無職さんのデンドロ履歴書 作:リリアーナを照れさせ隊
□■超級職について
<Infinite Dendrogram>における職業とは、二種類の意味を持つ。
ひとつは単純に仕事の呼称として。
もうひとつはシステムの恩恵、ジョブという形で与えられる無形の器として。
この世界で生きる人々に必要不可欠な才能。
そう、才能だ。
ティアンはジョブに就職するにも才能が要る。
血筋や適正で就職できるジョブが制限されている。
生まれつき、選べる未来が制限されている。
反面、万能の才能を持つ<マスター>はおよそ凡ゆるジョブに適正を有しているが。
それでも特定のジョブには就職できない。
例えば
適正さえあれば就職が容易な下級職、条件を達成して解放できる上級職の、そのさらに上。
万を超えるジョブの中で、ごく一握りの者しか辿り着けない頂点の位だ。
超級職は同時に一人しか就くことができない。
先着一名の椅子取り合戦に勝利するには、同じ超級職を目指すライバルを出し抜くか、あるいは椅子に座った当代を殺害するしかない。
加えて<マスター>は死亡しても超級職を失わない。自発的にリセットしない限り、誰も後には続けない。
上記の仕様が取り沙汰されることが多いが、実際のところ、超級職とはそうでなくても茨の道だ。
なにせ厳しい就職条件を満たさないとレースのスタート地点にすら立てないのだから。
基本的に、超級職の就職条件は前提となる上級職・下級職に関連する内容が多い。
特に【王】の系譜はシンプルな類いだろう。
剣士系統の超級職【
①剣士系統の合計レベル300以上
②剣士系統スキル使ってモンスター3000体討伐
③自身よりステータス(HP含む)が三倍以上高いモンスター30体ソロ討伐
これに『自分と同じ技量と装備で全ステータスを三倍化した敵性ユニット討伐』という試練が加わる。
その他の変わり種としては【
至極簡単に『レベル上限に達したジョブのリセット回数1000回以上』かつ『ジョブに就いていないレベル0』で『総ジョブリセット回数が先代より多い』ことで就職可能な超級職もあるとかないとか。
だが、サービス開始以降、超級職の条件を達成する<マスター>は少なからず現れた。
条件が判明している超級職を<マスター>は血眼で探し求め、空位のジョブを奪い取る。
まさに乱世。末法の世。
就職氷河期もかくやの勢いでブルーオーシャンは開拓されていく。
それでも未踏の地はある。
万能の才能を持つ<マスター>が、どう足掻いても就職することのできないジョブ。
特殊超級職。
王国の【聖剣王】、皇国の【機皇】……そして今は亡き【勇者】もここに含まれる。
現状で特殊超級職に就いた<マスター>は【聖女】を強奪した【犯罪王】ただ一人。
とある“血統”を要求される【聖女】の条件を、遺伝子レベルで同一とみなされる<エンブリオ>の変身能力で強引に達成した例外中の例外である。
即ち、真っ当な手段で<マスター>が特殊超級職に就職することは不可能だ。
◇◆
□■首都メイヘム跡地
あなたは【ミスティコ】を服用した。
あなたは草薙刀理になった。
そしてグリゴリを破り捨てる。
本来あなたが過去に就いたジョブを記す頁は……新しい五枚のみ白紙だった。
うち二枚は切り取った痕跡だけが残っている。
『ええ、ええ。よいでしょう。あなたの抵抗を、無意味な奮闘を見届けましょう』
若武者とあなたは鏡写しに構える。
互いの刀は腰に佩いて、抜刀術の姿勢。
けれども地力が違う。数多のジョブスキルとステータスに裏打ちされた強さを誇る両者だが、戦闘技術という一面において、【勇者】草薙刀理を模した再現体は圧倒的にあなたを上回っている。
あなたが《職務経歴》とこれまでの経験を駆使して【勇者】に追い縋ろうと恐らくは無意味。
先に仕掛けたのは若武者。
踏み込みと鞘走りまで無拍子に。
出遅れたあなたは迎撃も回避も間に合わず。
ざっくばらんのずんばらりと両断される。
そんな未来はなかった。
『…………?』
先程までの既定路線はキャンセルで。
具体的には若武者の太刀筋を見切ってから、それよりも早い速度でカウンターの斬撃を仕掛けた。
正気と引き換えに《ラスト・バーサーク》の恩恵でSTRとAGIを五倍化したあなたは、愛刀の悲鳴を無視して《ソード・アヴァランチ》を繰り出す。
ほらちゃんと狙いつけて役目でしょ。
あなたは体の自由が効かないのだから、上手いこと呪いで手綱を握ってもらわないと困るのだ。
『何故……』
なんだかんだと聞かれたら。
答えてあげるが世の情け。
知らざあ言って聞かせやしょう。
あなたはドヤ顔で胸を張った。
パンパカパーン!
あなたは【勇者】にジョブチェンジした!
今のあなたは勇者あなた。
サブジョブに【剣王】【狂王】を取得した、最強無敵のモンスターである。
見ての通り、グリゴリのスキル《スペリオル・インターン》の効果はシンプルだ。
就職条件を満たした超級職に就ける。
それ以上でも、それ以下でもない。
なぜ【勇者】に就けるのかは知らん。
あなたに取っても一種の賭けだった。
ただ……【勇者】とはランダムなティアンが生まれついて持ち合わせるジョブだという。
じゃあ【勇者】本人は条件満たすんじゃない?
実際に変身して上手くいってるからヨシ!
などと簡単に説明している間にも、体は闘争を求めて若武者と激しく切り結ぶ。
『《ウィンド・ブレス》、《雷龍》』
若武者は下級の風属性魔法で符を散らしてあなたの足元に設置した。離脱の瞬間に強烈な斬撃を放ち、防御したあなたが硬直する一瞬で雷光の嵐を呼び招く。
強力な攻撃ではあるが、現状あなたに取ってはそよ風と冬場の静電気レベルのダメージだ。つまり割と効いていることになるな。
上級職の奥義を受けて多少の痺れとダメージで済んでいるのは《ラスト・バーサーク》で被ダメージを五分の一に減少しているから。加えて持ち前の加算値と超級職三つで得られるステータスのゴリ押しだ。
『《兜割り》』
上段からの一刀を半身で躱わす。
あなたは鼻歌混じりで超々音速に至った。
AGIに換算しておよそ十八万の速度。
STRは約十五万ほどで、凄まじい速度と膂力に、愛刀からは鳴ってはいけない破損音が聞こえている。
このままだと目の前の敵を殺すより先に愛刀がご臨終しそうでござるな。
もちろん超スーパーあなたの最強モードも決して無限ではなく、制限時間がある。
《スペリオル・インターン》はいくつか条件と制限が設けられているのである。
ひとつは使用回数。
一度につき、グリゴリは白紙の頁を一枚消費する。頁のストックは最大五枚。二十四時間に一枚回復する。
あなたはフォルテスラ戦で【剣王】とおかわりの【狂王】に就いて二枚の頁を消費した。
その後【失業王】に就職するため上記のジョブをリセット。【勇者】含むジョブを取得し直している。
ゆえに日を跨ぐまで、あなたはもう《スペリオル・インターン》を使えない。
そしてレベルと能力。
お試しで就く超級職のレベルは、スキル発動時にコストで支払うレベル相当の数値になる。
今回あなたは100レベルをコストに捧げた。
毛フェチの抜け殻を食べて、餓鬼系統のジョブスキルで経験値に変換していたへそくりだ。
それを【勇者】レベル50、【剣王】レベル49、【狂王】レベル1の割合で配分している。
当然ながらステータスとスキルは配分したレベル相当の水準になるが、ここでとある問題が生じる。
超級職のシナジーは無視できる。【勇者】の《
ただ【失業王】の《職務経歴》。この奥義は
超級職の体験中、あなたは過去にリセットした数多のジョブスキルを使うことができない。
また超級職のみで前提の下級職・上級職に就いていないため、細かい系統ごとのスキルまで喪失している。
積み上げた経験を否定するとはなんたる事。
実に面倒な仕様には煩わしさを禁じ得ない。
あなたは運営に
強化アプデはよ。ついでに諸々の改修もな。
『……何故、何故、何故?』
ヤクザキックで吹き飛んだ若武者が口を開く。
もとより草薙刀理としての意識はないのか。
あるいは、元になる記憶が少ないがためか。
溢れる疑問は【テラーカイブ】の胸中から。
『何故、抗うのです。貴方達は望んでいる。失った過去を見つめ直す時間を。過ちを清算する機会を。貴方達がワタシを産み落とした。貴方達がワタシに願った。だというのに、何故?』
存在意義を<UBM>は主張する。
死者はいずれ忘れ去られる。
生者の悲しみはやがて癒える。
忘却を、喪失を、「そんなこともあったね」と片付けてしまうことを許さない。
愚かで惨めな過誤を永遠に記録して再演する。
己の役割は求められたものだと。
『ワタシは望まれた『神』なのです。貴方は自分の願いを否定するのですか? それは間違っている』
だから自分は正しいのだと。
何をしても許されるのだと。
『ワタシは貴方の願いも叶えました。記憶に残る後悔を、忘れ去りたくはないでしょう?』
あなたは【テラーカイブ】に答えた。
知るかバカ。
『バ……!?』
あなたは【テラーカイブ】の生みの親ではない。
なので余計なお世話である。
お前に頼んでないからそういうの。
その『神』とやらが望まれたのだとして。
需要と供給があるなら、それはお仕事だ。
あなたは敵の言い分もある程度は認めている。
人間は弱い生き物であるからして、救いを欲する気分の時もあろうもん。
だがしかし。
他人のお仕事を蔑ろにする理由にはならない。
濡羽姫は最期まで武家の子女たらんとした。
草薙刀理は死に瀕しても【疫病王】と対峙した。
命を燃やしたお仕事を【テラーカイブ】は踏み躙り。
彼らを弄び、あろうことか嘲笑した。
その行い、万死に値する。
加えて。今日のあなたは依頼を受注している。
<UBM>の討伐。エリザベートから頼まれたお仕事はしっかりと遂行しなければならぬ。
これで王国でのあなたの評価は五割増。
ついでにリリアーナとミリアーヌにいいところを見せるチャンスでもある。見逃すっきゃねえ。
マーベラス、実にマーベラスだ。
あなたの神算鬼謀は留まるところを知らない。
『何故? 理解できません。
語るに落ちるとはこの事である。
自称“神”にあなたは言い聞かせる。
あなたの意思をくだらないと切って捨てる存在が、あなたの神であろうはずもなく。
人間一人救えない存在が大勢を救えるはずもなかろうがバカちんめ。
所詮【テラーカイブ】は神を気取った<UBM>に過ぎない。まるで目新しさがない。あなたが編集者なら赤ペンで没を入れるキャラクターである。
『ええ、ええ。よいでしょう。
そこまでワタシを拒むのであれば。
これほど話が通じないのならば。
【勇者】の前に斃れるとよいでしょう。
ワタシは『神』にして代弁者。
観測し、記し、永遠に残り続けるもの。
貴方の、救えない愚かさをも刻みましょう――!』
安心するといい。
あなたが特典武具を手に入れた暁には、その性能次第で【テラーカイブ】のお仕事を引き継ごう。
あなたは事業承継から下請けまで何でもこなす有能な<マスター>であるからして。
再び両者は得物を手に向き合った。
若武者の構えをあなたは知っている。
かつて、大蛇と化したあなたの八つ首を一瞬で切り落とした【勇者】草薙刀理の絶技。
今一度あの魔剣を目にすることができる、その一点は【テラーカイブ】に感謝してもいい。
あなたは密かに内心で感慨に耽る。
『《我流魔剣――』
あの時は目で追うこともできなかった。
気がついた時には、あなたは倒れていた。
故に。唯一、あなたがあり合わせのスキルで模倣すらできなかった複合スキルが今――
『――大蛇》』
――閃いた。
踏み出し、交錯、そして静寂。
『…………』
あなたはずるりと脱力して膝をつき。
胸の傷から夥しい量の血が吹き出すのを見た。
剣筋を見切り回避を試みたが不可能だった。
ステータスのゴリ押しが通用しないとは。
やはりデンドロはクソゲーでござるな。
あなたは清々しい気分で天を仰いで。
『……何、故』
若武者が崩れ落ちる音を耳にした。
愛刀を鞘に納めたあなたは宣言する。
――【勇者】はもう、死んでいる。
Q. 結局どうやって倒したの?
A. 魔剣を正面から受けて、返す刀で斬り刻んだ
やっぱり最後に頼れるのは筋肉。
肉を切らせて骨を断つやね。
・主人公
他に【殺人王】の条件を達成済み。
まだ、お仕事は終わっていない。
・作者
繁忙期で霊圧が消えた。
今回の話で終わらなかった……だと……?