無職さんのデンドロ履歴書 作:リリアーナを照れさせ隊
□■<墓標迷宮>
あなたは労働に意欲的な<マスター>だ。
お仕事あるところにあなた有り。
頼まれたら大抵の事はやってのけるし、頼まれなくても自分から仕事を作って業務に勤しむ。
できる無職は自分から仕事を取りに行くのだ。
なお、仕事を作るのと問題を生み出すのでは根本から意味が異なるので注意が必要である。
前者は信頼と実績のあなた。
後者は頭のおかしい<超級>。
勤勉なあなたは今日もお仕事に励む。
死が匂う仄暗い迷宮の奥底にて。
あなたは正体不明の魔物と遭遇した。
「やや、無職。死ねぇい!」
問答無用のファーストインプレッション。
あなたは愛刀で薄汚いPKを返り討ちにした。
「ぐわー!?」
「「「同志オルランドー!」」」
迷宮で遭遇した敵は<マスター>とて魔物である。
たとえ顔を知るリリファンだろうと、社会のゴミは掃除せねばなるまいよ。
あなたは最近読み返した殺し屋漫画の影響でサツバツとカゲキな思考に染まっていた。
残り三人のリリファンを蹴散らして、足元からよじ登ってくる気味の悪い蟲型天使を振り払う。
四人のうち誰かの<エンブリオ>だろうか。
寡聞にしてあなたは存じ上げない。
「ダメでしょう君達。よそ様にご迷惑をかけては」
「…………」
物陰から現れた二人組がリリファンを窘める。
片方は非常に特徴的な風貌だ。
大鎌を担いだ道化師と、普通の聖騎士。
【聖騎士】パトリオット。
【鎌王】ヴォイニッチ。
過去に報復でクラン<AETL連合>にカチコミを仕掛けた際、あなたは両名の姿を目撃していた。
「申し訳ありません! 我々はレベル上げの途中でして。血の気の多いリリファンが逸ってモンスターと勘違いしてしまったようです」
「……いや、あれは故意の犯行では」
「それよりも! こんな場所であなたに会えるとは思いませんでした!」
ヴォイニッチはパトリオットの指摘を遮り、笑顔であなたの手をシェイクハンドした。
そこはかとなくPKをうやむやにして誤魔化そうとする気配を感じる。しかし相手の押しが想像より強い。握力も強い。STRは三万を超えているのでは?
「今もっともリリアーナと親密な<マスター>。ギデオンを救った【失業王】の噂はかねがね。羨ましい限りです。もしよろしければ、ティアンと関係を深めるコツを教えていただいても?」
まあそれほどでも? あるかな?
あなたはドヤ顔で胸を張った。
ティアンの好感度を稼ぐポイントは、やはりお仕事をこなすことだろう。クエスト報酬はプライスレス。
たとえば今日のお仕事も然り。
あなたは<墓標迷宮>関連のジョブクエストを複数まとめて受注している。
依頼主はティアンであったり、あるいは<マスター>であったりと様々だ。
主な内容はドロップアイテム集め。
プラスでデスペナルティになった<マスター>から、死亡時のドロップアイテム回収を依頼されている。
要するにどちらも遺品回収。ダンジョンの景観を保つ、清掃業務と言い換えられなくもない。
「少しいいだろうか。あなたは王国の所属ではないと聞いたが、なぜ<墓標迷宮>に入れている?」
パトリオットの疑問はもっともだ。
あなたは懇切丁寧に説明する。
フランクリンのテロを解決に導いた報奨金の代わりに、あなたはアルター王国から特別な【墓標迷宮探索許可証】を授けられている。
これは国家所属の有無を問わず、王都アルテアの地下に広がる神造ダンジョン<墓標迷宮>に潜ることができる王族公認の証明書だ。
あなたは【許可証】の効力がいかにすさまじいか実感することができた。
まさかの顔パス。門番スルーである。
マーベラス。実にマーベラスだ。
なお入口で立ち往生をくらったが、物理的な侵入不可設定如きでお仕事は止められない。
ん、運営は諦めて道を開けるべき。
王国所属以外は跳ね除けるシステムの障害も、今のあなたにはあってないようなもの。
正面突破の蛮行にお咎めはない様子。管理AIはあなたの行動を黙認していると考えていいだろう。
結局は不法侵入とか言ってはいけない。
さて、次はあなたが質問する番である。
第一にレベル上げとの事だが。この付近に経験値効率の美味い狩場があるのだろうか。
第二にあなたに群がる蟲型天使と一つ目天使は誰の<エンブリオ>だ。まるで躾がなっていない。あなたは些か不快感を込めてリリファン共を非難した。
「気軽に口外する内容ではありませんが……そうですね、今回の迷惑料としてお納めいただければ」
ヴォイニッチはマップ情報を共有する。
「現在地は<墓標迷宮>二四層。スライム系モンスターが徘徊する領域ですね。実はここだけの話、この階層にはメタル系のスライムがポップするんです」
マジで? あなたは耳を疑った。
メタル系のスライムは自然界のリソースを蓄えた歩く経験値の塊だ。当然ながら希少種である。
運良く遭遇しても、強固な防御力、各種耐性、逃げ足の速さ等を持っているので討伐は困難を極める。
その分、倒せば大量の経験値と希少金属など素材を入手できるわけだ。おらワクワクしてきたな。
「詳細は伏せますが、うちのオーナーはレベリングに長けた<エンブリオ>を持っています。ああ、それは噂話でご存知のようですね。なので今日はそこのリリファン四人のレベリングを……私は付き添いです。超級職はレベル上限がありませんから」
あなたは特に目的地がないため、<AETL連合>に同行して、道中に転がる遺品を拾い集める。
酸に溶かされた女性用防具や、大量にぶちまけられたポーション、貨幣の詰まった袋などなど。
落とし主不明のゴミをせっせと回収していく。ちなみに一割はあなたの懐行きである。
上機嫌のあなたに注がれる非難と困惑の視線。リリファン四人が頭のおかしい人間を見るような、なんとも言えない表情を浮かべていた。
おい、文句があるなら口に出してもらおうか。
そしてもし、仮に、万が一。あなたを快く思っていないのだとしても態度に出すのはよろしくない。
お仕事では、どうしても自分と気の合わない人間とも接する機会もあろうもん。
「〜♪」
ヴォイニッチを見習ってほしいものである。
今も鼻歌交じりに周囲を警戒している。
実に朗らかで人当たりがよく勤勉だ。
あなたは彼と一緒になって鼻歌を歌った。
「「「「「…………」」」」」
五人は無言になって緊張した空気を生む。
何故なのか。解せぬ。
あなたは何もしていないというのに。
「二つ目の質問に答えると、その天使達は私の<エンブリオ>ですね。【監死群 アザゼル】。大鎌のアームズと天使のレギオンで、能力特性は『伝達』です」
ヴォイニッチは一つ目型天使を指差す。
「《
ヴォイニッチが索敵を担当する理由にあなたは得心がいった。遠隔操作のドローンのようなものだ。非常に使い勝手のいいスキルであるな。
加えて、あなたはスキルの名称に親近感を覚えた。アザゼルはグリゴリとモチーフを同じくするからだ。
いえーい。なかーまなかーま。ピースピース。
ヴォイニッチの鼻歌のキレが増した。
なぜかパーティの空気が氷点下になった。
「言われてみると奇遇ですね。ただ、私の必殺スキルはエグリゴリではありません。《
必殺スキルの効果は攻撃の伝達。
まず事前に蟲型天使を対象に張りつかせる。
その後、人型天使を本体の大鎌で傷つけると、ダメージが連動して、蟲型天使がついた相手に同じ傷を与えることができるのだとか。
アザゼルと【鎌王】の
故に“突然死”のヴォイニッチ。
天地の修羅と同レベルでおっかないコンボだ。
遠隔防御無視斬首とか頭おかしい。
あなたは心胆から恐怖で震えた。やはり首を狙ってくる相手は恐ろしいってはっきり分かるんだわ。
「いえいえ。実際は色々と条件があるせいで使い方が難しい能力なのですよ。まあ上手く付き合っていくしかありませんが。そうそう、あなたのグリゴリも癖の強い<エンブリオ>だと噂されていますよ」
気分を良くしたあなたは<エンブリオ>自慢をしようとして、はたと思い止まる。
ヴォイニッチのそれは社交辞令なのでは?
それか本当は自分のアザゼルを受け入れられておらず、他人の<エンブリオ>を羨んでいる可能性。
その場合、グリゴリをひけらかしたあなたは最低最悪のノンデリクソ野郎に成り下がる。
実際あなたのグリゴリは戦闘において無能な昼行燈と同レベルのお役立ちアイテムに過ぎないし。
ここまでの思考を瞬時に導き出したあなたは、深謀遠慮を発揮して、控えめに頷いた。
嗚呼、あなたの気遣いと対人コミュニケーション能力は世界一。イグノーベル賞の受賞待ったなしである。
「おや、気分が優れませんか?」
どうやらまるで通じていないらしい。
そういうこった! どういうこった?
そんなこんなで、あなた達はメタル系スライムの生息地に到着した。
<AETL連合>を邪魔しないように、あなたは可能な限りの気配遮断スキルを使用した。
経験値は心惹かれるが、今日のあなたはお掃除あなた。与えられたお仕事をこなさねばならない。
あなたは箒とちりとりを装備した。
そして薬瓶を服用した。
あなたは寒天状のぷるぷるスライムに。
細かい角の汚れまでピッタリ吸着する。
さらに《影分身の術》を使用。
元々、分身体の一人だったあなたAは無数のスライムに分裂して四方八方に飛んでゆく。
ハハッ、お掃除〜お掃除〜!(裏声)
「同志オルランド。非常に気が散ります!」
「無視しろ! オーナー達の時間を割いていただいているのだ、無駄にできん!」
口笛を吹いて片付けに励むあなた。
デスペナった<マスター>の落とし物や、ごく稀に残されているティアンの遺体を回収する。血溜まりはスライムの体を活用して吸収、無害な真水にリサイクルする。
自然発生したダンジョンでも、スライムは清掃屋として生態系を担うことがある。時代はエコだね。
「というか、スライムゾーンでスライムに変身されるのって迷惑行為なのでは……?」
「あ、やべ。間違えて倒しちゃった」
プルプル! ぼく悪いスライムじゃないよ!
やられたらやり返すけどね。
正当防衛は生物に認められた権利なのだ。
スライムが生物に該当するのかという疑問については、あなたは明確な回答を持たない。
リリファンが倒したスライムあなたは死の直前に派手な音を立てて爆散。強酸性の猛毒を撒き散らす。
爆発音でメタル系スライムは逃亡し、それ以外の敵スライムがポコジャカ大集合ー。
あなたは従魔師系統のスキルで手当たり次第にスライムをテイミング。集めたスライムで組体操を敢行した。
スライムタワー!
スライムピラミッド!
おや……? スライム達の様子が……?
なんと! スライムAtoZ達は合体してスライムキングあなたになった!
「「「「はぁ!?」」」」
スライムキングあなたは報復した。
リリファン一名を質量で押し潰す。
重量を耐えてもスライムの体で窒息死な。
「ちょ、オーナー! ヴォイニッチさん! 助けてくださいよ!」
「攻撃しないのが懸命だと思いますよ。どうやら手を出した相手に反撃するだけのようです。スライムでは首を斬っても無意味ですし」
「そもそも首はあるのか?」
あなたはリリファンの死体を消化した。
痕跡は跡形も残さずに。どうせ光の塵になるが、今はダンジョンの掃除中。汚すのはよろしくない。
あなたを定期的に襲う野蛮なPKが一人消えたことで、王国の真っ当度合いもうなぎ登り。これが社会のお掃除というやつであるな。
「流石に見過ごせんな」
「しかしオーナー。彼らリリファン精鋭があの方に日夜襲撃を仕掛けているのもまた事実。今回の一件は自業自得なのでは?」
「うむ……」
「どうか再考を! この異端者は第一王女殿下と二人で街を歩いていた疑惑が上がっています!」
オル某はパトリオットに告げ口した。
汚いな流石リリファン汚い。
ひとつ補足すると、あなたが同行したのは謎の剣聖Aであって、アルティミア第一王女とは別人だ。
すわ敵対ルートかと身構えるあなた。
しかし。
「――みくびるな」
パトリオットは一喝した。
寡黙な彼の大声に全員が息を呑む。
それほどまでに珍しい光景だった。
同時に、彼の様子にあなたは既視感を覚える。
自尊心。誇りを胸に抱く仕事人に似て、崇高で尊い溢れんばかりの輝きがパトリオットの根底にある。
「たしかに。たしかに、アルティミア殿下と親しい君に嫉妬心を覚えないと言えば嘘になる。正直私もPKしたいくらいだ。恨やましい」
突然の告白にあなたはときめいた。
熱烈な殺意の矢印がいわれない無職を襲う。
第一王女とは何の関係もないというのに。
「だが、それでもいい。それでいいんだ。元から見返りを求めているわけではない。私は…… 我々はあの方と王国が健在であれば何もいらない。たとえその視線が君のような無職に向いたと……して……ぐっ……」
「めっちゃ葛藤してる!? 堪えてオーナー、ここでぶちまけたら何もかもが台無しよ!」
「わかって……いるとも……!」
愛に生き、哀を背負う男パトリオット。
憤怒を押し留める姿はあなたのフレンドより余程まともで、それでいて彼らのように自由と芯を忘れない。
あなたはその生き様に敬意を表した。
スライムキングあなたはクールに立ち去った。
血涙流すパトリオットのような男がいる限り、王国は変わらず健在だろう。
なにせあなたはお仕事中、三回に一回の頻度で王都の奉仕活動に勤しむ彼の姿を目撃している。まさしく王女殿下のためのパヴァーヌ。別にアルティミア第一王女は死んではいないが。
パトリオットを見習い、あなたは本業に戻る。
このペースなら今日中に【掃除屋】と【侍従】のジョブクエストが終わることだろう。
◇◆◇
「……無職になれば殿下とお近づきになれるだろうか。どう思うお前達」
「やめた方がいいと思いますね!」
「あの異端者がおかしいだけです。早まってジョブリセットなさらないよう」
「…………そうか」
・主人公
ダンジョンの内装をピカピカに磨いた。
鏡写しの壁に誤射する事件が頻発するように。
・パトリオット
まだファッションセンスは影響なし。
半分本気でジョブリセットしようとした。
・ヴォイニッチ
情報収集
・オル某+リリファン三名
今日のサブオーナー超機嫌悪い……怖……。
【
掃除屋系統下級職。二次オリジョブ。
STRとDEXが少し伸びる非戦闘職。
片付けが上手になるセンススキルを覚える。
上級職は【清掃職人】(読み未定)。
暗殺者系統と複合で【
【
侍従系統下級職。二次オリジョブ。
非戦闘職。名家の使用人が就く。
主人を補佐するスキルを複数覚える。
上級職は【
別に、あれを片付けてしまっても構わないのだろう?