無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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奥義皆伝

 □■イベントエリア中央部

 

 あなたはジョブをリセットした。

 

 あなたは無職になった。

 

 柳葉と相対したあなたは直感した。

 このままでは勝ちの目が見えないと。

 具体的に言うと【破壊王】では勝てない。さらに適切な表現をすれば、互いの相性が相克している。

 

 柳葉の液体化は《破壊権限》で攻略できる。

 あなたの攻撃力は<超級>の非常識を上回り、スキルを上位の法則で塗り潰しているようなもの。

 

 では、その攻撃力が失われた場合は?

 

 柳葉の能力をあなたはよく知っている。

 過去に<UBM>と間違われて乗っていた船ごと海底に沈められたからであり、あなたはかつて受けた蛮行を思い返してすこぶる殺意が漲った。

 

 柳葉はステータス奪取のスキルを持つ。

 仮に攻撃力を対象とした場合、《破壊権限》が実質無効化されるのだ。あなたの拳は豆腐すら砕けない。

 

 あなたは柳葉を殺せる。

 柳葉はそれを封じる事ができる。

 故に、勝負は読み合いに移行した。

 

 あなたは後ろ手に【破壊王】をリセットする。

 3000レベルが水の泡、所詮は泡銭である。

 無職に落ちぶれたあなたは普段の【失業王】にジョブチェンジ。影分身と幻影で偽装を施した。

 

 ――直後、柳葉の《応刀》が起動。

 

 水面に立つ分身あなたのAGIが減少する。

 後方に跳躍した本体あなたは無事。どうやら発動対象に取れる人数は一人までのようだ。

 まずはひとつ、互いの読みが外れた形になる。

 

 本体あなたは姿を隠して風景に溶け込む。

 故【勇者】草薙刀理の複合スキル《化狸》を再現したジェネリック版スキル、《化狸(カクレミノ)》。

 あなたは【失業王】の奥義《職務経歴(ジョブ・レコード)》の効果で過去にリセットした就職済みジョブのスキルを使用できる。

 上級職止まり、かつ、系統を無視した併用ができないための劣化再現であるが十二分といえよう。

 

 ――柳葉は本体あなたに狙いを定めている。

 

 着水寸前のタイミングを狙う空中狩り。

 そも感覚欺瞞を施しているのに、なぜ本体の位置を把握できるのか。修羅の場合は通常性能だったりする。

 やはり天地の武芸者は頭がおかしい。

 知覚外から不意打ちする、あなたの鬼がかった作戦は失敗です。あーあ、もう終わりだよ。

 

 とはいえ。諦める選択肢はない。

 あなたの依頼達成率は驚異の100%。

 受けた依頼には最後まで責任を持つべきだ。

 

 あなたは何も持たない人間であるが。

 だからこそ、お仕事には真摯にあらねばならぬ。

 それが自分だけの可能性に繋がる道なのだから。

 

 あなたは足裏で宙を踏み締める。

 空中に留まる技能は複合スキル《虎歩(シュクチ)》だ。

 これもまた【勇者】が用いた《虎歩》の廉価版。

 

 ――流水の大太刀があなたを捉える。

 

 如何なる術理か、刀身を展延させた柳葉。

 彼我の間合いが超音速で詰まる。

 一瞬。一合。一太刀で死合は決するだろう。

 水刃に触れた途端、あなたのAGIは無に帰し、回避も防御も許されず、致命の一撃が死を齎す。

 故に柳葉の間合いに入った瞬間にあなたの絶命が確定し――。

 

 ――決着は、それより紙一重手前にあった。

 

 《居合い》。自身が納刀状態であり、敵が自身を中心とした半径二メートルに入って来た場合に自身のAGIを二倍にする抜刀術の基本。剣士系統のスキル。

 スキルの発動条件を満たしたあなたは加速する。

 

 だが、それは一要素に過ぎない。

 

 《剛力》。武士系統。一分間STRをスキルレベル×10%上昇。

 

 《剣強化》。剣士系統。装備している剣を強化する。

 

 《剣速徹し》。剣士系統。防御に失敗した相手のENDを自分のAGIによって減算する。

 

 《レーザーブレード》。【剣聖】の奥義。高熱の光を纏った斬撃を放つ。

 

 《一刀両断》。【一刀武者】の奥義。次に行う斬撃の切断可能な防御力・耐久力を上昇させる。

 

 《剣禅一致》。【法衣武者】の奥義。自身へ致命ダメージを与える攻撃が迫った際に全ステータスを二倍にする。

 

 《霞の太刀》。【刃心】の奥義。相手が視認できなかった斬撃のダメージを三倍にする。

 

 《雲鷹》。【荒武者】の奥義。次に行う攻撃の与ダメージを五倍にする。攻撃を外した場合十秒間動けなくなる。

 

 《八艘飛び》。【荒波武者】の奥義。水上に限り、AGIと脚力が上昇する。

 

 数多のジョブスキルの同時発動。十を超え、通常は同時使用不可能な複数の上級職の奥義が累乗する。

 されど至らず、及ばず、届かず、達さず。

 嗚呼、こんなものではないのだ。重なる技の累乗は、『彼』が身につけた術理と技量は、決して、決して!

 

 あなたは我が身の至らなさを口惜しく思い、しかして【失業王】で成し得る限界……武士・剣士系統と併用可能なスキル群のみ……をフル稼働する。

 

 鞘からまろび出た愛刀が唸り、呪を発した。

 かつては神話級と謳われた魔性の権能。

 妖刀は怨念を焚べて己の刃を変容させる。

 其はまつろわぬ蛟。鎌首もたげる鱗持つ水神。

 

 最早あなたに策などない。

 一発逆転の必殺技もない。

 

 あるのは、積み上げた経験だけ。

 

 その一斬こそは、かつての【勇者】の模倣。

 システムと研鑽と憧憬の集積。

 一度では叶わず、望外の機会を得て編纂した剣。

 ただ独り至高の頂に手を伸ばした拙い児戯。

 

 即ち、魔剣再演(我流魔剣)――

 

 ――――《大蛇(オロチ)》。

 ――此処に、魔剣が魔剣を打ち破る。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ずるり、と。

 頸椎を断たれて落ちる首。

 揺れる視界で柳葉は己の敗北を突き付けられた。

 

 あり得ない事態であった。

 認められない結末であった。

 

 先んじて放たれた玉鋼の妖蛇は、常ならば、柳葉にとって致命にならない一刀である。

 彼は《霧雨》でアバターを液体化して、《破壊権限》を持たぬ物理攻撃を無効化できるのだから。

 

 だが、今は違う。

 マナナーン・マクリールの必殺スキルは代償で《秋水》と《応刀》を除いたスキルを使用不能にした。

 無職が《破壊権限》を持つなら防御は不要と。

 他の全てを斬り捨てて、たったひとつの可能性を極めた先に流れ着いたのは行き止まり。

 

 旅路の果て、原点回帰した彼の結末だ。

 

(なんというか。想像より)

 

 長年切望した願いの成就に際して、柳葉の胸に溢れたのは喜びではなく、方向性の異なる感情だった。

 

(悔しい、な)

 

 敗北の事実を受け入れられない。

 一歩届かず競り負けた事が口惜しい。

 心底辟易した己の剣を打ち破られた。

 十把一絡げの路傍の石のように超えられて。

 

 意外にも。剣の才能に、積み重ねてきた時間に、知らず愛着を抱いていたのだと気付いた。

 

 というかトンデモ加速の抜刀術とかそれもう普通の剣技じゃねえだろいい加減にしろ剣士舐めてんのか。

 これだからデンドロの連中は大概頭がおかしい。

 

(しかし……“鵺”の魔剣を拝めるとは)

 

 ついぞ剣を交える機会がなかった【勇者】。

 その片鱗を味わった柳葉は口元が綻ぶ。

 またとない機会と幸運な巡り合わせに、自分の道行きは案外捨てたものではないらしいと感じ入る。

 

 同時に。

 

(お前は()()()()()()()()()

 

 生まれつき一つの才能を定められたのでなく。

 無限の可能性と、幾千幾万の選択肢を持つ。

 柳葉が望んだ在り方を見せつけられて。

 

「……羨ましい限りだ」

 

 イベントの台風の目、歩く災害。

 道に迷った<超級>は、ここに敗退した。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 あなたは標的のデスペナルティを確認する。

 修羅は死んでも襲いかかってくるからだ。

 油断ならんよな。最期まで殺意たっぷりだもん。

 

 しかし柳葉はありふれた修羅ではなかった。

 一心に人生を捧げた修練の剣。

 でなければ、あの技の冴えは出せないだろう。

 

 生まれつき完璧な人間などいない、というのがあなたの持論である。

 仮に柳葉が天賦の才を、あなたが欲してやまない、自分だけの可能性を秘めていたのだとしても。

 人を形作るのは成長の過程で得た知識と経験だ。

 

 極論、剣を振り続けたからこそ。

 積み重ねた経験が柳葉に力を与えた。

 最後の一太刀はまさに研鑽の証だろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 求道者然とした姿勢は敬意を払うに値する。

 これもある種、お仕事である。

 強者を尊ぶ天地の習いに従って、あなたは柳葉に哀悼の意を示した。二度と襲ってくるなよ。

 あなたは殺し合いを厭う平和主義者なので、天地の悪習の悪習たる部分をオミットするのである。

 

 愛刀もそうだそうだと言っている。

 

「…………」

 

 無言の怨念による抗議文。

 どうやら的外れのようである。

 

 青髪の少女はどうしたと唸る愛刀。

 残念ながらメイデンの彼女は柳葉と一緒に光の塵になったのだ。毛髪は諦めろ毛フェチ。

 

 魔剣再現の結果、鞭のように伸び切って垂れ下がる刃を元に戻そうとあなたは四苦八苦する。

 もし仮に刀身が復元不可能だった場合、あなたは貴重な妖刀をお釈迦にした事になる。

 主武装を失って今後どうしろと言うのか。

 おのれ絶対に許さんぞ、殺してやる<超級>。

 

「…………」

 

 もう殺してるだろって? さよか。

 

 叩いて直るかもしれないと考えたあなたは愛刀を足元に打ち据えた。ぺしーん、ぺしーん。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ■【■■■】■■■■■■■・■■■・■■■■■■

 

 よもや、よもやだ。

 天地の修羅に打ち勝ってしまうとは。

 中々見応えのある戦いではあったが。

 この俺と別れてから更に常識を外れたな?

 

 ああ、<超級>なぞになるほどだ。

 貴様の中で何かしら区切りがついたのだろうよ。

 

 だが……そんなことはどうでもいい。

 

 いかんな。いかんぞ職の民。

 俺を前にして、そのような振る舞いは。

 <超級エンブリオ>? 妖刀? 特典武具?

 

 個々人に与えられたオンリーワン。

 全サーバー内でひとつの固有アイテム。

 欲しても容易に手に入らない希少な品々こそ、蒐集欲が刺激されるというものよ。

 

 欲しい、欲しい、欲しい。

 

「……おいどうし、ぐッ!?」

 

 我が手中に収めたい。

 このゲームに存在する全てを確保したい。

 

 無論、この腕の良い花火職人も。

 揃えるならば徹底的に。余すところがないように。

 

「て、めえ……! 裏切りやがった、な……」

 

 歯抜けの展示なぞ、観るに耐えんだろう?

 

「――《展覧せしは万里の軌跡(アレクサンドリア)》」

 ――顕現せよ、我が宝蔵。知の殿堂は此処にあり。




・《魔剣再演・大蛇》
複合スキル。数多のスキルと妖刀の変態を合わせた神速の抜刀剣。
【勇者】の複合スキルのうち、我流魔剣のみ、無職は再現できなかった。観察する暇もなく斬られたからである。
だが、王国での数奇な巡り合わせと貴重な経験を通じて――

・章ボス
<超級>だと思うじゃん?
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