無職さんのデンドロ履歴書 作:リリアーナを照れさせ隊
□■決闘都市ギデオン
バーベナを拉致したあなたは、大通りの人混みに紛れて追手をやり過ごした。
探知系の<エンブリオ>持ちがいたようだが、天地で鬼ごっこ()を繰り広げたあなたに死角はない。
隠蔽系のスキル……《幻惑》《偽装》《気配操作》および幻影魔法を並列使用した全力の隠行だ。
あなたを捕まえたいなら<超級>を持ってこい。いややっぱ来るな。面倒くさい。
「た、助かったぁ」
近くの喫茶店に入って休息を取る。
脱力したバーベナの外見は、最後に別れた時から明確に変化が生じていた。
頭上に浮かぶ光輪と背中に生えた白翼。
ついに
「生きてますけど」
あなたは制服と火薬式銃器を取り出した。
試しにコレを着てもらいたいものだ。
お紅茶をしばいてお嬢様仕草をするとなおよし。
「うわぁキモーイ。バベちんにコスプレさせてぇ、ナニするつもりなのかなぁこのへんたーい」
あなたは銃器をぶっ放した。
バーベナのバーベナから数ミリ離れた箇所を過たず、マグナム弾で射撃する。
「ヒュッ……ちょ、バカなのあんた!? 店内の暴力沙汰は禁止されてるんですけどぉ!」
バーベナの心配は全て杞憂である。
第一に、あなたは新作埴輪のモデルとして参考写真が欲しかっただけであり。
第二に、壊した椅子はスキルで修復できる。
第三に、現在あなたは全力で隠蔽系スキルを発動している。たとえ何が起きても店員および他のお客様にご迷惑をかけることはない。
あなたは常識人であるからして。
あまり舐めた口を利くならホールケーキをぶち込むが。もちろん完食してもらう。
食べものを粗末にしてはならない。
「あ、俺死ぬ? 助けてもらう相手間違えた?」
まるで話が進まないので、暫しの間、あなたは聞き手に徹することにした。
おおよそバーベナの状況は把握している。
聡明なあなたの脳細胞は、状況証拠が揃った事件現場を見るように、はたまたホワイトジグゾーパズルを組み立てるように、物語の全貌を解き明かす。
関係のない話だが、あなたは白いジグゾーパズルを一年以上放置した実績があったりする。
それで、バーベナはなぜ追われていたのか。
「あー……言わないとダメかなぁ?」
あなたは無言で席を立った。
お会計は別勘定でお願いします。
「待って待って! お願い! 話すから!」
コーヒーもどきを肴に耳を傾ける。
味覚を刺激する苦味、ボスのブラックだ。
「と言ってもさ。何もしてないんだよ。いつもみたいに野良パーティ組んで、闘技場で遊んで」
たしかに普段通りのバーベナである。
だが、既に自分で理解しているのだろう。
<マスター>に血眼で追われる原因を。
あなたはジョブをリセットした。
あなたは無職になった。
そして最近になって新しく就職したとあるジョブをメインジョブに設定する。
「その羽と輪っか……あんたも!」
ジョブの名は【
司祭系統派生のレア上級職だ。
バーベナの現在のメインジョブでもある。
まず間違いなく原因はこのジョブだろう。
おおかた、就職条件を聞かれたのでは。
「そうだけど。なんでわかるの?」
答えは簡単。あなたが発見するまでロストジョブと化していたからである。
ロストジョブとは、何かしらの要因で就職条件やジョブの存在自体が失伝した『デンドロに存在するが誰も就いていないジョブ』のことを指す。
デンドロは無数のジョブが存在する。
しかしながら、どうしても人気不人気や就職難易度には格差が生じるのが現実だ。
結果、このゲームにはまだ見ぬジョブがわんさかと眠っている。やはりデンドロは最高でござるな。
あなたは興奮して早口になった。
「うわキモ……よくわかんないけどさ、ロストジョブが何なの? そんなにすごいの?」
バーベナにしてはいい質問だ。
初心者は実感しにくいだろうが、デンドロには超級職というオンリーワンのシステムが存在する。
先着一名限りの特別なジョブ。強くなるためにたった一人の席を奪い合うカンスト勢は多い。
在職者がティアンなら死亡時にジョブは空位になるが……<マスター>は不死身だ。デスペナルティになっても超級職の座が空くことはない。もう少しゲームバランスを考えろ運営。やはりデンドロはクソゲーである。
「つまり、ロストジョブは誰も就いてなかったジョブで。上級職でロストしてたから、その上の超級職も確実に空いているってコト……?」
理解が早い。
つまりバーベナは超級職を目指す<マスター>につけ狙われているということだ。
「ちょっと待ってよぅ! 俺とあんたが就けるんだから、他の人だって就職できるじゃん? 俺、別に特別なことはしてないし! 条件とかもわかんないし!」
さては【適職診断カタログ】を使ったな。
あなたが見つけてロストジョブでなくなった。
故にカタログの検索に浮上したのだろう。
かわいそうに。運がなかったと諦めるべきだ。
「あんたのせいじゃんかぁ!?」
ともあれ。ゲーマーの探究心は無限大だ。
たしかに【守護天使】の条件は複雑だが。
時間が経てば就職条件は広まるだろう。
それまでの辛抱だ、とあなたはエールを送る。
下手をすると一生判明しないかもしれん。
「俺、怒っていいよねぇ。ちなみにその条件って?」
あなたは検討がついている。
というか【カタログ】に表示されたはずでは。
お仕事の採用条件には目を通すべきだと心得よ。
まあ、バーベナは聞かない方がいいだろう。
知らぬが仏という諺があるように。知ってしまうと《真偽判定》で無理やり吐かされる可能性がある。
おお、なんたる仏心。あなたの気遣いと慈しみの精神は留まるところを知らない。
「そういうのいいから。情報料を払えば教えてくれるでしょ? 金ならここにある!」
はい毎度あり。
あなたは硬貨の詰まった袋を回収した。
ぐへへ、結構持ってるじゃねえか。
今日はギャンブルに勝利したらしい。
あなたは端的に就職条件を告げる。
①【司祭】レベル50。
②臨死体験。
③司祭系統のジョブクエストで一定以上の評価を得る。
④一週間継続して教会に参拝する。
⑤容姿端麗。
「最後のなに」
あなたが知りたい。
ちなみにティアンは②、<マスター>は⑤が達成できずロストしていたのだと推測できる。
「俺だとレベルは達成してて、参拝は……葬儀の時にやったか。クエストもそうかな」
臨死体験はデスペナルティで達成できる。
バーベナは以前PKされているので②の条件を満たしている。
「<マスター>って顔いじれるよね。美男美女ばっかりだし、簡単だと思うんだけど」
バーベナの言う通り、アバター作成の段階で時間をかければ条件達成は容易だ。
既存の<マスター>は整形するしかない。【ミスティコ】を持つあなたのような例外を除いて。
ルッキズムの権化のようなジョブだこと。
そんな簡単にいくだろうか、とあなたは密かに疑念を抱いているのだが。
美貌だけならティアン・<マスター>に該当者が多少はいそうなものである。
「つまり? バベちんのかわいさはシステムに認められたかわいさってことだよねぇ!」
バーベナがいけるならリリアーナもいけるか。
次の機会に話してみるのもありだろう。
なお興味を惹かれた場合、リリアーナには半殺しの憂き目にあってもらう必要が生じる。
本当に死なれては困るので転職に付き合うのはやぶさかではない。愛の鞭である。
「ところでぇ……ものは相談なんだけど」
バーベナはしなをつくって上目遣いをした。
もはやメッキの剥がれた媚び売りである。
一周回って彼の根性に感心したあなたは、興味本位で話を続けることにした。
「手っ取り早く強くなれる方法、教えて? あと【守護天使】の超級職を取るの手伝って?」
あなたはホールケーキをぶち込んだ。
パイ投げの要領で顔面直撃。
バーベナのお口はクリーム塗れとなる。
ちゃんと全部食べなさいね、責任取って。
「モガモガ(なにすんだバカ)!?」
ふてぶてしいバーベナめ。
一朝一夕でお仕事が身につくはずもなし。
積み重ねた経験と労働が明日の力になるのだ。
それをこの男……舐め腐さるにも限度がある。
あなたは三秒前の選択を後悔した。
「なんでだよぅ! いーじゃんいーじゃん! ジョブ独占して強くなりたーい!」
残念ながら、あなたは既にお仕事を受けている。
依頼主は<Wiki編纂部> と<DIN>。
遠からず【守護天使】の条件は彼らに公開する。
バーベナが追い回されることはなくなるね。
「じゃあさっきの情報料返せよぉっ!?」
バーベナに【守護天使】は向いていない。
天使って柄じゃないだろという意味でなく。
ジョブと<エンブリオ>のシナジーが微妙だ。
【守護天使】の特徴は前衛魔法職だ。
HP・MP・ENDのステータスが伸びやすい。
覚える魔法は聖属性・回復・障壁がメインで、
もちろんタキオンと併せれば、パーティ戦闘の要として活躍することはできる。
しかし所詮はそこそこ止まり。
カンスト勢レベルの強さに落ち着くだろう。
だが、あなたはそれを口にしない。
別にいいではないか。
自分で試行錯誤を繰り返して研鑽を積む。
これはゲームなのだから。
とりわけデンドロは自由を謳うMMORPG。
自分のジョブは自分で選ぶから楽しいのだ。
故にお仕事に愛着と責任が湧くというもの。
「――嫌だ」
拳を机に叩きつける音。
「俺は強くなりたい。誰にも負けないくらい強くなって、チヤホヤされて、簡単に無双できるレベルになりたい。だってこのゲームは理不尽じゃないか。普通にプレイしてても殺される。だったら殺されないくらい強くなって、自分の
バーベナはあなたを真正面から否定する。
「でもちんたら考えてる暇はない。だから最短距離を選んだつもりだよ」
同時に、彼はあなたを認めていた。
「あんたは強い。少なくとも、俺が知ってる人達のなかで一番強くて、一番ゲームを楽しんでいて、一番ジョブに詳しい人間だ。それを見込んで頼んでる」
バーベナは涙を浮かべていた。
決して言葉通りの傲慢に支配されず。
挫折と後悔、不甲斐ない自分に憤怒を抱き。
彼は何を思い返しているのだろう。
友人とまとめてPKされた王都封鎖事件か。
あるいは初めて死者を看取った……彼は何もせず、何もできなかったフランクリンのゲームか。
「俺を――あんたの場所まで連れて行け」
いい啖呵だ。いい度胸だ。
余程バーベナは殺されたいと見える。
「……ひ、引かないよ。今回は」
あなたは愛刀の鯉口を切った。
「ひぃっ!?」
そのまま愛刀を鞘に納めたあなたは、書類の紙束をバーベナにちらつかせる。
ここに
あなたのキャリア通りに成長したバーベナは、あなたに並ぶ強者になれること受け合いだ。
不覚にも気が変わった。そして気に入った。
やはりバーベナはあなたの見込み通り……あなたのフレンドに似て、どこか頭のおかしい人間だ。
そうでなくては面白くない。あなたの掲げる主義主張には反するが、これもまたお仕事だ。
お仕事に私情を持ち込んではならない。
今考えた、お仕事三原則のひとつである。
あなたは依頼主を尊重する<マスター>だ。
相手が<マスター>とて例外ではない。
「え、いいの? じゃあ……それちょうだい!」
バーベナは書類に手を伸ばし、空を掴む。
残念ですがここから先は別料金です。
ジョブ就職支援エージェントあなたにご登録いただき、規定の会員料をお納めください。
「ぐぬぬ……無職のくせに生意気なぁ……いや払うけど……くっそぅ、もうなくなっちゃう……」
はい毎度あり。
では早速だがファーストステップだ。
バーベナには【守護天使】を削除してもらう。
「……は?」
次にセカンドステップ。
バーベナよ、【鍛治師】になるのじゃ。
「ハァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!!」
◇◆◇
【ハロー、ワークス】超級職・ロストジョブ・レアジョブ捜索スレ64【まだ見ぬジョブよ】
649:名無しの【詩聖】
なぜ超級職を先着お一人様限定にしたのか
コレガワカラナイ
650:名無しの【兇手】
また言ってる
651:名無しの【賢者】
オンリーワンを謳え若者よ
652:名無しの【獣戦鬼】
心に残ったロンリーワン
私の可能性はどこですか……?
653:名無しの【豪商】
そこに無ければ無いですね
654:名無しの【大海賊】
<エンブリオ>がいる”よ!(ドンッ)
655:名無しの【断罪剣】
やはり運営は悪
656:名無しの【獣戦鬼】
>>654
私のガードナー、常時融合型
657:名無しの【提督】
<エンブリオ>も個人差がなあ
当たり外れが大きいのにリセマラなしとか
658:名無しの【上忍】
>>656
草ァ!
659:名無しの【大海賊】
>>656
ごめんね
660:名無しの【大騎士】
空位っぽいのは【
王国の近衞騎士団長が亡くなって後任いないし
661:名無しの【聖騎士】
【天騎士】はリリアーナが就くべきではないだろうか
662:名無しの【聖騎士】
然り
663:名無しの【聖騎士】
我々【聖騎士】、条件を探すも分からず
リリアーナに教えてお近づきになりたかった
664:名無しの【紅蓮術師】
うわ出たファンクラブ
665:名無しの【兇手】
微妙にスレチ
666:名無しの【断罪剣】
処す? 処す?
667:名無しの【聖騎士】
まあ待て
ある程度は検討がついているんだ
で、条件達成に必要と考えられるのが
《聖別の銀光》
668:名無しの【大騎士】
ティアン専用スキルじゃん……
669:名無しの【白氷術師】
いやそうでもない
条件を満たせば<マスター>も習得できるはずだ
670:名無しの【賢者】
その条件が不明なんだよなぁ
671:名無しの【高位錬金術師】
てーへんだてーへんだ!
みんなぁ、ロストジョブ見つけたで!
672:名無しの【上忍】
なぬ
673:名無しの【白氷術師】
それは本当だろうか
明かせる範囲でぜひ詳細を聞かせてほしい
674:名無しの【高位錬金術師】
これはフレンドの知り合いのパーティメンバーから聞いた話なんだけど
673:名無しの【大騎士】
それはもう他人じゃん?
674:名無しの【紅蓮術師】
いいから続きを
675:名無しの【高位錬金術師】
そのパーティメンバーの助っ人がね
見たことないジョブに就いていたんよ!
675:名無しの【提督】
遠いな
676:名無しの【豪商】
名前は?
677:名無しの【賢者】
どんな性能?
678:名無しの【高位錬金術師】
>>676
【守護天使】だって
>>677
魔法系みたいよ
あと《聖騎士の加護》のパーティ版スキルがある
679:名無しの【大騎士】
ハァ? つんよ
ぶっ壊れじゃん
680:名無しの【聖騎士】
この流れ前にやったぞ
681:名無しの【兇手】
情報が遅い!
682:名無しの【高位錬金術師】
そうなのか……すまん
683:名無しの【大海賊】
《聖騎士の加護》ってどんなスキル?
684:名無しの【白氷術師】
【守護天使】は<Wiki編纂部>でも調査中だな
>>683
物理・魔法問わないダメージ軽減スキルだな
Lv1で10%カットできるが上限値は低い
685:名無しの【獣戦鬼】
味方全体に被ダメ軽減バフ?
パッシブスキルでそれは無法ですよ
686:名無しの【詩聖】
ま、まあ一割なら……(震え)
687:名無しの【高位操縦士】
うちの【魔将軍】が取ったら強そう
688:名無しの【技師】
閣下が天使なんて職に就くはずないだろ!
689:名無しの【賢者】
見た目はいける。星空の◯り人
691:名無しの【司教】
お客様のなかに【守護天使】の就職条件が分かる方はいらっしゃいませんかー!
692:名無しの無職
(´・ω・`)
693:名無しの【上忍】
>>692
なんだ今の
694:名無しの無職
(´・ω・`)っ
xxxx.XXXX.csv
695:名無しの【提督】
おいこれ
696:名無しの【高位錬金術師】
詳細情報きちゃあ!
697:名無しの【紅蓮術師】
なんでCSVなんだよ!?
698:名無しの【白氷術師】
<Wiki編纂部> と<DIN>で確認が取れた
データの内容は真実のようだ
699:名無しの【賢者】
攻撃捨てて守りに寄った【聖騎士】みたいな感じか
700:名無しの【大騎士】
《守護天使の加護》、例のスキルだ
701:名無しの【司教】
就職条件も大体納得できる
ただ最後のは何
702:名無しの【上忍】
容姿端麗とは……?
703:名無しの【技師】
顔面偏差値が求められるってコト?
704:名無しの【司教】
なら私も取れるはずだよ、ね?
705:名無しの【白氷術師】
情報提供者から補足があったようだ
就職条件の⑤容姿について
これは絶対評価ではなく相対評価で判断されている可能性が高い、と書いてある
706:名無しの【紅蓮術師】
バカにもわかるように説明してくれ
707:名無しの【上忍】
どういう意味だってばよ
708:名無しの【聖騎士】
どれだけ顔が良いアバターでも
他のティアンとか<マスター>の方が美人だったら達成できないってことでは?
709:名無しの【白氷術師】
その通りだ
合格ラインは別にあるだろうが
710:名無しの【高位錬金術師】
はぁー!? なんやそれ!
なんやそれ!?
711:名無しの【提督】
新人なら簡単に取れそうだが
712:名無しの【獣戦鬼】
そういう人が増えるほど古参が就けない
713:名無しの【司教】
わ、私は駄目なの……?
714:名無しの【白氷術師】
参考になるか分からないが
情報提供者から合格水準の目安が発表されている
(例)
・王国の近衛騎士団副団長
・黄河の【舞姫】
715:名無しの【青龍道士】
恐れ多いわぁ!?
716:名無しの【豪商】
本当にこの条件を満たしたやつがいるのか……
717:名無しの無職
(´・ω・`)
718:名無しの【大海賊】
>>717
なんだ今の
女化生先輩は③か④の条件を満たせなかった世界線という事でお願いします