無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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聖騎士叙任

 □■王都アルテア

 

 王国で初クエストを達成した翌日のこと。

 あなたはリリアーナの自宅を訪れた。

 理由は簡単。【聖騎士】に転職するためだ。

 

 騎士団関連の主要人物から推薦を受ける、という条件の達成には彼女の助力が不可欠だった。

 あなたは王国にやって来たばかりの住所不定無職。

 役職持ちティアンの知り合いなど他にいない。

 そしてリリアーナは近衛騎士団の副団長だ。

 推薦人としては文句なしの壱百満点である。

 

 姉妹の疲労を慮り、日を改めた。

 手土産も持参したので抜かりはない。

 あなたは気遣いのできる遊戯派なのだ。

 早朝深夜問わず突撃する廃人ゲーマーとは訳が違う。

 

 玄関先で呼びかけると、扉の隙間からミリアーヌが顔を出した。

 

「はーい……あ! いらっしゃい! おねえちゃーん! きのうのひとがきたよー!」

 

 あなたの顔を見るなり、ミリアーヌはぱたぱたと家の中へ駆け出していった。

 無防備な背中を見せ、あまつさえ家宅に侵入を許すとはなんとも不用心なことである。

 ここが天地であれば辻斬りや追い剥ぎに襲われても文句は言えない純粋さだ。

 

 あなたは殺伐とした思考を振り払う。

 ミリアーヌの態度は信頼の証だ。

 あなたが行動で掴み取ったものであり、それを裏切るなど普通は鬼を通り越して悪魔の所業だろう。

 やはり修羅の精神汚染は深刻だ。

 早急にどうにかせねば、あなたの常識人としての立場が揺らいでしまう。

 

 などと考えているとリリアーナが姿を見せる。

 仁王立ちでグランドリア宅の玄関を死守するあなたの意気込みを目の当たりにして、彼女は「……どうされたんですか?」と腫れ物を触るような扱いで出迎えた。

 誠に遺憾である。あなたは防犯上の観点から、家主に代わって気を配っていたというのに。

 顔見知りとはいえ簡単に扉を開けてしまうのはいかがなものかとあなたは忠告した。

 

「だいじょうぶだよ? ちゃんとわかってるもん」

「昨日のことがあったので、ミリアにも言い聞かせてはあるんです。あるんですが……やっぱり心配だわ」

 

 リリアーナの懸念は理解できる。

 ミリアーヌであれば人攫いに引く手数多だろう。

 

 なぜかリリアーナが警戒してミリアーヌを抱き寄せた。

 まるで不審者から妹を守ろうとするように。

 あなたは振り返るが背後には誰もいない。

 

「いえ、あなたです。あなた」

 

 はて、リリアーナは何を言っているのだろう。

 あなたは訝しんだ。

 

「……その格好は?」

 

 なるほど。ようやく得心がいった。

 流石は近衞騎士団副団長だ。

 あなたは鍛え上げられた肉体を自慢げに誇示する。

 

 肌色、そして水着である。

 必要最低限の布地で要所を覆い隠した装い。

 生まれたままの姿に限りなく近い、しかし公共の場で活動するに何ら問題のない格好だ。

 

 ちなみに水着は体温調節機能付きだったりする。

 

「服についての説明を求めたのではありません!」

 

 では何だというのか。

 こちらも説明を要求する。

 

「<マスター>はそういう存在だと知ってはいますが、どうして、その、服を? 昨日は普通でしたよね?」

 

 おかしな事を言うものだ。

 あなたとしては失笑を禁じ得ない。

 知人の家を訪問するのだ。<マスター>とて、それなりに礼儀作法には配慮すべきだろうに。

 

 これこそは真の正装だ。

 あなたは力強く断言した。

 

「は?」

 

 布切れ一枚で立つは、全てを曝け出す心から。

 隠し事をせず、後ろめたい事も抱えず。

 余分な防具を装備しないのは相手に信頼を示すため。

 歓談するだけなら身を守る鎧は不要。

 加えて、相手に害意を持っていない証明にもなる。

 水着では暗器や毒を隠し持つことは困難だ。

 アイテムボックスから武器を取り出す際は一拍の間が生じる訳で、生粋の修羅はその隙に逃走なり迎撃なり準備を整えることができる。

 

「おかしいですよね? いくら遠い国の話とはいえ、そんなの聞いたことがありませんよ?」

 

 リリアーナの指摘は正しい。

 徒手空拳にこの論理は通じない。

 天地では、一端の武芸者は必ず体術を修めている。

 つまりは心構えの話でしかなかったりする。

 

「いえそうではなくて。あの、聞いてます? ……もしかして私が知らないだけ……流石にそんなはずは」

 

 まあ冗談なのだが。

 

「…………(ジト目)」

 

 あなたは装備を通常のものに切り替える。

 水着が正装の世界線などあってたまるものか。

 いくら水着に全幅の信頼を寄せるあなたでも、そこまでトチ狂ってはいない。

 

 これはあなたなりの気遣いだ。

 素性不明の眼鏡野郎に騙され、危うく死にかけたリリアーナとミリアーヌは疑心暗鬼に陥ってもおかしくない。

 故にこそ、開放的でフリーダム、ウィットに富んだ小粋なジョークを挟んでみたのである。

 

 掴みはバッチシ。

 目論見は大成功といえるだろう。

 

「考えがあっての行動だと理解はしました。ですが」

 

 満足げなあなたを睥睨する近衛騎士団副団長。

 

「二度としないでくださいね。特にミリアの前では」

 

 この後もめちゃくちゃ怒られた。

 

 閑話休題。

 

「ところで私に御用ですか? まさか、ふざけにきただけということはないのでしょうし」

 

 リリアーナは長い説教を切り上げて首を傾げる。

 用事の半分は冗談と言えなくもないわけで、しかしそれを口にした場合はせっかく鎮火した火種に油を注ぐことになるのは目に見えていた。

 口は災いの元。沈黙は金である。

 なので、あなたは深々と頷いた。

 

「ええと?」

 

 あなたの深謀遠慮が通じない。

 やむなく訪問の目的を説明すると、今日初めて、ようやく、リリアーナはあなたに対する警戒を緩めた。

 

「そうでしたか、あなたも推薦状を。ええ、あなたたちには助けていただきましたから、お安い御用で……」

 

 紙とペンを取り出したリリアーナは動きを止める。

 彼女はあなたを静かに見つめた。

 これまでのあなたの素行を思い返すかの如く。

 やがてリリアーナはそっと目を逸らした。

 

「すみません。少し考えさせてください」

 

 なぜなのか。

 

 あなたの首筋に冷や汗が伝う。

 全く心当たりがないが、どういうわけか、リリアーナの好感度が平均以下になっている。

 一応これでもあなたは命の恩人なのだが。推薦状を渋られるとは想定外の事態だ。

 このままでは【聖騎士】に就職できない。

 

 無論、恩を傘に着るつもりはない。

 だがしかし。この扱いはあんまりではないだろうか。

 かくなる上はあなたのコミュニケーション能力を駆使して説得する他ないかもしれない。

 

 覚悟の眼光を浴びて、リリアーナが後ずさる。

 器用にミリアーヌを庇いながらだ。

 じりじりと接近するあなたに最大限の警戒を保つ。

 

「っ!?」

 

 一瞬であなたは間合いを詰めた。

 取り出したるはとっておきの賄賂(くもつ)

 無理を言って【天上料理人】に作ってもらった最高級のレムの実ケーキを二人分だ。

 至高の甘味を捧げて、あなたは頭を下げる。

 一糸乱れのない理想的な座礼。

 床に平伏して頸部を曝け出し、相手に生殺与奪の権利を握らせる服従の姿勢。

 

 これ即ち、土下座である。

 

 あなたは誠心誠意懇願した。

 何卒、何卒お頼み申すと。

 

「あの、頭を上げてください」

 

 いいや上げぬ。てこでも動かぬ。

 推薦状を手にするまでは。

 

「おねえちゃん。このひと、かわいそう」

 

 図らずもミリアーヌから援護射撃。

 一日に満たない付き合いだが、リリアーナが妹に弱いことをあなたは見抜いていた。

 これで勝つる。あなたは内心でほくそ笑む。

 

 数秒後、リリアーナは深いため息を吐いた。

 

 

 ◇◆

 

 

 あなたは喜色満面でスキップしながら転職に赴いた。

 手にはリリアーナの推薦状。

 やはり交渉は粘った者勝ちなのだ。

 受け取る際に「くれぐれも問題を起こさないでくださいね? 絶対ですよ?」と念押しされたが。

 リリアーナはあなたを何だと思っているのだろう。

 ちなみにそれは前振りかと尋ねて、彼女の血管が数本千切れてしまったのはご愛嬌である。

 

 あなたは騎士系統のジョブクリスタルの前に立つ。

 既に転職条件は全て達成済みだ。

 これで王国の騎士になることができる。

 

 あなたは【聖騎士】になった!

 

 歴史的名作RPGのサウンドを口ずさむ。

 もう無職とは言わせない。

 騎士とは言わば公務員みたいなものであるからして。

 

 忘れてはいけないのが、あなた独自の一手間。

 左手の紋章から一冊の本を取り出す。

 あなたの<エンブリオ>、【天職才人 グリゴリ】だ。

 かざすだけでグリゴリはクリスタルを登録した。

 これで今後はいつでもどこでも騎士系統のジョブに転職可能となる。

 

 準備は完璧に整った。

 早速レベル上げ。そしてジョブクエストを受注しよう。

 いざ、お仕事体験である。

 

 逸る心を抑え切れずに踵を返すと、浮かれるあなたを取り囲むように、見知らぬ男たちが立ち塞がった。

 

「止まれ」

 

 六人の<マスター>だ。

 いずれも剣呑な雰囲気を漂わせている。

 すわ天地からの追手かと怯えるあなただったが、彼らの装備は西方産。刺客ではないらしい。

 となると街角インタビューだろうか。

 あなたは何しに王国へ? なるほど興味深い。

 

 顔は隠してもらえるだろうか、と質問してみる。

 

「何を意味の分からないことを」

 

 どうやら見当違いらしい。

 王国の魅力を熱く語るVTRは不要と見える。

 

「貴様は状況を理解していないようだ。よろしい、知らぬと言うなら教えてやろう」

 

 筆頭らしき男は誇らしげに胸を張る。

 

「我々は<AETL連合>所属リリアーナファンクラブ!」

「一輪の華を愛でる者!」

「あわよくば手折りたいと望む者!」

「でも抜け駆けは許さない!」

「鉄の掟に叛いた者は?」

 

「「「粛清! 粛清! 粛清!」」」

 

「然りッ! 我々リリファン精鋭六名、これより卑しい抜け駆け豚野郎に制裁を加える!」

 

「「「異議なし!!」」」

 

 あなたは困惑した。

 ここまで意味不明で支離滅裂な因縁をふっかけられたのは天地以来だ。

 理知的で紳士的なあなたは、人違いか、それとも何かの間違いではないかと説得を試みた。

 

「ぬかせ! 貴様がリリアーナ家の軒先で半裸になっていたという確かな目撃情報があるのだ!」

 

 否定はしない。それは紛う事なき事実である。

 強いて訂正するなら水着を着ていたという点だろう。

 

「そして、貴様がこれ見よがしにリリアーナの直筆サインを手にして歩いていたということもな! 我々の目は誤魔化せんぞこの豚野郎め!」

 

 これも間違いではない。

 あなたが入手した推薦状にはリリアーナの署名があり、捉えようによっては直筆サインと言えなくもない。

 しかし手で持ち歩いていたとはいえ、書面を広げて見せるような真似は断じてしていない訳で。

 彼らリリファンは遠目から僅かに覗く筆跡だけを頼りに、推薦状の書き手を言い当てたことになる。

 

 あなたはドン引きした。

 

「サインは我々が押収する。こちらで堪能……もとい責任を持って保管させてもらおう」

「流石は同志オルランド! 俺たちが考えても言わなかったことを平然と言ってのける!」

「一生ついていきます同志オルランド!」

 

 士気を高めたリリファンが抜剣した。

 漲る敵意に、あなたの視線は絶対零度を下回る。

 

「所詮はジョブに就いたばかりのルーキー。一斉にかかれば手も足もでまい! 懺悔して死ね、異端者ぁ!」

 

 下衆外道さながらの言動で切り掛かるオル何某。

 理知的で紳士的、平和主義かつ常識人のあなたは身に迫る危険を目前に……肩をすくめた。

 なんとマナーのなっていない連中だろう。

 見た目初心者に対して、容赦なく追い剥ぎを仕掛けるような野盗がこの国にも存在するとは。

 同じMMOプレイヤーとして情けない限りだ。

 人のものを奪ったら泥棒という言葉を知らないのか。

 

 あなたは野盗が嫌いだ。PKが嫌いだ。

 理由は簡単。やられるとムカつくからである。

 勝てど徒労、負ければ散財。

 逃げても潰しても湧いてくる。

 鬱陶しいことこの上ない。

 

「な……防いだ、だと!?」

 

 故にあなたは襲われた際の対処法を決めている。

 やられたらやり返す。暴力には暴力だ。

 弱い敵は死ね。文句があるなら襲ってくるな。

 

 あなたはリリファンの攻撃を次々と受け流す。

 力任せの斬撃をいなすだけなら安物の剣で十分だ。

 バランスを崩した者は順に足で蹴飛ばした。

 

「こいつ絶対にルーキーじゃないです同志オルランド! 下手すりゃ俺らより強い……!」

 

 倒れたリリファンがうめき声を上げる。

 デスペナにするつもりで足蹴を入れたのだが。

 精鋭というのは誇張ではないらしく、個々がジョブとビルドを選び抜いたカンスト勢であるようだ。

 それもあなたから見れば大した事はない。

 

 なにせ、あなたのステータスは五桁に届く(・・・・・)

 

 グリゴリには『過去に修めたジョブのステータスを保持できる』というスキルがある。

 リセット済みのものを含めれば、あなたはゆうに数百を超えるジョブに就いてきた。

 積み上げた経験は、次の職業にも活かせるのだ。

 ちなみに無職のレベル0では効果が発揮されない。働かない無職に人権はないのである。嗚呼無常。

 

 ともあれ。

 リリアーナの推薦状(サイン)をあなたがちらつかせる以上、リリファンは過激な攻撃を行えない。

 殲滅攻撃か<エンブリオ>の初見殺しがなければ、あなたが手球にとって遊べるレベルの敵だ。

 

 本気で攻撃してみるがいい。

 リリファンの手元が狂った瞬間が、彼らとあなたの心が悲しみでひとつになる時である。

 そんな未来は来ない。

 

「おのれ小癪なァ」

 

 オル何某は憎々しげに歯軋りする。

 だがしかし。彼は周囲を見渡して態度を一変させた。

 

「まずい! 撤収! てっしゅーう!」

「逃げろ逃げろ!」

「急げ! 捕まって推しに迷惑をかける気か!?」

 

 リリファンは散り散りに駆け出していく。

 引き際の潔さは実に見事で手慣れたもの。

 あなたはつい呆気に取られた。

 

 接近する靴音であなたは我にかえった。

 これは衛兵の歩調だ。あなたとリリファンの諍いを聞きつけたに違いない。

 逮捕されては面倒なことになる。これでリリアーナの推薦が取り消されては目も当てられない。

 

 あなたは全速力でその場を離脱した。

 

 

 ◇◆

 

 

「……という騒ぎがありまして。一人がこんなものを落としていったそうですが、本当に心当たりがないと?」

 

 あなたはリリアーナの前で縮こまっていた。

 

 彼女が持っているのは騎士団の推薦状だ。

 リリアーナ直筆の推薦状である。

 当然、所持している人間は限られる。

 

 きっと別人の仕業だろう。

 あなたは嘯いた。

 

「レイさんには先に確認しました。目撃証言と照らし合わせても、彼でないと裏付けが取れています」

 

 流石は一国の首都。優秀な捜査網が敷かれている。

 それにしても失態だ。痛恨のミスである。

 まさか逃げる時に推薦状を落としてしまうとは。

 

 しかし、これは絶対にバレている(なんとしてもごまかさねば)

 

「お渡しした推薦状を拝見してよろしいですか?」

 

 それはできない相談だ。

 あなたの手元にないのだから。

 今、リリアーナが手にしているのがそうだ。

 

「誤解があるようなので訂正しますが、別に我々は<マスター>同士の問題に口を出すつもりはありません。ただ、今回は石畳が多少破損しているために捜査が進んでいまして。そこにこの推薦状です」

 

 本来は衛兵だけで担当するところ、犯人とリリアーナの関係を示す証拠が出てきた。

 なのでリリアーナは近衛騎士という立場でありながら小さな事件の捜査に駆り出されたというわけだ。

 

 なんとも災難な話だ。完全にとばっちりではないか。

 同情に値する。

 

「あなたのせいなんですけどね」

 

 だが自白するわけにはいかない。

 前科がついたら推薦が取り消されてしまうかもしれず、その場合あなたは【聖騎士】に就職できなくなる。

 大丈夫だ問題ない。バレなければ罪は立証されない。

 

「残念ですが《真偽判定》に反応有りです。それと、推薦状にはあなたの名前が書いてあるんです」

 

 ガッデム。

 つまり心証を悪化させただけではないか。

 もうおしまいだ。推薦状は効力を失い、王国からは指名手配されてしまうのだ。おのれ司法め。

 あなたは地面に拳を叩きつけた。

 この慟哭は海より高く山より深いのである。

 

「……あの、そんなに悲観されなくても大丈夫ですよ? 私の口からおおっぴらには言えませんけど、この程度なら金銭で解決可能ですから」

 

 マジで?

 

「まじです」

 

 あなたは復活した。王国万歳。超チョロい。

 やはり世の中は金だ。マネー・イズ・パワー。

 現金と言われようが知ったことか。金だけに。

 

「はあ……これもお返しします、けど!」

 

 意気揚々と伸ばしたあなたの手が空を切る。

 リリアーナが推薦状を引き上げたのだ。

 

「あれだけ言ったのに、どうして問題を起こすんですか。それもまさか一日と経たずに街中で」

 

 致し方あるまい。あの行動は正当防衛だ。

 考えれば考えるほど、あなたに罪はないと断言できる。

 襲撃してきたリリファンはあなたの大切なものを無理矢理に奪おうとしたのだから、むしろあの程度で済んだことを幸運に思うべきだろう。

 

「大切なもの? 何ですかそれは」

 

 もちろん、リリアーナ直筆のサイン(推薦状)だ。

 

「っ……い、いえ。ふざけるのはよしてください」

 

 ふざけてなどいない。

 それを奪われたら、あなたは生きがいを失ってしまう。

 具体的には【聖騎士】の条件がクリアできず、自由に転職できなくなってしまうのだ。

 

 どのように表現すれば理解してもらえるだろうか。

 例えるなら、そう。

 あなたにとって命よりも大切な、この世でたったひとつしかない宝物なのである。

 あなたは真摯に力説した。

 

「そ、そうですか。……そうですか」

 

 なぜかリリアーナの語気が弱まった。

 顔と耳がほのかに赤みを帯びている。

 もしや風邪を発症したのだろうか。

 心配になったあなたは触診を提案した。

 

「結構です! はい大丈夫です問題ありません」

 

 返答はとても力強い。

 遠慮しているわけではないようだ。

 

「もし推薦状を紛失したら、また私にお声がけください。改めて一筆したためますから……そんなに必死になる必要はありませんからね。嘘じゃありませんよ。その代わり、もう問題を起こさないでください。お願いします」

 

 リリアーナは疲れ切った様子で懇願するのだった。




・リリファンの皆さん
無職さんの告げ口で全員お縄についた。
無職さんに怒ったがそれ以上に号泣して感謝した。
後日、この件で他のメンバーから制裁を受けたそうな。
抜け駆けダメ。絶許。


【近衛騎士団副団長の推薦状】
リリアーナの直筆サイン入り。
リリファン垂涎の一品。
無職さんは厳重なコーティングを施して貴重品用のアイテムボックスに保管した。
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