無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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はだかのおうさま

 □■イベントエリア北部

 

 あなたは各地を旅した<マスター>だ。

 

 まだ見ぬお仕事を探して西へ東へ。

 見慣れたお仕事を探して北へ南へ。

 たとえ火の中水の中、草の中に森の中。

 人外魔境に修羅の巣窟、資本主義の煮凝りまで。

 お仕事あるところ、あなたは颯爽と現れる。

 

 ゆえに、あなたは様々なフレンドと知り合いだ。

 当然だが大抵どこか頭のおかしい連中ばかり。

 天地の修羅は言うに及ばず、その他も大概である。

 

 例えば隣にいる物欲野郎ことエスト。

 彼とは天地出奔からの長い付き合いになる。

 ゴーウェスト、ノー天地をスローガンに旅の道連れとなったが、その際どれだけ迷惑を被ったことか。

 

 まっとうで社会的な常識人のあなたがブレーキにならなければ、今頃エストは指名手配犯として“監獄”にぶち込まれていてもおかしくなかっただろう。

 なおエストはあなたに同じ感想を抱いている。人を奇人変人扱いとはなんとも失礼な男である。

 

「職の民。やつは知り合いか?」

 

 忌まわしい過去に思いを馳せるあなたであったが、エストの問いかけでふと我に返った。

 あなたは運営主催のイベントに参加している。

 追手に怯える逃避行を思い返す必要はない。

 修羅の国からは逃げおおせたのだから。

 

 ある日、森の中でアマゾネスに出会った。

 現状を言語化するとそんな感じである。

 

 そして、あなたは彼女を知っている。

 カルディナ所属の凖<超級>【裸王】レオナだ。

 森の中を全裸で歩く女などそういない。

 嘘だ。レジェンダリアでは珍しくもない。

 

「貴様も同類であろうがこの水着狂いめ」

 

 誠に遺憾である。水着と全裸は別物だ。

 そもそも一糸纏わない姿とでは……

 

「貴様と談義するつもりは毛頭ないわ!」

 

 怒られた。解せぬ。

 話を振ったのはエストなのに。

 

「いいから奴の情報を寄越せ。俺の認識と相違ないか確かめたい」

 

 であるか。

 

 あなたはエストが求める情報を提供した。

 彼女が着用する特製インナーはプレイヤーメイド。

 どうなっても安心安全の全年齢版である。

 

「やはりな。相当腕の良い職人が手がけた一品と見た……よいぞ! 我が蒐集品の末席に加わる事を許す!」

 

「……?」

 

「伝わらんか。では簡潔に述べるとしよう。女よ、その肌着を俺に譲るつもりはないか?」

 

 あなたはドン引きした。

 どこの世界に女性の衣服を剥ぎ取るバカがいる。

 愚かで言葉足らずなエストを引っ叩いて、あなたは頭のおかしいフレンドの尻拭いをする。

 

 彼はただレオナのインナーが欲しいだけなのだ。

 アイテムボックス内部の予備で構わない。

 本人には興味関心がないので誤解しないように、と。

 

「……ん」

 

 レオナは納得した様子で頷いた。

 流石はあなたの類稀なるコミュニケーション能力。

 非常識なエストとはレベルが違う。

 

「へんたい」

 

 なぜあなたまで変態の誹りを受けたのか。

 あなたの聡明な頭脳をもってしても理解が及ばない。

 

「へんたい、だめ。にげるか、たおす」

 

 レオナは雄々しく拳を握りしめた。

 

「わたし、たおす」

 

 膨れ上がる敵意にあなたは応じる。

 腰の愛刀を引き抜いて……今は手元になかった。

 

 嗚呼、なんということでしょう。

 今のあなたは全ロスあなた。

 装備品はエストから借りた間に合わせばかりだ。

 

 三十六計逃げるに如かず。

 あなたはすたこらと逃げ出そうとして。

 

「待て。俺は超音速機動などできんぞ」

 

 エストの言葉で踏み止まった。

 そうだった。こいつ非戦闘職じゃんね。

 

 彼我の距離はまだ開いている。

 レオナは一歩ずつゆっくりと脚を踏み出す。

 一息に間合いを詰めてこない。否、できない。

 END型ビルドの傾向である鈍い動作。その隙に、

 

「全弾装填」

 

 エストが先手必勝と攻勢に出る。

 背後の虚空から顔を見せる火薬式銃器。アマゾネスに照準を合わせる数は二十、三十を下らない。

 

「一斉掃射ァ!」

 

 銃口が火を吹いた。

 鉛玉はレオナに直撃。硝煙が立ちこめる。

 

 相変わらず品も技巧(スキル)もない攻撃だ。

 

「貴様のようにジョブスキルは乗せていないがな。火薬式銃器は誰が使っても一定の威力を発揮する。そしてこの俺特製カスタムならばこの通り」

 

 エストは改造銃を見せびらかす。

 職人にいくら費用を積んだのだろう。

 オーダーメイド一丁で数千万はするはずだ。

 

「グハハハハ! 俺にとってその程度は端金よ!」

 

 ここで残念なお知らせです。

 エストの豆鉄砲は無駄である。

 

 煙の向こうから現れたレオナは五体満足。

 今にも破けそうなインナーは大事な部分をかろうじて隠す大仕事中だが、本人は肌に傷一つない。

 

「……やはり効かんか」

 

 薄々察していたようでエストは舌打ちする。

 自分で相性が悪いと口にしていた、つまりおおよその能力に検討がついているのだろう。

 

「職の民、貴様はあの女のカラクリを知っていよう」

 

 ジョブから<エンブリオ>まで、あなたはレオナの詳細なビルドを把握している。

 ゆえに後方で腕を組み深々と頷いた。

 

「会話の流れを掴めんのかこの素っ頓狂が! 俺が尋ねているのだ、疾く答えよたわけ!」

 

 戦闘中、しかも対人戦で長々とご高説を垂れるのはたわけを通り越して間抜けじゃんね。

 それに訳知り顔でやいのやいのと口を突っ込む外野は指示厨と呼ばれて嫌われるものだ。

 特に今はMMORPGのイベントであるからして。

 あなたはマナーを守るタイプの遊戯派である。

 

 とはいえ。仮にも雇い主の言葉だ。

 知見を披露するのもやぶさかではない。

 

 彼女の<エンブリオ>は()()()()()()

 

「なんだと?」

 

 エストの顔色が真っ青になる。

 やむなしであろう。頭のおかしい<超級>と同じ銘の<エンブリオ>なのだ。

 あなたはかつて西白塔家に所属していた“万状無敵”とのいざこざを思い出す。自爆上等の隕石流星群とかふざけてんのか。自分は平気だからといって、やっていい事と悪い事がある。

 

「冗談は大概に……嘘は吐いてないな。やつの風貌とモチーフを踏まえるに俺の予想は当たりのようだ」

 

 然り。

 

 レオナの<エンブリオ>、【利器無益 ネメアレオン】の能力特性は『道具不全』。

 

 彼女が触れたアイテムは機能停止する。

 どんな名刀魔剣も切れ味を失った鈍に。

 堅牢を誇る盾はペライチの紙屑同然になる。

 

 具体的には、彼女が触れている限り、装備品に設定された攻撃力や防御力はゼロに、アイテムのスキルは問答無用で使用不可能になる。

 低品質の品だと触れた瞬間に破壊されてしまうことも多々あり。上級レベルでも機能不全になった状態で攻撃されるとすぐにぶっ壊れる。

 

「なんたる冒涜、許されない所業だ……修羅の方がまだ良識を残しているぞ」

 

 つまり、アイテム主体の戦闘スタイルを取るエストとは相性最悪の相手なのである。

 遠距離武器も効果が薄い。銃器や弓などの飛び道具自体はレオナに接触しないが、打ち出した銃弾・矢が命中した時点でBB弾以下の産廃と化すからだ。

 

 ちなみにガス欠は見込めない。

 自他を問わない無制御型であること。

 全ての装備可能枠を潰すこと。

 デメリット二点と引き換えに、MPやSPといったコストを消費しない常時発動型のスキルとなっている。

 

「アイテム無効化の全身鎧を装備しているようなものか。強力なスキルだが、武器やアクセサリーの類も装備できないのだろう? アイテムとて自分で使えまい……であれば如何様にもできる」

 

 エストは即座に指示を出す。

 

「攻撃魔法だ。火は使うな、肌着が燃える」

 

 注文の多い依頼主に従って、あなたは各属性魔法の上級職奥義を並列起動した。

 

「ん……」

 

 彼女は平然と立っている。

 魔法がまるで効いていない。

 

「何ィ?」

 

 手抜きか、というエストの視線が突き刺さる。

 もちろんあなたは本気で攻撃した。

 非難される謂れはまったくない。

 

 無傷の仕組みは超級職と、あるジョブスキルの組み合わせによるものだ。

 

 まずは【裸王】の奥義《裸百貫(アイアン・ボディ)》。

 装備品を身につけていない状態に限り、全ステータスを十倍化して、80%の属性耐性を獲得する。

 

 次に力士系統のパッシブスキル《不動》。

 自身の動きが少ないほどENDと属性耐性を上昇させ、自身の行動以外でのノックバックを軽減する。

 スキルレベル10の発揮値は徒歩の場合でEND100%、属性耐性20%、ノックバック耐性100%となる。

 

 これにより、END十万超えかつ九割以上の属性ダメージを軽減するアマゾネスが爆誕する。

 属性耐性が100%にならないのはデンドロ独自の仕様と思われる。あなたは計算式を導き出せていないが、完全耐性はスキルを積むだけでは到達できないのである。

 

 これこそが全裸ビルド。

 いつ見ても見事なジョブスキルの組み合わせだ。

 興奮したあなたは早口でレオナのシナジーを自画自賛した。

 

「職の民よ。この女のふざけた防御力だが、よもや貴様の入れ知恵ではあるまいな」

 

 仰る通りだが?

 

 あなたはカルディナの犯罪都市で慈善団体の特別顧問を勤めた経験がある。

 基本業務はオーナーの子守だったが、クランメンバーのジョブビルドについても相談を請け負った。

 レオナは相談を受けたメンバーの一人である。教え子の躍進にあなたは鼻高々だ。

 

「貴様が原因ではないかァ!?」

 

 確かにビルドを考えたのはあなただが。

 それをどのように使うかはレオナの自由。

 あなたに責任を追求するのはお門違いである。

 

「そも既知ならば初めに言っておけ」

 

 誠に遺憾である。あなたは指示に従ったまで。

 武器を無力化するトリックを説明して、きちんと魔法で攻撃したというのに。

 無駄な事に時間を使うなぁ、とは思っていたが。

 

「グハハハハ! 死ぬがよい」

 

 虚空から射出された刀剣をあなたはノールックで回避した。昨日の味方は今日の敵。天地の流儀はあなたの脳髄を汚染して離れない。

 

 殺伐としたおふざけは程々に。

 あなたはレオナへの対処を検討する。

 

 会話の最中に襲ってくるほど頭天地ではないが、彼女はわりと脳筋寄りの思考である。

 変態呼ばわりは半分冗談として、イベント参加者である以上は無視してやり過ごすのは不可能。

 

「…………?」

 

 実のところ、状況はかなり悪い。

 

 盗まれたアイテムは特典武具を含む。

 よって現在あなたの戦力は大幅に減じている。

 具体的には武器・防具とほぼ全てのアイテム喪失。

 

 おまけに今日のあなたは万全ではない。

 レイとの戦闘で消費した《スペリオル・インターン》のストックがまだ回復していないのだ。

 つまり飛車角落ちあなたということ。

 

 あなたが頼れるのは【失業王】と、これまで就職してきたジョブのスキルだけ。

 積み重ねた経験は決して自分を裏切らない。

 マーベラス、実にマーベラスだ。

 やはりお仕事というのは最高でござるな。

 

 それはそれとして運営は許さぬ。

 MMORPGでアイテムロストは致命的といえる。

 バランス調整を考えているとは思えない。

 まじで頭おかしいんじゃないのか。

 

「あ、ねこ」

 

 睨み合いを続けていると、レオナは木々の向こうに引っ込んだ。

 

「…………帰ったぞ」

 

 帰ったね。

 

 あまりにもあんまりな結末である。

 長話を待つ間に気が散ったのだろうか。

 野生動物のような奔放さにあなた達は困惑した。

 

「不意打ちなら仕留められるか?」

 

 可能だ、とあなたは返答する。

 レオナの攻略法はワンパターンであるからして。

 

「よし、後を尾ける。また襲われてはかなわん。あの女はここで脱落してもらうぞ」

 

 段取りを確認して、あなたは追跡を開始した。

 

 

 ◇◆

 

 

『ぶにゃあ〜、ぶにゃあ〜』

 

「……にゃあ」

 

『ぶにゃあー』

 

「にゃあ、にゃんにゃん」

 

 さほど離れていない場所にレオナはいた。

 木の洞に潜むミニチェシャをなだめている。

 どうやらポイント獲得を優先したらしい。

 

「気取られてはおらん。やれ職の民」

 

 草陰でエストはカメラを回している。

 何してんだこの男。

 

「珍しい映像ゆえな。録画しておこうかと」

 

 あなたはフレンドの奇行を無視することにした。

 後で【テラーカイブ】が戻ってくれば、この光景を再生することができるのだ。

 

 あなたはレオナに魔法を撃ち込んだ。

 無防備な背中に見事命中。彼女は地面に倒れ伏した。

 はいおしまい。一丁上がりです。

 

「このゲーム、状態異常が幅を利かせ過ぎるな」

 

 これぞあなたが提案したレオナの攻略法。

 状態異常でハメ殺す。以上である。

 

 デンドロにおいて状態異常は非常に重い。

 対策を怠った時が強者の破れる時。

 どれだけステータスが高くとも、強力なスキルを持っていても、肉体が機能不全に陥れば無意味だ。

 

 レオナは高い防御力と属性耐性を持つ。

 あらゆる装備品を無効化できるスキルを持つ。

 しかし状態異常の耐性はカバーできない。

 普通の<マスター>はアクセサリーなどで対策するが、彼女は装備品を使えないという縛りがある。

 

 十全なお仕事は健全な肉体から。

 本領を発揮できない者に勝機は訪れない。

 

 攻撃力ゼロの鈍でEND型の首を刎ねるのは至難を極めるため、あなたは追加の状態異常を重ねがけした。

 

 《デッドマンズ・バインド》、《アビスデリュージョン》、《ポイズン・バレット》、《パラライズ・ショック》、《鬼火》、《草笛》、エトセトラ。

 

「殺さんのか? 即死魔法なりあるだろう」

 

 あなたは良識的な平和主義者である。

 死体蹴りは趣味ではない。

 レオナは野盗でもPKでもないのでな。

 

 数分放置すれば継続ダメージか【死呪宣告】の効果でデスペナルティになるだろう。あるいは他の参加者が相性のいいスキルを持っているかもしれない。

 いずれにせよ脱落は確実だ。悪く思うな。

 

 ……念のためもう一発入れとくか。

 あなたは土魔法でレオナを埋葬。内側に大量の水を流し込んだ。これで窒息判定が出るはずだ。

 

 これだけやれば死ぬだろう。

 まさかここから這い出てくるなんてそんな。

 ないない、あり得ない。勝ったなガハハ。

 

「貴様は鬼か?」

 

 エストはあなたにドン引きした。

 誠に遺憾である。後顧の憂いを断つためには致し方のない処置であるからして。

 あなたはミニチェシャを回収。エストに抗弁しながら、その場を後にしたのだった。




・主人公
首を斬れないなら埋めたらいいじゃない。
それはもう盛大にフラグを立てた。

・エスト
【裸王】のインナーを回収した。
窃盗は無職に頼んだ。後日、口を滑らせて無職が大変な事になる。

・《文明は廃れり(ネメアレオン)
【利器無益 ネメアレオン】の必殺スキル。常時発動型。進化で下位スキルが置き換わったタイプ。
アイテム限定の《奥偽殺し》。あるいは幻想◯し。効果は接触中のみ。少しでも離れるとアイテムは元通りの機能を取り戻す。
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