無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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(時系列が)逆だったかもしれねェ……


森林火災の消火活動

 □■王都アルテア

 

 夜半、あなたは仮宿で眠りにつく。

 

 労働で疲れた肉体を休めるためだ。

 とはいえ、今日は一日雑用だったのだが。

 

 バーベナから詳細を聞いたあなたがすぐさま討伐に繰り出そうとしたところ、リリアーナの静止が入った。

 これ以上仕事を増やすな、まずは今ある分をどうにかしろという圧に屈したのである。

 あなたは自分の尻拭いのため、書類仕事と並行して街を駆け回る羽目になった。

 バーベナの依頼は翌日に持ち越しだ。

 

 明日は楽しい野盗狩り。

 ゆっくりと休んで英気を養おう。

 

 

 ◇◆

 

 

 あなたは砲撃音で飛び起きた。

 窓の外、北の夜空が燃えていた。

 爆発&爆音でファイヤーである。こんな夜中に火遊びをする阿呆はどこのどいつだ。

 うるさくておちおち寝てもいられない。

 

 怯える宿屋の店主から依頼を受けて、あなたは原因解明と事態の収拾に乗り出した。

 

 どうやら敵国の侵略行為かもしれないと考えるティアンが多いようだ。

 王国と隣接するドライフ皇国は機械の国。

 そしてつい最近戦争したばかりの敵国だ。

 メカとロボで砲撃を仕掛ける可能性は十二分にある。

 

 せめて時間帯を考えてほしい。

 かくいうあなたも夜襲は十八番だが、それはそれとしてやられる側に立つのはごめんだ。

 

 北の城門からフィールドに出る。

 初心者用狩場のひとつ、<ノズ森林>は見渡す限りド派手にド炎上していた。

 既に砲撃は収まっている。何者かによる破壊工作、あるいは激しい戦闘が行われたと見て間違いない。

 

 あなたはスクリーンショットを撮った。

 気分は修学旅行のキャンプファイヤーだ。

 肉の焼ける香ばしい匂いが空腹を刺激する。逃げ遅れたモンスターのドロップだろうか。

 

 鉄串に刺したマシュマロをかざして炙る。

 夜食にはちょうどいい。

 焼きマロを手にもう一枚、記念撮影をする。

 

 写真の片隅に騎士の一団が写っていた。

 その内の一人があなたを睨んでいた。

 リリアーナだ。

 

「何をされているんですか?」

 

 近衛騎士団副団長は両手で焼きマロを頬張るあなたが放火犯ではないかと疑っている様子だ。

 濡れ衣だ。自分は今来たばかりである。

 あなたは力強く否定した。

 写真は調査の物的証拠を記録するためであり、断じて火事を楽しんでいたわけではない。

 

「そうでしょうね……どうやら、この火災は【破壊王】が戦闘した余波だそうです。彼の<エンブリオ>らしき戦艦が目撃されていますから」

 

 あなたの記憶がたしかなら、【破壊王】は正体不明な王国の<超級>ではなかったか。

 たった一夜で森林を焼き払うとは、やはり<超級>というのは頭のおかしい連中だ。

 

「あなたに言われたくはないと思いますが」

 

 なぜだろう。リリアーナの当たりがきつい。

 もしや空腹で気が立っているのだろうか。

 親切で人の心を慮ることができるあなたは、手にした焼きマロをリリアーナに差し出した。

 

「いえ結構です。いりません」

 

 遠慮は要らない。

 食べかけではない、加熱直後のほやほや焼きマロだ。

 それともマシュマロは苦手だっただろうか。

 他はチョコ入りか、干し芋とゲソしかないのだが。

 

「それどころではないんですよ! 王都に被害が出ないよう火を消して、それから後処理を……はぁ」

 

 近衛騎士団も大変そうである。

 

「他人事みたいに言わないでください。というか、あなたも【聖騎士】なら手伝ってくださいよ」

 

 それはつまり、お仕事(クエスト)だろうか。

 リリアーナが依頼するのならやぶさかではない。

 報酬は火災の調査報告で手を打とう。顛末を聞けば、宿屋の店主も枕を高くして眠れるはずだ。

 あなたは消火活動に協力することにした。

 

 ひとまずリリアーナに指示を仰ぐ。

 

「我々にできるのは木々の伐採と消火です。まずは火災が広がらないように、まだ燃えていない木でも切り倒してください。同時に水を運んで鎮火を試みます。……ああ、それと魔術師の協力を仰ぐ必要がありますね。魔法で水源を確保しなければ手に負えません」

 

 では水源確保を請け負おう。

 最低でも人手が集まるまではこきつかって構わない。

 リリアーナたち近衛騎士は全員【聖騎士】で水属性魔法が使えないだろうから。

 

「あなたも同じでは?」

 

 心配無用だ。あなたには考えがある。

 

 ジョブを全てリセットした。

 

 あなたは無職になった。

 

 そしてグリゴリでジョブチェンジ。

 これであなたは魔法使いの無職さんである。

 

 あなたは魔術師系統のジョブを一通り修めている。

 和・洋・中なんでもござれ。

 東西の魔法に精通したあなたに死角はない。

 とりあえず【蒼海術師】の魔法で放水しながら、バケツを水で満たしてみせた。

 入用なら【ジェム】の手持ちも提供しよう。

 

「……この際もう何でもいいです」

 

 リリアーナは部下に指示を出す。

 木々を伐採して火災を食い止める一団と、消火活動に励む一団。そして蛇口要員あなた。

 しばらくすると王都から他の魔術師や水を操る<エンブリオ>持ちが到着したので、彼らと連携を図りながら地道に火消しを進める。

 

 しかし<ノズ森林>は広大なフィールドだ。

 人手を総動員しても全域はカバーできない。

 今のペースで続けると、完全に消火を終える頃には夜明けを迎えてしまうことだろう。

 近衛騎士団は口に出さないまでも疲労が溜まっている様子だ。一部の<マスター>も同様に『ゲームの中でも徹夜だぁ……』とぼやいている。

 

 そんな中でリリアーナは懸命に働いていた。

 率先して動く彼女の勇姿を目の当たりにして、皆は疲れ果てた身体に鞭を打って奮起する。

 特にリリアーナファンクラブの面々はいいところを見せようと張り切っている。

 

 彼らを尻目に、あなたは埴輪を並べていた。

 

「働いてください!」

 

 近衛騎士団副団長の叱責が飛んできた。

 誠に遺憾である。サボってなどいないというのに。

 きちんと消防車の役割は果たしている。

 

 ティアンも<マスター>も人間だ。

 このままでは遠からず限界が訪れる。

 仮に気力と体力を維持できても、魔法職のMPは有限。自然回復量はたかが知れている。

 

 そこで埴輪である。

 正式名称は【埴輪】。リリアーナは知らないかもしれないが東方ではメジャーな代物だ。

 埴輪師系統が作成する使い捨てアイテムで、魔法コストを肩代わりしてくれる素敵なお人形だったりする。

 

 使い方は簡単。術者の近くに置けばいい。

 外付けのMPタンクとして使えるので、最大MP値より消費MP量がネックな式術師などが愛用している。

 なお、一部の修羅は生贄としても運用するそうな。

 

 とにかく効果があることは保証する。

 

「し、失礼しました。そうとは知らずに」

 

 何よりフィギュアとして使える点がいい。

 鑑賞してヨシ、遊んでヨシ。埴輪は最高だな。

 

「やっぱり遊んでませんか?」

 

 気のせいだ。あなたはお仕事に対する熱意だけは誰にも負けないという自負がある。

 受けた依頼はきちんとこなしてみせよう。

 今回は長丁場になることが予測される。ずっと気を張り詰めていては倒れてしまうから、遊んで息抜きすることも大事ではないだろうか。

 

「語るに落ちましたね。この両耳でしっかり聞きました」

 

 それはさておき。

 

「さておかないでください」

 

 リリアーナの考えを聞きたい。

 実際問題、このまま続けて大丈夫なのだろうか。

 

「……そうですね。大丈夫ではあると思います。あなた方<マスター>のおかげです」

 

 思案するリリアーナの疲労は色濃い。

 ひとまず解決の目処は立ったので安心できるが、そのために身を粉にして働く必要がある。

 睡眠時間を削ればどうにかなる。やるしかない……心情としてはこんなところだろうか。

 

 あなたは休憩を提案した。

 

「我々は近衛騎士団です。王国を守ることが使命ですから、休んでなどいられませんよ」

 

 自国の<マスター>に過労死させられては目も当てられないと思うのだが。

 

「ええ……それは本当に。ほんっとうにその通りです。どこかの誰かさんにも言い聞かせたいですね!」

 

 まったくだ。

 【破壊王】がどこの誰かは知らないが、少しはあなたを見習って人を思いやる心を育むべきだろう。

 近衛騎士団をはじめとするティアンに迷惑をかけるなど<マスター>の風上にも置けない野郎である。

 

 とにかくリリアーナの意思は固い。

 この様子では他の近衞騎士も同様だろう。

 あなたは職務に忠実な彼らを心から尊敬しているが、働き過ぎで倒れてしまっては意味がない。

 

 もし彼らが揃って病欠になった場合、ティアン専用のお仕事が回ってくる可能性はなきにしもあらずだが……あなたとしてはとても魅力的な仮定ではあるのだが。

 生憎と、そんな未来はやって来ない。

 あなたとしても人のお仕事を無理やりに奪うような真似は可能な限り避けたい所存である。

 

「【大賢者】様がご存命だったのなら、大雨でも降らせてくださるんでしょうけど。さすがにないものねだりが過ぎますね」

 

 これが天地ならば、雨を降らせて解決するだけの簡単なお仕事なのだが。

 社会の歯車として生きるのも楽ではない。

 あなたは思わずため息を吐いた。

 

「……今なんと?」

 

 ため息を、

 

「その前です、前!」

 

 社会の歯車と、

 

「分かっててふざけてますよね!?」

 

 冗談だ。なので詰め寄るのはやめてほしい。

 胸ぐらを掴むなどもってのほかだ。

 急に至近距離まで近づかれると困ってしまう。

 そうか、これが不整脈か。

 

 戯れは程々に収めておく。

 あなたは先の発言を一言一句、過たずに復唱した。

 『これが天地ならば、雨を降らせて解決するだけの簡単なお仕事なのだが』。

 

「それは本当ですか?」

 

 あなたは首肯した。

 希望的観測を含むが、この規模の火災なら降雨により消火することは可能だろう。

 

「一応尋ねますが……その手段を取らない理由は」

 

 あなたは依頼主を尊重する有能な<マスター>だ。

 リリアーナが組織的に消火を行う方針を提示したので、あなたはそれに従ったまでのこと。

 指示に致命的なミスもなく、消火が間に合わないということもなかった。やはり彼女は有能な女騎士だ。

 故に問題はないと判断したが。

 

「今! すぐに! やってください! 私があなたをどうにかする前にっ!」

 

 イエス・マム。あなたは敬礼した。

 

 アイテムボックスから必要なものを取り出す。

 祭壇、刀掛け、等身大美少女埴輪だ。

 

「…………!?」

 

 背後から強い困惑と葛藤の気配がする。

 まるで質問したいのに状況がそれを許さない、コメディ作品のツッコミ役みたいな沈黙だ。

 リリアーナはいったいどうしたというのか。

 やはり疲れているようだ。そっとしておこう。

 

 あなたは黙々と準備を整える。

 祭壇に刀掛けを設置。祭壇を中心に円を描くようにして等身大美少女埴輪を並べる。

 疑問に思ったそこの諸君。等身大美少女埴輪一体で賄えるMPは、等身大美少女あなた四人分である。

 ちなみに等身大美少女あなた一人に含まれるMPは、通常あなたのMPに換算して二割五分だ。

 あとは各々で計算してほしい。

 

 最後の仕上げだ。

 あなたは愛刀を取り出した。

 

「まさか、妖刀……」

 

 然り。怨念を溜め込んで変質した呪いの刀だ。

 天地では鍛造された刀の約半数が闘争の末、妖刀に成るのだとまことしやかに囁かれている。

 この都市伝説にあなたは否定的だったりする。

 絶対にもっと多いだろう。あれだけ斬った張ったの殺し合いをしているのだから。どれだけ血を吸わせる気だ。

 

 閑話休題。

 

 あなたは愛刀を祭壇に飾る。

 一歩下がり、一礼。

 さらに一歩下がって跪いた。

 

 張り詰めた空気にリリアーナは息を呑む。

 周囲の人間も奇異の視線で見守っている。

 

 あなたは祈った。

 

 雨を。

 

 水を。

 

 奇跡を。

 

 ついでに世界平和と商売繁盛と子孫繁栄を。

 素敵な恋人ができますように。なむなむ。

 あと嫌いなやつが全員ハゲますように。

 

「……」

 

 愛刀はうんともすんとも言わない。

 やはり厳しいか。

 

「……」

 

 致し方ない。あなたは切り札を出すことにした。

 

 たまたま拾った、リリアーナの髪の毛を一本。

 もし雨を降らせたらくれてやろう。

 あなたは愛刀にだけ聞こえる声で囁いた。

 

「……!」

 

 手応えありだ。

 しかしまだ弱い。どうやらこの毛フェチ(妖刀)、未だ初恋に操を立てていると見える。

 ならば望み通り……彼女の髪の毛もくれてやる。

 あなたは一気呵成に畳み掛けた。

 

「……!!!」

 

 全ての埴輪が壊れて、MPが愛刀に注がれる。

 交渉成立だ。

 

 愛刀が特級呪物並み(当社比)の呪詛を解放した。

 あなたはジョブスキルを以てそれを支援する。

 使用するは陰陽師派生の天占系統、そして修験者系統が有する雨乞いの技。上級職では『降ったらいいな』から『一雨来そうだ』という段階までしか引き上げることはできないスキルだが。

 

 風を招き、雲を運び、上空に滞留させて。

 妖刀が嵐を呼び覚ます。

 

 雨垂れが頬を打つ。

 まばらに落ちる雫は、絶え間ない豪雨に。

 

 火災は消え、後には燻る荒地だけが残った。

 

 

 ◇◆

 

 

 濡れ鼠になったリリアーナが風邪をひいてしまいそうだったので、あなたはスリーサイズを尋ねた。

 

「はい、上から………………ん?」

 

 

 疲労で機能しない脳。僅かに遅れて、リリアーナは何を口走りかけたかに気づいた。

 みるみるうちに顔は茹でだこ。

 両手を交差させた体から蒸気が立ち上った。

 げに便利な体質だ。乾燥機要らずである。

 

 半殺しにされた。

 

 着替えを貸そうとしただけなのに。

 

 ちなみに男性の近衛騎士に同じ質問をしたら無言で距離を取られてしまった。

 今日も、世界はあなたに優しくない。




・無職さん
半べそで全員にタオルと雨具を配った。
リリファンは返り討ちにした。

・リリアーナ
セクハラはいけないと思います。

・愛刀
毛フェチ。自我がある。
由緒正しい曰く付きの妖刀。
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