無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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本日二話目の更新、まだの人は前話から


戦場の略奪者

 □■イベントエリア中央部

 

 あなたの今日のお仕事は二つ。

 

 バーベナの依頼、【海乱鬼】柳葉の討伐。

 難易度百(あなた調べ)。

 

 そしてエストの護衛依頼。

 運営主催イベント中の身辺警護である。

 

 一つ目の依頼を受注したのは、護衛依頼に影響を及ぼすという理由が多分に含まれる。

 <超級>を放置したらイベントは崩壊する。

 修羅に一家言ある専門家あなたの見解だ。実際、索敵範囲に生存者がいないため間違いではないだろう。

 参加者を全滅させるつもりだったのだろうか。やはり天地の武芸者は野卑な蛮族である。

 

 大仕事を終えて、小休止を取るあなた。

 ほのかなリソースの動きに振り返って見ると、なんということでしょう。金魚柄の宇宙服が倒れている。

 月ノ下華美のサプライズ・デスペナルティだ。

 彼女の死体は光の塵に変わってしまう。

 

 凶行に及んだ下手人は、

 

「――【閃闘人形 ピカドール】」

 

 躊躇いなしのバックスタブを狙う。

 

 超々音速の一刺しが、魔剣使用後のクールタイム中だったあなたの背中に突き刺さる。

 刺突剣と、それを操る実体のない光の剣士。

 敵に一撃を見舞って消滅する特典武具の性能をあなたはよく知っている。持ち主の情報と合わせて。

 

 あなたは額に血管を浮かべて振り返る。

 般若もかくやとばかりの憤怒一色。

 端的にあなたの内心を表現すると次のようになる。

 

 おのれエスト。血迷ったか。

 

「グハハハハハハハハハハハハ!」

 

 体の前で腕を組み、快笑する依頼主様。

 誤解しようがない裏切りの瞬間であった。

 

「大義であったぞ職の民よ。貴様の功労で、最大の難敵だった<超級>は退場した。参加者も残り僅かだ。後は貴様を殺して、この俺が首位に躍り出る! ついでに貴様のレアアイテムを根こそぎ徴収してくれるわァ!」

 

 全部吐いたな。あなたは殺意が漲った。

 そも契約はどうしたという話である。

 護衛中は相互不可侵の条項を結んだ。したためた【契約書】に不備は見受けられなかったが。

 

「流石に抜かりなく【契約書】と文面は確認していたようだが、インクまでは気が回らなかったか?」

 

 エストが掲げた【契約書】は内容が、特に信賞必罰と契約違反に関する条項が書き換えられている。

 お仕事の成果報酬はゼロ。エストの契約違反はこれを咎めず、あなたに抗議の権利はないものとする云々。

 

「時間経過で性質が変化する塗料だ。見た目は市販の物と同じだが、乾燥すると摩擦で文字を消せるようになる。作った<マスター>も偶然の産物と言っていた」

 

 これだから<マスター>という連中は。

 一体どれだけ労働者の権利を迫害したら気が済むのだろうか。此度の暴挙、到底許してはおけぬ。

 お仕事には正当な対価を。常識である。

 それを踏み躙る愚行をエストは知っているはず。

 

 つまり知っていて実行したと。

 情状酌量の余地なしだ。重ねて殺意が漲った。

 

「この俺が何の策もなしに戦うと?」

 

 エストの背後で威容を示す石造の建築物。

 洋の東西・時代の今昔が入り混じる建築様式と、装飾に彩られた正面の門扉。

 アイテムを収容する博物館の<エンブリオ>。

 銘を【万物博覧 アレクサンドリア】という。

 

 建物内部と接続する虚空(ゲート)から、次々と放出される武具、魔道具、兵器の数々。

 特典武具の内訳はひとつふたつでは足りない。

 リソースがふんだんに籠もる煌びやかな雰囲気と、見覚えのある一部の品にあなたは目を見張る。

 

 【編幻似剤 ミスティコ】。

 【復得円鬘 ロールバック】。

 【底撈海月 クラーゲン】。

 【解雇録 テラーカイブ】。

 【量産型煌玉馬】こと馬車馬2号。

 

 あなたの特典武具+アルファがなぜ彼の手に。

 

「貴様のものは俺のもの。俺のものも俺のものだ」

 

 ぶ ち こ ろ す ぞ?

 

 あなたは激怒した。必ずやかの邪智暴虐の王を殺さねばならぬと決意した。

 

「やれるものならやってみせよ!」

 

 エストが手にした特典武具は当たり前だが譲渡・売却不可能アイテムだ。

 本来の所有者、つまりあなた以外は扱えない。

 デンドロのゲームシステムで決められている。

 

 だが、エストはそれを踏み躙る。

 

「職の民は知らんだろうが、貴様が<超級>に進化したように、俺も第六形態になったことでスキルの性能が上がってな……今の俺は、()()()()()()()()()()()

 

 は?

 

「博物館は貴重品を寄贈されるものだろう? 貸し出しもまた然り。貸し借りできて何がおかしい?」

 

 エストの妄言に、あなたは理解が追いつかない。

 どう考えてもおかしいだろう。常識的に考えて。

 所有権の変更ではなくて、あくまで貸借だとしても……あまりにも無法が過ぎるではないかと。

 

「たわけ。アレクサンドリアに関しては俺が法、俺がルールよ。そしてよもや忘れてはいまいな職の民? 俺の必殺スキルは、既に発動しているぞ――!」

 

 咆哮を呼び水に、異変が侵攻する。

 エストの取り出した特典武具が輝きを帯びた。

 其は依代。過去に討伐された<UBM>の残滓。

 

 アイテムの情報を具現化する。

 あなたもよく知るアレクサンドリアの必殺スキルをMVP特典に行使したならば、どうなるか。

 

 答えは簡単。

 

 伝説級<UBM>【大王水母 クラーゲン】。

 

 伝説級<UBM>【回天猩々 ロールバック】。

 

 逸話級<UBM>【絵写条理 テラーカイブ】。

 

 そして――

 

「出でよ神話級<UBM>――」

 

 ――【変現神在 ミスティコ】。

 

「グハハハハ! 職の民と言えども、神話級含めて四体の<UBM>が相手では言葉もないか!」

 

 かつて討伐した<UBM>の似姿が。

 時を超えて再び、あなたの眼前に立ち塞がる。

 

「【博物王(キング・オブ・ミュージアム)】スキエンティア・エスト・ポテンティアが命ずる――蹂躙せよ」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 はい。

 

「なぜだァァァァァァァァ!!??」

 

 あなたは四体のモンスターを討伐した。

 所詮は二番煎じ感(テラーカイブ)じゃんね。

 

「だが! ピカドールの効果でステータスが下がっているはずだ!」

 

 言われて確かめてみれば、見事にあなたのステータスは全ての数値が20%ほど低下している。

 初撃限定の神速攻撃と弱体化。ピカドールは強力な特典武具であるが、なにせ母数が大き過ぎる。

 あなたのステータスは低いもので五桁。STRに至ってはリセットした【破壊王】の影響で六桁、数十万単位の数値になっている。それが二割減ったところで、ねえ?

 

 過去のステータスで討伐できたのだ。

 今のあなたが遅れを取るはずもなし。

 足りないならバフを盛ればよいだけの話です。

 

「おのれおのれおのれおのれェ……!」

 

 親切なあなたは今後の参考に所感を述べた。

 補足するとエストの選出が悪い。

 

 テラーカイブは単体で脅威にならない。

 よーいどんで居場所が明らかなので、スキル準備に時間をかける隙で脆弱な本体を攻撃できる。

 

 クラーゲンは海底に獲物を引き摺り込み、縦横無尽の転移で翻弄する恐ろしい敵だったが。

 今回のフィールドも水場だが深さが足りない。子供用プールの方がまだ活躍できたろう。

 

 ロールバックは戦犯である。

 状態を巻き戻すスキルで、あなたはスキルのクールタイムが全回復。《スペリオル・インターン》の連打が可能となった。

 

 最後のミスティコだが……おつむ(CPU)の残念具合がまるで変わらない。写す価値なし。

 

 本体性能も生前より劣化していた。

 第六形態の<エンブリオ>の限界か。

 はたまた特典武具に籠められたリソースと<UBM>の情報が、生前より中抜きされているのか。

 これ以上の詳細をあなたは思い浮かばない。

 

 普通に特典武具を使う方がよかったのでは。

 あなたは訝しんだ。

 

「際どい水着だの、アバターごと作り替える薬だの、渡されてホイホイ使いこなせるわけがなかろう!? どういうアジャストだ頭おかしいのか貴様!」

 

 誠に遺憾である。あなたは常識人であるからして。

 

 あなたは特典武具ほかアイテムを回収した。

 念を入れて【盗賊王】の《アブソリュート・スティール》を発動。アレクサンドリア内部を漁る。

 

 あなたのアイテムはあなたのもの。

 エストのアイテムはあなたのもの。

 マーベラス、実にマーベラスだ。

 プライベートの収穫は十割あなたの懐行き。

 エストとあなたは同じ博愛主義を掲げる者同士、きっと分かり合い、仲良くできるに違いない。

 

 以上、そういうわけで殺すか。

 

「冷静になれ、職の民。貴様のお仕事は俺の護衛だぞ? 護衛対象を殺すやつがあるか?」

 

 あなたは菩薩の如き慈悲の心で回答する。

 先に契約をちょろまかしたのはエストだ。

 加えて先程あなたはイベント参加者が残り二人、あなたとエストだけになった事を確認した。

 これは護衛対象が危険を脱した場合に該当し、本契約の効力は秘密保持の条項を除いて失われるものとする。

 即ち、お仕事完了のお知らせである。

 

「……死ねい無職ッ!」

 

 お前がくたばれ。

 

 あなたはエストの首を刎ねた。

 

『ぶにゃあああああ!?』

 

 同時に。

 

 エストが盾にしたミニチェシャにも攻撃判定が入り。

 

「グハハハハハ! 俺がただ敗北するとでも思ったか? それが貴様の慢心にして敗因よ……!」

 

 あなたはイベント開始直後の考察を思い出す。

 

 ミニチェシャは荒ぶると体感一割の確率で、くそでかい鳴き声を上げる。その鳴き声は野生モンスターを呼び寄せるだけでなく、周囲に隠れているミニチェシャを逃走させる効果がある。

 

 荒ぶる子猫の鳴き声は、あなたが確保していたミニチェシャ・金のミニチェシャまで波及する。

 

 あなたのイベントポイントはゼロになり。

 天衣無縫の無一文となった素寒貧あなたは、イベント終了のアナウンスと共に転送されるのであった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 あなたは上下の区別がつかない空間にいた。

 目の前に、管理AI13号チェシャが現れる。

 

「反省はー?」

 

 あなたは首を横に振る。

 反省も何も、あなたは悪い事をしていない。

 真っ当にイベントを遊んだだけである。

 

「……反省はー?」

 

 あなたは首を横に振る。

 反省も何も、あなたは悪い事をしていない。

 真っ当にイベントを遊んだだけである。

 

「……反省はー?」

 

 あなたは不承不承に頷いた。

 選択肢で「はい」を選ばないと展開が進まないタイプの特殊会話イベントだ。むべなるかな。

 あなたは空気が読めるタイプの人間だ。コミュニケーション能力は天元突破している。

 

 あなたは死すとも自由は死せず。

 言論と労働の自由は万民に認められた権利である。

 

「まあ、君達<超級>の影響を軽視した僕ら……というか企画担当の責任でもあるから、これくらいでー」

 

 全くである。

 やはり<超級>共は頭がおかしい。柳葉は常識人のあなたを見習ってもらいたいものだ。

 したり顔で頷いたあなたを尻目に、「次はもっと人選を考えてもらわないといけないなー」とチェシャは遠い目をしている。あなたもそう思います。

 

「というわけでイベントクリアおめでとー」

 

 あなたは首を傾げる。

 最後に持っていたポイントが多い者が勝つ、というルールだったとあなたは記憶している。

 エストにしてやられたあなたのポイントはもうゼロよ。各地に隠したミニチェシャ牧場はとっくに他の参加者か、あるいは乱戦で荒らされてしまった。

 ゆえに上位入賞は望めないと考えていたが。

 

「制限時間よりも先に、君以外が全滅しちゃったのでー。死亡直前に持ってたポイントで順位を出したよー。君は生存ボーナスの特別枠だね」

 

 やったねダーリン! 明日はホームランよ!

 あなたはチェシャの心遣いに感謝を捧げた。

 やはりデンドロは最高でござるな。

 

「でも特別枠だから皆と同じ賞品は渡せないんだ。そこはご了承くださいー」

 

 ちなみに通常枠の賞品は?

 

「Sランク確定ガチャチケット」

 

 ふざけるな運営いい加減にしろ。

 やはりデンドロはクソゲーでござるな。

 あなたは抗議文を投げつけた。

 

「じゃあこれ賞品ねー」

 

 あなたは小袋を手渡された。中身はレベル上げ用の経験値アイテム(【リソース・チャージャー】)詰め合わせだ。

 それなりの数量があるようだが、あなたとしてはガチャチケットに到底及ばない補填である。

 

 例えば透明マントのような魔法装備はないのだろうか、とあなたはドア・イン・ザ・フェイスを仕掛ける。

 

「それは渡せないけど……」

 

 では超級職の就職条件を、答えられる範囲で。

 

「それも無理だけどー」

 

 運営っていつもそうですね……!

 あなたの事をなんだと思ってるんですか!?

 

「うーん……こういうのはどう?」

 

 手招きするチェシャに従い、腰を屈めたあなたは、囁き声の提案に納得した。交渉成立である。

 流石は神運営。あなたの欲求を理解している。

 

「ほっ」

 

 その後、契約書の詳細を詰めてから。

 あなたはイベント専用エリアを後にした。




・《アブソリュート・スティール》
【盗賊王】の奥義。
触れた物の“内側”にあるものを盗む。
<エンブリオ>の内側で保護されていようがお構いなしに任意のアイテムを盗める。

・エスト
今回のオチ要員。詳細は追々。
反省。凖<超級>の能力としては少し盛り過ぎかもしれませんね。
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