無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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メインの方は筆が進まないのに……


営業・事務・お茶汲み

 □■王都アルテア

 

 あなたは至極真っ当で勤勉なる労働者だ。

 経験値を得るため、ついでに生計を立てるため、今日も労働に精を出す。

 

 デンドロに限らず、大半のMMOにおいてレベルアップの方法は一つではない。

 

 最も一般的な手段は敵性エネミーの討伐だ。

 敵として登場するモンスターを倒して入手できる経験値とアイテムでプレイヤーは己を強化する。

 所謂ハックアンドスラッシュである。

 

 他にはクエストが馴染み深いだろうか。

 依頼を達成することで、これまた金銭や経験値、アイテムといった報酬が手に入る。

 一口にクエストといっても内容は様々だ。

 決められた数のモンスターを狩る『討伐(スローター)』。

 依頼主の求めるアイテムを納品する『調達(おつかい)』。

 指定場所に荷物や人を届ける『配達(しけ)』と『護衛(介護)』。

 上記以外にも多様かつ細分化された分類があるとかないとかエトセトラ。ここでは割愛する。

 

 先日あなたが達成したグランドリア姉妹救出のようにランダムで発生するクエストもあれば、冒険者ギルドやジョブ専門ギルドが発行するクエストもあり、そこらじゅうにクエストは転がっていると言えなくもない。

 

 レベル上げとお仕事体験。ついでに人助け。

 あなたにとってみれば一石三鳥だ。

 趣味と実益を兼ねたライフワークのため、あなたは王都を駆け回り、片っ端からクエストをこなしていた。

 

 今日も一日がんばるぞい。

 

「帰ってください」

 

 あなたは門前払いされた。

 営業終了だ。まだ朝なのに。

 

 いくら無職の名をほしいままにするあなたとて流せる言葉と流せない言葉がある。

 至極真っ当で勤勉な、世のため人のためお国のために働く労働者としては承伏しかねる。

 

 あなたは王国騎士団詰所の扉をノックした。

 抗議の意味を込めて強めにだ。

 聞こえていない可能性を考慮して大声で呼びかける。

 頼むから開けてほしい。さもなくば。

 

「さもなくば?」

 

 …………。

 

「どうして黙るんですか!?」

 

 半ば悲鳴と同時にリリアーナが飛び出してきた。

 これは幸先が良い。

 特に何かをする前に開いたのでヨシ。

 

「アイテムボックスにやった手を離してくださいね! 何をするつもりかは知りませんがダメです」

 

 まるで危険人物のような扱いに不満を抱く。

 あなたは善良な遊戯派だ。一人の無職でもある。

 街中で火薬を放り出したり、市民を辻斬ったり、大通りに野菜を植えたりはしない。

 ただ適切な文句が思いつかなかっただけだ。

 どうやらリリアーナとは一度しっかりとお互いの認識について話し合う必要がありそうだった。

 後で対話の場を設けようとあなたは心に決める。

 

 それはさておき。

 なぜリリアーナが騎士団の詰所にいるのだろう。

 あなたが疑問に思うのは当然のこと。

 アルター王国は近衛騎士団に加え、常備戦力としての騎士団を擁している。

 

 当然だが規模は普通の騎士団の方が大きい。

 日常の治安維持やモンスター討伐が主な仕事だ。

 騎士系統に就いた<マスター>に対するクエストの手配も、彼らの詰所で行なっている。

 要するに【騎士】の職業ギルドというわけだ。

 

 一方で近衛騎士団は精鋭中の精鋭。

 所属する騎士は全員がレア上級職の【聖騎士】。

 普段は城内で王族を護衛しているはず。

 リリアーナはそんな近衛騎士団の副団長だ。

 現在は団長が空席で彼女が実質的にトップとなり。

 

 こんなところで油を売っていていいのだろうか。

 

「……あなたがそれを言います?」

 

 なぜかリリアーナに睨まれた。

 理由はとんと見当がつかない。

 

「分かりませんかそうですか。あなたが原因で呼ばれたんですけどね! 自覚がないようで結構です!」

 

 なるほど完璧に理解した。

 あなたは頭を抱えて舌を出す。

 自分、また何かやっちゃいました?

 

「やってくれましたよ、ええ! あなたがクエストを大量受注したせいで騎士団の業務が立ち行かなくなっているんです! 何をどうすれば書類仕事で全員が忙殺される事態になるんです!?」

 

 クエスト達成を報告した段階では何事もなかったが。

 

「みな呆然としていたんですよ! 一体なんです、たった三日で九〇〇件って!」

 

 そこまで騒ぐようなことではないだろう。

 長期間に渡って塩漬け(ほうち)されたクエストを含め、難易度が高すぎたり、報酬が手間に見合わない面倒な内容の依頼が混ざっていたにせよ。

 一部の討伐系や調達系は依頼目標が共通していたので、まとめて達成したに過ぎない。

 とにかく数字ほどの労働はしていない。

 だから労基は立ち去るがいい。税務署もだ。

 

「しかも半分は自分で依頼を見つけてきたそうですね! 迷子のペット探し、下水道掃除、酒場の給仕にご老人方の話し相手まで……これ聖騎士の仕事ですか?」

 

 リリアーナにそこまで褒められるとは。

 照れ臭さを誤魔化すためにドヤ顔をして胸を張る。

 

 騎士団のジョブクエストをあるだけこなしたが、【聖騎士】のカンストまでは到底届かないと知った。

 モンスターを倒してレベルを上げても良いのだが、あなたはグリゴリの恩恵でジョブクエストが最も経験値獲得効率が高かったりする。

 

 そこであなたは考えた。

 無いものは増やせばいいのだ。

 依頼がないのなら、営業をかけて集めてやろうと。

 

 クエストと並行して王都を奔走したあなたは、合計五百九十六件の新規依頼を発掘することに成功した。

 ちなみに誓って強要はしていない。純粋に困っている人々が数多くいたというだけの話だ。

 まあ確かに依頼内容は多少、ほんの少しばかり聖騎士のジョブクエストから逸れていたかもしれないが……詰所に持ち込んで書類を作成さえしてしまえばこちらのもの、正式な手順に則り発行されたジョブクエストが爆誕する。

 

 あなたはレベルが上がる。

 人々は悩みが解決する。

 そして騎士団の評判はうなぎ登り。

 これぞうぃん・うぃん・うぃんの関係だ。

 

 ちなみに。

 なぜか【聖騎士】のレベルはあまり上がっていない。

 

「悪びれもしないんですね……お陰で騎士団は大騒ぎですよ。クエスト達成後の報告書作成に加えて、今朝は街の方から依頼が殺到しているんです。騎士団は便利屋ではないのですが……」

 

 向こうから経験値(クエスト)が飛び込んでくるとは。

 足を使って営業をかけた甲斐があったというものだ。

 その依頼は全てあなたが請け負うので問題はない。

 

 しかし、あなたの浅慮によって騎士団の負担を増やしてしまった点は玉に瑕だ。

 世間一般の基準に照らし合わせても善行に励んだあなたは己が言動を後悔しないが、騎士団の運営が麻痺する事態に発展しては元も子もない。

 あなたは依頼主だけでなく、仲介者にも配慮ができる有能な<マスター>なのだ。

 

「はい……? 書類作成も自分がやると?」

 

 あなたは頷いた。

 無論、部外者が手伝える範囲内にとどまるが。

 軽く目にした限りでは報告書の文面作成くらいは<マスター>が代行しても大丈夫だろう。押印前に、どうせダブルチェックにかけるのだから。

 その他の手が回らない雑務も任せてほしい。

 これでも、あなたが淹れたお茶は美味いと天地でもそれなりに評判だった。お茶汲み係には一日の長がある。

 

「ありがたい申し出ではあるんですが、そもそも事の発端はあなたなんですよね」

 

 またリリアーナからの好感度が下がった気がする。

 どうして。真面目に働いているだけなのに。

 

「ところで、後ろにいる方はどなたですか?」

 

 リリアーナはあなたの背後に視線を向ける。

 先程から黙って会話を聞いていた人物。

 祭服に身を包んだ小柄な【司祭】は、

 

「いや〜、あのぅ」

 

 あなたが連れてきた客人で。

 

「今の話を聞いちゃったから頼みづらいんだけど〜……クエストを依頼したいんだよね」

 

 あなたと同じ、<マスター>だった。

 

 

 ◇◆

 

 

「あなたが頭のおかしな聖騎士サン?」

 

 詰所の椅子に腰掛けてあなたと向き合うなり、【司祭】バーベナは失礼極まりない質問を投げかけてきた。

 

 当然あなたは否定する。

 誰が呼んだかは知らないが、あなたは常識人だ。

 そのような名前の人物は知らない。

 

「ならイカレポンチ露出狂と、むっつりバーサーカーと、目がイっちゃってる仕事人」

 

 ……本当に誰だ。そんな呼び方をするやつは。

 心当たりがない上に悪意に満ちている。

 もしや、あなたのフレンドを超えるセンスの持ち主が王国には存在するというのか。

 あなたは事実無根の風評被害だと主張した。

 

「そうなんだ。ごめんね? ちなみに何でもできる無職っていうのは合ってる?」

 

 それならばあなたのことで間違いないだろう。

 

「わぁ〜食い気味」

 

 正確に表現すると『何でも』はできない。

 あなたができるのは、あなたができることだけ。

 仮にあなたでは達成不可能と判断した場合、依頼は断らせてもらうことになる。お互いのためにも。

 もちろん余程の内容でなければ心配はいらない。

 

「しかも自信家なんだ。いいね、それくらいの方がこっちとしては安心できるもの」

 

 組んだ腕に顎を乗せたバーベナ。

 しなをつくり、小悪魔然とした笑みを浮かべる。

 キャラメイクもかなり手が込んでおり、造形の整った顔面は西欧風美少女のようだ。

 総じて美男美女ばかりの<マスター>でも上位にランクインする容姿は街行く人の視線を独り占めするだろう。

 事実、初対面ではタチの悪い男に絡まれていた。

 

「ほんと困っちゃうよね。あっち行けオーラ出しても付き纏う空気読めないやつを相手にするわけないじゃん。……コホン。でもあなたが助けてくれてぇ、バーベナはピンときたんだ。『あ、この人いいかも』って」

 

 前置きはいい。本題に移ろう。

 

「……うっわこいつ超つまんね」

 

 バーベナは表情を歪めて舌打ちした。

 そして指摘する間もなく、一瞬で笑顔に戻る。

 

「そうそう! とっても強いと評判の聖騎士サマを指名でお願いがあるんだよね〜」

 

 よろしい。話を聞こう。

 そのために詰所まで連れてきたのだから。

 あなたは依頼書作成の準備をして耳を傾ける。

 

「あなたは初心者狩りって知ってる?」

 

 はて。何のことだろうか。

 頭の片隅にそんな話を聞いた記憶が……あるような、ないような。やはりなかったかもしれない。

 なにせ昨日一昨日はずっと街の中にいたのだ。ログインしっぱなしなので市井の噂話しか入手していない。

 

「今、王都周辺の初心者用狩場はPKに占領されててね。そこに足を踏み入れた初心者の<マスター>は全員PKの手でデスペナになってるの。何がしたいのかは知らないけど、バーベナも襲われてさ……」

 

 物騒な話だ。天地を彷彿とさせる。

 デンドロで初心者をPKするメリットは皆無だ。

 しかし外道に堕ちた修羅はそんなもの気にしない。

 とりあえず殺す。合意があれば殺す。どっちもどっちで似たような人斬りどもである。

 あの国は街を一歩出たら鮮血が飛び交う殺戮圏。

 というか街中でも命の保障はできない。

 気を抜いたら頭上から瓦と油壺が落ちてくるし、刀が勝手に抜けて切り掛かってくる。

 

 修羅の話は忘れよう。

 あなたの記憶が確かなら、王都に近い初心者用狩場は東西南北で四つほど。

 

 東に<イースター平原>。

 西は<ウェズ海道>。

 南の<サウダ山道>。

 北が<ノズ森林>。

 

 ざっと考えても広すぎる。

 たかがPK如きで占領できるとは思えないのだが。

 

「聞いた話じゃ、それぞれ別のグループなんだって。バーベナよくわかんないけど〜」

 

 複数のPK組織が連携して包囲を固めていると。

 そういう手口なら納得だ。

 代わりに別の問題も浮かんでくるが……どうやら今回の依頼には関係無いようなので捨て置く。

 あなたのお仕事は治安維持ではない。

 そういうのは国と騎士団がやることだろう。

 

 あなたは続きを促した。

 それで、バーベナは何を依頼する。

 デスペナ分の損失補填か。他国への亡命か。 

 それとも……

 

「復讐したい」

 

 バーベナの答えは至極真っ当だった。

 

「あいつらにやり返したい。ぎゃふんと言わせたい。バーベナを殺したやつらが、何もできずに死んでいく姿を見てざまあみろって笑いたい。だって……」

 

 その次に来る言葉は予想通り。

 

「だって……ムカつくから(・・・・・・)

 

 当然だ。

 誰だって、いきなり殺されたら腹が立つ。

 それが理由もない理不尽なら尚更。

 

「バーベナ的にはさくっとやり返したいんだ。嫌な気分のままでいるのも癪だしさ。ちゃちゃっと終わらせて、パーッとスッキリ。それでおしまい! でもすぐに強くなるのは難しいから……聖騎士サンみたいな強い人に〜あいつら全員ぶっ殺してもらおうと思ってぇ〜。ダメ?」

 

 あなたは静かに頷いた。

 

「やっぱり殺しはアウトな感じ?」

 

 そうではない。

 依頼は確かにこちらで請け負った。

 

「本当!? やった! 聖騎士サンさすがぁ!」

 

 バーベナは嬉しそうに抱きついてきた。

 やたら媚びを売るような触り方だ。

 花街の裏路地に縄張りを据えた娼婦を思わせる。

 

 ところで肝心の報酬についてまだ聞いていない。

 バーベナは初心者とのことだが何を支払えるのか。

 

「まぁまぁ! それより、あいつらについて説明させてよ。それと気をつけてほしいこともあるし」

 

 あなたの膝の上をバーベナは占領した。

 みじろぎで臀部を擦らせて髪を揺らす。

 さながら、こちらの思考を遮るように。

 正直に言って書類作成の邪魔になるのだが。

 

 そしてリリアーナの視線が痛い。

 机に釘付けされた近衛騎士団副団長は書類の山を捌きながら、あなたに恨みがましい目を向けている。

 

「いえ別に怒ってませんよ。ただ私が仕事に追われているのに、当のあなたは可愛らしい女性と仲睦まじくお話されているようで。いいご身分ですねと思っているだけです」

 

 リリアーナは勘違いをしている。

 あなたは誤りを訂正すべく口を開いた。

 

「聞こえませんね。ああ忙しい忙しい。猫の手も借りたいくらい……」

 

 猫の手より先に無職の手を借りるのはどうだろう。

 具体的には、リリアーナが確認した三枚前の書類に誤植が見受けられた。五段目の数字が一桁ズレている。

 

「何でその位置から見えるんですか!?」

 

 怒られた。誠に遺憾である。

 あなたが何をしたというのだろうか。

 ひとまず煎茶を点てて、お茶を濁すことにした。




バーベナたそはわからせ要員なので安心してね。
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