無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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おもしれー女

 □■イベントエリア南部

 

 【舞剣姫】妙蓮寺(みょうれんじ)黒星(こくせい)は陰キャである。

 

(失敗した失敗した失敗した……!)

 

 ()()()()()()バーベナが襲われるピンチに、思わず飛び出したまではいい。

 問題は妙に気取った言い回しで名乗りを上げた点。

 バーベナとゴッツの訝しげな視線が突き刺さり、黒星は今すぐ消え去りたいという感情に支配される。

 

(こ、こんなはずじゃなかったのに……ちゃんとご挨拶も考えてたのに、全部頭から飛んだ……そうだよね「お前誰?」ってなるよね……)

 

 それもこれも天地の修羅のせい。

 事あるごとに「義助(義によって助太刀いたすの意)」をする頭のおかしい連中のせいで、フレーズが頭に染み付いてしまっていた。

 たしかに少しカッコいいなとは思ったが? 自分専用の口上を書き留めたりもしたが? それとこれとは話が違うんだよね。黒星は香ばしいティーンズであった。

 

 さて、脳内反省会中の彼女、妙蓮寺黒星は二つの目的をイベントのモチベーションとしている。

 

 そのうちのひとつは……友達がほしい。

 同年代で、可愛い女の子で、ふわふわキラキラしてて、隠キャに優しいとなおよし。黒星の理想は高い。

 和風の雰囲気に惹かれ、初期所属国家に天地を選んだ愚か者は、デンドロ開始からこれまで条件に見合う友人を募集し続けている。野郎か修羅しかいねーんだもんな。

 

 だが、条件に当てはまる者がいた。

 イベント開始直後のミニゲームにて。

 岩場ビーチバレーという頭おかしい運営のトンチキに巻き込まれた参加者の一人は、黒星に優しく微笑んで挨拶までしてくれたのである。

 

 なおバーベナは男である。

 そして打算100%で媚びただけ。

 

 黒星の理想とはかけ離れているが、本人はまるで気づいていない。知らぬが仏と誰かは言った。

 

(パーティを組むチャンスはあったのに……でも南朱門家こわい……敵はいやだけど味方はもっといやだ……ふふ、おわった……感じ悪かったかな、悪かったよね……もうお近づきになれないんだあ……)

 

 岩場ビーチバレーでは邪魔が多かった。

 天地が誇るジェネリック島津家の気風についていける、悪名高い花火女とのお付き合いはごめんである。

 ゆえに黒星は泣く泣く逃走を選択した。慌てながらもバーベナへの忠告は忘れなかったが、言葉の選び方を間違えて刺々しい口調になったかもしれない。

 

 再び遭遇しても話しかける勇気が出ず。

 物陰から密かに観察するばかり。参加者を集めて協力する光景に眩しいものを感じていた。

 それが無策で飛び出してこの無様だ。

 何を話したものか、何をしていいのか分からず、黒星は横目でバーベナの様子を伺う。

 

 バーベナは目を逸らした。

 

 鋭い眼光に怯え半分、忘れていた気まずさ半分。

 この人めっちゃ睨んでくるじゃんね。殺される?

 そんなバーベナの内心は露知らず。

 

(最悪だ……どうして私はいつもこうなんだ…… へへ、もうむり死のう)

 

 諦観混じりの乾いた笑いが溢れた。

 同時に、黒星は両手の刀を振るう。交差する軌道を描いた刃は地面に吸い寄せられる。

 地中から迫り上がった石柱を受け止める形で。

 

「いきなり何」

 

「割り込んだのジブンやん。赤信号渡る歩行者に気遣う道理はあらへんで」

 

「轢いてOKとはならなくない?」

 

 軽口を応酬する合間に両者は動き出している。

 

 ゴッツは指で挟んだ銀貨を宙に弾いて。

 腰の勾玉に触れたその手を大地に打ち下ろした。

 回転する銀貨は光の塵になって虚空に溶け去る。

 それに呼応して大地が揺れ、新たな石柱が生えた。

 

 数は十。バーベナの拠点を襲う“腕”よりも二回り以上は小さな、単独で成人男性サイズの無機物。

 意思なき脅威が地面を揺らしてただただ殺到する。

 

「《剣舞劇・火の型》」

 

 質量を伴う攻撃に対抗するため、黒星は舞剣士系統のジョブスキルでSTRに補正をかける。

 《剣舞劇》は剣を用いた戦闘時間に比例して、特定のステータスが上昇する持続型のバフ。

 型ごとに要求される姿勢を逐一挟んでスキル効果を引き上げつつ、黒星は両手両足の四刀を手繰る。

 

 左右は両手の得物で押し返し、降り注ぐ打突の雨を踊るように舞うように、滑走してすり抜けた。

 すれ違いざまに片足を上げた黒星は石柱の一本を斬り落とす。靴のブレードに速度と回転を乗せた一刀だ。

 

「お、スケート経験者?」

 

「連想しないでほしい……リアルでこんな危ない事したら怒られる……」

 

 黒星は素でぼやきを溢した。

 

 互いに攻勢は緩めず、彼我の距離が詰まる。

 ゴッツを守るように残りの石柱が密集する。

 間合いに入った黒星は四刀に火炎を纏わせ、防御を突破すべく多方向からの同時攻撃を仕掛けた。

 

「《エレメンタルブレード》」

 

 焔を帯びる斬撃は【舞剣聖】の奥義だ。

 使用中の《剣舞劇》の型に応じて、異なる属性の斬撃を放つというもの。《火の型》であれば火属性。バフと合わせて高いダメージを期待できる。

 

 障害を切り開いた黒星の前には……土壁。

 

「!?」

 

「こっちやこっち」

 

 黒星の頭上から声がした。

 反射的に掲げた刀に衝撃と重みが加わる。

 上段から振り下ろされたゴッツの大太刀だ。

 

 足元の地面を隆起させたのだ、と黒星は気づく。

 石柱の陰で足場を上昇させると、防御を突破した黒星は行き止まりが現れたと錯覚する。

 同時に自分の姿を見失わせ、高所の利を得た。

 重力加速度を加味した落下攻撃はSTRバフ込みの黒星と鍔迫り合いを可能としている。

 

「お腹ガラ空きやで」

 

 宙に舞う銀貨。ゴッツは大太刀を握っていない方の手でリルをばら撒き、指で印を結ぶ。

 土壁の側面から迫り出した小さな石柱が黒星の脇腹を殴打した。僅かにHPが削れ、体勢を崩したところに石柱の追い打ち。

 

「ッ……《ダブルアクセル》」

 

 加速の勢いで右脚のブレードを突き出し、迎撃。

 黒星は二手二足の四刀流。上半身が崩れていても、軸足さえ残せば、残る四肢は自由自在だ。

 

 追撃を凌いで距離を離す、ここまでが一合。

 お互いに見せ札を確認した攻防である。

 

(ひい……この人強い……)

 

 黒星は相手との力量差を感じ取っていた。

 攻撃と回避に主だったスキルを連発した彼女に対して、ゴッツが使ったのは推定単一のスキル。あとはスキルに頼らない戦闘技術のみ。

 様子見の時点で既にやや劣勢といえる。

 

(地面……周りの地形を操作するスキル? 地属性魔法に似てる。【傭兵王】はたぶん前衛だから……魔法じゃないなら<エンブリオ>……かな?)

 

 黒星はおおよその能力にあたりをつける。

 修羅の国で磨かれた必須技能であった。

 当然ながら生粋の修羅もまた、同じ芸当をこなす。

 

「んーなるほど。耐久型の積み剣士か」

 

 ゴッツは黒星のビルドを端的に評した。

 

「自分に強化かけて殴るタイプやな。四刀流は攻撃特化と見せて、実際は攻撃から身を守るためのもんや。最後の一発なんか絶対間に合わへんタイミングやったけど、違和感ちゅうか()()()()()()感覚あったし……【舞剣姫】の奥義とみたで。どうや?」

 

「……さあね」

 

 ゴッツの推測は当たっている。

 【舞剣姫】の奥義《アイアンクラッド・パリング》は、相手の攻撃を剣に吸い寄せるというもの。

 本来は剣舞において相手との打ち合いを中断させない、剣戟を成功させるためのスキルだが、武器防御や受け流しなど、戦闘に転用することも可能だ。

 

「<エンブリオ>かもよ」

 

「ちゃうやろ。ジブンの<エンブリオ>はそのごっつイカついスケート靴やん。さっきの《ダブルアクセル》ゆう加速スキルの方がそうやんな?」

 

(わ、わァ……)

 

 手の内が全部バレている。修羅こわい。

 黒星の心は折れかけた。及び腰で後ずさりするも、

 

「逃がさへんで」

 

 周囲の景色が造り変わる。

 崩れた遺跡の配置は無造作に並び替わり。

 積木の如く倒壊しては重なる建造物。

 ゴッツが空中を指でなぞると、連動して大地は隆起し、遺跡が独りでに輪郭を変えていく。

 

 さながらそれは――石の社。

 

 鈴鳴りに似た響きと共に退路が封鎖される。

 

「そっちの嬢ちゃんもな」

 

「げぇ」

 

 バーベナ目掛けて、天から鳥居が降り注ぐ!

 

 黒星を囮に捧げて、こっそりと逃走を試みたバーベナの魂胆は見透かされていたのだ。

 

 行手は鳥居が幾重に連なり身を捩る隙間もない。

 もちろん命中したらバーベナは死ぬ。

 単純な質量は殺意たっぷり。

 おまけに鳥居の柱と柱の間は力場が生じており、肉体を捻じ切るギロチンのように扱えるからだ。

 それはもう鳥居じゃねえな。遺跡の防衛機構のひとつであるバリアを改造した代物であった。

 

「巫女が神社で遊ぶなよ!」

 

「ええやん別にこのくらい。よくあるこっちゃ」

 

「賽銭箱がビーム撃つのってよくある事かぁ!?」

 

「あるある、うちの宗派はそういうの専門やし」

 

「適当抜かすな……うひぃぃぃぃ!?」

 

 バーベナは加速して回避に徹する。

 

 唸れ! 石灯籠セントリーガン!

 貫け! 本坪鈴フォトンレーザー!

 周囲一帯の遺跡は全てゴッツの素材だ。

 構築物を適時配置する彼女に弾切れはなく、一層激しい攻勢で二人を追い詰める。

 

(助けなきゃ。でも)

 

 黒星は自分の身を守る事で手一杯だ。

 バーベナのカバーに入れない。

 

(ここで脱落……デスペナしたらあの子(バーベナ)と次会えるのはいつかな……もうないかも……また修羅ばっかりの日常に逆戻り……いやだなあ……)

 

 イベント参加者の所属国家は様々だ。

 黒星が天地、バーベナが王国を拠点とするように。

 今日のように、大陸の東西を問わず集まる機会は非常に稀なことであり、次があるとは限らない。

 むしろ二度とない可能性の方が高いだろう。

 

(せめてフレンドに……そうだ。まだ、やる事がある……ここを乗り切ってフレンド申請していいか聞くんだ!)

 

 友達になる、ではなくフレンド申請のお伺い止まりの時点で黒星は陰キャが抜けきらなかった。

 いきなり申請したら迷惑かもしれないし。

 断られる可能性は十分あるし。フレンド枠が一杯かも。別に嫌われてるとか関係ないし……ないよね?

 予防線を設けて黒星は心の安静を保つ。印象アップのためにも、目の前の敵を撃退せねばならない。

 

 なお、彼女は気づいていない。

 バーベナが自分を見捨てて逃げようとしたことに。

 黒星は育ちの良い純粋無垢な陰キャであった。

 

(攻略の糸口を探すんだ。弱点……なさそう……範囲攻撃すごい……ゴッツ本人も強い……あれ、でも派手な攻撃を連発してるのにMPSP切れの様子がないのは)

 

 黒星は離れた地点に意識を向ける。

 バーベナ陣営の簡易拠点は、今も巨大な“腕”に襲われている最中だ。地鳴りと怒号が絶えず止まない。

 つまりゴッツは身の丈を超える質量の“腕”を複数操り、なおかつ、黒星とバーベナを翻弄する手数の攻撃を繰り出しているということ。

 

 スキルによる大規模な地形操作。

 魔法で再現するなら、【地神】ほどでないにしろ、魔法系超級職に匹敵するMPが要求される。

 だが、視たところゴッツに消耗する様子はない。

 石柱や鳥居を用いた攻撃も同様に。既にある地形を元にしているからノーコストなのか、あるいは。

 

(別のコストを支払っている?)

 

 回数制? 否、攻撃を連発している。

 残弾を気にする様子は見受けられない。

 

 事前に蓄積したストック?

 可能性あり。ただし対処のしようがない。

 明確な形でストックがあれば破壊できようが、現時点でゴッツはそれらしい所持品を身につけていない。

 

(アイテムボックスの中か……装備品……私、《鑑定眼》もってないや。ままならない……あ、宝石きれい)

 

 ゴッツの腰を飾る勾玉。内部に淡い光を蓄えた貴石は、黒星の趣味に沿う装身具だった。

 不定期に光の濃度が増減する事といい、時折りひときわ強く明滅する事といい、実に洒落ている。

 

 ゴッツが触れる度に勾玉は光を放ち。

 大規模な攻撃の後は僅かに輝きが曇る。

 

(……当たり(<エンブリオ>)では?)

 

 宙に舞った銀貨は光の塵に。

 ゴッツの手遊びで、勾玉は光を蓄える。

 

(……お金(コスト)では?)

 

 なんとはなしにタネは割れる。

 ゴッツの攻撃は、金銭をコストに地形を操作する<エンブリオ>によるもの。

 仕組みを理解した黒星が取る対抗策はひとつ。

 

(アイテムボックスを壊す……!)

 

 黒星は《ダブルアクセル》でAGIを二倍に。

 無数に生えた石柱の側面を滑走して、三次元的機動でゴッツの懐に飛び込む――!

 

「なっ、なんやてぇぇぇぇぇぇ!? まさかジブン、地面やのうて壁を走る……いや、滑れるんかッ!」

 

「隙あり」

 

 交差する二閃。火炎を纏う二刀が隠されたアイテムボックスを破壊し、金貨銀貨が溢れ出る。

 すかさず黒星は貨幣の山を蹴飛ばして、大半を燃え盛る火の中に放り込んだ。

 

「し、しもたァァ!? うちの財布がッ! 見切り品の雑巾みたくなってもうたやないかァーーーー!」

 

「これで終わり。覚悟して」

 

「――なーんてな」

 

 片脚のブレードを振り上げて勝利宣言をした黒星は……不敵に笑うゴッツの九十度傾いた顔を眺める。

 否、横転したのは黒星の方。軸足を払われ、直後に乱立する石柱が無防備な彼女を打ち据える。

 

「そらそらそらそらそらァ!」

 

 ゴッツの拳を交えた連打、連打、連打。

 途中から立て直した黒星は剣で受けるが、混乱で動きに精細を欠いており、半分以上が直撃した。

 

(なんで……? お金はもう……)

 

 ゴッツはスキル発動のコストを失った。

 もはや地形操作は不可能。そのはずである。

 しかし、先程までと変わらず石柱は乱立する。

 遠く、簡易拠点の破壊も止まらない。一定間隔で大地を穿つ巨大な“腕”は健在であった。

 

「あかんで。相手の手札はよう見極めんと」

 

 巫女は大太刀を振りかぶる。

 

()()()や。ほなおおきに」

 

 

 ◇◆

 

 

 とどめの一太刀は空を斬った。

 

「…………あ?」

 

 大太刀は黒星に届いていない。

 もはや大太刀と呼ぶのは不適切だ。なにせ刃は半ばでへし折れて、残った刀身は刃こぼれしている。

 目算が狂い、ゴッツはとどめを刺し損ねた。

 

「いや、それはええねん。あかんけど。問題は誰がやったかや。ジブン裏技つこうた?」

 

「怖……なにそれ知らない……私の必殺スキル、陸上(ここ)じゃ使えないし……」

 

「せやろなあ」

 

 ゴッツは深々と頷いて、

 

「……洒落臭いわド阿呆!」

 

 直感に従い、頭部を守るように左腕を掲げる。遺跡の外壁を用いた装甲を盾代わりに構えた。

 バターのように容易く切り裂かれる光景を目の当たりにして、即座に盾は放棄したが。

 

 新手の攻撃にゴッツは冷や汗をかく。

 なぜなら新手の攻撃を受けるまで、《殺気感知》を含むスキルが一切反応しなかったから。

 実戦経験の豊富なゴッツでなければ、予兆を掴めず、今頃は首を落とされていただろう。

 

 当然だが黒星は状況を理解できていない。

 両断された盾を二度見して目を回している。

 彼女は無関係、とゴッツは判断を下した。

 

「今のところ消去法で一人しかおらんけど。どこにおるかわからんわ。顔出しNGの方ー?」

 

 返事はない。当然である。

 ゴッツが相手でも同じ行動を取る。姿形・居場所不明という利点を自ら放棄するのは愚か者だけだ。

 

(あかん。もう奥義が途切れてまう。……仕掛けてきいひんのなら、あっちの何人か殺して維持しとこか)

 

 ゴッツは簡易拠点と“腕”に意識を向けた。

 

 ――その一瞬で、閃光が疾る。

 

 警戒は絶やしていない。当然、隙を見せたら襲ってくるとゴッツは理解していた。ゆえに地形操作で防ぐ。

 見えずとも実体はある。なら触れる。

 あからさまな誘いに釣られた相手を石柱で囲い込み、ゴッツは敵の輪郭を把握した。

 

「嬢ちゃん、やんな?」

 

 石柱と衝突した事で一部剥がれた偽装。

 風景と同化した迷彩の下から燐光が漏れる。

 流線のシルエットに、鮫を象った頭部の意匠――背鰭を思わせる一角と裂けた口を模したバイザー。

 前腕部に拵えた鰭を鎌のように掲げて。

 

「《イエロー・ボルテックス》」

 

 粒子操作に長ける【黄砂術師】の奥義を唱えた。

 

 砂嵐の中心に置かれたゴッツは視界を遮られる。

 加えて、砂塵はゴッツの装備と肌を削り取っていく。

 無策で突撃しては擦りおろされるだけ。

 得意の地形操作も石柱は瞬く間に風化してしまう。

 

 身を守るため、ゴッツはシェルターを建てた。

 即席ながら二重三重で砂嵐に耐える設計だ。

 

(仕留め損ねてもうた。しゃーないな)

 

 遠ざかる黒星の気配を見送る。

 追えない事はない。ただ無傷では難しい。

 今後の展開を考えて、ゴッツは追跡を諦めた。

 

(厄介なやっちゃ。殺るなら不意打ちか。……暇なやつが片しといてくれんかな。無理やろなあ)

 

 彼女は砂嵐が止むのを待つ。

 舞い散る砂を纏って迷彩をかけ直したであろう、もう一人の対策に頭を働かせながら。

 

「フッ、おもろい嬢ちゃんやで」

 

 

 ◇◆

 

 

「おぇ……気持ち悪……」

 

 速度酔いしたバーベナは胃の中身をぶちまけた。

 ほやほやの吐瀉物まで描写を追求するリアリティ。

 デンドロは今世紀最大の神ゲーである。

 

「とりあえず逃げ切ったかな……うぷ」

 

 バーベナは特典武具を脱いでorzする。

 繊細な三半規管が悲鳴を上げているのだ。

 

「あの」

 

「ぴぃっ!? 起きてる、起きてるよぅ!」

 

 何者かに声をかけられ、飛び起きるバーベナ。

 修羅を想定した特訓が体に染み渡っている。

 親切丁寧に手ほどきした無職の教えの賜物だ。

 

 すわ縄で()()()()()のか、首を切られるか。

 警戒するバーベナの前には一人の少女。

 険しい顔の黒星が立っている。無職じゃないね。

 

 バーベナは安堵して、しかし思い直す。

 この子めっちゃ睨んでなかった?

 

(もしかして俺を殺す気で? 勘弁してよねぇ!?)

 

「な、なんだやんのかコラ!? すっぞオラぁ!」

 

 バベちん、ヤクザモード。

 慣れない威嚇はてんで迫力がない。手刀で切れるのは揚げたてメンチカツ程度のものだ。

 

「……」

 

 対する黒星の形相は鬼神の如し。

 SNSで映える極厚トンカツ丼とて両断できよう。

 

(君なんで黙ってるのぉ……? くそ、ポーカーフェイスで何を考えてるか分かりづらい……!)

 

 バーベナの媚びは一種の技術である。

 相手の顔色や態度で何を考えているか推測する。

 思考を詳らかにしてしまえば、後は応えるだけ。

 無論バーベナは己の容姿が他者に与える影響を熟知しており、愚かな民衆の思考に指向性を加えているからこそ、彼の技巧が及ぶ範囲で心理分析を可能としている。

 

 要するに努力の無駄遣いであった。

 

 が、しかし。ここでバーベナは閃いた。

 

(もしかして敵じゃない? 襲ってこないし、気のせいでなければさっき助けてくれたような)

 

 どこぞの無職に見習わせたい洞察力だ。

 そうと分かれば話は早い。バーベナ、動きます。

 既に黒星が超級職であることは判明している。

 ゴッツ相手に一歩も引かない(バーベナ視点)戦闘力に、膝から下が刃と化した威圧感のある靴。

 イベント中の用心棒として差し支えない。

 

 バベちんモード発動。くらえ、俺の媚び!

 気迫だけは一丁前である。

 

「さっきはありがとねぇ。岩場でも一緒になった人でしょ? バベちん助かっちゃった」

 

 お前誰だ、と叫んだ事は棚上げする。

 バーベナは間違いを振り返らない男なのだ。

 ゆえに同じ事で何度も無職にぶっ飛ばされている。

 

「同い年くらい? デンドロだと珍しいよねぇ。仲良くしてくれると嬉しいなぁ」

 

「……! 是非、こちらこそ」

 

 パーフェクトコミュニケーション。

 意図せず会心の一撃を叩き出した男バーベナ。

 どこぞの無職とは年季が違うのである。

 

「よければ、お、おちょもだちェっ」

 

「?(やべ、よく聞こえなかった)」

 

「ふ、フリェンッッッ……ッ……〜!」

 

「ちょ、舌噛んだ!? 大丈夫?」

 

 うずくまる黒星に、バーベナは薬を渡す。

 寄生プレイにサポートアイテムは必須である。

 とりあえず支援してる感を出せるからだ。

 同じ理由で、バーベナは回復職である【司祭】を未だサブジョブに残している。

 

「傷だらけじゃん。いたそー。これで治るといいけど」

 

「治った」

 

そんなすぐ効くわけないが(アホなんか)?」

 

「大丈夫。次にあの巫女を見たら差し違える覚悟」

 

(安心して、みたいな顔で言われても)

 

 物騒にも程がある。とはいえだ。自分から進んで矢面に立ってくれる取り巻きは大変優秀な部類に入る。

 バーベナは彼女のやる気を損なわず、適当に耳障りのよい言葉で満足してもらう事にした。

 

「バベちん、できたらお友達と一緒にイベント攻略したいんだぁ。だから差し違えるとかしないでね?(勝手に死なれたらいざって時に盾にできないじゃんか)」

 

「……とも、だち?」

 

「そうそう! とりあえずフレンド申請送っとくねぇ。あ、黒星ちゃんって呼んでいい?」

 

「…………」

 

「? おーい、どうしたのさ」

 

 不自然に固まった黒星。

 バーベナは何度か肩を揺するが反応がない。

 眼球が裏返り、手首の脈は止まったまま。

 

「し、死んでる……」

 

 我が人生に一片の悔いなし。

 言葉にするとそんな感じである。

 

「いやいや待て待て! こんなあっさりと死ぬなよ!? 俺が困るんですけど!」

 

 バーベナは思いつく限りの蘇生法で、黒星を元通りに叩き直したのだった。




・妙蓮寺黒星
天地の遊戯派。気絶しただけ。
外面はきつめ。緊張で上手く話せないから。
ジュリエットと気が合うタイプ。

・ゴッツ
天地の修羅。エセ関西弁使い。
死なんやろうし、殺すしかないわな。

・バーベナ
カスの嘘。装備の外見イメージは初号機。
(まだ)死亡しない。ネタバレですよ。

・《エレメンタルブレード》
【舞剣聖】の奥義。火・風・水・土の四属性を選んで攻撃できる。
【魔剣聖】の《リーダーブレード》と同一条件で比較すると、超級職到達後のレベルEXで同じ威力になる。

【舞剣王】《エレメンタルブレード》
【魔剣聖】+特化上級職《リーダーブレード》
【剣聖】150%《レーザーブレード》

上記が横並び。前提スキル《剣舞劇》でバフを積めるので単体の性能は控えめ。
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