無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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幼い子供に馴染みはある大工の棟梁

 □■決闘都市ギデオン

 

 ギデオン存亡の危機から一夜が明けて。

 一番街の騎士団詰所では、フランクリンの事件で亡くなった者達の合同葬儀の準備が進められていた。

 

 近衛騎士団、十八名。

 ギデオン騎士団、十五名。

 衛兵、二十八名。

 

 犠牲者の遺体が入った合計六十一個のアイテムボックス……“棺”が安置されている。

 作業を手伝ったあなたとバーベナの元に、教会から派遣された司教が声をかけた。

 

「ご助力感謝します。<マスター>殿」

 

 あなたは首を横に振った。

 頭を下げる必要はない。

 あなたは受けたお仕事を遂行したに過ぎない。

 

「いいえ。貴方のお陰で、遺体の損壊は最低限に留まりました。生前のまま……まるで瞼を閉じて、安らかに夢を見ているかのようだ」

 

 遺族の許可を得たあなたは、運ばれてきた遺体を可能な限り【高位納棺師】のジョブスキルで修復した。

 命を落とした直後に処理をしていれば蘇生魔法が間に合ったかもしれない。

 だが、現実はそうではない。このゲームに時計の針を巻き戻す機能は実装されていない。

 

「バーベナ殿も、あまり気に病まれませぬよう」

 

「…………」

 

「……あとは我々が。少しお休みください」

 

 お言葉に甘えて、あなたは意気消沈したバーベナを連れて外に出た。

 

「はぁーやだやだ。あーいう空気、こっちまでやな気分になるよねー……なんて、言えたら楽なんだけど」

 

 あの夜、敵前逃亡したバーベナはなにやら思うところがあるらしい。しかし明確に言葉にするだけの考えはまとまっていないようだ。

 

「あんたはさ。慣れてるの?」

 

 問いがNPC(ティアン)の死という意味なら是だ。

 このゲームにおいて<マスター>の命は軽い。

 それ以上にティアンの命は容易く失われる。

 

 あなたとてティアンを殺害した経験がある。

 無論、正当防衛に限るが。

 今さら感傷に浸るほどの出来事ではないのだ。

 

「じゃあ……なんで、そんな顔」

 

 続く言葉を拾う前に。

 

 あなたは背後から刺された。

 

 小さなナイフは防具に阻まれている。

 よってあなたのHPはミリ単位も減っていない。

 凶行に及んだティアンの少年は、そうと知らずに、無意味な行為を続けている。

 

「ちょっ、何してんの君」

 

「うるさい! 死ねぇ!」

 

 あなたはナイフをつまんだ。

 ついでに少年を放り投げた。

 

「何してんだバカ!?」

 

 問題ない。今のは正当防衛である。

 

「……ッ、あんた動くなよ! 絶対に手を出したらダメだからな! 君、怪我してない?」

 

「触るな!」

 

 あなたの繊細な力加減ですり傷ひとつない少年は、差し伸べられたバーベナの手を振り払う。

 なんと無礼なお子様だろう。バーベナの日頃の行いが悪いと言えばそれまでだった。

 

「お前らの……<マスター>のせいで! 父さんは死んだんだ!」

 

 憎悪を吐き出す少年は遺族の一人。

 近衛騎士団に所属していた者のご子息だった。

 今回の事件は<マスター>のフランクリンが引き起こしたもの。当然思うところがあるだろう。

 誠実な常識人であるあなたは彼の心情と境遇を慮り、甘んじて暴言を受け入れることにした。

 

「なんでだよ。なんで父さんが死なないといけなかった? なんでもっと早く助けてくれなかった? <マスター>は英雄? それなら、父さんは……()()()()()()()()()()じゃないか!?」

 

 涙を流す少年を、あなたは張り飛ばした。

 ついでにバーベナも張り飛ばした。

 

 くだらない。実にくだらない戯言だ。

 あなたは怒りに震えていた。

 必ずや愚かな少年を戒めねばならぬと決意した。

 

 あなたは転がる二人を簀巻きにして担いだ。

 

「「ムー!?」」

 

 ついてこいジャリガキ。

 お前の勘違いを訂正してやろう。

 

 

 ◇◆

 

 

 というわけで、お仕事の時間である。

 今回のお仕事は復興作業。半壊したギデオンの街を人間が暮らせるレベルに修復する工事だ。

 依頼主はギデオン伯爵ならびに行政機関のため報酬は折り紙付き。公共事業は信頼度が段違いでござるな。

 

「……またあなたですか」

 

 誤解である。あなたはリリアーナに弁明した。

 

 あなたは工事現場手前で拘束されていた。

 罪状は児童誘拐。近隣住民の通報を受けて、やってきたのは近衛騎士団副団長。暇なのだろうか?

 

「これっぽっちも暇ではありませんが!? あなたを止められる人間が他にいないという理由で呼び出されたんですよ!」

 

 だからといって実質的な近衛騎士団のトップを、あなた如きの<マスター>に派遣するとは。

 騎士団は深刻な人手不足が懸念される。

 ぜひお仕事を回してもらいたいものである。

 

 ともあれ。誤解を解いたあなたは、さっそく工事に参加することにした。

 少年とバーベナは見学だ。

 リリアーナは責任者と話があるそうな。

 あなたを監視して目を光らせている。解せぬ。

 

 しかし、向かった先に責任者はいなかった。

 

「この資材どこに運べばいいの?」

 

「違うって。それじゃ道が塞がっちまうよ」

 

「誰だこの豆腐建築したやつ」

 

 阿鼻叫喚。工事の全体像を把握する責任者が過労で倒れたことで混乱が広がっているようだ。

 主に善意の<マスター>のやる気が空回りしていると見受けられる。ティアンの役人は軌道修正を働きかけるので精一杯。さては新人さんかな? かわいそうに。

 

 聞けば応援は要請しているとのこと。

 それまで繋ぎで働くのはやぶさかではない。

 あなたはてんてこ舞いで目を回す新人役人に営業を仕掛けて、臨時監督の立場を勝ち取った。

 

 まずは指揮系統を把握せねばお話にならぬ。

 あなたは仮設本部を設置した。てやんでい。

 大工系統の上級職【棟梁】のセンススキルを存分に発揮した結果、ギデオンに白亜の館が屹立する。

 

「いやホワイトハ◯スぅ! これ大丈夫? 偉い人に怒られたりしない!?」

 

 バーベナの心配は杞憂である。

 必要な建築資材は自前で用意した。

 工事後は取り壊すので日照権の心配も不要。

 デザインは他人の空似なので気のせいだ。ヨシ!

 

 一日プレジデントとして、あなたは分身して書類と人員配置の確認を進めつつ、作業に参加した。

 文武両道を掲げるあなたは生産職のスキルも鍛え上げている。戦闘しか能の無い修羅とは違うのだ。

 壊れた家屋が邪魔なら《破城槌》。

 岩盤をぶち抜く《削岩穿》。

 ああ〜力こそパワ〜デストロイ〜(ビブラート)。

 

「こちら確認をお願いします」

 

 リリアーナを秘書のように働かせてしまっているが、騎士団の方は大丈夫なのだろうか。

 

「大丈夫ではないですね。ただ、あなたから目を離す方が大事になるので……ところで。あの子の事ですが」

 

 リリアーナは遺族の少年を一瞥する。

 バーベナに容赦ない腹パンを入れていた。

 

「もし心無い言葉を投げかけられていたら代わりに謝罪します。許してあげてとは、言えませんけど。あの子も今は辛い状況で……<マスター>にどう接したらいいのか分からないのだと思います」

 

 あなたはリリアーナの言を笑い飛ばす。

 子供の暴言にいちいち目くじらを立てるほど、あなたは狭量な人間ではない。

 なお本気で殺しに来た場合は当然返り討ちにする。

 殺していいのは殺される覚悟があるやつだけだ。

 乱世の習いとはそういうものである。

 

 少年とは親しいのか。

 あなたはさりげなく尋ねてみる。

 

「いえ、直接話したことは。でも彼の父親は家族好きでしたからね。色々と聞く機会がありました。ですから……今回の事は本当に残念です」

 

 騎士団を率いる副団長としての責任感。

 傷ついた相手の心を慮る優しさ。

 どちらもリリアーナの美徳ではあるが、気にし過ぎるのはいかがなものだろうか。

 せっかくの端麗な美貌が台無しだ。

 無論それで彼女の内心の清らかさが損なわれるということはないのだが、美人が落ち込むと周囲も陰る。リリアーナは自分の影響力を自覚した方がいい。

 

「……あの、口に出てます。全部出てます。お願いだからやめてくださいよもぅ……」

 

 次第に抗議の声量が下がっていく。

 俯いた顔は微かに朱が差し、耳は真っ赤。

 やっべ。やり過ぎたか。いやまだ舞える。

 怒りのボルテージを慎重に見定めつつ、あなたはコミュニケーションを続行する。

 

 リリアーナがそれではあなたも気落ちする。

 はあ。なえぽよ。

 リリアーナは責任を取るべきだ。

 

「せ、責任ですか?」

 

 然り。これはもう……してもらうしかない。

 

「…………へぇっ!?」

 

 肝心の内容を思いつかなかったクソボケあなたは、該当箇所を適当に誤魔化した。

 まあお互い大人だしなんとなくで伝わるっしょ。

 

「ま、待ってください! え、ええ? な、なんで今そんな……今だからですか? でも流石に不謹慎が過ぎるといいますか……それに私はまだ騎士団の勤めがあるので家庭に入るとかそういうのはちょっと」

 

 なにやら風向きがおかしい。王都の方角から二種類の殺気を感じたあなたは前言を撤回した。

 今のは冗談である、と。

 

「は?」

 

 怒られた。マジで怖かった。

 リリアーナの目からハイライトが消えていた。

 あなたは二度とこのようなおふざけをしないと誓わされた上で、ホワイトハ◯スを叩き出された。

 

 地べたを這うあなたを少年が見つめる。

 隣ではバーベナがアザだらけで倒れていた。

 子供に喧嘩で負けるとは情けない。恥を知れ。

 

 少年は瞳に疑問を宿していた。

 

「なんで俺を連れてきたんだよ」

 

 あなたは応じる。この光景が答えだ。

 街を復興する人々は互いに手を取り合っている。

 これは何故だろうか。

 

 答えは簡単。お仕事があるからだ。

 人はお仕事で繋がり、世界は今日も回っている。

 ティアンとか<マスター>とか、違いなんぞは些末な事。我々も人間ですので。

 お仕事の前では人類皆平等だ。

 

 そして職業に貴賤はなく、お仕事をする者は誰しも尊重され、敬意を払われるべきだとあなたは考える。

 

 何が言いたいかというと。

 

 この光景を、少年が生きるギデオンの未来を、騎士達は命を賭して守り切った。

 その働きは素晴らしい功績だ。

 決して貶められてはならないのだ。

 

 たとえ実の息子であっても。無駄死にだったと……彼のお仕事は無意味だったと、口にすることをあなたは許さない。天が許しても絶対に。

 

「……お前、父さんを知ってるのか?」

 

 たった一度、杯を酌み交わしただけの間柄だ。

 騎士団の詰所でリリアーナに叱られるあなたを笑った、実にいい度胸をした騎士であった。

 が、知っているというのは烏滸がましい。

 あなたにとっては単なるゲームの登場人物に過ぎない。それもモブに近いNPCであるからして。

 

 だけれども。

 好きな人間(キャラ)の死を悲しんで何が悪い。

 

「ごめんなさい。俺、勘違いしてた。<マスター>だからって、みんなが悪いやつじゃないんだよな。俺達を助けてくれたのも…… <マスター>なんだもんな」

 

 そうじゃない。そうだけどそうじゃない。

 あなたが少年に言いたいのはお仕事に敬意を払えということであって云々かんぬん。

 

「いい感じに話まとまったんだから黙りなよ。小うるさい大人は嫌われるよぉ」

 

 黙るのはバーベナである。

 お前にこそ伝えたい。お仕事には敬意を払え。

 あなたは愛刀の鯉口を切った。

 

「ぴぃ!?」

 

「あはは! ……決めたよ。俺は、父さんみたいな騎士になる。立派な騎士になってこの国を守るんだ」

 

 少年の決意は固いようだ。

 その眩しさをあなたは羨ましいと感じる。

 未だ持ち合わせていないものであるからして。

 

 もうしばらく王国の未来は安泰なのだろう。

 

 

 

 遅れて工事現場に到着したギデオン伯爵は、ホワイトハ◯スに腰を抜かした。腹部をさすりながら仕事に励む姿が非常に印象的だった。




こんなことしつつお仕事なら虐殺も厭わないのが無職さんです。やっぱ頭おかしいよこいつ

【高位納棺師】
納棺師系統上級職。二次オリジョブ。
死体を綺麗な状態に修繕するスキルや、完全遺骸を確率で複製する奥義を覚える。
蘇生成功率の上昇のほか、アンデッド製作に活用される非戦闘用のジョブ。

【棟梁】
大工系統上級職。原作準拠。
シルヴプレジデントではない。

《破城槌》《削岩穿》
壊屋系統のスキル。原作準拠。
生産職のスキルでは断じてない。

豆腐
四角いブロックを重ねただけの建築物。
これを卒業すると一人前のビルダーとして認められる。
かくかくしかじか。
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