に甘えて腰を下ろす。
もともと仕事後は観戦の予定だったのだ。
奇しくも購入したチケットの番号は男性の隣……偶然ではなく、エールの残量を見計らいつつ座席に移動するあなたのジーニアスな深謀遠慮の賜物であったりする。
「おや。始まるようですよ」
舞台に現れる二つの人影。
東、赤コーナーァァァァ!
東方の黄河帝国が<超級>ぅ!
“応龍”の通り名で知られる、長腕長足の大怪異!
かつてはあなたもハートキャッチ♡(物理)!
黄河決闘ランキング第二位のヒールファイター!
【尸解仙】迅羽ゥゥゥゥゥゥゥッ!
西、青コーナーァァァァ!
アルター王国最強の決闘王者!
よく知らないけど強いのは確実!
だってあの人<超級>なんだもんッ!
というかあの装備全部特典武具かぁ?
【超闘士】“無限連鎖”のフィガロォォォォォ!
パージェーロ! パージェーロ!
なんだかんだでテンション爆上がりのあなたはマイクとカメラを手に実況を開始する。
いくつになってもゲーマーはこういうのが好きなのだ。今回は当事者じゃないからヨシ。
隣の男性は驚いているが気にしない。
あなたは周囲に配慮して声量を調節している。
よって誰にも迷惑はかけていないのだから。
『オレはこの試合、フィガロが膝をつくまで一歩も動かねエ』
ヒュー! 迅羽のマイクパフォーマンスだ!
力の差を見せつけてやるとでもー!?
しかし両者はお互いに戦闘系の<超級>。
であれば力量差はさほど開いていないはず。
気になるのはフィガロ選手の<超級エンブリオ>でしょうね。事前情報では未だ一度も試合で使用されたことがないという触れ込みですが……。
いかにして伏せ札をめくるか、相手の初見殺しに対処できるかの勝負になりそうです。
「……それ、ずっと続けるんですか?」
奇人変人を眺めるような顔で言わんでも。
誠に遺憾である。あなたは常識人だというのに。
…………。
…………!?
…………ッ!
き、決まったァァァァァァァァ!
《極竜光牙斬・終極》ゥゥゥゥゥゥゥッ!
見たか黄河! 見たか世界! 刮目せよ!
これがアルター王国の<超級>!
王国は! 未だ! 健在ですッ!
<超級武具>同士の激突を制したのはッ!
【超闘士】フィぃぃぃぃガぁぁぁぁロぉぉぉぉ!
◇◆
『はぁい! みなさんこんばんはぁ!』
『いい勝負でしたねぇ! 面白かったですねぇ!』
『さぁて! 面白い勝負の後には伯爵や王女なんかの、面白くもない演説なり訓示なりがある予定でしたけどもぉ!』
『そんなことは取り止めて代わりに面白いことをしましょう』
『けれど、私が何者であるかは言ってませんからねぇ。教えましょう!』
『はぁい! 私がこの国の王様とその他諸々をモンスターの餌にした張本人! ドライフ皇国の<超級>! ロボットとモンスタークリエイトの最先端! 【大教授】のMr.フランクリンでぇす!』
『ゲームをしよう!』
『このスイッチは私が設置した装置に連動しています。どんな装置かと言うと、私が用意したモンスターをばら撒く装置ですね。押すとランダムに一個開放です』
『押さなくてもあと一時間もすれば自動的に全部開放でぇす。ギデオンの街中にも
『装置を止める方法は二つ。このスイッチを破壊するか、私をデスペナルティに追い込むこと。それで装置は機能を停止して、飛び出したモンスターも全部消える。ね? 簡単でしょ?』
『それとモンスターとは関係ないけれど。君ら王国の第二王女も攫うんで』
『モンスターテロを止めろ! 王女を救え! 非常に分かりやすい図式だねぇ!』
『王国の<マスター>諸君は頑張ってくれたまえ! じゃあそういう訳で、
◇◆
あなたは闘技場のロビーに向かった。
内外を隔てた結界に足止めを受けている<マスター>を尻目に、鼻歌混じりで人の群れをかき分ける。
結界の手前で深呼吸とストレッチ。少し反射する表面を鏡代わりにしてヘアチェックは忘れずに。
「ちょ、ちょっと待てあんた! この結界は通れない! 今来たばかりのようだが、結界を攻撃すると街中のモンスターが解放されるのは聞いていただろう! 壊す選択肢も取れないんだ!」
親切な情報提供者は正しい。
実際、結界はあなたを通さなかった。
なかなか厄介な状況だ。フランクリンの暴挙を防がねば、王国のティアンは<マスター>に失望するだろう。解決方法まで提示されて、数多の<マスター>がいたのに、たった一人のテロを止められないとは。
今頃、国の上層部は腹痛に苛まれているだろう。
その心労は察して余りある。アーメン。
あなたは背中のエールサーバーを投げ捨てた。
左手を掲げて、自らの<エンブリオ>を出す。
「話を聞いてたか!? 攻撃は駄目だって!」
無知蒙昧な群衆が何やら喚いておる。
あなたの【グリゴリ】は戦闘において、気持ちよく晴れた日の雨傘のように役に立たない産廃だ。
しかしそれを余人に理解しろというのは些か酷だろう。ゆえにあなたは磨き上げられたコミュ力をもって、今にも実力行使に出そうな群衆に告げる。
大丈夫だ、問題ない。
「「「問題大アリなんですが!?」」」
ハモった。
そうこうしているうちに準備は整った。
あなたはジョブをリセットした。
あなたは無職になった。
あなたは――
「…………え?」
ネタが割れたら簡単な話。
闘技場の結界は、決闘で使われるものと同じだ。
これは古代の文明の遺産という設定が用意されていて、システムの一部でありながら個人が操作可能という致命的なバグを抱えている。
やはりデンドロはクソゲーでござるな。
フランクリンが結界を意のままに利用したのはこれが理由だろうが、今はそんな話どうでもいい。
重要なのは決闘結界の仕組みだ。
この結界は、
なぜ前述のような抜け穴があるのかは不明だが、初心者が決闘に参加して無惨(動詞)にならないためではないかとあなたは予想している。
ニュービーは大事に育ててやるべきなのだ。半年ROMれとはよく言ったものよ。
今のあなたは合計レベルゼロ。
どこに出しても恥ずかしい無職である。
つまり結論はというと。
ここを通りたくば、汝、一切のジョブを捨てよ。
ジョブリセットが単純明快な解決策だ。
お前も無職にならないか?
「ふざけんな! できるわけねえだろ!?」
「お、俺知ってる! こいつ頭のおかしい無職だ!」
「頭のおかしい無職……なんなんだ一体?」
ですよねー。
『いや、そいつの発言も一理ある。要は合計レベル五十以下の<マスター>なら、フランクリンを止められる可能性があるってことだ』
「あ、子供山さん」
「着ぐるみさんじゃん」
「そうか……そうだな、クマの兄さん! よしお前ら! レベル五十以下のルーキーに協力を要請しろ!」
あなたのソウルジェムは天地色に濁った。
いかん、これでは修羅ではないか。
『なああんた。ちょっといいか?』
脳内の汚染を振り払……どうにか振り払い。
あなたはクマの着ぐるみに向き直った。
なんだシュウ・スターリングか。おっすおっす。
『おっすおっすクマー。それはさておき……うちの
それはつまり、お仕事の依頼だろうか。
王国所属ではないフリーのあなたは、実際のところ、この騒ぎに参戦する義理がない。
もちろん普通はお仕事とあらば話が別だが、
『……何? 先約がある?』
然り。そのためレイ・スターリングおよびルーキーに同行することはできない。
このお詫びはいつか精神的に。シュウに断りを入れて、あなたはその場を後にする。
さて、探している人物はこの辺りにいるはず。
「行った? 行ったよね? ふぅ〜……バレなかったぁ。冷静に考えて俺らだけとか死ぬに決まってるじゃん。むりむり。全部終わるまで隠れてよ〜、と……」
あなたは気配を消して背後から接近する。
物陰で我関せずを貫いたバーベナを確保した後、取り出したロープで簀巻きにした。
「ちょっとぉ!? なんだよもう!」
ときにバーベナのレベルはいくつだろうか。
「え? あー……ご、ごじゅういち、かなぁ」
ダウト。《真偽判定》に反応があった。
この味は……嘘を吐いている味だ……ッ!
あなたは鍛え上げた《看破》を使用する。
バーベナの合計レベルは五十ぴったりだった。
これにはあなたもジョブクリスタルもニッコリ。
やったねダーリン! 第一条件は合格よ!
「いやだ! 絶対にいやだ、たたかわないからね!」
バーベナは断固として譲らない姿勢だ。
ここはあなたの熟練の会話術が火を吹くタイミングかもしれないし、意識を刈り取って無理やり連れ去ることもできるかもしれない。恒久的平和主義を体現するあなたは前者を選んだ。らぶあんどぴーすじゃよ。
報奨金(ぼそり)。
「え?」
これはいわゆる国の一大事。緊急クエストである。
クエストについては非常に経験豊富なあなたの見立てでは、この騒動を解決した<マスター>には多額の報酬が支払われることだろう。
自分が弱いことを知っていて、それでも王国のためと先陣を切って活躍するルーキーなんかは特に……それはもうマジでものすんごいお宝が。たぶん。
「お、お宝……ごくり」
加えて、勝てば官軍という言葉がある。
もし王国が勝利した場合。協力したバーベナに与えられる栄誉は、やはりそれはもうマジでものすんごいことになるだろう。みんなからはチヤホヤされて、尊敬されて、きゃー素敵よ抱いて! となる。たぶん。
「ふーん……へえー?」
最後に。あなたのお仕事に協力するなら、バーベナの借金をチャラにしてもいい。
「乗ったぁ! まったく〜。そんなにバベちんがいないとダメっていうなら、しょうがないよねぇ!」
チョロい。実にチョロい。
説得ロールに成功したあなたはガッツポーズを取る。
バーベナが パーティに くわわった!
「それでぇ? 俺は何をすればいいのさ」
あなたが受けたお仕事はひとつだ。
スローター系のクエストで目標はシンプル。
現在、闘技場の外にいる
「………………敵じゃんッ!!?!」
だいじょうぶ。無職さんだからね