無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

49 / 102
頭のおかしい無職

 □■決闘都市ギデオン

 

 決闘都市ギデオンを治める青年、アッシュバレー・ギデオン伯爵は苦労人である。

 ギデオンの街は何かにつけてトラブルの渦中に巻き込まれることが多い。ゴゥズメイズ山賊団、フランクリン、ガイリュウオウ事件、ガーベラ、ハンニャなど、直近の事件だけでも役満級だ。呪われてんのかギデオン。

 

 しかも大半の原因が<超級>である。

 これだけでも<超級>の規格外性と、常識はずれのイカれポンチ度合いが知れるというもの。

 

「ぬああああああ終われえええええ!?」

 

 はあ、もうやんなっちゃうね。

 ギデオン伯爵は執務室で胃をおさえた。

 天地のギデオン忍軍が調合した胃薬を服用して、彼はどうにか激務を捌いている。

 

 溜まっている書類は愛闘祭の事後処理だ。

 ハンニャの被害自体はそれほどではない。

 ティアン死傷者ゼロ。物的被害多数。

 

 だが、とある無職が絶え間なく上げてくる工事報告書と請求書の山に埋もれていた。

 一人で街ひとつの復旧工事するんじゃねえ。

 いや独占しなきゃいいってものじゃなくてさ。

 なんで個人の<マスター>が伯爵より進捗把握してるんですか頭おかしいだろいい加減にしろ。

 

「あっははは! ちくしょーべらぼうめえ!」

 

 伯爵は壊れた。

 

 秘書代わりの女性忍者も疲労を隠せない。

 あやつ、天地の時よりはっちゃけてない?

 まあ善意だからマシでござろうなぁ……せやから余計にタチが悪いと思うでござるよ拙者。

 

「伯爵! 大変です!」

 

 伯爵が思案していたとき、慌てた様子の職員が駆け込んできた。

 秘書忍者が伯爵を庇うように職員との間に立つが、伯爵はそれを下がらせる。

 

「まさか、またどこかの<超級>か?」

 

 伯爵は死んだ目で冗談まじりに問いかけ、

 

()()()()!」

 

 職員は大きく頷いた。

 

「…………」

 

 伯爵は職員の説明を聞いて対処を指示するまでかろうじて意識を保ち、その後、書類の山に崩れ落ちた。

 いったい何がどうなってやがりますか、と。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □【聖騎士】レイ・スターリング

 

 愛闘祭からデンドロ内で一週間近くが過ぎ。

 王国に新たな<超級>ハンニャさんが加入して。

 国王代理のアズライトから『王国と皇国の間で講和会議を行う』という発表があった。

 あと個人的な出来事としてはクランを設立してランキング二位に入り込んだり。戦争を見据えての事だが、何事も起こらなければそれで構わない。

 

 とはいえ、講和会議がならない可能性もある。

 会議が決裂して二度目の戦争の開戦となるか。

 あるいは会議そのものが皇国の罠で、アズライトをはじめ要人が窮地に陥るパターンだって考えられた。

 

 そのためアズライトは<マスター>に護衛の募集をかけているところだ。

 もちろん俺たちのパーティも参加する。

 何かあった時にアズライトを守るため、ルークやマリーと一緒にそばにいるつもりだった。

 

 特訓かレベル上げか、とにかく会議までにできる準備はしておきたい。

 パーティのみんなに相談しようとしたところで、紙束を抱えたマリーが姿を現す。

 

「マリー、それは?」

 

「皇国所属で有力な<マスター>の情報ですねー。ボクが【記者】としての伝手を使って手に入れた最新版のプロフィールですよ。……まあ既に出回ってる情報がメインになるんですが。それでも講和会議で戦う可能性があるなら調べておいて損はありません」

 

 なるほど。情報収集も準備のひとつだ。

 

「この辺りのページはランカーがメインだのう」

 

 ネメシスが手にした書類を覗き込む。

 

 クランランキング一位は変わらず<叡智の三角>。あのフランクリンがオーナーを務めるクランだ。

 討伐ランキング一位は【獣王】。“物理最強”と名高く、兄貴と本気で殴り合える数少ないプレイヤーだ。

 そして決闘ランキングは……あれ?

 

「なあ、一位の名前が書いてないぞ」

 

 最新版のランキング情報にはこうある。

 

 決闘一位【硬拳士】。

 決闘二位【盗賊王】ゼタ。

 決闘三位【魔将軍】ローガン・ゴットハルト。

 

 カルチェラタンで戦った【魔将軍】は記憶に新しいが、つい最近まで奴が決闘一位だったはず。

 それが二位どころか三位まで下がっている。

 やつは決して弱い<超級>ではない。

 俺と奴の対戦動画でこそ、こちらが圧勝していたかのように演出されているが……あれは事前に【魔将軍】が消耗していたのが大きな原因だろう。

 

「やつが神話級悪魔を出し惜しみしていた、というのも理由であろうな」

 

 ネメシスの言う通りだ。結界の仕様でコストがリセットされる決闘では、神話級悪魔を召喚して蹂躙する、というのが【魔将軍】の常套戦術だという。

 元グランバロア出身の【盗賊王】が打ち破るまで、皇国の決闘は悪魔の殺戮ショーと化していたとか。

 

 と、話が逸れた。

 

「この一位はどんな人なんだ?」

 

「よくわかりません」

 

「え?」

 

「いや、本当にジョブ以外の情報が出回っていないんですよ。ゼロ。さっぱり詳細不明です」

 

 マリーはお手上げだ、と肩をすくめる。

 いやいや、仮にも決闘王者だぞ。うちでいうならフィガロさんクラスだ。情報ゼロなんてありえるか?

 

「たしかランカーは名前の表示・非表示を申請できるのだったかのう。こやつもその類いか」

 

「ああ、王国にもいるな」

 

 兄貴(【破壊王】)とか、愉快犯(【光王】)とか。

 

「でも決闘なら観戦者がいるはずだろ」

 

「皇国はもともと決闘興行がさびれてますからねー。……まあそれでも! このボクが、数少ない情報をかき集めてきたので褒めてくれてもいいんですよー?」

 

「すごいすごい」

 

「雑じゃありません!?」

 

 いや、ついおふざけ感があって。

 

「レイさんも人が悪いですね、と茶番はさておき。例の決闘一位ですがソナタと呼ばれています」

 

 ソナタ。真っ先にクラシック音楽における器楽曲、室内楽曲の形式のひとつが思い浮かぶな。

 

「待った。呼ばれている? そいつのプレイヤー名じゃないのか?」

 

「自称のようですね。対戦相手に名前を尋ねられて、そう返したらしいですよ」

 

「偽名ということかのう。のうレイよ、お主の知り合いで心当たりはなさそうか?」

 

「ソナタ……そなた……いや、ないな。それに皇国所属の<マスター>とはあまり関わりないし」

 

「あ、ちなみにこの人ですが巷では<超級>確実と噂されていますね」

 

「なんで無名の<超級>がポンと出てくるんだよ!?」

 

 不世出の人材が在野に眠りすぎだろう。

 

「個人的には、そんな噂が立ったのも納得といいますか。決闘一位昇格戦……【盗賊王】を倒した戦いで強さが知れ渡ったようですね」

 

 マリーは映像記録用アイテムを取り出した。

 数少ない、謎の<超級>の情報なのだろう。

 俺はネメシスと一緒に再生映像を視聴した。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■ドライフ皇国

 

 闘技場の結界内に二つの人影が現れる。

 

 一人は全身に包帯を巻いたミイラの女性。

 “四海封滅”,元<グランバロア七大エンブリオ>と名高い<超級>にして、皇国の決闘ランキングを一飛びで駆け上がった【盗賊王】ゼタその人だ。

 

 もう一人も女性。

 特徴のない顔、店売りの装備品。

 無名で当然と言わんばかりに、ありふれた格好で風景に埋没する<マスター>である。

 闘技場に立っている姿が違和感とすら思えた。

 

 だが……ゼタは対戦相手を警戒していた。

 

(疑念。わざと目立たない風貌を選んでいるようですが、外見から受ける印象と仕草がそぐわない)

 

 決闘二位に上がる実力はあるのだろう。

 事実、更生してビルド見直し中とはいえローガンを相手に勝利し、ゼタに挑戦状を叩きつけてきたのだ。

 それでも、違和感が拭えない。弱々しい。

 まるで彼女のクランを率いる、か弱い別人になりすました時のオーナー(【犯罪王】)のように。

 

(否定。あり得ません。オーナーと同レベルの変身能力、というだけなら一人思い浮かびます。しかし今、ここにいるはずがないのですから)

 

 それでも。ゼタの直感は警鐘を鳴らす。

 

(……速攻。ローガンの時と同じ、窒息からの《アブソリュート・スティール》で心臓を抜きましょう)

 

 ゼタは【盗賊王】の奥義と<超級エンブリオ>の起動準備に移る。試合開始のアナウンスが入り次第、即座に目の前の相手を殺害できるように。

 

 相手は棒立ちのまま不動。

 武器や<エンブリオ>を取り出す様子がない。

 ゼタが《看破》した限りでは【硬拳士】をメインに据えた素手ビルドと推測できる。しかし特筆すべきステータスはなく、せいぜいがカンスト上級職並みだ。

 

 どうやってローガンを倒したのか。

 分からないから不気味。

 分からないからこそ、最大限の警戒を。

 ダークホースの初見殺しで大番狂せが起こるのがデンドロの面白いところであり、恐ろしいところだから。

 

『試合、開――』

 

 始、と宣言されると同時に。

 

(――《天空絶対統制圏(ウラノス)》)

 

 ゼタは相手の周囲を真空状態にして、

 

 《ぺネンスドライブ:フィジカル》――()()()()()

 

(……は?)

 

 相手は無酸素状態で意にも介さず。

 気圧変化による体調不良すら起こさず。

 まるで息をしない()()()()()()()()のように。

 全身を流動状にくねらせて……

 

 ゼタにAGI四〇万オーバー(超々音速)の拳が迫り――

 

(――……は??)

 

 その日、皇国に新たな決闘王者が誕生した。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □【聖騎士】レイ・スターリング

 

 ……酷い一方的な虐殺を見た。

 

 試合開始と同時に【盗賊王】がスキルを使ったところまでは分かった。決闘結界は内部時間の経過速度を調整する機能があるから、超音速を発揮する彼女に合わせて準備していたのだろう。

 

 だが、それでもソナタを捉えるには足りなかった。

 

 気がついたら【盗賊王】の喉が掻き切られ。

 彼女の心臓は貫手でくり抜かれていた。

 いやパフォーマンスでぴろぴろ掲げるなよ。

 

「とまあ、こんな感じでして。<超級>を殺せるのは<超級>という理屈で騒がれていますねー」

 

「<超級殺し(マリー)>やお主(レイ)のような例外はおるがのう」

 

 マリーはともかく俺は……そうなのか?

 格上相手に嵌まりやすい戦闘スタイルをしている自覚はある。<超級>クラスの敵と戦ってばかりな自覚も。

 それでも単独で成し得たかと問われたら、やはり俺は首を横に振るだろう。

 

「ソナタが使っていたスキルはどういうものなんだ? 【硬拳士】の奥義だったり?」

 

「《我が拳、巌となりて》ですね。たぶんそれも使ってますけど、頭おかしい速度と攻撃力は別ですね」

 

 《我が拳、巌となりて》は素手の場合、自身のENDの3倍の数値を両手の手首から先の物理攻撃力・物理防御力に加算するスキルらしい。

 ほかに《窮鼠、猫を噛む(ラット・ウィル・バイト・ア・キャット)》、素手で自身のHPが最大値の3分の1未満になっている場合、与ダメージを2倍化する【獣拳士】の奥義のひとつ。

 

 これらが圧倒的な攻撃力の一因だろう。

 

「それと、【苦行僧】の《ぺネンスドライブ》。HPを100消費するごとにSTR・END・AGIを10分間2ずつ上げるスキルです。あの様子だと一千万単位で消費してますよ多分……信じられないですね!」

 

 俗に素手ビルドと呼ばれる上記スキルの組み合わせは、同じく皇国の決闘ランカーことイライジャ氏の十八番でもあるという。彼は<エンブリオ>でコストにするHPを賄うらしいが、今回のソナタの場合は……。

 

「スライムの体の<超級エンブリオ>か?」

 

「どこかで聞いたような能力だのう」

 

「【犯罪王】のそっくりさんじゃないですかー。流石にそれはないかと……ああ、似たような事ができる人はレイさんも知ってますよね?」

 

「……あいつか? それこそまさか」

 

「はっはっは。ですよねー。……デスヨネ?」

 

 不安を煽る口調はやめてくれ。

 あり得ないのにそんな気がしてくるぞ。

 

「いっそ本人に確認してみるのはどうかのう。まだギデオンにおるのではないか?」

 

 ……俺、正直少し苦手なんだよなあの人。

 何考えてるのかよく分からないから。

 

「あの方なら大闘技場にいますよ」

 

「そうか。ありがとう……ん?」

 

 俺は素知らぬ顔の乱入者を見咎めた。

 黒髪で夜空のようなコートを羽織る男性。

 片目を閉じてペンを走らせる取材魔。

 

 【光王】エフが立っていた。

 

「ッ!」

 

「貴様、性懲りも無く悪巧みか!」

 

「いえいえ。今日の私は観客に過ぎません」

 

 嘘はついていないようだが、にわかに信じがたい。

 愛闘祭を引っ掻き回した相手の言葉だからな。

 マリーもアルカンシェルを必殺スキル発動用の単発式に切り替えて、エフの隙を狙っている。

 

「……心外です。これでも助言に来たのですが」

 

 エフはため息を吐いて、

 

「――<超級>が現れました」

 

 嵐の前の敵襲と、

 

『――レイ・スターリングに告げる』

 

『大闘技場に来られたし』

 

『十分だけ待つ』

 

『定刻を過ぎて貴殿が現れない場合……()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ギデオンに響き渡る放送の()()()()()を告げた。

 

「皇国の襲撃……! 講和会議の前に!?」

 

「どうするマスター?」

 

「迎え撃つ! マリー、【光王】は任せる!」

 

「はいはい任されましたー!」

 

 俺はシルバーを取り出し、急いで大闘技場に向かった。

 待ち受ける激闘を予感しながら。

 

「なぜお主は<超級>にばかり好かれるのか……」

 

「俺が聞きたいよ!」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 大闘技場の入口にはルークと霞、兄貴、そしてリリアーナが駆けつけていた。

 

「ようレイ。来たかクマー」

 

「状況はどうなってる?」

 

「ホシは建物に立てこもってやがるクマ。無職を人質に取るなんて最低な野郎クマー。このひとでなしー」

 

 ……なんかゆるくないか今日の兄貴。

 

「お兄さん。中の様子は不明ですが、闘技場の職員は全員避難が完了しているそうです。なんでも無職さんに誘導してもらったとか」

 

「ん、そうか。となると」

 

「ええ、ですね……」

 

 なにやらルークと兄貴が話している。

 というより頭を抱えている?

 

「無職さんが人質なら抵抗しているって事だろ。相手は俺を呼んでいるわけだし、加勢しよう」

 

「私も行きます。あの人は<マスター>とはいえ気がかりです」

 

 リリアーナは近衛騎士団の鎧を鳴らした。

 

「いや、リリアーナは残ってくれ」

 

「なぜですか! 私だって……!」

 

 憤慨する彼女の肩には見覚えのない装備……鎧に付属したペリーズが翻っている。特典武具だろうか?

 だとするなら、俺の知らない間にリリアーナもそれなりの修羅場をくぐっているのだろう。しかし。

 

「この街にはエリザベートがいる。リリアーナの仕事は彼女と、この街を守ることだろ?」

 

「……わかって、います。でも嫌な予感がするんです。まるであの人が大変な事になるような」

 

 直感、ともまた違う虫の知らせ。

 この後に例の無職がただでは済まないという不安でリリアーナは居ても立っても居られないらしい。

 

 しかし相手が推定<超級>の場合、既にあの無職がデスペナルティになっている可能性は高い。

 そうなると無駄足になりかねないが……。

 

「そうだ。霞のタイキョクズがあるじゃないか」

 

「え、えぇ!? わ、わたしですか……?」

 

 霞のタイキョクズは敵味方の位置を把握する。

 <マスター>は<エンブリオ>の到達形態しか表示されない仕組みになっているが、既に大闘技場にいた人達は避難が完了している、つまり今は敵と無職しか残っていないということ。

 

 もし二人分の表示がでれば無職は生きている。

 俺達で加勢、共闘できるだろう。

 

 もし一人分の表示なら、無職は負けている。

 その場合は気を引き締めて突入しないと。

 

 俺と霞、リリアーナはタイキョクズを確認する。

 

 大闘技場には――

 

「……()()()()()()?」

 

 一切の表示がなく……

 

 ――へー、そういうのあるんだ。よくないね。

 

 気軽な友人、そんな錯覚を与えてくる人物が、俺達の背後で一緒にタイキョクズを覗き込んでいて。

 

 タイキョクズは現在地に『Ⅳ』『Ⅴ』『Ⅴ』『Ⅶ』『Ⅶ』と……表示……?

 

「……待て」

 

 表示のⅣは俺とネメシスだ。

 二つのⅤは恐らくルークと霞だろう。

 当然ながら兄貴はⅦで間違いない。

 

 なら、残る『Ⅶ』は?

 

 消去法で、この場には一人しかいない――!

 

「…………」

 

 察していたという顔の兄貴とルークを。

 理解が追いついていない霞を。

 目を見開いたリリアーナを。

 咄嗟に身構えた俺とネメシスを。

 

 ――あーあ。バレちゃったー。

 

 少し困った様子の無職が。

 

 ――()()()()()()()()()()が笑っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。