無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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遊戯派と世界派

 □■決闘都市ギデオン

 

 フランクリンの刺客、【JJJ】。

 大層なお題目を付けたモンスターが動くより早く、あなたは敵に接近していた。

 

 愛刀で首を刎ねる。心臓を突く。

 人体の急所を狙ったあなたの十八番だ。

 部位欠損で生き物は死ぬ。

 

 あっさりと道化師は倒れた。

 

「弱くない?」

 

 バーベナの疑問はもっともである。

 <超級>があなたを負かすために造ったと豪語する虎の子モンスターがこの程度で死ぬだろうか。

 あなたの戦力評価を低く見積もられていた可能性は考えないものとする。十分にあり得るので。

 

 だが、心配は杞憂に終わる。

 

 何事もなかったかのように異形の道化師……【JJJ】は起き上がった。切断した首を掴みながら。

 

 あなたは驚愕で目を見張った。

 なんということでしょう。

 殺す気で放った一撃が、まるでダメージになっていないではありませんか。

 心臓の傷はぽっかりと空洞になっており、刺突に押し出されて欠けた部位は浮遊している。

 あなたは何故か無性に心太が食べたくなった。

 

『驚いてますねぇ。訳が分からないよねぇ! どうして自慢の攻撃が通じないのか!』

 

 現実に戻ったら通販サイトをポチろう。

 届くまでの時間はお楽しみである。

 

『そこぉ。話を聞いてますかねぇ?』

 

 もちろん聞こえている。

 賞味期限切れには気をつけるつもりだ。

 

『全く聞いてないじゃないか……つ・ま・り! この【JJJ】は君に対して無敵というわけさ!』

 

 フランクリンはあなたに絶望を突きつける。

 【JJJ】は《物理攻撃無効》および《魔法攻撃無効》その他のスキルを持っている。

 通常は到底不可能な耐性スキルの詰め合わせだ。

 しかし、フランクリンの<超級エンブリオ>があれば無敵のモンスターを造る事など容易いのだと。

 

 なるほど理解した。加減しろバカ。

 やはり<超級>は頭のおかしい連中ばかりだ。

 砂漠一帯を丸ごと底なしの蟻地獄にしたり。

 怪獣パンチで城壁を吹き飛ばしたり。

 付き合っていられるか。実家に帰らせてもらう。

 

 あなたはため息を吐いて挙手をした。

 さて、ここで質疑応答のお時間だ。

 素人質問で恐縮ですが。

 

 それ、本当に無敵ですか?

 

『だーかーら、そう言っているだろう? 《真偽判定》で確かめたらいいじゃないか』

 

 たしかにフランクリンは嘘を吐いていない。

 では、本当に無敵ならこう喧伝すればいい。

 【JJJ】は無敵で誰にも倒せない、と。

 

 しかしフランクリンはそれができない。

 答えは簡単。【JJJ】は無敵ではないからだ。

 

『…………』

 

 先程フランクリンは言った。

 あなたに対して無敵のモンスター。

 無敵のタネはそこに隠されていると見た。

 

『……それで?』

 

 後学のために、ぜひトリックを説明してはもらえないだろうか。あなたにはまるで検討もつかない。

 

「バカなの?」

 

 素人なのだから仕方ない。

 少なくとも【教授】のジョブに就いたあなたに同じ芸当は不可能である。

 これだから<超級>は始末に負えないのだ。

 

『いいでしょう。説明してあげます。【JJJ】のスキルは条件を設定する事でリソースをやりくりしてましてねぇ。「合計レベル五十以下の人間範疇生物」からの干渉は全て無効化しまぁす!』

 

「俺もダメじゃん……いや戦わないけど……え、でもあんたレベル上げしてなかったっけ」

 

 あなたはフランクリンに脱帽した。

 目の付け所がジーニアス。実に天晴れである。

 思わず手放しのオベーションで賞賛した。

 

 バーベナの疑問に答えると、現在あなたの合計レベルはバーベナよりも低い。

 

 なぜなら無職だから。

 否、ジョブをリセットしているからだ。

 

 あなたの<エンブリオ>、【天職才人 グリゴリ】はどこでもジョブの就職とリセットが可能だ。

 これを利用して様々なお仕事をこなしてきたし、闘技場の決闘結界をすり抜けることができた。

 

 だが問題もある。

 就いているジョブをリセットすると、ジョブレベルは失われてしまう。また一からのスタートだ。

 グリゴリはこれまで就いたジョブのステータスを保持するスキルがあり、普段はデメリットを感じないが。

 ちなみにリセット後、再就職した場合はグリゴリのステータス保持もレベル一相当に更新される。

 

 今のメインジョブは【失業王】。

 闘技場を抜けてから就職したので、百人斬りの経験値を加味しても合計レベルは十そこそこ。

 逆立ちしてもあなたは【JJJ】に勝てない計算だ。

 

 それにしても見事な計略である。

 実力者は闘技場の結界内に閉じ込める。

 結界を通り抜けることができるルーキーは寝返り組と自前の戦力で対応。

 そしてあなたに天敵……合計レベル参照スキル持ちの特攻モンスターをぶつける。

 こいつは参った降参だ。リザインリザイン。

 

 あなたは両手を上げて式神を召喚した。

 

 《式神:栗鼠虎(リストラ)》。

 《式神:貝虎(カイコ)》。

 《式神:風貂(フーテン)》。

 

 それぞれ敏捷、耐久、魔法に長けた亜竜級のあなたオリジナルモンスターである。

 おら、モンスターなら攻撃できるだろう。

 生憎と今は従魔の手持ちがないので召喚モンスターで勘弁してほしい。

 

 あなたの忠実な式神は攻撃を仕掛けた。

 

 ()()()()()()()

 

『無駄無駄ァ! 私が対策をしていないと思った? 【JJJ】はモンスターを雌雄問わず【魅了】にかけて操れるんですねぇ。ま、どちらにせよ召喚主が君なら無効スキルの適用範囲とみなされますが』

 

 裏切り者の式神を倒し、あなたはアイテムボックスの【ジェム】を投擲するがこれも無効。嘘だろ。

 

 あなたは煙幕を焚いた。

 

 あなたは逃げ出した。

 

「どうすんのさ! 追っかけてきてるよ!」

 

 背負ったバーベナが【JJJ】を観測している。

 相手のステータスは超音速に届かないようだ。

 総合すると上位純竜級。否、スキルの特異性もあるが伝説級モンスター相当か。

 

 心配はいらない。あなたには考えがある。

 

 そもそも【JJJ】と戦う理由がどこにある。

 

「……たしかに」

 

 タキオンの加速があれば余裕で逃げ切れる。

 恐らく無効スキルに割り振っている分、【JJJ】の戦闘能力……特に攻撃性能はお察しだ。

 あなたやバーベナでは倒せないが、高レベルの人間なら多少苦戦はしても討伐できるだろう。

 

 身近な味方だとリリアーナ辺りに【JJJ】をなすりつければ万事解決なのである。

 トレインしてのMPKには一家言あるあなただ。きっと余計なモンスターまで引き連れることでしょう。

 

「いや殺すなし。でも、ってことは」

 

 あなたが目指すは西門。

 リリアーナ達が向かった方角である。

 

 あなたは【JJJ】のド派手な砲撃を回避して逃走劇を繰り広げるのだった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 フランクリンの想定通りに状況は動いた。

 襲いかかる【ジョブレス・ジャム・ジョーカー】に対して、“無色”は逃走を選択。

 問題ない。むしろ、そうするように仕向けたのだから逃げてくれなくては困る。

 最初から【JJJ】で“無色”を倒せるとは考えていない。

 

 対策その一、合計レベル参照の無効スキル群。

 レベル五十一以上の相手には無意味の防御だ。

 だがそれでいい。「高レベルの人間に倒してもらう」という選択肢を与えるのが隠れた罠。

 

 対策その二、モンスターの【魅了】。

 こちらは保険として付与したスキルだった。

 かの【魔将軍】のような召喚、あるいはフランクリンの知らない強力なモンスターを手駒にしている場合、誘導に嵌まらないリスクがあった。杞憂だったが。

 

 対策その三、隠蔽および索敵。

 忍者よろしく逃げ回る相手に、偽装を無効化する索敵能力は必須だった。

 実際に《煙遁の術》や《気配操作》を使われても【JJJ】は標的を見失うことはない。

 

「そう……寝返り組を倒すよう依頼したのも、全部このための布石」

 

 【JJJ】は王手(チェック)をかけるための駒。

 既に盤面は詰んでいる。

 フランクリンの計画通りに“無色”は進む。

 

 悪意で舗装された――地獄への道を。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 あなたは西門前に到着した。

 超音速起動で【JJJ】を撒いたのでバーベナはグロッキーになっているが必要な犠牲だった。

 コラテラルダメージ、コラテラルダメージ。

 

 あなたは加速したまま飛び込んだ。

 乱立する<マスター>の氷像という光景と。

 西門を守る一機の<マジンギア>に構わず。

 

 耐寒系の《レジスト》を重ねがけして、邪魔な門番を一掃せんと突撃し。

 

『――――』

 

 ――あなたの全身は凍結した。

 

「うぇ?」

 

 背中にいたバーベナは無事だ。

 しかし、突然の事態に理解が追いついていない。

 あの無職が? 一撃でやられた?

 

『……看板を読まなかったのか。「この先、<マスター>通ること叶わず」と書いておいたのだが』

 

「え……なに、これ……は?」

 

『ゆーごー。このこ、ぜろだよ』

 

『問題ない。彼女には戦意も、先に進もうという意志も感じない。あの人から頼まれた不確定要素、ジョーカーの排除も済んだ。……レディ。命が惜しければここから立ち去る事をお勧めする』

 

「ひっ……う、うわぁぁぁ!?」

 

 バーベナは逃げ出した。

 フランクリンのハート、ユーゴー・レセップスと<エンブリオ>のコキュートスは彼を見逃した。

 西門を任されたユーゴーの役目は向かってくる王国の<マスター>を倒すこと。

 そして危険人物と伝えられていた“無色”……<マスター>狩りの依頼で同族討伐数を跳ね上げたジョーカーを確実に仕留めることだったから。

 

『まあ、ふつーにひゃく、こえてたから。きょうひとりもころしてなくても、かてた。ぶい』

 

『そうか。ちなみにいくつだった?』

 

『いちまんと、ちょっと』

 

『天地の<マスター>は恐ろしいな。まともにやれば私が負けていただろうね』

 

『あとゆーごー。さっきのこ、おとこ』

 

『なん、だと……?』

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■<ジャンド草原>

 

 一人の例外が倒れ、しかし事態は変わらず。

 戦いは終わりに近づいていた。

 

 フランクリンの改造モンスターに勝利した【聖騎士】レイ・スターリング。

 彼の死闘は街中に映し出されていた。

 全身に火傷を負い、左腕を炭化させてまで。

 王国のために死力を尽くした<マスター>。

 おかげでギデオンにモンスターは解放されず。

 

 フランクリンの野望は潰えた。

 

 プランA。

 多くの<マスター>を闘技場に閉じ込め、王女の誘拐を宣言した上で実行するプラン。

 結界を通れるルーキーや市街地にいた実力者はフランクリン自前の戦力で片付ける。

 王国のティアンから<マスター>に対する信頼は失われて、<マスター>がいればきっと戦争に勝てるという淡い希望は儚くも夢と消える。

 あとは皇国が勝利宣言を告げて、敗戦者となった王国を属国になりして接収すればよかった。

 

 プランB。

 ギデオンに仕掛けたモンスター解放装置を起動、王国側が混乱している間に王女を連れて逃走するプラン。

 フランクリンのもとに邪魔者が辿り着くか、フランクリンがデスペナルティになった場合の次善の策。

 

 計画は阻止された。王国の完全勝利だ。

 おまけにフランクリンの個人的な意趣返し……そのうち達成されたのは片方だけ。

 端末のマップから白いジョーカーが消えた時に少し溜飲が下がったというだけの話。

 それも復讐対象の一人、レイ・スターリングのどんでん返しで差し引きマイナスだった。

 

『いやだなぁ、本当に参っちゃうよねぇ。プランAもプランBもダメなんて……。もうすぐ闘技場からこわーい脳筋共が出てくるだろうし。もうこうなっちゃったらプランCをやるしかないよねぇ?』

 

『プランC……()()()()()()()()()()の改造モンスターによるギデオン殲滅作戦を開始しますねぇ』

 

 光学迷彩を解除して威容を示す伏魔殿。

 フランクリンの<超級エンブリオ>、【魔獣工場 パンデモニウム】から吐き出されるモンスター。

 もはやフランクリンが死んでも大群は止まらない。広域制圧型を前に個人の戦力など豆粒に等しい。

 闘技場に閉じ込められた者達が駆けつければ対抗できるかもしれない。それでも時間が足りない。間に合わない。戦力が揃う前にモンスターはギデオンを蹂躙する。

 

 だが、絶望に屈しない者がいる。

 

「時間を稼ぐ。まだ終わってなんかいない。この歩みと剣を振る腕を止めるにはまだ早い」

 

 それはもはや死に体の騎士。

 諦めずに戦況を覆したルーキー。

 

「――眼前に、お前と悲劇が在る限り」

 

 ――レイ・スターリングは立ち上がる。

 

 あなたの興奮は最高潮に達した。

 これだからデンドロは最高だぜ!

 あなたは悲劇も嗜むが、やはり喜劇が好きなのだ。

 

「あ、あなたは……!?」

 

 リリアーナと聖騎士達に回復魔法をかける。

 クソ道化師からドロップしたクラッカーを鳴らし、あなたは英雄の誕生を言祝いだ。

 

 いやはや、フランクリンに見事にしてやられた。

 まさか殺害数比例の特攻スキルとは。

 凍結したのが分身でなかったら死んでいる。

 なおケジメはつけてきたので、虎の子モンスターの【JJJ】はあの世行きだ。

 

 あなたは【JJJ】に二つの策で対抗した。

 ひとつはリリアーナMPK(殺さない)。

 これは西門の門番によって阻まれてしまったが。

 

 もう一つは単純な真っ向勝負。

 古来よりMMOではまことしやかに先人から語り継がれてきた格言がある。

 曰く、レベルを上げて物理で殴れ。

 レベルが足りないならレベル上げ。

 RPGゲーマーとしての常識であった。

 

 具体的には《影分身の術》を使い、街中のモンスターと見かけた<マスター>を辻斬りした。

 ドロップのなかに経験値獲得アイテム、【リソース・チャージャー】が混ざっていたこともあり、【失業王】のレベルを五十一にまで上げることができた。

 あとは首を刎ねるだけの簡単なお仕事です。

 

「そ、そうですか……ところでそれは?」

 

 リリアーナはあなたの頭上に燦然と輝く光輪と、背中に生えた白翼を指し示す。

 

 見るからにリリアーナは疲労しており、かつ問答に時間を費やしている余裕はない。

 それでも気になるなら簡潔に答えるのがあなたの甲斐性であり優しさというものだ。

 

 これは輪っかと翼である。

 

「名前について尋ねたのではありません!」

 

 怒られた。解せぬ。

 まあリリアーナが気にする必要はない。

 単なる()()()()の副産物なのだから。

 おお、しんでしまうとはなさけない!

 

「…………」

 

 なぜかリリアーナは口を閉ざした。

 黙ってあなたは《心理分析》を使用する。

 むむ、見える、思考が見えるぞ。

 

 …………。

 

 人には人の仕事がある。

 あなたは頼まれてもいないのに、誰かのお仕事を横取りするような真似はしない。

 

「……! あなたは」

 

 待つがいい。人の話は最後まで聞くものだ。

 

 レイ・スターリングはまだ死んでいない。

 決して折れない意志を眼差しに宿している。

 彼が諦めない限り……小数点の彼方にある希望に手を伸ばし続ける限り。

 王国は終わらない。

 悲劇が訪れることはないのだ。

 

 安心するといい。

 <マスター>は総じて、数多の世界(ゲーム)を救ってきたプロフェッショナルであるからして。

 しかも遊戯派(あなた)と正反対の世界派(しゅじんこう)だ。

 ご存じだろうか。

 最後に必ず勝つのが主人公だ。お約束である。

 

 ……それでも、まだ不安なら。

 

 更なる助けを望むなら。

 あなたはその声に応えよう。

 依頼主とお仕事があるところにあなたあり。

 レイ・スターリング一人ではどうしようもない悲劇が押し寄せるのなら。

 あなたは持てる全ての力でこれに対処する。

 報酬は要相談。

 

 あなたは依頼主を尊重する有能な<マスター>だ。

 

 だから【聖騎士】のお仕事を寄越すがいい。

 ジョブクエストで人助けをして、あなたは《グランドクロス》を習得したいのである。

 

「最後で全部台無しですし、もう習得されてるじゃないですか。本当にあなたという人は……」

 

 言葉とは裏腹にリリアーナは微笑んでいた。

 もう少し言い方があると思いますよ、常識的に、などと呟きながらデコピンを受けた。痛みはない。

 誠に遺憾である。あなたは常識人だというのに。

 今のやり取りのどこが非常識なのだ。

 

「近衛騎士団副団長リリアーナ・グランドリアが、異邦の<マスター>に要請します。――王国の敵を打ち果たしてください」

 

 ――請け負った。契約成立である。

 

 あなたは戦支度を整える。

 

 あなたに一発逆転の必殺技はない。

 あるのは、積み上げてきた経験だけ。

 

 まずは【編幻似剤 ミスティコ】を使用する。

 あなたは黒髪の少女に変身した。

 

 続けてアイテムボックスを解放。

 ちまちま溜め込んだ【埴輪】を足元に放出した。

 山のような埴輪は一財産だが、背に腹はかえられない。今から莫大なMPを要求されるからだ。

 

 最後にあなたは愛刀を構える。

 打たれた銘は【分御髪(わけみかみ)】。由緒正しい、天地の妖刀四十二染が一振りである。

 愛刀を首筋に当てる。あなたの射干玉の如き鴉色の髪が一房、宙を舞い、妖刀が吸収する。

 

 さあ起きろ毛フェチ。昔の女の毛髪だ。

 本人ではなく、ガワだけの複製だが構うまい。

 

 百万を超えるMPが【埴輪】から妖刀に捧げられる。

 覚醒した妖刀は姿形を変えた。

 やがてそれは一匹の白竜に転じる。

 嵐を呼ぶまつろわぬ竜。生前の姿を象って。

 

 黒雲を背にした竜の咆哮は雷雨を招く。

 雨は礫に、落雷は鏃に。

 天より降り注ぐ広域殲滅(マップ)攻撃。

 

 もちろんあなたもやる気である。

 白竜に跨ってモンスターに突貫する。

 ヒャッハー! まとめて皆殺しだぁ!

 

 

 ◆◆◆

 

 

 たった一人。

 フランクリンの群勢を一人で消しとばす。

 白竜に乗った女の非常識な振る舞いを、フランクリンはただただ見つめることしかできない。

 正確には、見つめているからこそ情報の洪水に押し流されそうになっているのだが。

 

「いやいや……」

 

 フランクリンのメインジョブは【大教授】。

 モンスター生産に特化した超級職だ。

 その固有スキル《叡智の解析眼》は対象のステータスや保有スキルを明らかにする。

 暴れ回る女を観察して分かったことは。

 

「なんだい、このふざけたステータスは」

 

 ◆

 

 美少女あなた

 職業:【失業王】

 レベル:51(合計レベル:51)

 HP:76(+314159)

 MP:19(+223606)

 SP:21(+114194)

 STR:14(+26457)

 AGI:16(+31622)

 END:8(+28284)

 DEX:15(+17320)

 LUC:7(+100)

 

 ◆

 

 明らかに改竄されたステータス表記だ。

 おい名前。お前のことだよ。

 そして基礎ステータスが低過ぎる。

 ジョブに就いていないレベル0と同程度とは。

 

「失業の王の名前通りというべきか。レベルアップ時のステータス上昇幅が最低値。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()超級職?」

 

 加算表記のステータスは<エンブリオ>のスキルと推測できる。諜報活動で知った確度の高い情報だ。

 であればジョブと<エンブリオ>のシナジーが発揮されていると言えるだろう。

 フランクリンがそう判断した理由の二つ目は、先程から無法を働いている女のスキルだ。

 

 攻撃魔法に剣技、召喚、バフ。

 明らかに就いているジョブと別系統のジョブスキルを好き勝手に使える訳。

 

 それが【失業王】の奥義《職務経歴(ジョブ・レコード)》。

 説明文には「次のジョブに就職するまで、これまでに消したジョブのスキルを保持できる」とある。

 理論上【失業王】は全てのジョブスキルを使用可能ということ。もちろんジョブに就職してスキルを獲得する必要はあるのだろうが。

 

「本来は【失業王】の低いステータスでは満足にスキルを使えず、他のジョブに就いてカバーしようにも奥義の条件を満たせなくなる。うちの【獣王】みたいな噛み合わせの悪いジョブだったはず……」

 

 しかし<エンブリオ>と<マスター>の登場で、やつはハジけた。

 

「というかあいつ死んだはずだろう。どうしてまだ生きている? ……ああ、分身体か。だけどあの子の《地獄門》を越えられた理由が分からない……待てよ。姿形に性別を変えられる例の特典武具なら……だとしてもあの時点ではまだ使用していなかった」

 

 この際、アバターごと作り替えているために名前やステータス表記も偽装編集できるのだろう特典武具の【ミスティコ】は考察から除外する。

 なんでもありか神話級。

 元の<UBM>が見てみたいわ。

 

「とすれば、ジョブの種族変更」

 

 たとえば【大死霊】はアンデッドに。

 東方の【鬼武者】なら鬼に。

 就職した時点で人間から種族が変わるジョブは一定数存在する。それはフランクリンも知っていた。

 同族とみなす対象が人間ではなくなれば、当然<マスター>をいくら殺していたところで関係無い。

 

「討伐数からして該当種族は天使? そんなジョブがあるなんて私も聞いたことないんだけどねぇ」

 

 情報収集を怠ったから敗北した?

 否、フランクリンは最悪を尽くした。

 あまりにもふざけた頭のおかしい<マスター>を巻き込んでしまったことが敗因か。

 

「……あ、そういや【破壊王】もいたねぇ。どちらにせよ追い込まれた時点で私の負け、か」

 

 雷雨の中、モンスターを千切っては投げを繰り返す【破壊王】と砲撃を開始した陸上戦艦。

 これで万が一にも勝ち目はなくなった。

 フランクリンの計画は全滅だ。プランD? スペードの戦術核? とっくに対処されていますとも。

 

「それにしても……ああ……本当に」

 

 パンデモニウムから女を見つめる。

 モンスターのドロップアイテムを片手に高笑いする奇人変人の凖<超級>の笑顔に。

 

「――楽しそうだねぇ」

 

 全く愉快ではないフランクリンは、気が済むまでの期間リスポーンキルすることを決意して、もう一人の邪魔者(レイ・スターリング)を迎え撃つのだった。




【守護天使】
司祭系統派生上級職。二次オリジョブ。
種族が『人間』から『天使』に変更される。
ロストジョブ化していたが、ある日無職さんと出会う。

・《職務経歴》
※ただし超級職のスキルは除く

【JJJ】
バラ◯ラの実+猛獣使い+◯ギー玉
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