無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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クリスマスは二回行動を許される日とされる。
おらっ、プレゼントだ!


クリスマスSS サンタクロースの血は何色だ

 □■犯罪都市ワルダーク・<貧民窟ダスト>

 

「サンタクロースは世界を股にかける大悪党なんだ!」

 

 また始まった。

 その場に居合わせた面々は内心が一致する。

 

 二〇四四年十二月二四日。カルディナ東部の一都市にて彼らはため息を吐いた。

 ならず者や悪党が蔓延る犯罪都市。そのまたスラム街を根城にする自称犯罪クラン<テン・コマンドメンツ>のクランハウスで、一人の悪童が机を叩いた。

 

「たった一夜で世界中のお家に不法侵入する腕前。子供にプレゼントを押し付ける傲慢! まさに稀代の大犯罪者と言えるだろう!」

 

 齢12の少年は目を輝かせて力説した。

 その様子に、人が良さそうで簡単に騙されそうな風貌の男が部屋の一角を見やる。

 

「ユーさん。今度は何を吹き込んだんです?」

 

「嫌だなサンタくん。アタシは世間一般の常識を語ったに過ぎないよ。でもオーナーくん、まだサンタクロース信じてるみたいだったから面白いかなと思って」

 

「俺は山田(やまだ)でサンタじゃねえ」

 

 椅子に腰掛けた眼鏡の美女が愉快げに笑っているのを、「確信犯だなこれ」と悟って山田九郎は天を仰いだ。畜生どうすんだこれ。また面倒なことになるぞ。

 

「お前も見習えサンタ! その名前にあやかって、少しはまともに悪事を働いたらどうなんだ!」

 

「んなこと言われましても」

 

 ほーら飛び火した。やになっちゃうね。

 山田は辟易として身代わりを探した。

 ログインしているメンバーは十人中四人。

 

(爺さんは家族団欒でファムは稼ぎ時。アイは初めてのパーティーとか言ってたな。エヴァは知らんが……レオナとナハトまでいないのか)

 

 クリスマスイブと無縁に思われる二人まで不在。山田は何故だか敗北した気分に陥る。

 クリスマスぼっちは負け犬じゃけえ。

 自然と山田の視線は糸目の優男に。

 

「なあジョンスン」

 

「あ、ケーキが届いたみたいなのでお先に失礼しますね。みなさんメリークリスマス」

 

「おいこら逃げんなボケェッ!?」

 

 現実の配達状況をデンドロ内部で把握できるわけがないだろうとツッコミする暇もなく、要領の良いサボり上手はスタコラサッサとログアウトした。

 

「聞いてるのかサンタ! 貴様に話しているんだぞ! 我輩を無視するとはいい度胸だな!」

 

「そーだそーだ。いけないよサンタくん」

 

「だから俺はサンタじゃなくて山田だって何度も言ってるでしょうが……!」

 

 名前はよく考えて決めるべきだった。

 単に本名のもじりで命名したのだが、読んで呼ばれてみれば、なるほど確かにサンタクロース。

 山田は改名システムを用意しない運営を呪った。多分グランバロアにも同志がいるよ。

 

「そういえばサンタクロースは赤い服を着ている姿がパブリックイメージだろう? 実はアレ、不法侵入して殺した家主の返り血だって都市伝説があってね」

 

「つまり奴は大量殺人鬼でもあると? 末恐ろしい犯罪者だ! 見習わねば!」

 

「んなわけないでしょうが。コカな炭酸飲料会社の商業戦略だよ」(諸説あります)

 

「ほう、陰謀論だな。企業戦士のミュータント・サンタは夜な夜な地域を徘徊するとも聞く……」

 

 そういえば去年のデンドロはクリスマスにサンタを討伐させてきたな、と山田とユーは思い出す。

 改造サンタが緑色の血を流して迫る姿はパニックホラーだった。運営はサンタクロースというものを勘違いしているのかもしれない。

 

「じゃなーいっ!」

 

 話題が逸れて安堵した山田を軌道修正が襲う。

 オーナーは五割の確率で脱線に自力で気づく。

 今回は乱数の女神に見放されたようである。

 

「おいサンタ。我々の活動目的は何だ?」

 

「慈善活動じゃないんですか」

 

「ちっがうわ愚か者ぉ! 説明してやれユー!」

 

「はいはい。我々<テン・コマンドメンツ>は悪逆の華。世に蔓延る悪の頂点に咲き誇る集団(笑)だね」

 

「そのとーり! 貴様らは一日一悪、日々悪行を積み重ねるようにと言い聞かせているはずだ」

 

 微妙に侮蔑のニュアンスを含んだ説明には気づかず、オーナーは気分を良くしてふんぞり返った。

 

「今日の我輩はすごいぞ。冷蔵庫の中にあったプリンを二つも食べてしまった。しかも夕飯前にだ!」

 

「それエヴァちゃんが子供達に用意した明日のおやつじゃない?」

 

「……え? ほんとに?」

 

「本当に。真面目に。リアリー」

 

 場の空気は氷点下まで下がった。

 彼女はクランで最も怒らせてはいけない人物だ。テンコマメンバーの共通認識だった。

 オーナーは顔面蒼白になって震え出す。

 

「ど、どどどどうしよう!? エヴァにバレたら……お尻ペンペン百叩きで済むか……」

 

「一日お仕置きコースだろうね。添い寝・読み聞かせ・子守唄のセットは固い。まあでもオーナーくんなら大丈夫でしょ。複製しとけば」

 

「その手があったか! 流石ユー、誤魔化す事にかけては右に出る者がいないな!」

 

 山田は「偽物だと気付かれるのでは? 同時に犯人まで丸分かりでは?」と思ったが、隣の陰謀眼鏡がきらりと光るのを横目で見て口を閉ざした。こいつオーナーまで騙くらかしてやがる。

 

 だが、いつも通りの和気藹々(?)とした時間は微かなノックの音で遮られた。

 

 山田がクランハウスの扉を開けると、見知った顔が一人、彼の足に縋りついた。

 

「その少年は……サンタくんがよく遊ばれてるスラムの浮浪児じゃないか」

 

「俺は玩具か。で、どうしたよイワン。こんな夜中に」

 

 山田はしゃがんで少年に問いかけた。

 普段お菓子をねだる可愛げのないティアンのクソガキが、なぜか恐怖と焦燥を露わにしている。

 明らかに様子がおかしい子供を無視できるほど、山田九郎という<マスター>は人間ができていない。

 

「ジャミとキキはどうした? お菓子なら今はないぞー。また明日持って行ってやるから……」

 

「サンタ……お願い」

 

 助けて、と。

 少年は震えながらSOSを振り絞った。

 

 

 ◇◆

 

 

『今日は寒いから、三人でゴミ捨て場に集まって寝てたんだ。風が当たらないから』

 

『そしたら変な奴らに襲われて……ジャミとキキが攫われちまった』

 

『あいつら「亜人のガキはいい素材になる」とかわけわかんねーこと言って……おれ、何もできなくて……!』

 

『頼むよサンタ。二人を連れ戻してっ』

 

 山田九郎は先刻の嘆願を思い返した。

 生意気な子供だが、彼らは寄る辺のない孤児。

 金がものを言う弱肉強食の国カルディナでは、スラムの子供など人間以下の扱いしか受けられない。

 明日も知らぬ身。今日の食い扶持を探す事に精一杯で、朝起きたら隣で同類が冷たくなっている……。

 

 奥歯を擦り切れるほど噛み締める。

 握った拳を振り上げる相手は見当たらない。

 ()()()()()()()()()()()。富めるもの、貧しいもの、全て平等に幸せになる権利があるはずなのに。

 

『多分、変な奴らっていうのは最近台頭した奴隷商の一味だね。この街に来て日が浅い外様だ』

 

 ユー・エヌ・オーウェンは奴隷商の拠点についても詳しかった。恐らく何処ぞの何人から暴き出したか、既に目をつけていたのだろうと山田は推測する。

 

『我々を差し置いて、この犯罪都市で悪行を働くとはいい度胸だ。遠慮は要らん……潰せ。塵一つ残すな』

 

 デミウルゴスの声音は冷たかった。オーナーとして、悪党として、許容できない一線を超えたのだ。

 

『安心しろイワン。大丈夫だ――()()()()

 

 そして山田も同じく。

 

 故に、彼は夜の闇を疾駆する。

 

 ジョブスキルで気配を断ち、ステータスに任せた超音速機動で奴隷商の拠点を巡る。

 複数ある拠点の半数は外れ。残りは事務所であったり、倉庫であったり。表向きは商会としてギルドに登録しているため、偽装用の建物を所持しているのだろう。

 

(……見つけた)

 

 最後の一箇所でようやく当たりを引いた。

 悪趣味に飾り立てられた商人の別荘である。

 山田は物陰に隠れて警備の様子を伺う。

 

(見張りはティアンと……純竜級のドラゴン二匹を放し飼いかよ贅沢な。警備システムも厳重。正面突破は難しい。攫われた二人はどこだ……どこにいる……?)

 

 警備システムに捕捉されない境界線まで接近。屋敷の構造から、考えられる『保管場所』の候補を絞る。

 そして、山田の耳は見張りの会話を拾った。

 

「しかし楽な仕事だよ。『落とし物』を拾って売り飛ばすだけでボロ儲けだ」

 

「<マスター>は変人ばかりだが、金払いはいいからな。傷物でも構わないそうだ」

 

「今頃デブリー様はお楽しみの最中か? 少しくらい俺らに譲ってくれてもいいのによお」

 

「俺は嫌だぜ。あの地下室、狭いし湿っぽいから虫が湧いてるんだ。知らねえの?」

 

(……地下室か。急いだ方がいいな)

 

 無意識で焦っていたのだろう。

 山田は地下への入口を探すため立ち去ろうとした時、警備システムに接触してしまう。

 

「誰だ!?」

 

 武器を構える見張り達。

 おまけにドラゴンの咆哮が暗闇に響き渡る。

 侵入者の存在は屋敷中に知れ渡った。これでは首謀者が逃走してしまう恐れがある。

 

「……チッ」

 

 山田は<エンブリオ>のスキルを使用した。

 見張りの二人に睡眠薬を投与してその場を離脱。屋敷の警備を強行突破するプランに切り替える。

 

 彼の前に立ち塞がるは二匹の純竜。

 調教された【フレイム・ドラゴン】と【イヴィル・ドラゴン】は炎と闇のブレスを吐き出した。

 AGI型に分類される山田の耐久力では直撃=戦闘不能になる。攻撃を無視できる防御スキルもなし。

 

「くっそ危ねえ!? こんな事ならアイでも連れてくるんだったなあ!」

 

 クラン屈指の生存能力を誇る少女を思い浮かべ、ないものねだりは意味がないと後悔を振り払う。

 脚力と速度で火炎の照射範囲から逃れ、夜と同化する闇を《危険察知》頼りで回避。懐から取り出した量産品の短剣を弱点部位……ドラゴンの眼球目掛けて投擲する。

 

『GYAOOOO!?』

 

 討伐できたか確かめる余裕はない。傷口から鮮血を振り撒き、苦悶の声を上げるドラゴンの脇をすり抜け、山田は屋敷に侵入を果たした。

 手当たり次第に扉を蹴り開け、見張りを昏倒させ、奥へ奥へと進む。ようやく地下室に続く隠し扉を探り当てた頃には既に疲労困憊の状態だった。

 

 施錠をこじ開けて、縦穴を飛び降りる。

 

「いやぁ……」

 

(っ!)

 

 微かな悲鳴を頼りに最奥まで突き進み。

 突入した山田が見た光景は、枷に囚われて額の第三の目から血を流す多眼族と、寝台に組み伏せられた猫人族の少女、彼女達を傷つけて下卑た笑いを浮かべる脂ぎった禿男だった。

 

 山田は即座に短剣を投擲。禿男を排除にかかる。

 しかし、刃は全て手前で叩き落とされた。

 

「その程度で儂を殺せるとでも思ったか?」

 

 小太りの禿男は半裸で剣を握っていた。

 外見に反して舞い踊る柔らかな刃は縦横無尽に走り、銀の軌跡を宙に描いている。

 

「ブヒヒ……儂は【舞剣王】。お前みたいに馬鹿な侵入者は全員、この刃で切り刻んできたんだブヒ」

 

「ジョブと外見のイメージかけ離れ過ぎだろ!? あと何だその取ってつけたような語尾!」

 

 思わず山田は突っ込んだ。

 普通は可愛い女子とかが就くジョブじゃねーの?

 やっぱりおかしいよこのゲーム。

 

 しかし、ふざけた容姿と言動に対して【舞剣王】の戦闘力は確かなものだった。

 変幻自在の構えから繰り出される刃の嵐に翻弄された山田は徐々に切り傷を増やしていく。

 

「ブヒっ。お前を殺したら、次はガキ共を可愛がってやるブヒからねぇ。多眼族は眼球以外は無価値だが、猫人族は多産だ。元手を増やすのも悪くない……ブヒヒ」

 

「てめえ……」

 

 多眼族のジャミは引っ込み思案な娘だ。

 異形の亜人種で偏見を受けながら、それでも己の種族的特性を受け入れて前向きに生きようとしていた。

 だが、外道の手で消えない傷を刻まれた。

 

 いつも山田を揶揄うキキは猫人族の生まれで、いつも溌剌としたスラムのおてんば娘であった。

 だが、彼女の虚な目に生気はない。

 

 許されていいのか?

 罪のない子供達が搾取され、傷つけられる。

 

 ――否。

 

 ふざけるな。そんな世界は間違っている。

 

 汝、隣人のものを盗んではならない。

 

 間違った道理が蔓延るなら正さねばならぬ。

 正攻法で正せぬなら外法を用いるしかない。

 奪われたものは奪い返さねばならない。

 悪を裁けるのは、同じ悪だけだ。

 

「お前が罪なき者から奪った全て――この【義賊王(キング・オブ・シーフ)】山田九郎が貰い受ける」

 

 前方に突き出した腕は財を奪う。

 

「《グレーター・ゲットバック》」

 

 一日に一回だけ発動できる【義賊王】の奥義。

 効果は、対象が所有する総資産額の貨幣強奪。

 装備品、従魔、奴隷、ジョブ、所持品。一切合切を発動時の時価で換算し、強引に徴収する富裕者特攻。

 

 だが、全財産に値する貨幣を常に持ち歩いていることなどあり得ようか?

 もしも……相手が所持している貨幣が総資産額に届かない場合は? あるだけを奪い取っておしまい?

 

 そんな生ぬるい結末を【義賊王】は認めない。

 

「足りない分は()()()()、クソ豚野郎」

 

 不足する差額の対価は、対象の全て。

 本人の生殺与奪を含めた一切の所有権だ。

 

「ブ、ブヒィィィィィィィィィィ!?!?」

 

 断末魔の悲鳴を最期に【舞剣王】は事切れた。

 

 山田は死体のアイテムボックスを漁って子供達に付けられた枷の鍵を取り出した。

 奥義の効果で既に【舞剣王】の所持品は全て所有権が山田に移行しているため、盗難防止のセキュリティ等は働かない。

 

「よっ。遅くなって悪いが助けに来てやったぜ。ジャミ、キキ。もう大丈夫だ」

 

 明るく声をかけても二人は怯えたままだ。

 無理もない。キキは当分、男性が視界に入るだけで身がすくむだろう。ジャミは種族のアイデンティティを失って半ば茫然自失している。

 山田九郎ができるのは彼女達を元いた場所に送り届ける事だけ。所詮、彼は無力な一個人だ。

 

 だが……。

 

「あー、実はな? 今日って俺達<マスター>の間じゃ特別な日なんだよ。クリスマスイヴっていう……いやでも待てよ。デンドロじゃ暦とかズレまくってるか……」

 

 それでも何か残せるものがあるなら。

 山田九郎という<マスター>は、たとえ全てを投げ合ってでも、彼らを助ける人間だ。

 

「まあ要するにな。一年間いい子にしてたら、サンタクロースっておじいさんからプレゼントが貰える日なんだ。はい万歳! やったー!」

 

 山田九郎は両手をかざす。

 その腕を彩る手袋が、彼だけの可能性(オンリーワン)

 

 聖夜の祈りは奇跡を引き起こす。

 

「――《救われぬものに救済を(ニコラオス)》」

 

 銘を【正善贈夜 ニコラオス】。

 能力特性は『所有権譲渡』である。

 

 必殺スキルを使用した山田は視界の半分を失う。

 

「あれ……眼、が……」

 

 ジャミの額には失われたはずの瞳がはまっていた。元の碧眼ではなく、日本人を思わせる黒目ではあったが。

 

「ん……にゃ?」

 

 寝台で冷たくなっていたキキが起き上がる。

 悍ましい行為の直前、たしかに少女は命を落とした。

 だが今は生きている。

 まるで、誰かに命を贈られたかのように。

 

 代わりに山田は地面に倒れ伏した。

 命は既に失われ、猶予は余り残されていない。

 

 疑問符を浮かべる二人に向けて……山田は心からの祝福を送る。

 

「二人とも、メリークリスマス。お前達にささやかな幸せがありますように」

 

 増援として地下室に飛び込んできたクランの仲間――ほぼ全裸のアマゾネス――に後を託して、山田九郎はデスペナルティになった。

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