無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

22 / 102
砂漠の盗賊

 □■<ヴァレイラ大砂漠>

 

 アルター王国から離れたカルディナ西方。

 乾いた風が熱砂を運び、容赦ない陽射しが照る。

 

 改造モンスターの首を拾い上げて、あなたは砂漠横断の記憶を思い起こす。

 襲い来る野盗、視界を遮る砂嵐、また野盗。

 いい加減にしろお前ら。あなたは殺意が漲った。

 代償に倫理と道徳を失ったが、もとより今回のお仕事にそんなものは不要だ。

 

 今回のお仕事は盗賊稼業。

 略奪を是とするアウトローである。

 ちなみに盗賊ギルドを通した正式な依頼だったりする。あなたはモグリの野盗とは違うのだ。

 

 あなたは砂丘の影に隠れて息を潜めた。

 スキルで強化した視力で獲物を索敵。

 のこのこと現れた旅人に襲いかかる。

 

 動くな手を挙げろ。

 よーしいい子だ。金目のものを置いてきな。

 

「賊……? 一体どこから……」

 

「ふらふら。みずのむ?」

 

 死にかけのイケメン【高位操縦士】が一人、真っ白な少女が一人、合計二名様ご案内です。

 

 あなたは高らかに名乗りを上げた。

 

「ッ、貴方はギデオンの」

 

「どうぞくとうばつすう、クリア。いまはこのへんたい、はんらでも、てんしでもないよ」

 

 イケメンは純白の<マジンギア>を放出する。

 どこかで見た気がする組み合わせだが、スポンジ並みの記憶力を誇るあなたの脳が初見だと告げている。

 きっと別人か、他人の空似だろう。

 ギデオンの事件であなたを氷漬けにした刺客は量産型の<マジンギア>に乗ってたし。

 

 なお機体の構造からして皇国の<超級>関係者であることは疑いようがない。

 やっぱり間違いなく同一人物である。

 

 とりあえずコックピットを先制攻撃した。

 腕の立つ操縦士が<マジンギア>に乗るのを黙って見逃すほど、あなたは平和ボケしたお人よしではない。

 牽制の一撃で距離を取らせ、そのまま具合の悪そうなイケメン――ユーゴー・レセップスを拘束する。

 

 おら、有り金出さんかい。

 

「フッ。私に持ち合わせがあるとでも?」

 

「やーい、びんぼーきざやろー」

 

「毒舌強くない? もしかして砂漠を歩いて渡ろうとしたこと怒ってる?」

 

「いえでむすめ。ちゅうにびょう。むしょくー」

 

「キューコぉ!? あと貴方はなんで今のに反応してるんですか!?」

 

 なかなかに愉快な二人組だ。しかし素寒貧で砂漠越えに挑戦とは……勇敢なのか馬鹿なのか。

 高値が付きそうな荷物は【ホワイトローズ】なる<マジンギア>程度だが、盗難対策が厳重だ。

 

 あなたは戯れに清掃と防塵コーティングを施す。

 稼働部に砂が詰まると動作不良の原因になる。

 機械は定期的なメンテナンスが重要なのだ。

 

 ついでに機体の構造を盗み見ることを忘れない。

 精巧な美少女フィギュアやプラモデルを鑑賞する心持ちで臨むべし。ふーむ、これはなかなか。

 

「いやーん。えっちー」

 

 あなたは両手を合わせてお辞儀する。

 いやはや堪能させていただいた。

 やはり人型機動兵器は最高でござるな。

 

 用を済ませ、あなたはユーゴーを放り投げた。

 水と食料、砂嵐から身を守る外套を二人分押し付けて、彼らに来た道を戻るよう指し示す。

 

「……これは?」

 

 チェンジで。

 

「チェンジで!?」

 

 これはいけない。言葉選びを間違えたようだ。誰とでもツーカーの意思疎通を図れるあなたとてミスはする。

 あなたは失敗を素直に認めて、次に活かすことができる人間だ。もちろん今のコミュニケーションの問題点はしかと理解している。

 

 察するにユーゴーはまだ幼い。

 きっと英語が難しかったのだろう。

 テイクツー。二度目(deux fois)とあなたは告げる。

 

 今日のあなたは盗賊あなた。

 お仕事をこなすため、目の前をちょうどいいカモに通り過ぎてもらわねばならない。

 だが現れたのは半分迷子のユーゴーだけ。

 狩猟民族は稼ぎが安定しない宿命だが……あなたは運を天に任せ、努力を怠る神頼み野郎ではない。

 

 獲物がいないなら作ればよいのだ。

 

 具体的には、ユーゴーとキューコは渡した物資を持ってもう一度ここを通ってもらう。

 あとは二人を襲えば完璧だ。奪う者と奪われる者。熱砂の大地に、社会の縮図が爆誕する。

 マーベラス。実にマーベラスなアイディアだ。

 あなたの天才的発想は止まるところを知らない。

 

「それ、マッチポンプっていうんじゃない?」

 

 そうとも言う。

 

 あなたはお仕事ができればそれでいい。

 無論、収入が増える分には構わない。

 いらないアイテムがあれば置いていくがいい。

 あなたがリサイクルの果てに有効活用しよう。

 

 ちなみに渡した物資は持ち帰って構わない。

 今回の一件にかかる謝礼である。

 

「意味が分からない……どうして私は盗賊に押し売りまがいの行為をされているの……? やっぱり姉さんの言う通り頭おかしいんだこの人……」

 

「ユーゴー、キャラくずれてるよ。たしかにこのへんたいはバカだけど。とうぞくのいみ、じしょでしらべたほうがいいんじゃない?」

 

 あなたを見る二人の視線が極寒地獄。

 誠に遺憾である。あなたは常識人だというのに。

 盗賊の意味ぐらいあなたも知っている。

 ぬすびと。泥棒。人の物を盗む人。

 

 たとえば、あちらの集団のような。

 

 あなたは遠方の騒動を観察する。

 二つの集団はどちらもティアンと思われる。

 裕福な商人と、粗野な悪党のテンプレート。

 明らかにキャラバンが盗賊に襲われていた。

 この様子だと遠からず護衛は全滅するだろう。

 

 それじゃあ早速行きますか。

 あなたは愛刀を引き抜いた。

 

「加勢だな? 私も同行する。……コキュートス!」

 

「うぃ。マスター」

 

 あなた達は戦闘に参加する。

 ユーゴーの機体が白氷の装甲を纏うのと。

 

 あなたが()()()()()()()()()()のは同時だった。

 

『っ!?』

 

 チッ、仕留め損なったか。面倒な。

 

『……なぜだ』

 

 ユーゴーは理解しがたい存在、別の生き物と話すような声色であなたを詰る。

 

『なぜ貴方は盗賊側(そちら)に立っている? それになぜ、なんでもない日常のように……()()()()()()()()()()?』

 

 質問の意味が分からない。あなたは端的に答えた。

 <Infinite Dendrogram>は遊戯(ゲーム)だ。

 非常に作り込まれたオーバーテクノロジーの、という修飾語を冠する必要があるが。

 

 ゲームは楽しいからプレイするものである。

 

 繰り返す。今日のあなたは盗賊あなた。

 盗賊ロールプレイを楽しみ、お仕事を完遂することがあなたの目的なのである。

 つまり運が悪かったので諦めてもらいたい。

 

「なんだ仲間割れか? そっちの<マスター>、俺達につくなら歓迎するぜえ!」

 

 あなたは勝ち誇る盗賊をはっ倒した。

 ヒャッハー! 野盗は皆殺しだぁ!

 

「『は?』」

 

 とりあえず盗賊を丁寧になます切りにする。

 安全確保のため複合スキル《虎歩(シュクチ)》を発動。

 全速力で《地獄門》の効果範囲から離脱する。

 あなたの踏み込みは音を超えるのだ。

 

 射程外から非実体の幻を送って会話を続ける。

 

 盗賊を倒したのはこちらなので、戦利品は十割こちらの取り分でいいっすか?

 

『……は?』

 

 それにしてもついている。

 盗賊の不幸はあなたの幸せ。本職のお仕事を見学できたばかりか、仲間割れまで体験できるとは。

 

 やはり盗賊といえばお宝を前にした揉め事だ。

 キャラバンが壊滅すると、あなたの盗賊ロールプレイに付き合う被害者役が減ってしまう。

 可能なら万全の状態が望ましい。じゃけん怪我人は回復魔法で治療しましょうね。奪われた物資はその辺に置いたままで構わない。後であなたが荷台に積み直すので。

 

『盗賊と共に彼ら(ティアン)を襲うのではないのか?』

 

 ユーゴーは一体何を言っているのだろうか。

 寝言は寝てからほざいてほしいものである。

 

 あなたはキャラバンに手を出すつもりはない。

 今のところは。ロールプレイ以外では。

 

 ちなみに盗賊は峰打ちで半殺しにした。

 目を回しているが命に別条はないだろう。

 官憲に突き出す場合は生かした方が懸賞金を上乗せでもらえたりする。情報を吐かせるために。

 

 あなたは盗賊であろうと職分には敬意を表するが、ティアンの強盗殺人は趣味ではない。

 デンドロのNPCと法律は実にリアルである。

 人死にが許されるのは正当防衛と天地だけ。

 指名手配されてしまうと、あなたのデンドロお仕事生活に多大な影響を及ぼすことになる。

 無用の殺生は百害あって一利なし。

 あなたは悲劇も嗜むが、やはり喜劇が好きなのだ。

 

 補足、天地の武芸者は死ぬまで負けを認めないため、往生際が悪いと介錯するしかない。

 

 補足二、<マスター>の一時強盗殺人は含まない。

 死んでも生き返るし合法なので。

 

『つまり、どういうこと?』

 

『ユーゴーのはやとちりでしょ。このへんたいむしょく、ごっこあそびがしたいだけ』

 

 失敬な。お仕事は遊びではない。

 

「助けていただきありがとうございます<マスター>様。一時はどうなることかと」

 

『いえ、私は何も……』

 

 キャラバンの商人がユーゴーに感謝を述べる。

 あなたには会釈のみ。どうも近寄りがたい印象を抱かれたようである。盗賊をお手玉にしただけなのに。

 あなたはお手玉の懐を漁りつつ嘆息した。

 ヤッフー、お宝みっけ。もーらい。

 

 

 ◇◆

 

 

【君に出会えた】<UBM>発見・討伐情報スレ87【それだけがハピネス】

 

101:名無しの<マスター>

【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】があっさり倒されたこと

それが私は悲しい

 

102:名無しの<マスター>

<クルエラ山岳地帯>のやつか

 

103:名無しの<マスター>

生まれてすぐにやられたそうな

三日天下より儚いぜ

 

104:名無しの<マスター>

なおMVPは“不屈”

 

105:名無しの<マスター>

怨念貯める特典武具だっけ

あのファッションセンス自前じゃないんだよな……もし親に私服選んでもらってたらかわいいね

 

106:名無しの<マスター>

なーんで“不屈”くんには妙なファンが多いのか

 

107:名無しの<マスター>

本人も大概だから……

 

108:名無しの<マスター>

暗黒聖騎士で毒ガス火炎放射カウンター使い

お兄さん(実兄?)が【破壊王】

ルーキーで特典武具二つ持ち

 

この経歴なら仕方ない

 

109:名無しの<マスター>

メイデンは一発逆転しやすいからね

かわいい女の子と一緒とかうらやましい

 

110:名無しの<マスター>

よく考えろ

いつも一緒だとあんなこともできないぞ

せっかくのフルダイブゲームなのに

 

111:名無しの<マスター>

おバカ!!

女の子がそばにいてくれるだけでいいんだ!

 

112:名無しの<マスター>

悲しい生き物

 

113:名無しの<マスター>

しっ、見たらいけません

 

114:名無しの<マスター>

どこにいるんだい僕の運命……

ああ……幸せになりたい……

 

115:名無しの<マスター>

俺も幸せになりたい

どこにいるの<UBM>

 

116:名無しの<マスター>

お、偉いぞ話題が戻ったな

 

117:名無しの<マスター>

狙って会えるかというと実際は

 

118:名無しの<マスター>

運良く遭遇しても倒せるとは限らない

 

119:名無しの<マスター>

俺らの実力だとMVPを取るのは夢のまた夢

あの特典武具をもし自分が手にしていたらという妄想だけで一日が過ぎる

 

120:名無しの<マスター>

<超級>はポコジャカ倒すからな

特典武具もたくさん持ってる

 

121:名無しの<マスター>

特に多いのは【超闘士】と【殲滅王】

決闘の常連だから見る機会も多い

 

122:名無しの<マスター>

デデンデンデデン!

 

123:名無しの<マスター>

三日三晩<UBM>を野山で追いかけた【殲滅王】の話を聞いたことがある

 

124:名無しの<マスター>

フィガロは<墓標迷宮>産だろうな

あの人ソロで深層潜ってるから

 

125:名無しの<マスター>

そういや話は変わるけどさ

前に天地で正体不明の<UBM>がいたとか、そんなスレ立ってなかった?

あれ結局どうなったの

 

126:名無しの<マスター>

黄河だろ

 

127:名無しの<マスター>

いやいやレジェンダリアですよ

 

128:名無しの<マスター>

え、カルディナじゃなかった?

 

129:名無しの<マスター>

たしか見間違いという結論が出たはず

 

130:名無しの<マスター>

違うよ<超級>が討伐したんだよ

 

131:名無しの<マスター>

【勇者】だったような

 

132:名無しの<マスター>

共食いしたとかなんとか

 

133:名無しの<マスター>

ふわふわしてきたな

 

134:名無しの<マスター>

ここまで肝心な<UBM>の名前も登場しない始末、これもうUMAだろ

 

135:名無しの無職

(´・ω・`)

 

136:名無しの<マスター>

>>135

なんだ今の

 

137:名無しの<マスター>

ぷーたろうじゃねーか!

元気にしてたかー!

 

138:名無しの<マスター>

だ れ の こ と

 

139:名無しの<マスター>

ぷーたろうはぷーたろうだよ

アタイのダチでなー夏いなー

 

140:名無しの<マスター>

>>139

その誤字もしや

我が心の師ダイナマイトネキ?

 

141:名無しの<マスター>

え? あの南朱門家の火薬バカ?

 

142:名無しの<マスター>

>>141

ア”ァ”? 月までかっ飛ぶか?

 

143:名無しの<マスター>

すんませんダイナマイトネキ!

こいつまだ新人で!

 

144:名無しの<マスター>

若いのにはちゃんと言い聞かせますんで

火薬じゃのうて花火ですけんね

 

145:名無しの<マスター>

わかればいいんだよ

 

146:名無しの<マスター>

そういやネキも特典武具持ってますよね

 

147:名無しの<マスター>

おう、ぷーたろうと皆の力で倒したんだぜ

いやーあん時は大変だったなあ

空から槍やら種やらが降ってきたからなー

 

148:名無しの<マスター>

(ダイナマイトネキって生産職では……?)

 

149:名無しの<マスター>

それは言わない約束だぞ

 

150:名無しの<マスター>

ネキ、<UBM>見つけるコツ教えて

 

151:名無しの<マスター>

アタイも偶然会っただけだぞ

地道に探すしかないだろーな

 

152:名無しの<マスター>

さよかぁ

 

153:名無しの<マスター>

手っ取り早いのは指名手配<UBM>

名前と目撃地は冒険者ギルドに上がってる

【大瘴鬼 ガルドランダ】とかね

 

154:名無しの<マスター>

“不屈”くんが討伐済みです

 

155:名無しの<マスター>

ぐ、【群狼王 ロボータ】とか!

 

156:名無しの<マスター>

未だに目撃情報が増えないやつな

狼の群れなら目立つと思うんだけど

 

157:名無しの<マスター>

拙者、とある魔獣テイマー

血眼になるも影すら踏めず

誰か倒してたら正直に吐いてクレヨン

 

158:名無しの<マスター>

明らかにテイマー向けのバフ能力だ

是非もない

 

159:名無しの<マスター>

討伐者がスレ見ない人でも、懸賞金貰ったら指名手配に反映されるから……たぶん

 

160:名無しの<マスター>

たぶん旧メイヘム領に一体いる

 

161:名無しの<マスター>

おいマジか

 

162:名無しの<マスター>

ガタッ

 

163:名無しの<マスター>

メイヘムというと【疫病王】の時の

あれは嫌な事件だったね

 

164:名無しの<マスター>

特徴は分かる?

 

165:名無しの<マスター>

>>164

ごめん、よく分からなかった

ただ仲間は死んだティアンに会えたって

 

166:名無しの<マスター>

アンデッド……リッチ系か?

 

167:名無しの<マスター>

死霊だろうが関係ねえ!

ぶっ殺してあの世に送り返してやんよお!

 

168:名無しの<マスター>

世界派の人やティアンが思い詰めると危険だ

早めに倒した方がいいかもしれん

 

169:名無しの<マスター>

指名手配でも新しいの出てるよ

【埋没竜砂 クイックサンド】

カルディナの砂漠にいる<UBM>やね

 

170:名無しの<マスター>

対策立てやすそうな名前してるな

まだ討伐されてないの?

 

171:名無しの<マスター>

まだらしい

スレからも何人か向かったが見つからない

 

172:名無しの<マスター>

いいことを聞いた

 

173:名無しの<マスター>

最初はみんなそう言うんだ

 

174:名無しの<マスター>

本気で隠れた<UBM>はマジで見つからない

天地のクマとかそうだった

あれ誰が倒したんだ……放火魔か?




・主人公
この後なぜか改造モンスターの襲撃が止んだ。

・ユーゴー
生き延びて【撃墜王】に出会う。

・白衣
身内が世話になったようだねえ。

・ダイナマイトネキ/???
天地が誇る南朱門家の客分。
ダイナマイトはアバターの見た目が所以(と本人は思っている)。
修羅が蔓延る天地においてなお悪名高い『人間ロケット戦法』の提唱者として知られている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。