無職さんのデンドロ履歴書 作:リリアーナを照れさせ隊
□■決闘都市ギデオン
「へいYOU、ちょっと面貸すクマ」
あなたはクマに拉致られた。
シュウは颯爽と現れ、あなたを追い詰めていたログインボーナスを事もなげにワンパンした。
今日の命の恩人、かつ先日誤って釣り上げた負目から、あなたに逃げ出す選択肢は存在しない。
というか背を向けた瞬間に襟を掴まれた。
「今度お詫びするってナシつけたろ? その貸しを返してもらうクマー」
平時に返してもらわんとトラブルが増えそうだからな、と信頼たっぷりのお言葉を賜る。
誠に遺憾である。あなたは常識人だというのに。
非常識の極みな<超級>の、そのまた上澄みの【破壊王】の方がよっぽど大概だろう。
ちなみに、あなたの脳内メモリはシュウに対する貸しを複数記憶している。夜中の騒音公害しかり、流れ弾のフレンドリーファイアしかり。トータルで考えると差し引きプラスなのでは? あなたは訝しんだ。
肩車ホールドされたあなたは逃走を諦める。
「と言っても、ちょっとしたお誘いクマ。参加賞もあるからドシドシ応募してほしいクマ。あ、ちなみにフィガ公と迅羽も呼ん」
あなたは両足を自切した。
拘束を抜け出して逆立ちで全力疾走し、動きを先読みしたシュウにあっさり確保された。嘘でしょ。
「まあまあ、怖がることはないクマ」
ええい離せ。離すがいい。
<超級>三人なんぞに付き合えるか。
「依頼なら?」
あなたは暴れるのをやめた。
つまりお仕事ということだろうか。
では話を聞こう。お仕事に貴賎はない。
最初からそう言えばいいものを。
「お前の扱い方が分かった気がするな」
◇◆
闘技場に<超級>が集まった。
奥様、空気がおかしくありませんこと?
ンマー! なんてことざましょ! 空気中の<超級>濃度が75%を超えているザマス!
「お前よく見たら<UBM>モドキじゃねーカ」
空気清浄機の設置に勤しむあなたをしげしげと観察した迅羽は懐かしい呼称を口にした。
その節はどうもお世話によくも心臓抜いてくれやがりましたなこの野郎なりました。
彼女こそ、天地から脱出したあなたをデスペナルティに追い込んだ、げに恐ろしき<超級>である。
ちなみに天地時代も同じ死因で死んでいる。
山狩(追われる方)は二度とごめんだった。
「いヤ、あの姿で名前の表示あったら狩るだロ」
「変身するのは知ってるが、名前?」
「オレが見た時は頭上に浮かんでたんだヨ。そしたらモンスターですらないとサ」
これだから<超級>は。
人間とモンスターの区別はつけてほしいものだ。
「へえ面白いね。そういう特典武具かな?」
「フィガ公。気持ちは分かるが落ち着け。こいつが今にも逃げ出しそうになってる」
これだから<超級>は!
閑話休題。
あなたはお仕事を完璧にこなす<マスター>だ。
たとえ<超級>の依頼とて手は抜かない。
昨今ギデオンで【破壊王】印のポップコーンが売られていることは皆様ご存知のことだろう。
シュウの依頼はまさにそのポップコーン作り。
具体的には、新しいメニューの考案だ。
「今でも十分評判になってるがナ」
「顧客を飽きさせない企業努力クマ。とりあえず作りたてを試食してみてくれ」
あなたはポップコーンをつまんだ。
あなたの着ている服が弾け飛んだ。
あなたは地面と熱烈な口づけをした。
「こいつ死んだゾ」
「この人でなしクマー!」
あなたは新しい実績“美食舌”を解放した。
あまりの美味に味覚がデストロイ。
今後あなたはポップコーンを食す度に今日の思い出と比較して悲しい気持ちになるだろう。
「すまん。それ加減ミスったやつだな」
「シュウは料理が上手いからね」
「料理が上手いで片付けていいレベルじゃねーヨ」
あなたは深く頷いて同意する。
逆ベクトルの殺人料理とかどんなコミックだ。
やはり<超級>というのは頭がおかしい。
だが、聡明なあなたは方向性を理解した。
ほどほどの塩梅にすればいいのだろう。
美味すぎず、集客を見込めるレベルにシュウの昇天ホーリーマターをデチューンする。
安心するといい。
あなたの依頼達成率は脅威の百パーセント。
劇物処理など慣れたものである。
「いいからまず服を着ロ」
そうと決まればクッキングのお時間だ。
あなたは水着の上から高レベルの《料理》が付与されたエプロンを羽織る。もちろんお手製である。
なおスキルは《職務経歴》で補えるので、徹頭徹尾エプロンは飾りに過ぎない。
水着は足し算してもいいし、引き算してもいい。水着エプロン……実によい響きだと思わないか?
手持ちの食材をピックアップ。
まずは無難にハニーキャラメルを作成した。
隠し味に岩塩をひとかたまり、と。
「塩気で甘味が引き立つ。いい組み合わせだ」
「いやデカ過ぎるだロ。顔面カ。フィガロぐらいだゾ、噛み砕けるノ」
「お客さんの好みで調整。俺がふりかければ仕上げがパフォーマンスにもなる、か。侮れん……が、混雑時は屋台が回らないな。コストもかかる」
試作品一号、保留。
反省を踏まえて試作品第二号を作成する。
市販の粉チーズとペッパーでおあがりよ。
アクセントにハバネロを混ぜてみたが。
「食事感覚で食べられる。いい組み合わせだ」
「フレーバーが9割っておかしくないかナ」
「もうハバネロの黒胡椒添えクマ……」
試作品二号も芳しくない。解せぬ。
ポップコーンがヤバいなら本体を食べなければいいと思ったのだが、そういう話ではないのか。
それはなんか違う? そっか。
本末転倒を乗り越えた試作品三号。
マシュマロとバターを余熱で溶かす。
ゲソを生やして、はい完成。
「不思議な味だね。いい組み合わせだ」
「何か混ぜないと気が済まねーのかお前はヨ」
「これは普通に無しクマ」
責任を持ってあなたは完食した。
食べ物で遊んではいけない。
今回は試作なのでセーフである。
しかし困った。いい案が出ない。
最初は<超級>の味覚に問題があるのではと考えたあなただったが、実際の出来と、食べると発動する付与効果はいまいちで、常識人のあなたも納得がいかない。
「一応確認だが試食品をベースに考える必要はないぞ? 売るのは普通の……おい話を聞けクマ」
かくなる上は食材からこだわるか。
とうもろこし(に似た穀物)は在庫が余っているというから、手を加えるのは不可能。
とりあえず適当に用意するのがいいだろう。
あなたはフィガロに鍬を渡した。
「うん? これで地面を耕せばいいのかい?」
あなたは噂話で耳にした、装備スキルを強化する<超級エンブリオ>の力を頼った。
あなたお手製の鍬は《栽培》ほか農業に必要なスキルを高い水準で付与している。
これを強化したらもう最強よ。
成長する作物も原価百倍栽培マン。
マーベラス。実にマーベラスな作戦だ。
この闘技場には結界がある。
派手にぶちかまして問題ないだろう。
あなたは真摯に頭を下げた。
「構わないよ」
「まじカ」
フィガロは装備を解除した。
半裸姿であなたに鍬を突きつける。
なぜ殺気が向いているのか。これが分からない。
「僕のコル・レオニスは戦闘時間に比例して装備を強化できるんだ。だから少し手合わせしてほしい」
つまりウォーミングアップである。
スキルの強化倍率を高めるため、あなたはフィガロと模擬戦を行う羽目に陥った。
相手はシュウや迅羽で構わないはずだが、二人は結界の外に出て、我関せずと見物気分だ。
既に今回の生贄は定められたらしい。
言い出しっぺの法則だった。
これまで散々意味不明な因縁をふっかけられ、野盗やPKに襲われた経験を持つあなただが、目と目があったら殺し合いを始める文化圏の人間ではない。
本当のあなたは心優しい平和主義者なのだ。
とはいえ、これはあなたが頼んだこと。
お仕事には常に責任が伴う。
依頼達成に必要というならやむを得ない、やむを得ないのだが……とりあえず殺気を抑えよう?
ウォーミングは軽い打ち合いで十分だ。
あなたは理路整然と死合の無意味さを説いた。
「《
「諦めろ。フィガロはやる気だ」
どうして?
せめてもの救いは武器が鍬である点だ。
流石のフィガロも鍬でビームは打てまい。
あなたは戦闘準備を整える。
今回のスタイルは遠距離を保つ魔法戦。
できるだけ逃げて時間を稼ぐ作戦である。
あなたは十の剣刃を創造した。
これぞ、人呼んで鍛造魔法。
地属性魔法で金属を生製。
天属性魔法の熱で精錬と鍛造。
複数の属性を併用して間に合わせを造る技。
強度は正規の手順で生産した剣に劣り、同じように戦うなら単純に金属を操作すればいい。
本来は鍛治師などの生産職が作業効率と自衛力を求めて習得するスキルだ。なので鍛治魔法とも呼ぶ。
なお生産系から派生する魔法職なので戦闘能力は低い。最終的な能力値はどっちつかずの中途半端になる。
当然あなたには関係ない。ステータス・スキル共に最高の理論値を叩き出している。
浮遊する剣を魔法で自在に操り、【
銀閃の雨がフィガロに注がれる。
剣刃の性能が劣る点は研師系統の汎用スキルで切れ味と攻撃力を上昇させることで補った。勝ったな。
フィガロは剣の雨をまとめて切り裂いた。
あなたはドン引きした。
お前が手に持ってるのは農具だ、武器じゃない。
その後、戦いながらアップを済ませると。
フィガロは闘技場を耕し始めた。
地面が割れ、舞い上がる土砂があなたを襲う。
どうやら一連の動作も攻撃のつもりらしい。
死ぬと結界でリセットになるため、あなたは逃げ回りながら種蒔きに精を出す。
水と肥料を与えて三分待てば、あら不思議。
立派な【デーコン】の出来上がりである。
「モンスターじゃねえカ」
モンスターでござるな。やっべ。
誤って種を植えたあなたのミスだ。
ちなみに、あなたはこれっぽっちも製作に関与していないことをここに宣言する。
この種はフレンドからの貰い物なのだ。
二本足で逃走する【デーコン】を三枚おろしに。
死体をすりおろして粉末状に加工する。
ポップコーンにかけたら完成だ。
はいどうぞ。おあがりよ。
「美味しいね。シンプルでいい味だ」
「黒糖みたいな感じだナ」
「数が少ないなら、期間限定にするのはありクマ」
好 評 価。
やったねダーリン。明日はホームランよ!
これでクエスト成功は約束されたも同然。
闘技場の管理人が何事かと慌てているが、その程度の些細なトラブルはあなたの口八丁で解決可能だ。
あなたは堂々と胸を張った。なにせ何も悪いことをしていないのだ。悪びれる理由がない。
「またあの無職か!? 誰か、副団長を呼べ!」
誤解が解けたのは日が沈む頃合いであった。
至極稀に起きる、あなたのコミュ力の敗北である。
◇◆
好評のデーコン味を含めて、試作品をブラッシュアップ(余計なものは除いて適切な比率に調整)した新作フレーバーは見事採用されることになった。
あなたは喜び勇んで、パッケージにロゴと自撮りを載せるようシュウに頼んだ。
「あー、『私が作りました』ってやつな。……売上落ちそうだから駄目クマー」
誠に遺憾である。あなたは監修者だというのに。
あなたは報酬のポップコーンをやけ食いした。
食べきれない分はリリアーナ以下騎士団とギデオン伯爵に差し入れることにする。
手軽なカロリー源だ。きっと喜ばれることだろう。
【御伽帽子 フェアリーテール】
逸話級武具。名前に称号を付与するスキルを持つ。
称号は頭上に表示され、微量のステータス補正あり。
実績解除で新しい称号が増えていく。
【デーコン】
デーツと大根の特徴をかけ合わせた根菜。
濃厚な自然の甘みが持ち味。
地中で育つ品種で、熟すと二足歩行する。
近似種に【サトウデーコン】、【デーコン・ヤクシャ】などが存在する。