無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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休日の釣り人

 □■決闘都市ギデオン

 

 質の良いお仕事に休息は必要不可欠だ。

 今日は定休。勤勉な労働者のあなたが羽を伸ばすことを自分に許した一日である。

 

 襲撃の頻度を上げたリリファンを蹴散らして。

 改造モンスターからドロップ(ログインボーナス)を回収。

 日課を済ませたあなたは今日もお仕事を探す。

 これは趣味なので労基はお帰りください。

 

 冒険者ギルドで適当な依頼を見繕ったあなたは、通りにリリアーナの姿を見つけて踵を返した。

 

 いくら極悪非道で頭のおかしい狂人扱いをフレンドにされるあなたであっても、前回の騒動で反省していないかというと否である。あなたは気遣いの化身なのだ。

 これ以上の悪い噂が立たないように、数日間、あなたはリリアーナと距離を置いていた。

 

 置いていたのだが。

 

 逃げた先になぜかリリアーナがいる。

 それを三回繰り返したあたりであなたは察した。

 もしかして偶然じゃないな?

 

「やっと見つけました」

 

 あなたはにげだした。

 

 しかしまわりこまれてしまった!

 

 うそでしょ。

 

「バーベナさんの<エンブリオ>をお借りしたので。足の速さでは負けません」

 

 タキオン有りといえど超音速機動とは無茶をする。

 リリアーナの体を慮り、あなたは逃走を諦めた。

 しかし彼女は一体何の用だろうか。

 まるで心当たりしかないが。反省文は嫌じゃ。

 

「……用事が無いと会ってはいけないんですか?」

 

 おっと風向きが不穏。

 

 リリアーナは明らかに機嫌を損ねている。

 これまで数々のギャルゲーを攻略してきたあなたの見立てだ。間違いない。

 余談だが、あなたはその手のゲームを初見でプレイして個別ルートに辿り着いた試しがない。

 ゲーム攻略サイトは人類の偉大な発明であるな。

 

 現実逃避には限度があった。

 彼女の好感度を下げると就職条件に響くのだ。

 改めてリリアーナの様子を窺うあなた。

 鍛えた観察眼で普段と異なる点に注目する。

 

 リリアーナは鎧を脱いだ私服姿だ。

 ちょっとした外出に適したコーデは流行りをしっかりと押さえている。このおしゃれさんめ。

 印象が違ったので驚いた、リリアーナによく似合っていると、あなたは思考を口から垂れ流す。

 

「そ、それはどうも」

 

 五割り増しで彼女の機嫌がよくなる。

 

 あなたは得心がいった。

 なんだ、褒めてもらいたかっただけか。

 新品の洋服、気合いを入れたファッション。そういった身だしなみは気分が上がる。

 他人に認めてもらえたらなおのこと。

 たとえそれがビジネスライフの関係を結ぶあなたのような無職が相手であったとしても。

 

 じゃ、そういうことで。

 

「誤魔化されませんよ。今日という今日ははっきりさせてもらいます」

 

 もしや騎士団関連のジョブクエストでハンコを後から押した件だろうか。

 それとも深夜にこっそり第二王女とラーメン屋台の食べ歩きをしたことに関して?

 あるいはリリアーナの装備一式を勝手にお手入れしたことか。流石にあれはやり過ぎたな。

 あなたは誠心誠意心を込めて謝罪した。

 

「どれも初耳ですが!? ……いえ違います。このまま余罪を吐いてもらいたいですが、今は置いておきましょう。それより、あなた私を避けていますよね」

 

 普通に傷つくんですけど、と。

 リリアーナは遺憾の意を表明する。

 

 考えれば至極当然の話。

 いきなり距離を取られた人は不快に思う。

 あなたの気遣いは空回りに終わったのだ。

 

 対人コミュニケーション能力に秀でると巷で評判のあなたはあの手この手で巻き返しを図った。

 

「そんなのでは許しません。私は悲しい思いをしたので、あなたにそれなりの報いを受けてもらいます」

 

 まずいぜ。どうしようあんちゃん。

 リリアーナはすごい要求をするに違いない。罪悪感であなたが断れないのをいいことに、あんなことやこんなことをするつもりなのだろう。

 同人誌みたいに。同人誌みたいに!

 

 あなたは最悪の想定で心構えを固める。

 マグロ漁船……いや臓器移植かな……。

 

「ですから付き合ってください」

 

 あなたは覚悟を決めた。

 どんな所業とて甘んじて受け入れるつもりだ。

 地獄の果てまで、その報いとやらに付き合おう。

 

「……なんで勘違いしないのかしらこの人。少しは動揺してもいいじゃない」

 

 呟き声にあなたが言及する前に。

 リリアーナはイタズラが失敗した子供の顔で、救い難いウスラトンカチのアンポンタンなクソボケやろうに対する諦観の眼差しをあなたに注いだ。

 あなたは気遣いの心を持った頭脳明晰・文武両道の<マスター>なので的外れもいいところである。

 

「何をするかはまだ決めてないんですけど……いいアイディアあります?」

 

 あなたに問う必要は皆無だ。

 まな板の上の鯉よろしく裁かれるのを待つばかり。

 血抜きと下処理は自分でやっておこうかね。

 

「真面目な顔でバカなこと言ってないで、一緒に考えてくださいよ。せっかく友人と出かけるのですから。お互いに楽しむのが一番でしょう」

 

 それは真実、今日初めての、埒外の衝撃だった。

 言葉を失って硬直するあなた。

 リリアーナはそんなあなたの顔を覗き込み、手のひらを振って意識の有無を確認する。

 

「……私、おかしなこと言いました?」

 

 いいやまったく。

 だが、リリアーナは言動に気を配るべきだろう。

 未だにあなたを()()と呼ぶお人よしは、いつか夜道で刺されてもおかしくない。

 

「こちらの台詞ですが!?」

 

 

 ◇◆

 

 

 あなたは<サウダーデ森林>にやって来た。

 ギデオンの南西に位置するこのエリアは、亜竜級以上のモンスターが出現しない。

 リリアーナを連れていても危険はないだろう。

 

 という見込みはあっさりと崩れ去った。

 

 どうやら白衣の一件で住処を追われた純竜級モンスターが生息地を移しているらしい。

 あのメガネろくな事をしないな。やはり<超級>は頭がおかしい上にはた迷惑な連中である。

 

 予定の大幅な変更を余儀なくされ、スニーキングで目的地を目指すことに。

 

「帰るという選択肢はないんですね」

 

 あなたは友人との休日を無駄にしない。

 ついでに分布調査のクエストを進行する。

 これで今日受注したお仕事はクリア。

 あなたのマルチタスク能力は完璧である。

 

 せせらぎを頼りに木々を抜けた先。

 木漏れ日揺れる清流があなた達を出迎えた。

 

「わぁ……」

 

 リリアーナはこの場所を気に入ったようだ。

 彼女が景色に見入っている間に、水場を求めて集まったモンスターを皆殺しにする。

 うーんフィトンチッド。虐殺後の空気がうまい。

 

 あなたはここをキャンプ地と定めた。

 持ってきたアウトドア用品をせかせかと広げて、今日の目的である渓流釣りの支度を整える。

 

 必要なアイテムは以下の通り。

 釣竿、バケツ型アイテムボックス、触手、着ぐるみ。

 ざっとこんな感じだな。

 

 ナマケモノの着ぐるみを着用したあなたの号令で、水面から現れる触手の群れ。いい子ねベイビー。

 

「おかしくないですか!?」

 

 安心するといい。釣竿は二本用意している。

 こんなこともあろうかと。あなたは先の先を見越して準備ができるシゴデキな遊び人なのだ。

 

「そっちじゃないです」

 

 なおバケツは雰囲気を味わうためで、別に自前のアイテムボックスがあれば問題ない。

 デンドロで釣れる獲物は大体バケツなんぞに入らないのでやむを得ない処置である。

 こればかりは実利を取らせていただいた。リリアーナの不満は理解するが、どうか堪忍な。

 

 アイテムの説明をするあなたに、彼女は信じられないものを見るような目を向ける。

 たとえるなら、そう、あなたが<超級>連中の奇行を目の当たりにした時と同様の感情が込められている。

 だが、常識人のあなたと奇人変人サイヤ人ばかりの<超級>とでは天と地ほどかけ離れているため、やはり比喩としては適切でないと言わざるを得ないだろう。

 

 あなたは触手を一匹千切った。

 それを釣竿の糸に結んで投擲する。

 もう一本の釣竿も同様に、アウトドアでテンションが上がっているリリアーナに渡した。

 彼女も存外子供らしい一面があるようだ。

 

「せめて説明してもらえません?」

 

 隣に腰を下ろしたリリアーナ。

 あなたは彼女の疑問に回答する。

 釣りは無駄話も醍醐味であるからな。

 

 これらはあなたの特典武具だ。

 

 まず【Q極きぐるみしりーず なまけろん】。

 空腹減衰、気配遮断、消費MP&SP減少といったパッシブスキルを持つ着ぐるみだナマケ。

 

 そして【底撈海月 クラーゲン】。

 眷属の触手を召喚する。

 

 以上。

 

「釣りと何の関係が……?」

 

 関係は大アリである。

 釣りに触手は欠かせない。触手の召喚コストを抑えるため、着ぐるみは非常に有用なのだ。

 

 あなたは触手の有用性を力説しようとするが、その前に手にした釣竿が勢いよくしなる。

 

「あ、引いてます! 引いてますよ!」

 

 わかっているとも。

 釣りは己と魚の真剣勝負。

 釣るか釣られるか、食うか食われるか。

 水面下で繰り広げられる駆け引きに見事勝利したものがフィッシャーマンとして讃えられるのである。

 

 ――――!

 

 そこだ、フィィィィィィシュッ!

 

 【フロスト・サーペント】を釣り上げた。

 ドラゴンとウミヘビ、どっちなの?

 

「おかしいですよねぇ!?」

 

 どこにおかしいところがあろうか。

 あなたは活きのよい獲物を掲げる。

 三枚に下ろして蒲焼きに、刺身も捨てがたい。

 

「どうして浅瀬から巨体の海竜種が飛び出してくるんですか! そもそも【フロスト・サーペント】は海に生息するモンスターでしょう? 川で生きていけるなんて、そんな話は聞いたことがありません」

 

 リリアーナは何を言っているのだろう。

 【フロスト・サーペント】は海水魚(?)だ。

 淡水の水域に生息しているわけがない。

 常識的に考えれば理解は不要なはずだが?

 

「じゃあ目の前のこれはなんですか。常識から外れた光景だから理解が追いつかないんですよ」

 

 あなたの手から逃れた【フロスト・サーペント】がリリアーナに襲いかかる。

 氷属性のブレス。冷凍品ならアニサキスの心配は不要だろう。自ら処理するとは殊勝な心がけだ。

 

 あなたは剣を構えるリリアーナにエールを送った。

 

「あなたも戦ってください!」

 

 残念だがそれはできない。

 あなたは【なまけろん】装備中、戦闘行動を取れないデメリットが課されている。

 ジョブの【記者】や【生贄】と同様の戦闘用アクティブスキル使用不可、加えて移動速度低下のデバフでまともに動くことができないのだ。

 

「じゃあ何ですか、私一人で戦えと? あなた正気で仰ってます? 着ぐるみ脱いだら解決するでしょう!」

 

 いやん。女騎士に脱衣を強要された。

 それはそれで捗るのでは? などと、あなたのフレンドならば喜んで辱めを受けることだろう。

 

 あなたの見立てだと【フロスト・サーペント】は純竜級に届かぬ程度の強さだが、本来の生息地とかけ離れた浅瀬という環境では実力を発揮できまい。

 リリアーナなら単独で討伐可能である。

 

 聖騎士の実力を観戦しながら次の獲物を狙う。

 疑似餌の触手は今のところ絶好調だ。

 触手召喚だけが【底撈海月】の得手ではない。

 むしろ本領はここからである。

 

 この触手は水面を転移ゲートにできる。

 

 具体的には、遠方の水場と空間を繋げた後、触手が掴んだ対象を水面から引き上げることができる。

 当然だが水場との距離・掴んだ対象の重量と体積などで指数関数的に消費コストは増加する。

 

 ――――!

 

 そこだ、フィィィィィィシュッ!

 

 喜べリリアーナ。二体目(おかわり)だ。

 

「すみません。ちょっとお時間いただけますか」

 

 怒られた。解せぬ。

 あなたはただ、休日レジャー&経験値稼ぎの楽しさを味わってもらおうとしただけなのに。

 

 その後、普通の釣りを始めたあなた達だが。

 

「あら? また釣れました」

 

 リリアーナの釣果がやばかった。

 父方のグランバロアの血筋だろうか。

 山積みのお魚にあなたはドン引きした。

 

 この若さで近衛騎士団副団長を務めるだけあって、彼女は彼女で規格外のようである。

 やはり常識人なのはあなたばかりだ。

 デンドロの常識を守らねばならぬ、あなたは改めて固い決意を漲らせるのだった。




・主人公
釣りの腕前はスキル込みで普通。
この後なんか変なのを釣り上げた。

・リリアーナ
海賊系統のジョブ適正が高い女。
釣竿を握ると入れ食い状態になる。

・なんか変なの
???「そんな餌で俺が釣られクマー」

【Q極きぐるみしりーず なまけろん】
古代伝説級武具。
【起生獣 ナマケロン】の討伐報酬。
元の<UBM>は周囲のリソースを吸収・敵対者のレベルを下げる能力で猛威を振るった。
レベル0の無職に倒された。

【底撈海月 クラーゲン】
伝説級武具。水着。
装備枠はアクセサリーを使用する水着。水着?
触手は個性があり、主人公は一匹ずつ名前をつけている。
タコ、イカ、スルメ、1番、2番……etc。
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