無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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二話連続更新


<UBM>ハンター 下

 ■【埋没竜砂 クイックサンド】について

 

 管理AI4号ジャバウォックの区分で説明するならば、【クイックサンド】は“認定型”の<UBM>だ。

 

 元々はオアシスに生息する水棲系のモンスターが、度重なる干ばつと()()により住処を追われ、砂漠の環境に適応した変異種に進化を遂げたことがきっかけだった。

 

 主な餌の【サンドホール・ワーム】を捕食するうちに、流砂を生み出すスキルを始め、複数の能力を獲得した。その後、ジャバウォックの目に留まり、■■■■■が付与されている。

 

 <UBM>は例外なく固有のスキルを持つ。

 【クイックサンド】の特徴は次の二つだ。

 

 ひとつは《砂迷肌》。

 森林迷彩ならぬ砂漠迷彩を施す擬態スキル。

 体表に砂粒を纏い、周囲の景色と同化することで《危機察知》などの感知・索敵系スキルを阻害する。

 ただし攻撃時、および砂の量が少ない場合は偽装の効果が薄れてしまう。

 

 もうひとつは《鱶鉱力》。

 砂の装甲で防御力を上昇させるスキルだ。

 こちらも《砂迷肌》と同様に纏う砂の量で効果が増減するが、仮に傷ついても、再び砂を纏い直すことで傷を修復できるという特性がある。

 

 総じて【クイックサンド】は砂漠という環境下で最大のスペックを発揮する“条件特化型”だ。

 相性次第では<超級>も負けの目がある、そんな尖った強さを誇る<UBM>だった。

 

 そして【クイックサンド】は美食家である。

 主食の【サンドホール・ワーム】の群生地を根こそぎ壊滅させ、次なる獲物を探して初めて口にした人間範疇生物(ティアン)の味……特に女子供の実に甘美なること!

 きめ細かい脂に柔らかな肉。得られるリソースは十二分とくれば、もう蟲ばかりの食生活には戻れない。

 

 故に【クイックサンド】は縄張りを通る商隊を狙い、ご馳走を捕食し続けた。

 やがて指名手配を受けたが《砂迷肌》がある限り発見は困難だ。砂漠の環境は【クイックサンド】に味方した。

 

 だが、しかし。

 今日のご馳走は美味くない。

 

 男が四人、女が一人。

 メインディッシュは最後に残して、前菜を口にした【クイックサンド】は激しく落胆した。

 味が薄い。筋張っていて中身がない。しかも栄養(リソース)がティアンの半分以下ではないかと。

 

 最近はこのような“出涸らし”が多く見受けられ、【クイックサンド】は大変不愉快だった。

 

『GIOOOO』

 

 まあいいだろう。最後の女は美味そうだ。

 極上の生肉に【クイックサンド】は興奮する。

 生きたまま踊り食いをするのが一番だ。

 潜航して接近、死角の足元から飛び出す――!

 

『GI、OOO……?』

 

 おかしい、口の中に肉の感触がない。

 疑問を覚えた【クイックサンド】は周囲を探る。

 だが察知できない。砂にかかる重みも、移動時の足音と振動も、まったく認識できない。

 

 盲目の魚竜より遥か遠く離れて。

 砂原を見下ろす岩場の頂点。

 音速を超える速度で戦闘から離脱した女は、ゆっくりと手を掲げて、一直線に振り下ろす。

 

 それを合図として……【クイックサンド】は全身の激痛に襲われた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■<ヴァレイラ大砂漠>

 

 バーベナは砂塵の檻を見下ろした。

 

 口内の鉄の味は超音速機動の反動だった。

 発揮した速度(AGI)に対して低すぎる耐久性(END)。着地に失敗すると自然このように大怪我を負う。

 

 音速を超える動作は負担が大きい。

 最初にテストした時は初動の踏み込みで両足の複雑骨折から一直線に壁のシミとなった。

 バーベナの運動神経は人並みのため、速度に対してアバターの操作が追いつかないのだ。

 故に、バーベナは自分を加速させる場合、基本的に逃走時にしか使わない。

 

 ひ弱な上級職が高速移動できる、そのタネこそが彼のオンリーワン。

 銘を【閃光粉粒 タキオン】。

 大元はエアロバイク型のチャリオッツ。

 だが、ペダルを漕いだ分だけ微細な粉末を生成できる。こちらが本体と言っても差し支えない。

 

 粉末は付着した物質を加速させる。

 

 これまでは自他の加速に使っていた。

 今後は眼下の光景を再現するのに使われる。

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()()、表皮から血煙と断末魔の悲鳴をあげる【クイックサンド】のような。

 

「ほんのちょびっとMP込めたら、勝手にタキオンで加速するんだもんなー。コスパ良ー!」

 

 バーベナのメインジョブは【黄砂術師(サンドマンサー)】。

 魔術師系統から派生する、土属性魔法のうち粒子操作魔法に特化した上級職だ。

 バーベナは砂塵にタキオンを付着させ、魔法で操作することで低燃費の高速魔法を実現した。

 

 加えて、砂塵といってもただの砂ではなく。

 

「よくもまあこんなの思いつくよねぇ。砕いた砥石を魔法で操作する、なんてさぁ」

 

 無職が彼に勧めたサブジョブは【高位研師】。

 研師系統は【鍛治師】から派生する非戦闘職だ。

 研いだ武器の耐久値を回復させ、攻撃力を引き上げるといったスキルを習得できる。

 

 習得スキルがほぼ汎用スキルであること。

 加えて武器が装備可能なら大抵のメインジョブで奥義が使用可能であること。

 この二点がポイントだと無職は力説した。

 

 魔法使いで砥石使うのは頭おかしいだろと、当初バーベナは思ったが、実際に使用すると爽快なので違和感は頭の片隅に放り投げることにした。

 

「《高速研磨》で速度を上げて、奥義の《業物仕上》で耐久値を犠牲に攻撃力上昇……防御力を直接削れるとかぶっ壊れじゃん……脳汁やばぁ……」

 

 バーベナは『大したことないじゃん<UBM>? らくしょー!』と調子に乗っていた。

 砂嵐に閉じ込め(ハメ)た時点で勝ち確パターンであるため致し方ないといえる。

 

 で? <UBM>がこの程度で倒れると?

 

『GIOOOOOOOOO!!』

 

「……へ?」

 

 気がつけばバーベナの視界は口内粘膜一色。

 砂嵐を突破した【クイックサンド】が、本来ありえざる超音速で迫っている。

 

 バーベナは【クイックサンド】の天敵だ。

 擬態は砂嵐の広域殲滅で意味を成さず。

 砂の装甲は研磨で容易に削ぎ落とせる。

 

 では逆に【クイックサンド】はバーベナにとってどのような相性を発揮するだろうか?

 削ぎ落とされた装甲は、新たにタキオン付きの砥石で補うことができる。

 《業物仕上》の効果で、【クイックサンド】の攻撃力は上昇している。

 

 どちらかと言えば耐久寄りの<UBM>だった【クイックサンド】は一転、超音速・超火力のモンスターとして装いを新たに新登場した。

 

 バーベナの自業自得である。

 

(あ、死んだ)

 

 バーベナは天を仰いだ。

 立ち上がりが遅れた彼に回避の猶予はない。

 スローモーションで走馬灯が流れる。

 

 そして視界の端に迸る一条の流星。

 気のせいでなければ、それはバーベナを射貫かんと飛来する鏃のよう。というか直撃コースじゃんね?

 

「う、うぉぉぉぉぉ!?」

 

 バーベナは回避した。何がなんでも避けてみせると気合いが入ったスーパープレイ。

 マーベラス。実にマーベラスだ。

 

 矢は【クイックサンド】の大口に吸い込まれる。

 無防備な粘膜の口蓋垂に直撃、爆破。

 急所にクリティカルダメージを受けたことで【クイックサンド】は怯み、体を大きく仰け反らせた。

 

「あっぶなっ! セーフ、セーフッ!」

 

 御使より慈悲深い何者かの手厚いサポート業務により、バーベナは九死に一生で生き延びる。

 

(ありがとう助かったよ何でもできる無職様、これで今回の報酬は五割り増しね)

 

 そんなバーベナの心の声が聞こえてくる。

 無職、感激。あなたは頷いた。

 

「勝手に内心アフレコすんなし!? というかあんた見ているな! どこだ、どこにいやがるッ!」

 

『ワヲン』

 

「って犬コロ、生きてたんだ?」

 

 当然である。【HDP】はあなたの目なのだ。

 死なれてはバーベナの成果を確認できない。

 

 あなたは【偵察隊】のスキルで遠隔カメラ機能を【HDP】に持たせている。

 ここまでの戦いは観察させてもらった。

 最後に油断したので不合格。今回は赤点な。

 ちなみにこの念話は拠点からお送りしています。

 

 あなたは片目を閉じたまま、長弓から手を離す。

 サポートは一度きりだ。次は死ぬ。

 今の光景を念頭に置いて狩りを再開するといい。

 ほら、ちょうど【クイックサンド】も復活したぞ。

 

「……はいはいありがとね!」

 

 バーベナは戦闘に、あなたは観戦に。

 お互いのお仕事に意識を集中する。

 

「と言っても、同じ事の繰り返しだよね。考えるのは面倒なんだけどなぁ」

 

 バーベナは逃げながら魔法を引き撃ちする。

 有効打からは程遠い。【クイックサンド】に粒子操作魔法で傷をつけることは困難だ。攻撃する度に相手の攻撃力と速度が上乗せされていく。

 このままだと彼我の距離は縮まる一方だ。

 

「他の方法……あ」

 

 バーベナは【ジェム】を取り出した。

 バーベナは【爆弾】を取り出した。

 バーベナは【いらない武器】を取り出した。

 

 砂漠に捨てたそれらを、砂魔法で【クイックサンド】の大きな口の中へ。

 

「まとめて()()()()オラァッ!」

 

『GIO!? GIOOOOOO!?』

 

 体内への攻撃というのは非常に有効である。

 表皮に発揮されるENDも、内臓は意外と素通りしてダメージが入るのがデンドロの面白いところ。

 のどち◯こ、ブラブラさせて怖くないんか?

 あなたの問題提起にバーベナは遅まきながら気がついたようだ。どうにか落第は免れたね。

 

 また、今の【クイックサンド】はAGIが上昇している。二重の意味で投擲物は有効となる。

 超音速で壁にぶつかったら怪我するでしょ。

 元々が耐久型ならAGI五桁の感覚には慣れまい。

 障害物を回避するのに精一杯だろう。

 

 よって【クイックサンド】の選択肢は二つ。

 誰も知らない奥の手を出すか。

 捕食以外の方法でバーベナを倒すか。

 

『GOOOOOOOOO』

 

「潜った……?」

 

 砂漠に姿を消した【クイックサンド】。

 潜航地点を中心に、再び大規模な流砂が出現する。

 

「う、おお!? めっちゃ吸い込むじゃん? それならたーんとお上がりよザーコ!」

 

 バーベナは砂中爆撃を継続。

 目に見えて流血(ダメージ)が発生している。

 このままトドメとあいなるか。

 

 ……否、否、否!

 

 腐っても伝説級<UBM>、己の天敵たるバーベナと相対して、選んだ選択肢は先の両方だった。

 

『GIOOOOOOOOOOOO!』

 

 バーベナも、あなたも知らぬ事実だが。

 伝説級<UBM>【埋没竜砂 クイックサンド】はスキルならざる奥の手を隠し持っている。

 それは竜――ドラゴンとして当然有する技能で。

 自前の《流砂生成》から繋がるコンボ。

 

 渦の中心部に流れ込む大量の砂、それを喉袋に蓄積して吐き出す……竜の吐息(ブレス)

 

 通常【クイックサンド】はご馳走に対して、決してこの技能を使わない。

 獲物の味が落ちる、形が崩れるという単純なデメリットがあるからだ。

 熱砂の息吹は機関銃のように敵対者を穿ち屠る。

 

 つまり【クイックサンド】は、たった一人の人間を捕食対象ではなく敵対者として、己を屠るだけの狩人と認めたということに他ならない。

 

 惜しむらくは……

 

『GI、O、OOO……』

 

 吸い込んだ砂の重量に肉体が軋む。

 絶え間ない戦闘のダメージが閾値を超える。

 

 そう、惜しむらくは。

 ()()()()()()()()()()()()

 バーベナと相対した直後にブレスを吐いていれば、勝利の女神は【クイックサンド】に微笑んだろう。

 

『O、OO……O……』

 

 どこまでいっても【クイックサンド】は捕食者でしかなかった。

 自然界では、より強い捕食者に狩られ、食われる結末がお似合いなのである。

 

【<UBM>【埋没竜砂 クイックサンド】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【バーベナ】がMVPに選出されました】

【【バーベナ】にMVP特典【潜鮫服 クイックサンド】を贈与します】

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