無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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スーパー猿

 □■イベントエリア北部

 

「グハハハハ! なんだ貴様その装いは! ついに気が触れたか職の民ィ!」

 

 どうしてこうなった。

 あなたはエストの笑いものになるという屈辱を受けて、悲しみに殺意が漲った。

 

 あなたは石斧を掲げて威嚇する。

 

「ふふ……今の貴様が凄んだところで……くく、原始人にしか……グハハハ! 愉快愉快!」

 

 よしこいつ殺そう。イベント中とか関係ない。

 

 現在、あなたの装備は石器時代レベルだ。

 その辺で拾った石を加工した打製石器。

 樹皮で編んだ腰巻きと草木の仮面。

 ないよりはマシ程度の防御力。肌面積はあなた史上過去最高レベルで蛮族の装いである。

 

 気分はさながら密林の王者。

 原始回帰したあなたは古代の鼓動を刻む。

 ウッホウホ、ウホッウホー。

 

「やめんかたわけグハハハハ!?」

 

 笑い転げるエストを前にあなたは思ふ。

 本当にどうしてこうなった。

 

 自問に自答するため、あなたはエストと遭遇するまでの出来事を思い返す。

 

 

 ◇◆

 

 

 イベント開始直後のこと。

 

 あなたは森のど真ん中に転送された。

 鬱蒼と茂る木々が空を遮り、視界が悪い。

 どうやら人の手が入っていないようだ、と判断したあなたは剪定鋏を取り出して、開拓と探索を進めた。

 

 むやみやたらな自然破壊は罪だが、適度な手入れは森の寿命を伸ばすことに繋がる。

 日光を遮る余計な枝葉を切り落とし。

 ゴミは自然に配慮して細菌で分解、地面に撒く。

 病術師系統のジョブスキルの賜物である。

 

『ぶにゃあ……』

 

 嗚呼、なんということでしょう。

 頭上からミニチェシャが落ちてきた。

 木登りをして枝に引っかかったのだろうか。

 棚からぼたもちとはまさにこのこと。日頃の行いがもたらした幸運にあなたは感謝を捧げた。

 

 真っ先にあなたは《看破》を使用した。

 結果はエラー。ステータスを確認できない。

 続けて《鑑定眼》《従魔(テイム)》が失敗した事で、あなたは検証の第一段階を終えた。

 どうやらミニチェシャはモンスター・アイテムのどちらにも該当せず、テイムは不可能らしい。イベント専用のオブジェクトという表現が近いだろう。

 

 ここであなたには複数の選択肢が浮かんだ。

 ▷①素直にポイントを獲得する。

  ②ミニチェシャを見逃す。

  ③ミニチェシャを攻撃する。

 

 ▶︎ミニチェシャを攻撃する。

 

 あなたのこうげき。

 

『ぶにゃ!?』

 

 あなたは木の枝でミニチェシャをつついた。

 しかし手応えがない。

 

『……フシャーッ!』

 

 ミニチェシャは涙目であなたを威嚇する。

 手を伸ばすと鋭い爪で抵抗されて捕獲できない。

 

 あなたは検証の第二段階を終える。

 チェシャが説明したNG事項、子猫への攻撃に対するデメリット……ペナルティはポイント取得権の喪失。

 これは失うものが少ないイベント序盤で確認しておかねばならなかった。フレンドリー・ファイアの仕様で取れる戦術が変化するからだ。

 

 ミニチェシャはしばらくその場で荒ぶっていたが、三十秒ほどで落ち着き、どこかへ走り去った。

 

 その後、あなたは何度かミニチェシャを捕獲してより詳細な仕様を確認した。

 

 捕獲したミニチェシャは基本的についてくる。

 ただ戦闘が始まると隠れたり逃げ出そうとする。

 ポケットや懐にしまうことは可能。

 柵や籠網などで囲うと逃げ出さず、ポイントは獲得したままの状態になるようだ。

 

 放置するとミニチェシャはその場を立ち去る。

 猶予時間はおおよそ三十秒。

 捕獲後に一定距離を離れた場合も同様。

 前述した施設等に収容するとその限りではない。

 

 攻撃を受けたミニチェシャは逃走するが、一定の距離と時間を空けることで改めて捕獲が可能になる。

 

 ミニチェシャは荒ぶると体感一割の確率で、くそでかい鳴き声を上げる。その鳴き声は野生モンスターを呼び寄せるだけでなく、周囲に隠れているミニチェシャを逃走させる効果がある。

 

 いや、めんどくさいな?

 

 あなたは検証をほどほどで切り上げた。

 他の確認はイベント攻略と並行で問題ない。

 

「おっと待ちな。ここから先は通行止めだぜ」

 

 草むらから野生の<マスター>が飛び出してきた。

 装備からしてレジェンダリア所属と推測できる。

 相手は不意をついたようだが、あなたは驚かない。

 スキルで接敵を把握していたからである。

 

「ほう……それなりにやるようだな。だが、俺はここで必ずお前を倒すぜ」

 

 殺意マシマシ怨念高め。どうして。

 あなたは狙われる理由に心当たりがない。

 現在ポイント0のあなたを殺す意味はなんだ。

 

「決まっている。猫さまをいじめたからだ」

 

 何を言っているのか意味不明である。

 どうやら目の前の男は言葉が通じないらしい。

 

「可愛い猫さまを、モフモフふわふわのチェシャさまを虐待するなど言語道断。お前は地獄に落ちるがいい」

 

 男性<マスター>は子猫に頬ずりした。

 連れているミニチェシャの数は四匹。

 あなたが検証に明け暮れている間に、他の参加者はイベントを進めている。当然である。

 

 ひとまず理解はした。納得はできぬ。

 あなたは殺意が漲った。ポイント寄越せ。

 

「抜かせッ!」

 

 男性は猫型ガードナーを呼び出して融合。

 跳ね上がったステータスで鉤爪をかざす。

 【爪拳士】の奥義《タイガー・スクラッチ》。

 連撃は明らかに状態異常・デバフが付与してある。

 確認したメインジョブは【獣戦鬼】なので、“ガードナー獣戦士理論”の採用者だろう。

 

 あなたは愛刀で首を刎ねた。

 

「な……?」

 

 なかなか悪くない動きだ。今後は動物愛護団体に配慮しよう、とあなたは冥土の土産を宣った。

 でも猫耳成人男性とか誰得ですか。

 

 あなたはドロップアイテムを回収する。

 イベント中の収入は十割あなたの懐行きだ。

 ついでにミニチェシャもゲットだぜ。

 マーベラス、実にマーベラスなスタートだ。

 

 と、ここまでの賞賛と戯言を《詠唱》に、あなたは効果範囲を拡張した《生体探査陣》を使用する。

 索敵範囲の森の中に参加者は点在している。

 右も左もレベル500の反応ばかりだが、カンスト勢より高レベルの存在は三つ。

 

 恐らく超級職。

 この三人をあなたは要注意人物と定める。

 

 北西から動かない一人。

 周囲に複数の<マスター>の反応がある。

 デスペナルティになる気配が感じられないのは戦闘が始まっていないからか、あるいは。

 

 残る二人は連なって動いている。

 移動速度から推測する限り、一方が他方を追いかけている状態。耳を澄ますと戦闘音。

 明らかに殺し合いの最中であった。

 

 争いを嫌う平和主義者のあなたは、戦闘から距離を取るため正反対の方角……南西に進むことにした。

 

 北部の森林は強者ばかり。こんな危険なエリアにいられるか、安全な場所に移らせてもらう。あなたの思考を言語化するとだいたいそんな感じである。

 他のエリアにも超級職がいる可能性は考慮しないものとする。イベントは天地に負けず劣らずの魔窟である。

 

 あなたはスケてる水着を着用した。

 魔力を通すと透明になる装備である。

 これとミスティコの組み合わせで不可視になり、隠れながらイベントを進める算段だ。

 あなたの神算鬼謀は諸葛亮孔明を凌駕する。

 

 しかし運命の女神はあなたに微笑まない。

 

 急接近する敵性反応。まっすぐにあなたのいる地点へ進む参加者が、別方向から複数人。

 《生体探査陣》を逆探知したのか、おおよその方角に検討をつけたのか。いずれにしろ都合が悪い。

 

 草むらから現れた<マスター>達はお互いに顔を見合わせた。

 

 兜のみ装備した半裸の虫頭。

 女性に跨る重装備の騎士。

 薄い本を手にして興奮する男。

 

 あ、HENTAIだ。

 

「「「あ、HENTAIだ」」」

 

 四人の思考はピタリと一致した。

 不名誉な誹謗中傷にあなたは憤慨する。

 

 誰がHENTAIだ誰が。

 

「「「誰がHENTAIだ誰が」」」

 

 …………。

 

「「「…………」」」

 

 お前達のことだよ。

 

「「「お前に言われたくはねえよ!?」」」

 

 誠に遺憾である。あなたは常識人だというのに。

 

「森の中で水着って頭おかしいだろ」

 

「ほとんど紐じゃねーか」

 

「しかも透けてるぜ。やっぱレジェンダリアンだ」

 

 嗚呼、なんという事でしょう。

 あなたは隠密作戦を取る途中であるだけなのに。

 無意味に服を脱ぐ輩と勘違いされている。

 これが孔明の罠というやつか。

 

 あと半裸の虫頭には言われたくないが?

 というか三人ともレジェンダリア所属だろう。

 あなたは過去、デンドロ初心者の折に彼らを見かけたことがある。顔見知り程度の中であるが。

 

「こんな序盤で無職に出くわすとは運が悪い……が、どうせ見逃してはくれないのだろう」

 

「なら先にヤるしかないな」

 

「ポイントはもらったァ!」

 

 三人は殺意マシマシで襲ってきた。

 平和主義を標榜する心優しいあなたとしては、むやみやたらと人を襲うつもりなど皆無である。

 

 しかし、襲われたら応じねばならぬ。

 

 あなたは野盗が嫌いだ。PKが嫌いだ。

 理由は簡単。やられるとムカつくから。

 同様にイベントポイントを奪う輩は敵である。

 殺意には殺意で返すのが天地流だ。随分と野蛮で下卑た礼儀作法があったものであるな。

 

 敵三人の反応はレベル500止まり。

 あなたは躊躇なく愛刀を振るう。

 

「ちいっ、《変態(チェンジ)》!」

 

 半裸の虫頭がスキルを使用する。

 <エンブリオ>と思われる兜の角が肥大化して、同時に全身の防御力が上昇した。半裸なのに。

 

 あなたは虫頭の角を斬り飛ばした。

 

「バカな!? 俺のケラムボスが……」

 

 頭部装備への与ダメージを倍加する武士系統のスキル《兜割り》にアクティブスキルを乗せて。

 二の太刀で動揺する半裸の首を刎ねる。

 

「ぐぅ……知っているか! 昆虫には、幼虫から蛹を得て全く別の形態に変化する完全変態と! 蛹にならず幼虫が直接成虫になる不完全変態とがあるぞー!」

 

 断末魔の悲鳴を上げて虫頭は光の塵となる。

 

「隙あり!」

 

 騎士が女性の手綱を握って突進する。竜に乗るのは竜騎士、女性に乗るなら女騎士ってな。やかましいわ。

 瞬時に体勢を整えてあなたは迎撃に移る。

 念のため《看破》すると、乗騎の女性はティアンだが凄まじいステータス値まで強化されていた。

 おおよそ伝説級モンスターに匹敵するだろう。

 

 あなたは《雄性の誘惑(メール・テンプテーション)》を使った。

 メロメロメロー。

 

「NTRはやめろおおおおおお!?」

 

 騎士は【魅了】にかかった女性に蹂躙される。

 当然だが、あなたは女性にノータッチである。

 寝てもいないのにNTRとはちゃんちゃらおかしい。

 言葉は正しく使うべきだ、とあなたは力説した。

 

「くそう……知っているか! 中世の女騎士は創作でこそシャルルマーニュ十二勇士ブラダマンテなどの活躍が語られているが、歴史上で実在は定かでないとされてきた……だが、イングランド王妃アリエノール・ダキテーヌは女騎士のみの護衛部隊を持ち、自らも鎧で武装していたのだー!」

 

 断末魔の悲鳴を上げて騎士は光の塵となる。

 

「残ったのは俺一人か。だが、準備は整った!」

 

 一番特徴のないエ口本男が勝ち誇る。

 あまりの気迫に僅かばかりあなたは気圧された。

 

「《二次(パブロ・ディエゴ・ホセ)(・フランシスコ・デ・パウラ・)平面(ファン・ネポムセーノ)(・マリア・デ・ロス・)(レメディオス・クリスピン)(・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・)(トリニダード・ルイス・イ・ピカソ)》!」

 

 長い。

 

 あなたは必殺スキルの発動前に首を刎ねた。

 

「ちくしょうッ……!」

 

 恨むなら<エンブリオ>を恨むといい。

 何の因果で早口言葉を強いられるモチーフになったのだろう。『ピカソ』では駄目だったのか。

 

「このノリは俺もなにか言った方がいいのか……えっとえーと……何も思いつかねえぇぇぇぇぇ!?」

 

 断末魔の悲鳴を上げて男は光の塵となる。

 

 都合三人、ぶっ殺した。

 流れ作業でドロップアイテムを回収する。

 敗者のおこづかいはあなたの懐行きだ。

 

 精神的に疲弊したあなたは、焚き火を設置して一時の休息を取ることにした。

 レジェンダリアのHENTAIは天地と別のベクトルで頭がおかしい連中ばかりである。

 少しはあなたの常識人振りを見習ってほしい。

 

 あなたは脱力したがゆえ、異変に気づくのが遅れた。

 

『『『ぶにゃあー』』』

 

 焚き火の周りで踊るミニチェシャたち。

 

 あなたが猫好きから奪った四匹。

 HENTAI三人が連れていた四匹。

 以上、合計八匹のチェシャはくるりと回転して、

 

「じゃじゃーん。ファントム・キャットー」

 

 ――合体した。

 

 ミニチェシャは人型男性に変身した!

 

 嘘でしょ?

 

 あなたは口をあんぐりと開いた。

 

 男は【猫神】トム・キャットを思わせる容姿。

 怪盗じみた服装のアバター。

 さっきまで踊っていた子猫はいずこに。

 あなたは驚愕で、自分の獲得ポイントがゼロになっていることに気づかない。

 

「それじゃーまたねー」

 

 ファントム・キャットは姿を消した。

 同時に、あなたの()()()()()()()()

 毛フェチの愛刀から装備中の防具、アイテムボックスに至るまで一切合切すべて。

 怪盗猫に持ち物を盗まれたことであなたはすかんぴんの無一文になった。

 

 あなたは慌てて懐を確認する。

 貴重品入りのアイテムボックスは無事。

 唯一、盗難防止が施されているものだ。

 リリアーナの【推薦状】ほか大事なものをしまっているため、これまで失っていたら、あなたは絶望にうちひしがれるところであった。

 

 先程のチェシャ変身はイベントの隠された仕様……一部の参加者が突出しないための工夫だろう。

 八匹のミニチェシャを集めると発生する罠。

 あなたが引き当てた効果は所持品の盗難だったが、あまりに致命的過ぎるため、十中八九ランダムで内容が変わるタイプのイベントだとあなたは見当をつける。

 

 おのれ運営。あなたは殺意が漲った。

 

「あ、伝えるの忘れてた。アイテムはイベントエリアのどこかに置いてありますー。特典武具は最後に返すから安心してくださーい」

 

 安心できるか。ふざけんな。

 あなたは戻ってきた怪盗に石を投げる。

 

「だよねー……」

 

 ご愁傷様、と。

 チェシャ味を出しつつ怪盗は再び消えたのだった。

 

 

 ◇◆

 

 

 あなたは回想を終えた。

 テラーカイブがあれば、エストに説明するのも簡単だったのだが、そうもいかない。

 今のあなたは天衣無縫の無一文。やむを得ず、森にある素材で間に合わせを製作した次第である。

 

「やはりその装備は貴様の手製か。ときに、この俺にそれらを譲るつもりはないか?」

 

 ふざけてんのか?

 あなたは奇人変人を見る目でエストを睨んだ。

 なけなしの装備を剥ぎ取ろうとする鬼畜生め。

 装備と引き換えに金銭を受け取ったところで、イベント中は役にも立たないのである。

 

「たわけ。これは下賎な追い剥ぎなどではない、商談よ。貴様風に言うならば『お仕事』というやつだ」

 

 それならそうと早く言え。

 今のあなたは気分だけは商人あなた。

 物欲野郎の口車に乗って交渉の席につく。

 

「流石は職の民。俺の期待を裏切らぬ」

 

 世辞は不要である。

 あなたは単刀直入にいくら出すかを尋ねた。

 趣きもへったくれもないが、目の前の男とやり取りする時の正解をあなたは知っている。

 

「言い値を払う。……とはいえ、今の貴様が必要なのは金よりもコレであろう?」

 

 エストは虚空から剣を引き抜いた。

 続いて槍、弓矢、盾、鎧などなど。

 無数の装備品をアイテムボックスとは異なる()()()から取り出してあなたの前に並べる。

 

「妖刀でも何でも好きに使うがいい。この俺が収蔵する品々を、貴様はよく知っているはずだ」

 

 エストの申し出は破格といっていい。

 つまり、イベント中は彼の持つアイテムを好きなだけ借りる事ができるという取引だった。

 あなた側が支払う対価は石斧と草木の服。

 明らかにコストとリターンが釣り合っていないように見えるが……あなたは警戒の必要を感じない。

 

 あなたのフレンド、エストはそういう男だ。

 

 よっ、俺様! 頭おかしい!

 

「グハハハハ! なんとでも言えい!」

 

 あなたは原始人装備とまともな装備を交換した。

 手に馴染む刀と鎧は天地産の武具だろう。

 着替えたあなたの横で、エストは満足そうに初期装備未満の産廃を眺めていた。

 

「やはり一点ものは格別よな……ああ、ひとつ言い忘れていた。道中で面倒な相手に襲われてな。相性最悪ゆえ撤退したのだが、遠からずここに辿り着くぞ」

 

 エストの発言に耳を疑うあなた。

 追手は仕留めるか撒いてこいとあれほど。

 天地での経験を忘れたとは言わせない。

 修羅は一匹見かけたら三十匹はいると心得よ。

 

「ええい、やかましい! なぜ貴様に声をかけたと思っている? 面倒な連中相手の盾にするために決まっているだろう! 喜べ職の民、仕事の時間だ!」

 

 彼は労働基準法をご存知ないようだ。

 加えてお仕事への敬意が見受けられんが?

 あなたをていのいい肉壁として運用するなら、それなりの報復を受けてもらうことになる。

 

「そら、【契約書】だ。報酬は色を付けておいた」

 

 はい毎度あり。

 

 あなたは接近する敵を迎え撃つ。

 まるでガラ空きの首に天地の名刀を振るい、

 

「……ん」

 

 ――傷ひとつ、与えられなかった。

 

 ()()()()()()()あなたは刀を手放して「何をしている職の民ィ! 俺の蒐集品を杜撰に扱う事は天が許しても俺が許さん!」……落とした武器を回収して距離を取る。

 

 追撃はない。どうやら敵は困惑している。

 あなたは相手を見定める猶予を得た。

 

 敵は女性だった。

 

 極限まで布地を減らしたインナー。

 ほぼ全裸といって差し支えない。

 あなたはアマゾネスという単語を思い浮かべる。

 

「…………あ、むしょく」

 

 かつてカルディナの犯罪都市で出会った<マスター>、一時は共闘関係を結んだクランの一人。

 触れたものを片っ端から壊していくわりとやべー破壊の化身、【裸王】レオナと遭遇した。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ■イベントエリア西部

 

「し、死ぬかと思った……」

 

 バーベナは尻もちをついていた。

 脱落者のドロップとミニチェシャが残っていたことで、図らずも彼を対象に八匹のトラップが発動。

 現れたチーム・キャットの『付近の参加者四人はビーチバレーで戦う』という効果により、岩場でスライディングレシーブをする羽目に陥ったのである。

 

 おまけに対戦相手は花火で打ち上げたボールを超高度から重力加速度を上乗せして落としたり。

 無数のホムンクルスで肉壁ブロックしたり。

 カオスな試合運びでバーベナの正気は消し飛んだ。

 

「私達の敗北ですね」

 

「いい勝負だったな! 普段はこーいうのやらないから新鮮で面白いなー」

 

 際どい衣装の女性は冷静かつ当然のように。

 金魚柄の宇宙服に身を包んだ女は快活に。

 自らの敗北と、互いの健闘を口にした。

 

「敗者は勝者にポイントを移譲。その後、勝者に対して一定時間の攻撃を制限されるのでしたね」

 

「そ、そうそう。集めたチェシャを渡しなよぅ」

 

 バーベナは勝者の特権を振りかざす。

 息も絶え絶えだが、勝ちは勝ち。

 おまけに身の安全が保証されている今、調子に乗るには十分な立場と状況だ。

 

「ゼロです」

 

「は?」

 

「私達のポイントはゼロです」

 

 そもそも四人の合計ポイントはゼロであった。

 ゆえにミニチェシャの変動は発生しない。

 ゼロをどう分割してもゼロになる。

 

「じゃあ何のために戦ったのさ……」

 

「私は大変興味深い時間でしたよ。ところで従魔の攻撃はルール上問題ないのでしょうか」

 

「え゛」

 

「いやいやそりゃねーだろ。色っぽいねーちゃん、アタイらは負けたんだから素直に認めようぜ」

 

「失礼しました。つい気になってしまい……例えば、解放したモンスターやホムンクルスの自由意志での攻撃は使役者のそれに含まれるのか、と」

 

「発想が外道なんですけど!?」

 

 バーベナはドン引きした。

 なお、フランクリンは実際にやっている。

 彼の目的は制約回避ではなく、王国とギデオンに絶望をもたらすためであったが。

 

「そうだ、いいこと思いついたぜ。こうして集まったのもなにかの縁、四人で協力しないか? 人数は多い方がポイント貯めやすいだろ!」

 

 宇宙服は他の面々を見渡した。

 

「そういや自己紹介がまだだよな。アタイは月ノ下華美、【花火職人(ファイアワーク・マイスター)】だ」

 

「…… 月ノ下?」

 

 華美の名乗りに、バーベナのペアが反応する。

 我関せずで無言を貫いていた少女だ。

 巨大なブレード付きの靴と、二本の刀を佩いている。

 

「まさか、南朱門家の“ダイナマイトレディ”」

 

「おう! あんたも天地の人か?」

 

「……用事を思い出した。帰る」

 

「あ、ちょっと! おーい!」

 

 静止を無視して少女は踵を返した。

 去り際、バーベナに一言だけ囁いて。

 

「あれと組むのはおすすめしない」

 

「え? それどういう……」

 

 答える義務はないと少女は振り返らず。

 足元の悪い岩場をブレードで器用に滑走しながら、イベントエリアの東を目指して進んで行った。

 

「華美さんのお誘いは嬉しいのですが、私はリタイアしようかと。今の一戦で消耗が激しいので」

 

 続けてホムンクルス使いが固辞。

 彼女はメニューを操作してログアウトした。

 

 残された二人に気まずい空気が満ちる。

 正確には『え、なんかヤバい? 性格まともそうだけどこの人ヤバい感じ?』と冷や汗をかくバーベナを、仲間になりたそうな目で見つめる華美という構図である。

 

 ここで、バーベナに天啓が降りる!

 

 頭のおかしい無職は言っていた。

 天地の修羅はどいつもこいつも頭がおかしいと。

 あの無職をしてそう言わしめる天地の住民やべーなとバーベナは思った。お前が言うなとも思った。

 

 そんな無職の思い出話に登場する修羅。

 たしか人間ロケット花火がどうとか……?

 バーベナのちっちゃい脳味噌はフル回転。

 

 打算的な彼は共闘のビジョンを想像した。

 ビーチバレーで触れた華美の戦闘スタイルは火薬を用いた砲撃。ところ構わず花火を打ち上げ、手当たり次第に上空へ吹っ飛ばすワイルドな戦い方であった。

 彼女のおかげで高価なドロップアイテムはあらかた爆散するか、燃焼してゴミ同然になっている。

 

 これ人間相手でも同じか?

 もしかして味方巻き込むタイプ?

 

 思い返してみる。ビーチバレー中、ホムンクルス使いがフレンドリーファイアを受けていたことを。

 彼女は《ライフリンク》でダメージを横流しできたから無事だった。しかしバーベナは従魔師ではない。

 

(あ、ダメじゃん。死ぬ)

 

 バーベナは愛想笑いを浮かべた。

 

「ごっめ〜ん! バベちん先約がぁ〜(別にあるとは言ってない)。また今度ご一緒させてねぇ〜」

 

 バーベナはにげだした!

 

(追って……来ない! よっし逃げろ逃げろ! イベント中まで頭おかしい連中に捕まってたまるか!)

 

 超音速で遁走したバーベナの背中が小さくなるまで、華美は非常に残念そうに見送った。

 

「仲良くなれると思ったんだけどなー」

 

 さながら雨の中で見捨てられた大型犬のように、華美は気落ちして肩を落とすのだった。




・《生体探査陣》
陰陽師系統のスキル。
種族を選択し、範囲内の生物の位置とレベルを把握する。
今回の主人公は種族:人間を選択した。

・《雄性の誘惑》
女衒系統のスキル。
性別♀の人間・モンスターに状態異常【魅了】を付加する。
相手の精神耐性が低いほど成功率が高い。

・《変態》
TYPE:アームズ【兜防具 ケラムボス】の強化型バフスキル。
HENTAIではない。

・《二次元平面凹凸合体》
TYPE:インベイジョンワールド【パブロ(中略)ピカソ】の必殺スキル。
周囲を二次元のドット絵に変えて自在に組み立てることができる。
イメージはマ◯ンクラフト風味のテ◯リス。

確定申告……繁忙期……つまり初投稿です。
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