無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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巨人の星

 □■イベントエリア南部

 

 あなたは公私を区別できる<マスター>だ。

 

 運営主催イベントに参加するのはプライベート。

 エストの護衛はお仕事である。

 

 お仕事は責任感を持って全力で遂行し、遊び心を持つ場面では思い切りはっちゃける。これぞできるあなたの生存戦略。こと細やかに書き連ねれば一冊のビジネス書をしたためることができるに違いない。

 

 遭遇した他の参加者を丁寧に首チョンパして、あなたは戦利品漁りのフェーズに移行する。

 お仕事中の臨時収入は十割あなたの懐行きだ。言わずもがなプライベートでの収穫は100%あなたのもの。しめてにひゃくぱーせんと*1の儲けを叩き出す。

 

 ドロップアイテムを物色してため息。

 期待はずれであった。妖刀や魔剣とまではいかずとも、せめてまともな武器はないのだろうか。

 

「いったい何を探して……ああ、所持品を盗られたと言っていたな。だがいくらかは回収したのだろう?」

 

 入手アイテムの所有権をめぐる一悶着の後*2、エストは地べたを這いずるあなたに憐憫の視線を向ける。

 

 悲しいかな。現在の回収率は30%に満たない。

 愛刀毛フェチをはじめとする主武装は全て。

 その他アイテムは大半が、今もイベントエリアの何処かでひっそりと眠っているのだろう。

 特典武具はイベント終了後に戻ってくると明言されていることが唯一の救いである。

 

 あなたは隙を見て影分身を探索に放っているが成果は芳しくない。各地に戦闘跡こそあれど、ドロップアイテムは軒並み『()()()』に回収されている。

 ゴミ屑ひとつに至るまで一切の取りこぼしがない点から人為的かつ下手人の執念深さをあなたは感じ取る。

 まるで腐肉を狙うハイエナのような……あらゆる手段でアイテムを集める蒐集家のような……あなたはフレンドにして同行者であるエストを連想した。彼の同類がイベント参加者に紛れ込んでいるのかもしれぬ。

 

「……」

 

 あなたは天地の野盗を思い出して殺意が漲った。

 人のものを盗ったら泥棒。常識である。

 

 死体漁りで奪い取った刀剣を我が物顔で掲げてあなたは世の無常を憂う。本日も快晴でござるな。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」

 

 仰いだ頭上。澄み渡った青空に舞う人影。

 その様はまさに弾道ミサイルだ。

 人間は空を飛ばない。よって気のせいであろう。

 

 ドップラー効果をたなびかせるバーベナはイベントエリア中央目掛けて翔んでいった。

 

 そして、

 

 ――()()()()()()()

 

 片や大地を割る威容。

 鳴動と共に地の底から這い出した――“石の巨人”。

 廃墟と遺跡群を素材とした巫女の最終兵器。

 奈落(地割れ)から覗く身の丈は優に十一間(20メートル)を超えていた。

 

 片や虚空に走る亀裂。

 飛び込んだ鉄砲玉(バーベナ)は偽りの空を突き破る。

 幻想の天穹(テクスチャ)が剥離した奥、密かに聳える――“要塞”。

 巨人と比肩しうる堅牢な大城塞が全容を現す。

 

 巨人は要塞を見咎め、進撃を開始する。

 要塞は迫る外敵に砲火の雨を降らせる。

 

 まさに世紀の怪獣大決戦。

 あなたはポカンと口を開けた。

 

「……なんという」

 

 隣のエストも同様に呆然としている。

 どうやら感じるところは同じらしい。

 長い付き合いゆえに以心伝心したあなた達二人は顔を見合わせて……大興奮で目を輝かせた。

 

 おいおい、巨大ゴーレム超かっけえな。

 内心を言語化するとそんな感じである。

 

「グハハハハ! こうしてはおれんな。()()()()()()()()()()()()!」

 

 あなたは今にも突撃せんとするエストの襟を掴む。

 ステイステイ、おすわり。

 

 童心をくすぐられる気持ちは痛いほど理解できる。

 しかし無策で突撃しては即ミンチだ。

 あなたはともかくエストは貧弱であるからして。

 冷静沈着にして慎重な護衛あなたは、依頼主をむざむざ見殺すわけにはいかないのだ。

 

 クレバーあなたは《遠視》に《看破》《鑑定眼》を併用して敵戦力を分析する。

 要塞はもちろん、意外なことに巨人ゴーレムも、システム上の分類はオブジェクト。人間範疇生物・モンスターの枠組みから外れているようだ。

 

 あなたは過去に類似例と遭遇したことがある。

 カルディナ砂漠を蹂躙する《山岳人形》、誰ぞ頭のおかしい<超級>が地属性魔法のゴリ押しの極致で創り出した環境破壊兵器とよく似ている。

 

 違いは含有魔力量の多寡。そして全体の造形美。

 前者は【地神】産、後者はこちらに軍配が上がる。

 東洋の神秘を想起させる意匠、かつて遭遇した【傭兵王】の仕業であろうかとあなたは推測する。

 

 ともあれ。ゆえにあなたは<超級>の恐怖に怯えることなく、ノリノリでスタンディングオベーション。

 

 いずれも製作者は推定超級職。

 凖<超級>クラス以上の戦闘と見た。

 あなたは作戦立案すべく灰色の頭脳を働かせる。

 

「む……まさか」

 

 絶え間ない砲撃に怯まず、巨人は接敵。

 城壁に組み付いて拳を振り翳す。

 大質量に重力を乗せた剛腕鉄槌。ただ巨大である、それだけで担保された破壊力と攻撃範囲。

 不動の要塞は間合いから逃れること能わず。

 

 ただ……《石腕》を()()()()()

 

 巨人の腕を掴む五指。

 浮き上がる左右の尖塔。迫り出す掌。

 櫓は大袖、城壁は籠手。さながら鎧を纏うが如く。

 城塞は半身の守護者へと変貌を遂げる。

 

 へ、

 

「へ……」

 

 変形したぁ〜!?!!

 

「ほう、【機動砲台 デックバスター】……特典武具か。構わん! ついでに城も陥落(おと)すぞ、中からレアアイテムの気配が漂っておるわ。俺に続け職の民ぃ!」

 

 あなたは興奮冷めやらぬ勢いで頷いた。

 ことお宝に限ってエストの直感は信頼できる。

 あなたの所持品も要塞の中かもしれない。

 

 これはゲームであって遊びではない。

 奪われたものを取り戻すための戦いである。

 

 よしきた、久しぶりの城攻めじゃんね。

 ヒャッハー! かちこめー!

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■イベントエリア中央部

 

 特筆するランドマークのない平地。

 中央エリアに対する、参加者の共通認識だった。

 遮蔽物がなく見晴らしがよいこと。

 奇襲を受ける心配はないが、四方に守りを割かれるため陣取りに適さない立地であること。

 イベントポイントの初期配置が少ないこと。

 これらを踏まえて、戦慣れした猛者は東西南北を主戦場と定めた。中央に寄り付かなかった。

 

 ある種の空白地帯。

 そこを突いた一人の男がいた。

 

 他の参加者と異なり、彼は一貫して不動。

 なぜなら移動するメリットがないからだ。

 

 空間から染み出すように現れた城塞。

 光学迷彩が剥がれた事で耳目を集める建造物はイベント開始直後から今の今までずっと変わらぬ位置に有り、ひたすらに増改築と資源回収に励んでいた。

 

 彼の名はグラウンド・ウォーカー。

 巨人と格闘戦を繰り広げる城の主である。

 

「おいおいマジかよ。俺いい的だわ」

 

 彼は要塞中枢の統制室で戦況を観察していた。

 

『警告:左腕耐久値減少。あと十秒で破損します』

 

「早くない?」

 

『催促:いいからさっさと対処しろグラン』

 

「ほんで雑じゃない? お前本当に特典武具か?」

 

 やけに人間染みた機械音声。軋みをあげる半身城塞兵器のプロパティを一瞥したグランは現状ふざけていられないとメニューウィンドウを操作する。

 

「ストックは十分。なら……《開放(ゲート・オープン)》」

 

 グランは己の<エンブリオ>【世界見聞録 ニュー・ワールド】のスキルを発動。

 新たな城壁を放出して要塞と巨人の間に設置。振り下ろされた拳の間隙に盾代わりとして差し込んだ。

 城に相応の防壁。しかし所詮は壁一枚。容易く粉砕してみせると巨人はせせら嗤い一撃を見舞う。

 

 だが、砕けず。

 城壁は進撃を堰き止めるばかりか、八重九重にと重ねて巨人にたたらを踏ませた。

 質量には質量。乱立した積層は要塞の周囲一帯に陣を張り巡らせることで不可触の防御を構築する。

 

 耐久特化型“異界領域(プリセット)”――<万古不易の長城戦線(イモータル・オブ・バトルライン)>。

 

 建築に特化した<エンブリオ>で製造する無数のオブジェクト。それらを用途とコンセプトごとに登録・予め作製したストック一式を<エンブリオ>内部に保管した組み合わせのひとつ。

 

 ただ只管に硬度と耐久性を重視した堅牢。

 城壁の耐久値はHP換算で七桁を超える。

 石の巨人が矮小を轢き潰す【傭兵王】ゴッツの置き土産なら、グランの城は難攻不落の安全地帯。

 

 真に恐るべきは巨人を掴む【機動砲台 デックバスター】の損傷が修復されていることだろう。

 亀裂は城壁の一部に移転しており、広大な城壁からして一片の瑕疵など逆剥けに至らぬ軽微な損耗だ。

 

 グランのメインジョブは【要塞王(キング・オブ・フォートレス)】。

 その奥義《無血籠城》は建造物の性能向上およびそれら全てと【要塞王】本人の耐久値(HP)共有する。

 建造物の硬度と耐久値を最大で二倍化する《城塞強化》レベルEXと重ねた今、グランは膨大な外付けHPと攻撃を防ぐ鎧を纏っているに等しい。

 

「舐めんなよ。こちとら天下のT大生*3じゃ」

 

 優勢を確信してグランは不敵に笑う。

 

 現状、彼が展開している“異界領域”は<万古不易の長城戦線>を除いて三つ……否、二つ。

 

 闘技場型の<スピード・スター・コロシアム>。

 クールタイムを軽減する代わりに、発動可能状態にあるスキルの使用を強制する支援型“異界領域”。

 

 坑道型の<怪物蟻の地下迷宮(アントヒル・イン・ジ・アース)>。

 各地に繋がる巨大な地下鉄道。中央から動かず、イベントポイントやアイテムを回収するための“異界領域”。

 

 城塞を覆い隠していた幻影<秘匿された聖域>はバーベナの衝突により破損している。

 強力な認識阻害と光学迷彩を施す代償に、触れるだけで機能停止する脆弱な極光。ゆえに核を上空に配置していたグランの戦略が仇となった形だ*4

 

「再展開はできるが……居場所が割れたら無駄だな」

 

 “異界領域”は<エンブリオ>で生産した建造物だがあくまで量産品。必要なコストを支払えば再作製ができるし、事前にストックしておけば《開放》のクールタイムごとに展開できる。

 

 だが居所が露見した以上どの道穴熊を決め込むばかりでは戦闘は避けられない。

 拠点を放棄して逃走するという選択肢が取りにくい【要塞王】の取り回しの悪さが足を引っ張る。

 

 つまり選択肢はひとつだ。

 

「徹底抗戦だ。かませ、デックバスター」

 

『了承:スキル《CGC》起動』

 

 要塞は巨人を押し返して城壁を掴む。

 己を守る盾にして陣地を根本から引き抜き、握り潰したそれごと諸手を前方に突き出す構え。

 連結した前腕は砲身。装填した城壁は弾頭。

 

 ――《キャッスルゴーレムカノン》。

 粉砕したオブジェクトのリソースを攻撃力に変換して撃ち出す【機動砲台 デックバスター】の主砲である。

 

 城壁の一部分のみとはいえど、十万は下らない耐久値がそのまま超級職奥義に匹敵する威力へ。

 砲撃は巨人を消し飛ばさんと唸り――

 

 

 ◇◆

 

 

 戦況は大きく動き出す。

 

 ひとつ、ゴッツのデスペナルティ。

 ついに【死兵】の恩恵が途切れた彼女は独り、名実共にイベントから敗退した。

 

 故に巨人の操手は手綱を手放す。

 スキルの制御から解放されて動きを止める巨躯。

 土塊に還り、崩れ落ちる……とはならず。

 

 人型の輪郭が歪に曲がる。

 一箇所に吸い込まれて縮小する。

 行き先は右腕。不釣り合いに肥大する拳。

 

 ただ落ちる質量兵器。《石腕》の真骨頂である。

 

 たしかに要塞の砲撃は腕を粉砕しうるだろう。

 

 だが、その後は?

 

 砕いたところで質量は変わらない。

 大地にあった重量が雪崩のように降り注ぐ。

 城を破壊し、鎧を穿ち、肉を潰す。

 人間は所詮か弱い生物だ。ジョブの恩恵で多少なり身体機能を高めたところで、生き埋めにな(酸素がなけ)れば人は死ぬ。

 逃走できない【要塞王】の詰みである。

 

 

 ◇◆

 

 

『『『ぶにゃー』』』

 

 混乱に拍車をかける第二のアクシデント。

 イベントエリアにこだまする猫の鳴き声。

 放流されたミニチェシャが合流、合体。

 イベント限定の特殊効果を発動する。

 

 それらは単独では取るに足らない効果だ。

 例えば『イベントポイント取得数の上位者にマーカーを付与する』というものであったり。

 はたまた『参加者を近くに転送する』バトルロイヤルを加速する着火剤であったり。

 

『八人の僕が一度に集合するとはねー』

 

『ちょっとビックリですー』

 

『では隠しルールその2、いってみましょー』

 

 八匹のミニチェシャは人型に。

 八人のトム・キャット*5は融合して。

 しめて六十四匹の子猫は二回の変身を遂げる。

 

『あーテステス。運営からのお知らせですー。現在イベントエリア中央に、金色の僕が出現中ー。捕まえた人には100ポイントの逆転ボーナスチャンスだよー』

 

 金色のチェシャは城の頂上に降り立つ。

 煌びやかな光は視認性バツグンだ。

 一挙に転送された参加者は誰しもが注目する。

 

 ここまでおいでと手招きする金チェシャと!

 その足場になるバーベナの尻!

 激突して壁にめり込んだ無様な男の下半身を!

 

 かくして参加者は決断する。

 あるものは必殺スキルを放った。

 あるものも必殺スキルを使った。

 とりあえず石腕と要塞を吹っ飛ばそうとした。

 ついでに寄ってくる競争相手も倒すぜ。

 

 悲しいかな。

 生き残りはだいたい修羅(バカ)であった。

 

 

 ◇◆

 

 

 グランは集中砲火を浴びてなお冷静だ。

 彼は優先順位を見誤らなかった。

 

(あの数の必殺スキルは身構えるだけ無駄! 効果が分からん以上、受けるほかに選択肢がない)

 

 迎撃用の“異界領域”を何種類も放出する時間はなく、物理と魔法を見誤るだけで防御は失敗する。

 ならば対処法が明確な危機に意識を割く。

 

 砲撃による石腕の破壊。

 粉微塵にするだけの攻撃力があればいい。

 

「出力最大! 限界を超えろデックバスタァァァ!」

 

『提言:根性論で腹は膨れません』

 

「ノリ悪くない?」

 

 要塞からの返答は……不可能。

 全ての城壁を攻撃に消費するのは、すなわち必殺スキル盛り合わせから身を守る術を失う事。

 城主を敵に晒す要塞などあってはならない。

 

『無論:()()()()()()()()()()()

 

「……! そうこなくちゃな」

 

 ゆえにデックバスターの照準は一点。石腕を砕いた後、その破片がグランのいる統制室にだけは直撃しないよう演算と微調整を繰り返す。

 

「主砲、()ぇ――――!」

 

『粉砕:《CGC》――オーバーロード』

 

 赤熱した砲弾は標的を穿ち、一直線に貫く。

 中心の亀裂から真っ二つになった石腕は要塞を避けて地表に落下する。重力に引かれたそれは周囲の参加者をまとめてミンチに変えるだろう。

 火炎雷鳴、怒涛の攻撃を味わいながらも防壁を破る必殺スキルがない事にグランは肩の力を抜いた。

 

「……?」

 

 そして飛び交うエフェクトの奥に見た。

 

 要塞に並び立つ――緋色の巨人を。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「ぬぅ、おのれ間に合わなんだか……あのゴーレム、俺の蒐集品として納めたかったものを」

 

 崩壊する巨人を前にエストは地団駄を踏む。

 残念に思う気持ちはあなたも同じだが、彼ほど執着してはいないので、土塊の一部を回収するに留める。

 元は遺跡を模した地形オブジェクトなだけあって有効活用できそうである。多少はお裾分けしてもよい。

 

「フッ、流石よな。褒めて遣わす。してどうする? これでは生き埋めコースだが」

 

 実のところなかなかの難問であった。

 普段のあなたなら《インターン》か、愛刀を使った殲滅攻撃の雷雨で対処できたろう。

 現状どちらも使えないので棚上げだ。

 こういう時、あなたは他の<エンブリオ>に羨ましさを感じる事が多々ある。例えばバルドルなんて地形破壊にうってつけじゃんね。取り回しは最悪っぽい。

 

 で、どうしよっか?

 

「質問を質問で返すな愚か者! 俺が貴様に尋ねているのだ! どうせ策のひとつやふたつあるのだろう、はっきり言葉にせぬか!」

 

 誠に遺憾である。

 あなたのコミュ力は世界一。言葉にしなくても意思が伝わるレベルだという自負がある。

 

 とはいえ依頼主の意見は聞き入れるべき。

 あなたは素直に考えを口にする。

 

「ほう。巨人の身の丈を超える武具と……」

 

 だがいくらエストでも先の巨人より大きな装備品など持ち合わせがないだろう。

 アイテムボックスの容量は限度がある。エストは些か例外だとしても、超巨大兵器などそうそう持ち合わせがあるわけが……

 

「グハハハハハハハハハハハハ! 貴様、この俺を誰と心得る? あるに決まっておろうがッ!」

 

 高笑いと共にエストが取り出すのは赤鉄の鎧。

 全長は先程の巨人と比較しても一回り上。

 地面に寝かす形で置かれたそれは、皇国を思わせる様式の機械甲冑だ。あるいは巨大人型ロボットと呼ぶ。

 

 沈黙する緋色の<マジンギア>。

 あなたの観察眼は甲冑の素材がヒヒイロカネである事を見抜いていた。1Kg1000万リル以上の神話級金属で巨大ロボを作るなど頭のおかしい所業である。

 

「製作者は腕の良い皇国の技術者なのだがな。問題が生じたので俺が買い取った」

 

 その心は?

 

「ガワを作って予算が尽きた」

 

 むべなるかな。内部と基盤もヒヒイロカネを使うなら、全財産を搾り尽くしても到底足りぬ。

 

「元は<マーシャルII>系列の人型兵器を想定していた。だが、外装しか作れなかったので機械甲冑(パワードスーツ)に路線変更したらしいな。性能『は』お墨付きだ。好きに使え!」

 

 あなたは説明を聞いてコックピットに搭乗する。

 五倍以上のエネルギーゲインとは。素晴らしい。

 マーベラス、実にマーベラスだ。

 

 しかし、ここであなたは疑問が生じる。

 要求される消費MPとSTR値が桁違いだ。

 おまけにこの巨体である。普通の鎧のように手足を動かす事は大変難しい。

 これを十全に扱える人物はいるのだろうか、と。

 

「……いいか職の民。コレクションは浪漫だ」

 

 ドライフの技術者は実戦を知らぬと見える。

 

 あなたは【鎧巨人】の《アーマー・アジャスター》を使用する。内側の空洞に粘性の力場を生み出して、機械甲冑の四肢を手足の延長線上として操作してのける。

 後はステータスでゴリ押しだ。あなたは超級職相当の筋力にものを言わせて機械甲冑で立ち上がる。

 

 ブッピガン!

 

 そのまま駆け出す超合金あなた。

 要塞を足場に、落下する石腕を目測で捉える。

 

 タイミングを測り、あなたは手を伸ばした。

 同時に使用スキルを切り替える。

 

 ――あなたの拳と落石は吹き飛んだ。

 

 やったねダーリン! 明日もホームランよ!

 気分は場外さよならウィニングラン。

 半身だの巨人だのに負けたりはしないのだ。

 

 継ぎ目なく発動した《メガクラッシュ》は、装備重量に比例した固定ダメージを与える【重騎士】の奥義だ。

 キロを超えてトンに至る重量の機械甲冑を纏えば大質量を消し飛ばす威力を発揮できる。

 

 防御力や耐久値など無関係に命中箇所から体積を消滅させる固定ダメージの特性は非常に有効だ。

 超過分のダメージは接触箇所から伝播するので、機械甲冑の前腕部がまとめて消失したが……依頼主と大地を守るためには致し方ない犠牲である。

 

「こんのたわけぇ!? 俺の蒐集品を損なうとはなんたる蛮行か! 見下げ果てたぞ貴様!」

 

 あなたは依頼主を尊重する<マスター>だ。

 鎧を『()()()使()()』と言ったのはエストである。

 非難されるいわれは欠片もない。

 理路整然と反論した後、あなたは両腕を十字に交差して決めポーズを取った。

 

「ええい……此度は許す。だが次はないぞ」

 

 あなたはエストを肩に乗せて頷いた。

 次があればの話である。

 

「どうした職の民?」

 

 最大の警鐘を鳴らす《危険察知》。

 あなたは舌打ちして敵の気配を探る。

 機械甲冑越しの空気読みは至難の業だ。

 

 む、殺気。

 

 足元から届いた剣呑な殺意に震える。

 あなたが敵の姿を視認するより早く、

 

「――キエエエエエエエエエエエイ!」

 

 あなたは真っ二つになった。

 

 正確には、機械甲冑こと大リーグ矯正ギプスが股から脳天にかけての正中線で左右に両断された。

 

「ぬおおおおおおお!?」

 

 突然の足場喪失に慌てるエスト。

 彼に手を貸す余裕はない。あなたは見覚えのある清廉な太刀筋に驚愕し、忌むべき記憶を掘り起こす。

 血の気が失せた唇に畏怖を乗せて呟いた。

 

 天地の<超級>が来た、と。

 

「――ッ!? 退くぞ、要塞に身を隠す!」

 

 一言で認識を共有したエストは即座に撤退を指示する。反対する理由がないあなたは機械甲冑のオートバランサーを解除して、胸部装甲の照明灯を点滅させた。

 

 死なば諸共と要塞にダイブ。

 機械甲冑と城壁の接触面積が最大になったところで《メガクラッシュ》を再使用。

 気合いと悪あがきで制御した甲冑は最後に特大の固定ダメージで城壁を半ば土台ごと虚無に返す。

 

 木っ端微塵の大爆発を目眩し代わりに。

 あなた達は要塞へ駆け込むのだった。

*1
どんぶり勘定

*2
グハハハハ! 今からそれは俺の所有物(モノ)よ! ……ええい離せよさぬか暴力反対暴力反対!

*3
工学部建築学科一年。椋鳥玲二と同学年

*4
航空戦力が未発達のデンドロで何もない空に突撃するバカがそういるはずもない。当然である

*5
衣装違い




――更新しろ、とガ◯ダムが言っている

・グランの“異界領域”
オマージュ連打という名のクイズ大会。
作者のエースは青の天秤座でした。


【要塞王】
城兵系統超級職。『施設防衛』という状況に特化した兵士系統派生の戦闘系ジョブ。
サービス開始前は、大規模な籠城戦が極端に数を減らしていた(都市の防衛戦レベルでは一部条件を達成できない)のでロストジョブ化していた。
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