無職さんのデンドロ履歴書 作:リリアーナを照れさせ隊
□■数日前
<港湾都市 キオーラ>であなたは死んだ。
具体的には黄河帝国の第三皇子、
「本当にいいんですか? いきますよ?」
躊躇いがちなツァンロンの説得は骨が折れたが、これこそあなたの求めたクエスト報酬である。
デスペナルティ明け、死に戻りでギデオンに帰還したあなたは二冊の本を取り出した。
ひとつは言わずもがな、あなたの<エンブリオ>【天職才人 グリゴリ】だ。
そしてもうひとつは新参の特典武具こと【解雇録 テラーカイブ】。
テラーカイブはあなたの経験を解析して再生する《ログメモリ》と、《ログメモリ2》という別のスキルを有している。今回あなたが使用するのは後者だ。
あなたは自分の死亡記録、正確には
最新の殺害者は【龍帝】。
超級職の性能、スキル、就職条件までを詳らかにするテラーカイブの有能さにあなたは感激する。
マーベラス、実にマーベラスだ。
やはり首を切られた相手の情報はしっかりと把握しておかねばなるまいよ。さながら退職証明書。これであなたは次のお仕事に就職することができるのだから。
グリゴリの頁を確認したあなたはほくそ笑んだ。
なお、小躍りして住民に奇異の視線を向けられたのは別の話。あなたは常識人だというのに。
◇◆◇
□■決闘都市ギデオン
あなたは【ミスティコ】を服用した。
あなたは蒼龍人越になった。
あなたはジョブをリセットした。
あなたは無職になった。
続け様に前提条件を達成する。
あなたが【龍帝】に就職するためには、二つの手順を踏む必要がある。
ひとつはツァンロンへの変身。
もうひとつはジョブリセットである。
特殊超級職のなかでもさらに特殊な【龍帝】は、なぜか他のジョブと同時に就職できない制限がある。
これがグリゴリ独自の仕様なのか、あるいは【龍帝】というジョブに秘密が隠されているのか、あなたは判断できない。まあ就職自体はできるからヨシ。
グリゴリの《スペリオル・インターン》は就職条件を満たした超級職にお試しで就職できるスキルだ。
あなたは一枚のページと、ジョブレベル1をコストに支払って武仙の龍に変貌を遂げる。
ちなみに《スペリオル・インターン》で就職したジョブレベルは、コストに捧げたレベル相当だ。
また使用できるスキルはそのレベルで習得できるものに限り、かつ、あなたが効果の詳細を知らないスキルは使用できないという制限があったりする。後者はテラーカイブのおかげであってないようなものとなる。
パンパカパーン! あなたは【龍帝】になった!
これであなたのレベルは
これぞ【龍帝】の固有スキル、《龍気継承》。
前任者のレベルとステータスを受け継ぐ。
流石にツァンロンの稼いだ経験値までは上乗せされないようだが、先人が積み重ねた経験の恩恵が今ここに。
レベル1を3000に増やすとかどんな錬金術だよ、とか言わない。【魔将軍】顔負けのバグ技だが仕様です。文句があるなら運営宛にどうぞ。
あなたは屋台で買った【
頭上に称号【決闘王者】の表示を浮かべて、呆気に取られるリリファンの面々を睥睨した。
よし、続きしようか。
「「「「「黄河の人達に謝れぇー!?」」」」」
「頭おかしいだろイカれてんのか?」
誠に遺憾である。あなたは常識人だというのに。
ファンを名乗りながら迷惑行動に励むリリファン精鋭の方がよほど迷惑なのではなかろうか。
あげくハンニャまで街中に連れてきやがって。
「【狂王】は我々も知らんがな! 何アレ!?」
そうなん? じゃ、君ら殺せば終わりね。
あなたは俄然やる気が湧いてきた。
オルランドは咄嗟の失言を悔やんで唇を噛むが、気を取り直して味方に号令を発した。
「……っ、怯むな! 勝機はある!」
オルランドはあなたの膝に剣を突き立てた。
同時に、彼の背後から幽体の悪魔が現れる。
悪魔はあなたを指差して嘲笑した。
同時に、あなたの首が転がり落ちた。
簡易ステータスに【頸部切断】の状態異常。
あなたは首を拾って元の位置に乗せた。
ふっかつー。元気百倍あなたー。
「嘘でしょ……」
【龍帝】の固有スキル、《古龍細胞》。
簡単に言うと超再生能力である。首を切られても、全身を消し飛ばされなければ回復できるレベルの。
加えてHP、MPは数千万。素のステータスは五桁を超えている。必殺スキルの加算値を合わせて約八万〜九万といったところだろうか。
他のジョブスキルが使えないので、握った拳で殴るしか能がないのが玉に瑕。でもなんかオーラ出せるね?
もえもえ……太陽拳!
「危ない、同志オルランド!」
あなたの《竜王気》をリリファンは受け止めた。
オルランドを庇い、装備が粉微塵に破損するが……不可思議なことに、生身の本人は無傷であった。
「我々の既製品と違って、同志オルランドの鎧は壊れたら少し面倒でしょう?」
「同志……」
「やってやりましょう。怪物退治のレイド」
「……応とも。総員、突撃!」
あなたは六つの斬撃を避けずに受け止めた。
同時に視界を埋め尽くす状態異常は
簡易ステータスも真っ黒の情報密度である。
あなたは【龍帝】の再生力任せで致命のデバフを耐え、敵の能力を明らかにせんとした。
まずは分かりやすい要素から。
六人のメインジョブは【聖騎士】だ。
リリアーナと同じ王国限定のレア上級職だが、リリファンのコンボには関係ないと思われる。
注目するべきは……サブジョブ。
スキルの《看破》で見通せず、また今のあなたは使用できないが、彼らの強さの秘訣、サブ上級職の存在にあなたはおおよそ目星をつけている。
おそらくは兵士系統上級職【
兵士系統の『同職複数人で集まっているとステータスアップ』という特性に特化したジョブだ。
パーティ人数が増えるごとにバフの効果量が増えるスキルで、超音速機動ができるほどステータスを底上げしていると考えられる。
しかし六人でこれほどの強化率はありえない。
また、頭おかしいレベルの耐性と状態異常の付与。
これらの秘密は<エンブリオ>の能力だろう。
サブの【軍隊】の特性を最大限活かすなら、あなたが考えつくシナジーは……パーティ人数の加算、および人数比例の強化バフといったところだろうか。
◇◆◇
非常に稀で珍しい事に。
無職の推測はぴたりと的中していた。百点に近い。
人の心は分からないのに戦闘、特にジョブ関連の内容だと頭が回るのな。
筆頭オルランドを除く五人の<エンブリオ>。
それがリリファン精鋭の要である。
ひとつ、【悪鬼纏心 パンデモニウム】。
パロミデスが所属するパーティメンバーの一人ずつに悪魔型レギオンを一匹憑依させる。
攻撃時、悪魔は憑依対象ごとに異なる状態異常を『敵味方全体』に付与する無差別型のスキルを持つ。
味方を巻き込む使い勝手の悪いスキルである。
ひとつ、【一致団結 ポーン】。
使い手のポルトスが認める器用貧乏な必殺スキル《
最大でパーティ人数×1%の全耐性を付与して、パーティ人数×1%のバフ効果を全体に共有できる。
普通のパーティなら上限6%の微量なバフでしかない。それもジョブや装備の外見を可能な限り統一して共通項を増やした上でだ。【将軍】系統にでも就かなければ産廃である。
ひとつ、【人研宣言 ピグマリオン】。
装備品にジョブの器を付与して、人型への変身能力を追加するピピンのお気に入り。
付与できるジョブは下級職、上級職ひとつずつ。
変身能力も『愛玩用のメイデン』と揶揄されるだけの、戦闘にはそれほど寄与しないスキル。
ひとつ、【陽光認照 プーシャン】。
頭上からの俯瞰視点を得る太陽型のワールド。
他人と俯瞰視点の共有ができ、偵察に使えるが……プロスペローは専ら覗きやストーカーに用いる。
使えそうで使えない、まあ微妙に役立つ。
そんな<エンブリオ>を……彼らリリファンが精鋭と呼ばれるだけの力に引き上げるのは、また微妙でハズレ呼ばわりされる<エンブリオ>である。
ペリノアの【百妊裏器 ペルソナ】。
複数の名前と容姿を切り替えることができる、偽装に長けたTYPE:ルール。
ジョブスキルでも同じことができるし、必殺スキルの《
ペリノアの
たったそれだけ。単体では無意味な必殺スキル。
これ組み合わせたら面白いんじゃないか?
気まぐれに考えた者がいた。
彼は皆に声をかけて、実践した。
結果は無職がその身で味わっている。
装備品含め百人を超える【軍隊】のバフ。
それをさらに重ね、一〇〇%の全耐性まで獲得。
各々がランダムの状態異常を敵に与え、自分達の被害は耐性で無効化する。
俯瞰視点で死角を無くし、連携を取り。
要のペリノアは百匹の悪魔に憑かれ、一太刀で百の状態異常を与える凖<超級>最高クラスの猛者と化す。
◇◆◇
頭おかしいだろ、とあなたは思った。
詳細はよく分からないが、ジョブと<エンブリオ>のシナジーが過ぎるのは理解した。
予想外の組み合わせに、まだまだお仕事には未知の可能性が溢れているとあなたは笑顔になった。
頭おかしいだろ、とリリファンは思った。
なんでこいつ特殊超級職に就いてんだ。
国際問題になりかねないんですけど?
つーか戦いながら笑うんじゃねえよ修羅か?
自分達が誇るコンボを、圧倒的な再生能力で覆される状況に一人は思わず悪態を吐いた。
ゲームバランスどうなってんだ。仕事しろ運営。
だが、戦いの天秤はあなたに傾いていた。
リリファンのステータスは高いが装備品は普通だ。
少しばかりジョブらしき補正がついても、あなたの膂力で破壊することは実に容易い。
装備破壊により動きが鈍った者、素顔であなたの拳を受けて戦意が揺らいだ者、そこを突いて崩す。
あなたはペリノアの足首を掴んだ。
「あ、待っ」
待ちません。一名様、お空の旅にご案内ー。
あなたは彼女をハンマー投げの要領で振り回し、天高くまで投擲した。ヨーソロー。
場外ホームランだ! やったねダーリン!
「同志ペリノアー!?」
今は《天死領域》発動中のため、上空に打ち上げたペリノアは百メートル単位で転移し、やがてどこかの地面か建物の壁に激突するだろう。耐性で死にはしないが即座に戦線復帰することはできまい。
「おのれ……」
あなたは穴が空いた包囲網を突破。四人の顎を掌底で打ち据える。ダメージに寄らない脳震盪だ。状態異常は無効化できても、物理的に脳をシェイクされる感覚は慣れていないと不快で立ち上がれなくなるもの。
「おのれェ……!」
残るはオルランドただ一人。
正直なところ、あなたは彼らを舐めていた。
デスペナこそ免れたが事実一度殺されている。
天地の習いに添って強者は尊ぶべきだ。ジョブを絡めた試行錯誤の工夫が見られるのでなおのこと。
あなたは常識人なので、天地の悪習の悪習たる部分はあえてオミットしている。修羅は強者を見かけると刀に手をかけて笑顔で近寄ってくる。あなたは自分がされて嫌な事を(自分から)人にする鬼畜ではない。
あなたは心からリリファン精鋭を賞賛した。
それはそれとしてPKは許さぬ。死ねどす。
「ふざけるな……ふざけるなよ」
オルランドは鎧の肩甲を変形させた。
どうやら鎧が彼の<エンブリオ>らしい。
他の五人と装いが違ったのはそういうわけか。
普段は速攻で殺してるからはじめて見たぜ。
「《ハウリング・シャウト》!」
管楽器に似た左右の双角が衝撃音波を放つ。
それなりの威力だが、今のあなたには通じない。
身に纏う《竜王気》がダメージを減衰するからだ。
「なぜ、貴様なんだ」
オルランドはあなたを睨んでいた。
「我々が報われないのは……仕方ない面もあるだろうさ。だが、なぜ貴様なんだ? 他にも<マスター>はたくさんいるだろう。どうして貴様がリリアーナに選ばれる? 私はそれが理解できない……納得できないのだ!」
もはや彼はそれしかできなかった。
「ああそうだ、醜い嫉妬だ。それでも言わせてもらうぞ。頭のおかしい無職……貴様はリリアーナの事をどう思っている」
彼女はあなたの友人だ、と答える。
おまけに仕事上の関係である。就職条件的に。
「――はぐらかすな。私には分かる」
…………。
「答えられないか? なら、貴様はそこまでだ……と言いたいところだが、質問を変えよう」
追い詰める側と追い詰められる側。奇妙な事に、あなたとオルランドの立場は一時的に逆転していた。
「無職。貴様は何のために
彼の問いかけに、あなたは思考を巡らす。
あなたは多くのジョブに就くことを目的としている。
正確には様々なお仕事を体験することを。
それはなぜか、と問われたら。
あなたはどのような言葉を返すべきなのだろう。
あなたの原点。お仕事に対する思い。
胸に刻まれた畏敬の念。その種火は。
<Infinite Dendrogram>の経験を焚べて、高く、熱く、焦がれる執念は……一つの願いから。
――<Infinite Dendrogram>は新世界とあなただけの
あなたは自分だけの可能性を探している。
あなたは何も持たない人間だ。
無知で無謀。常識を、社会を知らない。
他の人のように、自分だけの輝けるナニカがあると信じて、暗闇の中に手を伸ばしていた。
あなたは自分だけの可能性を探している。
現実は非情で厳しい。
人生にやり直しなんて許されない。
たった一度では可能性を模索するのに足りない。
あなたは自分だけの可能性を探している。
誰もが輝ける一等星。
そんな戯言を信じられるほど愚かではなくて。
それでも、いつだって、あなたは夢を見ている。
そう、あなたは自分だけの可能性を探している。
否……正確には。
あなたは自分だけの可能性を探して
これがあれば自分は自分だ、と。
胸に抱いて誇れるような輝きは未だ無い。
ただ、あなたを認める言葉があった。
ありのままのあなたを受け入れる人がいた。
今はそれで十分である。
故にあなたは賛美する。愛を謳う。
この世全てのお仕事と。
この素晴らしき
あなたは遊戯派の<マスター>だ。
「……駄目だ、分からん。だが良しとしよう。貴様がそうあるなら、私にだって機会はあると信じられる」
最後に一つだけ、と。
オルランドは深いため息を吐いてから、ロールプレイを取っ払った素の彼に近い口調で大声を出した。
「おめーリリアーナに誘われときながらレンタル彼氏とかしてんじゃねーよクソボケ死ねやぁぁぁぁぁ!」
そっちこそファン名乗るならもう少しお行儀よくするがいい。民度が低い界隈はお里が知れるわ阿呆め。
あなたは飛びかかってきたオルランドへ『↓↘︎→P ↓↘︎→P→↓↘︎P』のコンボをシームレスに叩き込んで、いつの間にか《天死領域》が解除されたギデオンの青空にアリーヴェデルチ。PKをぶっ殺した後の、晴れ渡る清々しい気分を味わったのだった。
・パピプペポ+オルランド
Q. どうして普段から協力しないの?
A. こいつらリリアーナが絡むと互いに足を引っ張り出すんですよ……同士討ちとかしょっちゅう。