無職さんのデンドロ履歴書 作:リリアーナを照れさせ隊
□■イベントエリア中央部
あなたは依頼主を尊重する<マスター>だ。
電話一本でどこでも出張サービス。
お仕事の匂いを嗅ぎつけて即参上。
ご依頼の際は6409から始まる番号までどうぞ。
それにしても、嗚呼。なんということでしょう。
行方知れずの愛刀が今あなたの手の中に。
マーベラス、実にマーベラスだ。
あなたは心躍り、胸沸き立ち、歓喜に咽び泣く。
以心伝心。毛フェチも毛髪を寄越せと哭いている。
悲しいかな。
主従はまるで意思疎通が取れていない。
それはそれとしてバーベナは簀巻きにする。
「なんでぇ!?」
キャッチした生首と胴体を縫合して蘇生用の魔法《リザレクション》を使用したあなたは、ご丁寧に依頼主を縄で縛り、地面と垂直に伸びる円筒に装填した。
なんだかんだと聞かれたら、答えてやるのが世の情けというものだ。冥土の土産的な。
あなたは満面の笑みを浮かべている。
穏やかな表情は菩薩の如し。
額に青筋を浮かべて、殺意を練り上げた。
「ちょ、今回は俺なにもしてないよぅ!」
ほざけ。あなたは唾を吐き捨てる。
思慮深く理知的で聡明なあなたは既に愛刀のイベント疎開先()を悟っているのだ。
バーベナは愛刀を盗む気満々であった。
心理系のスキルが雄弁に彼の有罪を物語っている。
あげく、敵対する<超級>の前に呼ぶとは。
けじめ案件である。代償はお前の命な。
「「けーじーめ、けーじーめ」」
「そんで誰だあんたらはァ!?」
簀巻きのバーベナは器用に身をよじり、自らが入った筒の根本で作業をする男女に声をかけた。
お馴染みの物欲野郎と、ご存じ花火女。
あなたのイカれたフレンド二名である。
「たしか月ノ下華美……それと……」
「おー。さっきぶりだなー。じゃあな」
「この俺を知らんとは。だが許す! 無知蒙昧なれど、貴様の造形美は展示するに値するゆえな……まあ、それは次の機会になるか。死ぬがよい」
「ちょ、二人して何それ、え?」
バーベナは混乱している。
しかし説明する義理は少ししかない。
あなたは導火線に火をつけた。
バーベナには綺麗な花火になってもらう。
「は?」
カウントダウン開始。
じゅーう、きゅーう、はーち。
「待て待て待て待てぇい!?」
騒がしいバーベナを無視して、あなたは強め濃いめヤバめで殺気マシマシの修羅に向き直る。
ご丁寧に剣気で牽制まで。あなた的に問答無用で襲われてはたまったものではないので、視線で押し留める。
幸い、人の言葉が通じる<超級>らしい。
天地の修羅では珍しいタイプである。
大抵は脳髄まで戦闘中毒に侵されており、あなたのような人畜無害の常識人をすぐPKする連中ばかり。
いつになってもこの世から争いは消えない。
あなたは悲しみで殺意が漲った。
「そうか。俺以外にもいたか。<超級>」
柳葉はあなたの殺意に応じて口角を上げた。
手には刀を。眼に戦意を。物騒マジ極まりない。
あなたは両手でTの字を作った。
タイムアウトである。今は都合が悪いのだ。
「む」
独特あるいは産廃とフレンドに称されるあなたのコミュニケーション能力は口八丁で存分に発揮される。
今のあなたは飛車落ちあなた。
戦ったところでチョコの抜けたチョコミント、あるいは焼肉定食のご飯とお肉抜きである。
柳葉の望む結果は得られないだろう。
しかし、あなたにアジェンダをアサインしてコミットメントするならば話は変わる。
あなたの依頼達成率は驚異の100%。
無論、これからの未来においても同様に。
あなたは依頼を引き受けた。
本当に勘弁しろと、ふざけるなと言いたいが。
お仕事はお仕事だ。そこに貴賎はない。
お仕事なら――<超級>だって殺してみせよう。
もちろん報酬は要相談。
代償としてバーベナは死んでもらう。
理由は簡単。あなたの気分がスッキリするからである。
「……理解した。こちらとしても全力で戦えるに越したことはない。支度が整うまで待とう」
柳葉は剣を下ろした。これぞコンセンサス。
話術の勝利である。ペンは剣よりも強いのだ。
自然体で今にも斬りかかってきそうな殺気が、修羅の修羅たる所以であるが……柳葉なる<超級>は約定を反故にする性格ではない。口約束だったとしてもである。
このまま時間を稼いでイベント終了を狙うという甘美な思考があなたの脳裏をよぎる。
仮に実行した場合、柳葉は王国まで死合にやってくる可能性がある。最悪のパターンである。
あなたは素直に準備を始めた。
やりたくないなぁ……マジやりたくない。
気が進まぬ、これぞ世に言う『お仕事』である。
これだからデンドロは最高でござるな。フゥ!
「何でぷーたろう笑ってんだ?」
「頭がおかしいのであろうよ」
誠に遺憾である。あなたは常識人だというのに。
あなたは敷布団を取り出した。
「『「……は?」』」
奇人変人を見るような視線は捨て置く。
繰り返すが、あなたは常識人である。
ゆえに掛け布団もセットで用意している。
寝ます。
「『「…………は?」』」
あなたが寝ている間、天地最高の花火職人が織りなすエンターテインメントをお楽しみください。
「よっしゃ任せろ! 3!」
「花火ってどこに……ねえちょっと待って? この筒、違うよね? この縄も違うよね? なんか導火線と同じ色だけど違うよね!? 違うって言えよぉ!」
「胸を張れ。貴様は無二の輝きを放つのだ。2」
「おい……嘘だろ冗談キツいって……」
「「1!」」
「ぁ……」
「「0〜!」」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!??」
◇◆
偽りの夜空に焔の華が咲き誇る。
エストのマジックアイテムで昼を塗り替えた暗闇は、華美の花火を引き立てるに相応しい風景だ。
炎色反応に混じって光の塵が夜天を彩る。少年は神話になったのだ。
「ふむう、映像でしか残せないのが惜しいな!」
「そりゃ無粋ってやつだエーちゃん。花火はその時、その瞬間を楽しむものだぜ。何でもかんでも記録に残したらいいってモンじゃねー」
「道理だな。しかし花火の民よ。貴様の理屈では、今これを目にできなかった者は永遠にこの感動を味わう機会を得られないことになる。惜しいとは思わんか?」
「
「フッ。職の民が気に入るわけだ」
「ま、受け売りだけどな」
「よい。真似事だろうと貫き通せば貴様の理屈よ。恥いるところがどこにある」
「エーちゃん……あんた良いこというな!」
「貴様もな。グハハハハ!」
類は友を呼ぶ、という諺がある。
無職のフレンドは無職のフレンドであった。
彼らは大体どこかおかしい。だからだろうか、頭おかしいもの同士、通じる話があるのかもしれない。
この花火バーベナですからね。
人を打ち上げて笑ってんだこいつら。
「そんで、あいつに勝てるのか?」
華美は離れた場所に座った柳葉を見る。
律儀に無職を待つ彼は、相棒のメイデンと花火を楽しんでいた。メイデンは戦闘時より嬉しそうである。
彼女は柳葉の肩にもたれかかり、コロコロと目まぐるしく表情を変え、時に坊主頭を叩いていた。
「俺に<超級>同士の戦闘が分かるはずなかろう」
「そっかー。どうなんだろうなー」
「職の民はバカではな……いや、バカで馬鹿だが。できぬ依頼を引き受けはしない。勝算はあると見た」
「わかったぜ! ぷーたろうの布団に秘密が」
「あれは市販品だ」
真っ先に《鑑定眼》で確認している。
最高級の羽毛布団は睡眠で体を休めるのに最適だろうが単なる寝具。特別なスキルを持たないアイテムだ。
エストが読み取れる情報は視界に入った無職の装備品、その性能で推測するほかない。
「じゃあ、あの着ぐるみか?」
「さてな」
本調子でない無職がどこまでやれるのか。エストは<超級>に到達した無職の底を測りきれていない。
(回収した特典武具で何をするのやら……貴様の実力を見せてもらうぞ、職の民)
◇◆
あなたは目を覚ました。
ひっきりなしの騒音で寝覚めは最悪だ。
あなたは騒音公害を齎す陸上戦艦の砲撃を思い出して殺意が漲った。許すまじクマにーさん。
あなたは簡易ステータスを確認する。
表示は
あなたは回収した【Q極きぐるみしりーず なまけろん】を脱いで、最終準備を整える。
「起きたな。俺も準備はできている」
腰を上げた柳葉は水の刀を手にする。
観察すると水流が循環しており、圧力を高めた水を噴出することで斬れ味を高めているようだ。
噂話を耳にした限りでは<エンブリオ>のスキルとして元々攻撃力を設定されているはずなのでプラスアルファの工夫だろうとあなたは推測する。
あなたは愛刀を構えた。
今日はテンション低めである。美少女あなたじゃないとやる気がでない、などと供述している。
やむを得ない事態のため、あなたはこんな時のために保管していたリリアーナの毛髪を捧げる。
これには毛フェチもニッコリ。
遠い王国では麗しい女騎士が愛らしいくしゃみをしたような、していないような。きっと気のせいだ。
誤解を招かないよう補足すると、この件に関して、あなたはリリアーナの許可を得ている。
髪の毛には霊的な恩恵があり、あなたの世界では大切な人の御髪を編み込んで御守りにする風習があったりなかったりするとか、だいたいそんな感じである*1。
閑話休題。
あなたは隙を突いて先制攻撃。
毛フェチにドン引きする相手の首を刎ねる。
柳葉は受け太刀の姿勢。
危なげなく、あなたの首狩りを捌いた。
『マスター君……私、あんまり
「気張れ」
『鬼畜! じゃあすぐ終わらせて!』
「言われるまでもない」
回転。手首を翻した柳葉は同時に右足を引いて半身に。大小の円を描いた動きであなたの勢いをいなし、鎬を滑り落ちた妖刀を上から押さえつけた。
「ッエエエエエエエエイ!」
裂帛の気合いに重なる小手打ち。あなたは愛刀を放棄する事で間合いから逃れる。
剣の勝負とは一言も言っていないので、あなたは躊躇いなく徒手空拳で急所を狙いにかかる。目潰しのチョキは勝利のピースサインであるからして。
届かない。あなたの指は空振り、柳葉は前に踏み込んで刃を当てている。胴を撫で切りにする一刀だ。
窮地を見越したあなたは自分ごと落雷を当てるよう愛刀に指示を出している。欲を出した時、柳葉はあなた諸共こんがり肉になるという寸法だった。
暗雲立ち込める空、頭上から雷が走る。
『――電気は効かないよ』
少女の声と同時に柳葉の輪郭が滲む。
当然ながら液体なので物理攻撃も通じない。
薄々察していたあなたは対処に迫られる。
はい、無職パンチ。
あなたは柳葉を
『マスター君ッ!?』
水の肉体ごと捉えて破壊したあなたの拳は、今日初めて柳葉の明確なダメージとなったようである。
ついでに雷を砕いたあなたは追撃の機会を逃したミスに思わず舌打ちした。おのれ毛フェチ。
受け身を取ってか、ダメージを逃した柳葉。
愛刀を拾い文句を垂れるあなた。
お互いに手札を一枚開示した形になる。
『《霧雨》は使ったのに……』
体を水……液体に変えるスキルだろう。
間違いなくテリトリー系列が混ざったTYPEだ。
<超級>に相応しい強力な効果である。あなたはざっと二つ三つの悪用法が思いついた。
物理攻撃・雷属性無効。反射を利用すれば光属性は軽減できる。耐性面のみ考えても優秀な部類だ。
人間が入れない狭い隙間から内部に侵入する事もできるだろう。生物なら体内攻撃が可能である。
先日までのあなたなら、手札が制限されるこの状況に陥った時点で詰みだった。
だが――今は違う。
あなたはイベントでとある課題を達成した。
幸運だったのは《スペリオル・インターン》のストックが一枚、先刻になって回復したこと。
そして城塞の宝物庫でロストしていた【なまけろん】を発見・回収できたことだろう。
あなたは虎の子の《インターン》を使用。
そして【なまけろん】のスキル《寝る子は育つ》で睡眠学習。レベルドレインで吸収した【龍帝】の莫大な経験値ストックを、ただひとつのジョブに注ぎ込んだ。
今日のメインジョブは【
あなたは
・《
言わずと知れた【破壊王】の奥義。
自身の攻撃力以下の耐久力の破壊不能対象を破壊する無法スキル。
これにより液体や気体など通常破壊することのできないものも破壊できる。
《物理攻撃無効》などのスキル、『概念』や『法則』であっても、攻撃力がそのスキル等の強度を上回れば、物理攻撃で“破壊”が可能となる。
参考:原作で【破壊王】レベル1080(合計レベル1580)のクマニーサンはSTR十八万超
・《リザレクション》
【司教】の奥義。
蘇生魔法。死後時間と死体の損壊具合で成功率は大きく変化する。
首の断面が綺麗だと縫合しやすかったそう。