無職さんのデンドロ履歴書 作:リリアーナを照れさせ隊
□■王都アルテア
あなたはログインボーナスを回収した。
本日の改造モンスターは蛇型で、気配遮断系スキルを積み込んだ、都市ゲリラ戦特化の暗殺者であった。
普段より少し豪華なドロップの玉を拾いつつ、あなたは手抜かりのないお仕事振りを賞賛する。
連続ログインボーナスまで設定しているとは流石だな。運営はフランクリンを見習え。
日課を済ませたあなたは噴水前に陣取る。
見覚えのある人物が現れた瞬間に、高級車もかくやの勢いで突進した。
わ〜ん、遅刻遅刻〜。
「っ!」
トーストを咥えた美少女あなたの体当たりを、すんでのところで回避したレイ・スターリング。
身を翻して相棒のネメシスを武器化し、油断なく周囲の様子を警戒している。かつて王都でリリアーナと玉突き事故した頃とは見違える動きだ。あなたは感動で涙がちょちょぎれそうになった。
先輩VRMMOプレイヤーとして、後続が育っている姿は感慨深いものがある。
「今し方轢き殺そうとした奴の台詞か!?」
『貴様、何の恨みで我らを狙う!』
ハロー、レイ・スターリング&ネメシス。
特に恨みはないので大人しくしてほしいものだ。
痛みもなく一瞬で終わるから安心するといい。
あなたは朗らかな笑顔で手を振った。
挨拶はコミュニケーションの基本である。
『まるで話が通じん。マスターよ、お主は変人に好かれるフェロモンでも出しておるのか?』
「その理屈だとネメシスも同じだろう。<マスター>と<エンブリオ>は一心同体だし」
『それはない! 私はまともだ!』
「俺がまともじゃないみたいな言い方だな」
『鏡で自分の服装をよく見てみよ』
「装備のことか? 普通に格好いいだろ」
『…………』
暗色を基調に禍々しい装備を纏う【聖騎士】の反応に、まるで信じがたいと絶句するネメシス。
実に仲睦まじい様子で大変微笑ましい限りだ。
親切で気遣いに長けるあなたは大型の鏡を取り出した。ファッションチェックする?
『いらぬ! そもそもお主は何なのだ!?』
よし、楽しく話せたな。
というわけでお仕事の時間である。
今日のお仕事はヒロインだ。
具体的には、最近ご活躍が目覚ましい小説家先生の取材協力である。関連作品は好評発売中。
次回作に登場する追加ヒロインのモデルを頼みたいと、作者からあなたに依頼があった。
ご丁寧に相手役はレイ名指し。なるほど、たしかに主人公属性が天元突破している。
というわけで今日のあなたはヒロインあなた。
理想のヒロイン像で老若男女を虜にしてみせよう。
レイの籠絡に成功すれば、あなたの報酬は五割増。
マーベラス、実にマーベラスだ。
「付き合っている時間はないぞ」
え、付き合う? 両想いじゃん。
……しゅき。
「切り取り方に悪意があるな。そうじゃなくて、これからクエストなんだ」
であるか。いつ出発する? あなたも同行する。
あなたは称号を組み合わせて、頭上に【パーティ募集中 2/6】と表示した。
「我々の一存では決められぬのだ。悪いが今回はお引き取り願おう。……と、レイ。そうこうしているうちにあやつらのお出ましだぞ」
あなたの気迫が薄れたことで危機を脱したと判断したのだろう、人型に戻ったネメシスは、遅れてやってきた超最高級マジックアイテムの竜車に乗り込んでいく。
「……どうしてここにあなたが?」
御者席で呆然と呟くリリアーナ。
むしろ逆にあなたが尋ねたい気分である。
「どうしましたレイ君。トラブルですか?」
続けて竜車から顔を出した眼鏡の女性は、あなたの知らない人物であった。
自ずとあなたの取る行動が決まる。
ちょっと誰よこの女!?
あなたというものがありながら!
あなたは王都中に響き渡るシャウトで、浮気現場を目撃したヒロインのロールプレイを徹底した。
大衆の視線はあなたと困惑するレイ、そしてリリアーナが手綱を取る竜車に集中する。
「まずいですね。あまり目立つわけには」
「扉を開けロ。三秒数えたら出セ」
変声エフェクトのかかった指示が竜車の中から聞こえたかと思うと、鋭利な鉤爪がレイとあなたを掴み、そのまま竜車に引き摺り込む。
同時に、リリアーナが【セカンドモデル】を走らせて動揺する大衆を置き去りにするのだった。
この一件は白昼堂々と起きた誘拐事件として翌朝の一面を飾るのだが、それはまた別の話である。
◇◆
あなたはこってり絞られた。
人のお仕事を邪魔するという蛮行を働いたので、当然といえば当然の話だ。
正座で『わたしは頭のおかしい無職です』という看板を持たされる屈辱を甘んじて受け止める。詫びの切腹を静止されただけ温情のある措置かもしれない。
竜車の搭乗者は全部で七人。ネメシスを別カウントにすると八人となる。
外の御者席にリリアーナ。
空間拡張を施した車内の後部コンパートメントに迅羽とツァンロン。前方にアルティミア、レイ、ネメシス、眼鏡の女性ことビースリー、そしてあなたが座っている。
レイが受けたクエストは要人の護衛。
王国の第一王女アルティミアと、黄河の第三皇子ツァンロンを王都からギデオンまで護送するお仕事だった。
理由は簡単。ツァンロンが第二王女のエリザベートとお見合いをするためである。まじで?
そこはかとなく空気を読んで黙ったが、あなたはエリザベートファンクラブの皆さんや、這い寄るお姉さんことマリーが憤慨するのではと危惧してしまう。
どこぞの<マスター>が逸って愚かな真似をしでかさないことを祈るばかりだ。
現在の王国はフランクリンのテロに始まり、そこかしこに皇国の手のものが潜入している状態だ。王族がのこのこ外出していると知られた場合、襲撃やら罠やらで新たな事件に繋がることは明白。
故に今回のギデオン訪問は秘密裏に計画され、少数の限られた人員が護衛に付いたそうな。あなたを拐かしたこの竜車も王国所有ではなくビースリーの私物らしい。
随分と高価なアイテムを持っているものだ。
これが天地であれば、歩く金庫か宝箱のような扱いを受けて日夜問わず野盗に襲撃されるだろう。
仮にあなたが野盗の立場でも獲物に狙うわ。
あなたは殺伐とした思考を振り払う。いつになったら修羅の精神汚染は浄化されるのだろうか。
なお今日も一度、盗賊の襲撃を受けている。盗賊童貞のひよっこは素敵ファッション()の面々に腰を抜かしたので何事も起こらなかったが。
しかしアルティミア殿下も人が悪い。
仕事なら、あなたに連絡すればいいものを。
「他国の賓客に恥を晒したくなかったわ」
言外に王国の恥と罵られて、あなたは複雑な感情を胸に抱いた。反省を態度で示したまま。
あなたは王国所属ではないのだが。
付け加えると、あなたは罵倒で喜ぶ性癖を持ち合わせていない。そういうのはフレンドの領分である。
「あなたを雇ったら王国は他に有力な<マスター>がいないと喧伝するのと同じよ。……正しくは王家が協力を要請できる、だけど」
お政治のお深いお事情が関係しているようだ。
あなたは一介の無職である。政治は分からぬ。
王族同士の婚姻が成立した場合、黄河は友好国となる。良い印象を与えつつ、決して国力が劣らない対等な立場である事を顕示する必要があるのかもしれない。
そもそもこの二人に護衛とか要らんしな。
あなたは【テラーカイブ】をめくりながら、移動時間の暇をつぶすことにした。
それにしても空気が悪い。悪くない?
空調は効いているはずなのに。なぜか第一王女とビースリーの間で険悪な雰囲気が漂っているな。
レイ氏、レイ氏。これ修羅場じゃんね。
どっちが本命なん? やっぱり王女様?
「頼むから怖いこと言わないでくれ……俺は関係ないよ。ビースリー先輩は王都封鎖事件の関係者で、アズライトに弱みを握られてるだけだ」
へー。愛称なんかで呼んじゃってまー。
あなたはハーレム色ボケ男をバシバシ叩く。
竜車の男女比率は2:5:1。最後のはあなたとして、なかなか楽しいデンドロライフを過ごしているな。
でも彼、悪魔喰らいの暗黒騎士なのよね……。
あなたはカルチェラタンで勃発した対【魔将軍】戦の動画を視聴済みであったりする。
<超級>に勝つとか頭おかしいだろ。
やっぱりあなた的にナシですごめんなさい。レイにはもっといいお相手がいると思うよ。
「スピード違反車に追突された気分なんだが」
「暴走列車の方が適切ではないかの」
誠に遺憾である。これもお仕事なのよ。
あなたは竜車の窓から空を見やった。
昼間は見えないが、今もお星様はあなたを見守っている事だろう。たぶん。
あなたが天の星にウィンクした瞬間。
竜車が激しく揺れた。
振動軽減の付与がありながら、内部座席にまで影響を及ぼす衝撃だ。
すわ何事か野盗か天災かとあなたは御者席のリリアーナに声をかける。
「賊です。後方から魔法を撃たれました」
あ゛?
『……外装が傷ついてるじゃねえか。死にてぇようだな、どこのどいつだ?』
愛刀の鯉口を鳴らす殺意漲りあなた。
全身鎧を装備した瞬間に変貌するビースリー。
互いにアイコンタクトで意思疎通を交わす。
野盗死すべし。野盗殺すべし。
あなたは走行中の竜車から飛び降りた。
取り出した【セカンドモデル】に騎乗。遅れて跳躍したビースリーを片手で持ち運ぶ。
「ヒャッハー! 出てきやがったぜい!」
「二人とは舐められたもんだぜ!」
竜車に迫る二輪車乗りの一団。
陽気な音楽をパラリラパラリラと鳴らして、アクセルを吹かすモヒカンの暴走族が野次を飛ばす。
「ここは俺達のナワバリだぁ! 命が惜しけりゃ竜車を止めな! ヒャッハァー!」
一、二……視界内に五人。
いずれも左手に紋章あり。<マスター>だ。
PKして差し支えないだろうとあなたは告げる。
『一人残せ。やり方は任せる』
あなたはグリゴリの頁を破り捨てる。
無職を経由して【失業王】にジョブチェンジ。
使用可能なスキル群を並列起動した。
馬車馬2号は【
加えて【
ほか【大騎士】含めたスキルで強化済みのあなたを狙う魔法・銃撃が着弾する前に接近。先頭を走るモヒカンを過たず、愛刀の刺突で貫いた。
――まず一人。
勢いのまま、二輪とモヒカンを盾に二人目を踏み殺し。ビースリーを地面にリリースして身軽さを取り戻したところで、三人目と四人目の首を刎ねる。
ヒャッハー! 野盗は皆殺しだぁー!
『一人は残せって言ってんだろうがド阿呆ォ――《
五人目はビースリーを中心に発生した重力の力場に囚われて身動きを封じられた。ひゅー、やるう。
そんな勝ち誇るビースリーの背後に迫る銃弾。
リリアーナが操る竜車の
『バカが……どうしてそこの無職が「視界内に五人」と言ったか理解できねえのか? 丸分かりなんだよ。手前らみたいな連中の取る行動はな』
然り。仲間を見捨てて逃げればよいものを。
当然あなたもビースリーも見逃すつもりはない。
野盗は大人しくPKされてようね。
あなたは振り向きざまに矢をつがえる。
不意打ちは露見した時点でただの攻撃。
撃ち落とすなど造作もないことである。
後方射撃に補正がかかる【弓騎兵】の《パルティアンショット》と【疾風弓手】の奥義《オーバーテイク・ソニック》の効果を、【
おまけに【荒武者】の《雲鷹》まで乗せちゃお。大盤振る舞いしてあげますぅ。
銃弾は一矢、二矢で相殺。
超音速かつ与ダメージ五倍になった三の矢が、隠れていた六人目のモヒカンを穿ち、胴体を爆散させる。
ヒャッハー! 汚ねえ花火だぜ!
五キルの達成感にドーパミンを垂れ流したあなたは、ビースリーが拘束するモヒカンにメンチを切る。
おうおう。にいちゃん、何しとんねん。
服の裾に返り血が飛んでしまったではないか。
責任を取って追加ヒロインしてもらわねば。
『誰の差金だ? 洗いざらい吐け』
「な、何の話かさっぱりだぜぇ……」
おうおうおう。
ドレスと制服どっちがいいか選ばんかい。
『とぼけんな。わざわざ王族の乗った竜車を狙ったんだ、それなりに
おうおうおうおう。
キャラは癒し系とツンデレが残っとるで。
『お前は少し黙れ』
あなたはミンチになった。
情け容赦ない大楯の圧縮プレス。
ご丁寧に《ストロングホールド・プレッシャー》を発動した一撃で、あなたは母なる大地の染みと化す。
漏れ出るミートソースを目の当たりにして、モヒカンは抵抗する気力が萎えたようである。
流石は“蹂躙天蓋”のバルバロイだ。
恐怖心の煽り方をよく心得ている。
後方腕組みあなたはしたり顔で頷いた。
「今お前死んでなかった?」
「影分身……いや《空蝉の術》だナ」
『チッ』
なんで舌打ちするの?
「……王族ぅ? 誘拐犯じゃないのかよぉ〜?」
「「「『は?』」」」
ねえなんで舌打ちしたの!
◇◆
「レイと女の子が攫われたと聞いて?」
「助けに来たんだぜぇ〜。王都近辺の治安維持はよぉ〜、王国の<マスター>として当然の義務だろぉ〜?」
「……不幸なすれ違いだったようね」
どうやら竜車に拐かされるレイと美少女あなたを見て官憲に通報した人物がいたようだ。事情を知らない者からすれば、あの光景は事件性が高い。
居合わせたモヒカンは(やむを得まいが)詳しい事情も分からず出発。人質救出のため、あなた達の竜車を追いかけたのだという。
「せめて警告してほしかったですね」
「おいおい、ちゃんとしただろぉ〜。『ここは
「わかるかそんなの!?」
「人質がいると思っていたなら、魔法で先制攻撃するのはいかがなものかのぅ」
「リリアーナで気付けヨ」
「別人の姿に見えてたぜぇ〜」
それはあなたの幻術のおかげだろう。
お忍び竜車の正体が気取られないよう、御者席に認識阻害のスキルを付与していたのである。
急なお仕事でも気配りを忘れない。そんなあなたに星五のレビューを付けていただいても構いませんよ。
今回の一件は不幸な事故だった。
モヒカンのコミュニケーション能力があなた並みだったなら、あるいは、彼ら五人はデスペナを避けられたかもしれない。いやな事件だったね……。
「いや全部お前が原因だよクソ無職ぅぅぅぅ!?」
誠に遺憾である。
あなたはか弱いヒロインだというのに。
・主人公
この後はひたすら護衛に徹した。
モヒカンの件は悪くないと思うのだが。
・モヒカン
誘拐された女の子なんていなかったんだ。
よかったよかった。モヒカンの品位。
【騎馬武者】【半弓武者】
武士系統上級職。二次オリジョブ。
それぞれ騎兵系統、弓手系統との複合。
弓の方は【強弓武者】と分岐派生する。
【突撃騎兵】
騎兵系統上級職。二次オリジョブ。
我が身を顧みず突撃するスキルを覚える。
騎士系統とも相性がいい。
・《三本の矢》
【半弓武者】の奥義。弓のアクティブスキルを最大三本の矢で使用できるが、威力は三割減する。
例)【強弓武者】の《五月雨矢羽》を使うと三百本の矢の雨が降り注ぐ。
・《空蝉の術》
忍者系統のスキル。本体と影分身・丸太の立ち位置を入れ替える。