無職さんのデンドロ履歴書 作:リリアーナを照れさせ隊
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そして無職の物語を読んでいただいている全ての皆様に、この場を借りて感謝と御礼を申し上げます。
デンドロ二次もっと増えろ。
では新章開幕。最初からクライマックスです。
前章冒頭の流れを忘れたとは言わせないぜ()
講和会議
□■旧ルニングス領・講和会議会場
あなたは席に座り、静かに耳を傾ける。
どこぞの議場を模して建てられた会談の場。
まさに今、あなたの眼前で、王国と皇国の行末を決める講和会議が開催されている。
アルター王国とドライフ皇国、両国の首脳陣は第一次騎鋼戦争*1から始まる関係悪化に終止符を打つため、こうして話し合いの場を設けた。
アルター王国の代表。
第一王女、アルティミア・A・アルター。
ドライフ皇国の代表。
皇王代理、クラウディア・L・ドライフ。
それぞれ護衛の<マスター>を連れて。
議論は順調に……不気味なほど順調に進む。
そんなこんなで、今日のお仕事である。
あなたが受けた依頼はアルティミアの護衛。
王国側の雇われ戦力として、有事の際に力を貸すため、あなたはこの場に参じているわけだが。
何も起きないと実に退屈な時間である。
あなたは隣に座る人物に帳面の切れ端で筆談を試みた。めっちゃ暇やね、と。
「……」
しかし勘違いしてはいけない。
護衛任務とは往々にしてそういうもの。
長時間の話し合いで睡魔に襲われようと、請け負ったお仕事には責任を持たねばならぬ。
具体的に言うと、周囲の警戒。
平和的な解決が最も望ましい。あなたが出張る事態は、護衛対象にとっての不利益であるからだ。
それでも万が一の可能性は起こり得る。その万が一に対処するのが、あなたに求められる役割だった。
「……」
じゃけん退屈だからって拗ねたらあかん。
また、気遣いの精神を発揮したあなたは書記系統のジョブスキルで議事録を作成する。ついでに撮影用のマジックアイテムと《真偽判定》を常時起動。
できるあなたは自分からお仕事を探すのだ。
「……さっきから何なんだ貴様は!」
隣の人物はあなたのメモを破り捨てる。
「というか、なぜ
閣下こと【魔将軍】ローガン・ゴッドハルトは鬱陶しいと言わんばかりにあなたに突っ込んだ。
マジそれな。聞くも涙、語るも涙じゃんね。
邪魔だからあっち行けと言われた。
護衛対象の意向にあなたは逆らわない。
「それ色々と駄目だろ?」
非常にわかりみが深いご指摘である。
護衛対象の側を離れる事が許されていいのか。
おまけに敵国側の席に陣取るなど。
講和会議という状況においては下策も下策だ。
ただでさえあなたの立場はグレーである。
王国の所属ではないフリーの<超級>。
これでは、クラウディア皇女殿下を弑する意思があると誤解を受けても致し方ない。
誠に遺憾である。あなたは単なる護衛だというのに。
だが当のクラウディアは意に介さず。
あなたが席を移動しても微笑むだけだった。
まるで
そこに微かな違和感をあなたは覚えた。
皇国側の護衛を一瞥すると疑問が加速する。
連なる面々、特記戦力となる<マスター>は【獣王】と【魔将軍】のみ。ほかは上級止まりである。
そしてティアンはクラウディア一人。なぜ侍従や文官を連れず、単身で会議に出席したのだろう。
あなたの耳には、昨日【兎神】クロノ・クラウンが王国の護衛をPKしたという情報が届いている。
この一件は皇国側でも物議を醸し、PK行為を非難した味方の<マスター>をクロノが殺害したとも。
しかし、どちらもお咎めなしで済んだ様子。あなたは会場付近で皇国最速の兎を目撃している。
どう考えても(頭が)おかしい。講和の会議だって言ってるだろ。辞書で意味を引いてみろ。
あなたはきなくささを感じ取る。
密かにクラウディアへ心理系のスキルを試すが、上手くいかないことも嫌な予感に拍車をかける。
ローガンのように分かりやすいと助かるのだが。
レイ・スターリングへのリベンジに燃えておる。
「む? フフ、かつての俺とは違うぞ。“不屈”だのフランクリンだの
あなたは適当な相槌を打った。
具体的にはローガンの赤髪をアームロック。
殺意は殺意で返すのが天地流だ。常識である。
「い、イタタタ痛い痛い離せこのッ、貴様ァ!?」
「私語を慎みなさい無職」
マイクで怒られた。解せぬ。
悲しみに包まれたあなたは、無聊の慰めに、昨晩の出来事を【テラーカイブ】で観返すことにした。
「静かになさい無職」
あなたは黙って音声をミュートにした。
◇◆◇
王都アルテアから講和会議の会場まで。
あなたを含めた護衛はアルティミアと共に移動。最寄りの村で宿を取り、夜を明かした。
その際に、アルティミアは講和条約の内容について、あなた達<マスター>の意見を尋ねた。
「いえ、あなたは呼んでいないのだけど」
アルティミアは<デス・ピリオド>*2の面々にくっついてきたオマケあなたを見て渋い顔をした。
しかし、そこは百戦錬磨のあなた。
涙がちょちょぎれる程度で挫けはしない。
最終調整のため、草案の穴を詰めていく。
問題となるのは、先の戦争以降、皇国が実効支配している旧ルニングス公爵領*3の取り扱い。
これは『領有権の放棄』を譲歩条件に組み込む。
皇国は全土で飢饉が蔓延しており、肥沃な穀倉地帯を喉から手が出るほど欲している。
逆に王国は致命的に人手が足りないので、領土を皇国から取り戻しても復興できず旨みがない。
あなたに任せてくれればいいものを、と口にしたところ奇人変人を見るような視線が突き刺さった。
当然である。さしものあなたも、領民を誘致するとなったら並大抵の業務量では済まない。
次の問題は<マスター>によるテロの防止だ。
ギデオンでフランクリンが起こしたテロ。
先日ローガンもカルチェラタンに侵攻していた。
どいつもこいつも迷惑な<超級>共である。
「「「お前が言うな」」」
あなたのレイPK事件はお仕事だ。
よって責められるいわれはあんまりない。
「だから、王国が提示する第一の条件は――『両国の指名手配の共通化』よ」
王国内で罪を犯せば、皇国でも指名手配になる。
“監獄”行きのリスクは犯罪への忌避感に繋がる。
補足で国家ぐるみの冤罪を防ぐ措置を盛り込むといい、と有識者のあなたは付け加える。
あなたはでっちあげの濡れ衣で指名手配を受けた経験があったりする。砂漠の国カルディナは治安が悪い。天地もびっくりのオワコン民度であった。
「あとは『戦争で死んだ兵士の遺族当て』~って名目で、『賠償金の要求』がよさそうやねー」
なぜかあなたと違って最初から話し合いに招集されていた、【女教皇】扶桑月夜の進言である。
「皇国は金で<マスター>を雇って、あんだけ勢力を拡大させたんやろ? その軍資金を削りにかかればええやん。賠償金を払うほど、雇える<マスター>が減るってことやからね。今後の牽制にはちょうどええんちゃうかな」
「条約が締結されれば戦争行為は禁止されます。加えて、指名手配の共通化で皇国に所属している<マスター>も手を出せなくなりますが……?」
「皇国に所属してないフリーの奴でも大金で雇ってやらせたらええやん。腕に自信があってテロへの呵責もない<超級>や準<超級>なら金額次第で受けるやろ」
なるほど。つまりお仕事であるな。
あなたは腕組みをして頷いた。
「……やるなよ? 絶対にやるなよ?」
嗚呼、なんということでしょう。
あなたへの熱い信頼がひしひしと伝わる。
コミュニケーション能力に格別の自信を持つあなたは、こうした会話の流れに対する答えを用意している。
やるな、やるなよと言われたら。
それは一種の前振りであるのだと。
もはや言葉を交わす必要すらないだろう。
大丈夫だ。問題ない、と。
あなたは意味深な笑みを浮かべた。
「不安しかないよ! 違うぞ、そういう古典的なフリじゃないからな!?」
むべなるかな。
実際は条件と報酬次第であるからして。
◇◆◇
事前に王国側がまとめた条件。
そして会議で皇国側が提示した条件。
それらは、
「良かった! やっぱり両国の願いは一緒ですわ! 刷り合わせるまでもありませんでしたわね!」
笑顔で手を合わせるクラウディアに対して、アルティミアは冷静に議論を継続する。
「『今回の講和条約成立までの期間に、王国と皇国で指名手配された<マスター>の指名手配解除』……これだけは条件が異なるけれど、理由を聞いてもいいかしら」
「簡単な話ですわ。王国と皇国で指名手配の統一がなされた場合、我が国の<超級>は二人も欠けることになりますもの」
即ち【大教授】と【魔将軍】の指名手配解除。
納得できる話である。
皇国とて他国との関係上、<超級>という国家戦力を手放すつもりはないということだろう。
実に面の皮が厚い連中である。罪は罪、罰は罰。どうあっても過去は消えない。過ちを甘んじて受け止めるのも指名手配犯のお仕事だ。
あなたは野次を飛ばした。ブーブー。
「口を閉じなさい無職」
はい。
「待った。それが成立した場合、俺が“監獄”に送った【犯罪王】や、そこのグラサンが倒した【疫病王】も……指名手配が解けてセーブポイントを使えるようになるぞ」
代わりにシュウが反論。マリーを指差して、皇国の提案が内包する潜在的なリスクを指摘した。
言われてみればそうじゃんね。
あなたはシュウの意見に追従した。特に【疫病王】は野放しにしてはならない……絶対に。
「それはたしかに危ないですわね! でしたら皇国に在籍している<超級>の指名手配だけで結構ですわ!」
クラウディアはあっさりと変更を了承して。
殺意が漏れたあなたを置き去りに、会議は進む。
国家間の契約に用いる【誓約書】を作成する段階で、あなたはおもむろに立ち上がり、二人の王族の前に。
「……なんですの? 護衛の方は席についていてくださいませんこと?」
「アナタね……いい加減に」
あなたは二人の言葉を静止した。
皆まで言うな、というやつである。
クラウディア署名済みの【誓約書】を手に取り、スキルを行使して問題がないか検分する。
それはもう念入りに。めっちゃ真剣に。
「もう! そんなに熱心に調べなくても、【誓約書】に細工なんてしていませんわ!」
クラウディアの発言に《真偽判定》は反応しない。つまり嘘を吐いていないという何よりの証拠だ。
だが、しかし!
あなたの目は誤魔化せない!
あなたはインクを指先に取り、舌で舐める。
ペロッ……これは、インク!
「何かと思えば……満足いただけまして? インクにも細工はしていませんわよ?」
「言い訳があるなら聞くわよ無職。斬ってから」
あなたは無言で弁明する。
いや違くて。違うんすよ。
直近でこの手口に騙されたことがあってぇ……依頼主の不利益を阻止するためでぇ……。
「黙ってないで何か言いなさい。ふざけてるの?」
誠に遺憾である。あなたは言われた通り、口を閉じていただけだというのにね。
これだから
「……待った!!」
そんなあなたの直感は、
「何で……指名手配解除の条件に【盗賊王】が入っていないんだ?」
レイ・スターリングの指摘で確信に変わる。
◇◆
「講和条件が完璧に
「読み切られていたら、逆手に取られるってことを」
「条件で、講和条約締結後の<マスター>への攻撃や誘拐依頼に関しては言及している。だけど……」
「講和条約の締結前に依頼されていた場合は……別だ。事前にテロを依頼しておくことはできる」
「だから指名手配されてる【盗賊王】の名前がない」
「――【盗賊王】が、既に皇国に所属しないフリーの<マスター>になっているからだ」
「講和条約の締結後に【盗賊王】が王国で何をしようと……【誓約書】のペナルティは皇国に発生しない。【盗賊王】によって誰かが皇国に連れ去られたとしても、取り戻せない」
「講和条約が結ばれていれば、それに対しての報復活動の一切を王国は封じられる」
◇◆
「ええ――全部正解ですわ」
クラウディアは告げる。
「これで講和会議はおしまい」
交渉の断絶を。
「ですが皇国が戦争を起こしたくないのは事実。ですので……第二王女と第三王女の確保又は殺害。そしてアルティミアを確保。これで王国は潰れますわ。今頃は【盗賊王】ゼタが王都を襲撃しているはずですわ」
戦争の火種を。
「止められるのは私だけ。私の通信魔法で、ゼタは王都から引くよう【契約書】を交わしてありますの」
互いに
誰にでも分かりやすい対立構造を提示して。
「ああ、それと。お伝えし忘れていましたわね。
戦支度を整えて、あなたと交わした【契約書】の控えと、一枚の写真を取り出したクラウディアは。
皇国の一時所属手続きを報酬に。
アルティミアの護衛をあなたに頼んだ依頼主は。
「浮いた駒、フリーの<超級>であるあなたを王都に置いておくわけにはいきませんもの。必ずこの場にいてもらう必要がありましたわ。そう……」
神算鬼謀にて、あなたを動かした
「王都で何が起きても、あなたは間に合わない」
アルター王国近衛騎士団副団長リリアーナ・グランドリアの写真を、揶揄するように破り捨てる。
クラウディアの発言で今回の依頼、講和会議中の護衛は完了したとあなたは判断する。
即座に契約に記載した定め……依頼主保護の条項を撤廃して、腰の鞘から愛刀を引き抜いた。
同時に動いた<マスター>は四人。
ノリノリで悪魔の召喚を始める【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト。
己の<エンブリオ>レヴィアタンにガーディアン体への変身を指示した【獣王】ベヘモット。
人から化け物に転じる途中のレヴィアタンに殴りかかる【破壊王】シュウ・スターリング。
最後に【女教皇】扶桑月夜が「皇国の<マスター>」の「合計レベル」を対象に《月面除算結界・薄明》を実行。
「――《絶死結界》」
――あなたは即死した。
無職死す――
・《月面除算結界・薄明》
扶桑月夜の<超級エンブリオ>【カグヤ】のスキル。
“夜”の結界を展開し、効果圏内にいる相手のステータスの内、指定した一つを六分の一に削減する。
・《絶死結界》
<超級武具>【絶死邪眼 グローリアβ】のスキル。
半径500メートル以内の合計レベル100以下の人間を即死させ、結界外からのあらゆる攻撃を無効化する。
扶桑月夜は《薄明》で敵対者のレベルを六分の一にできるため、実質合計レベル600以下の人間まで対象に取れる。レベル0の無職は死ぬ。