無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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地獄の元帥、その名も高き悪魔将軍

 □■皇都ヴァンデルヘイム某所

 

 時は講和会議の数日前まで遡る。

 

 皇都に鎮座する豪邸で【魔将軍】ローガン・ゴッドハルトは生産作業に勤しんでいた。

 具体的に言えば錬金術。下位素材を使って金属を錬成する錬金術師系統のジョブスキルである。

 

「やはりゼタのビルドは素晴らしいな」

 

 彼は【盗賊王】から学んだ新戦術を実行するため、ひたすらスキル上げとコストの貯蔵に励む。

 

 ジョブスキルの数値を十倍化する<超級エンブリオ>【技巧改竄 ルンペルシュティルツヒェン】 。

 捧げたコストをポイントに換えて悪魔を召喚する【魔将軍】のジョブスキル。

 そして説明文にステータスと確率の計算式が明記されている【錬金術師】の各スキル。

 ローガンはこれらの組み合わせにより、超効率で金属を錬成。今や無尽蔵の金属を変換したコストを背景に伝説級悪魔の大量召喚すら可能となっていた。

 

 うんうん、これもお仕事だね。

 あなたはローガンの勤勉さを褒め称えた。

 

「なぜ貴様がここにいるぅ!?」

 

 後方の壁に寄りかかって腕を組むあなたに対して、ローガンは問答無用で大剣を投擲した。

 

 当然だが黙って食らう理由はない。あなたは親指と人差し指で大剣を受け止め、彼の軽挙を嗜める。

 部屋の中でいきなり抜刀したら危ない。ましてや刃物を投げるなど。言われるまでもなく常識である。

 あなたは思慮深い模範的な<マスター>として推定キッズのローガンにマナーと大剣を叩き込んだ。

 武器を手放すとは実に愚かな。こうして相手に利用されると、天地では赤子だって知っているというのに。

 

「グッ……王国の犬め! さては俺の周囲を嗅ぎ回っていたな! というか警備は何をしている!?」

 

 どうやらローガンは勘違いをしているようだ。

 あなたは不法侵入者でもスパイでもない。

 ここに来たのはお仕事であった。

 

「食材の納品……? ああ、そういえば使用人が言っていたような……」

 

 ドライフ皇国は食糧難で飢饉に苛まれているが、お偉方は下々の事情を斟酌しない。

 あなたはお仕事で貴族の邸宅を訪れる度、美酒美食の放蕩三昧にドップリ浸かった上級国民を目撃している。

 ローガンも<マスター>ながら享楽に耽る俗物らしい。王国産最高級お肉とは良いご身分だ。

 

 とにかく責任者が不在らしいので受け取りのサインか判子をお願いします。

 

「チッ、これでいいだろ。さっさと帰れ!」

 

 あなたは帽子を脱いで敬礼した。

 ご利用ありがとうございます。ではまた講和会議で会いましょう。そう去り際に言い残して。

 

「おい待て。なぜ無所属の貴様が……説明せずに帰りやがった……くそっ舐めやがって……!」

 

 ローガンは決意した。あいつ殺す。

 来る日、人を小馬鹿にする無職を確実に仕留めるため、ローガンは並行してレベル上げに取り掛かった。

 

「時間が厳しいな……とりあえず6()5()0()()()()()()は経験値アイテム買って上げておくか」

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■旧ルニングス領・講和会議会場

 

 会議は決裂した。ゆえに今から戦場と化す。

 敵将クラウディアを捕らえるために飛び出したあなた。挑発で半分我を忘れていたからだろう。即死した。

 

 下手人は扶桑月夜。味方じゃねーか。

 あなたは殺意が漲った。許すまじ女狐。

 レベル100に満たないあなたの【ブローチ】は砕かれ、皇国の戦力ごとぶち殺されたのだった。

 

 あなたは慌てて《絶死結界》から抜け出す。

 即死しても肉体は綺麗なまま。【死兵】で活動に支障はない。しかし放置したらデスペナルティ確実である。

 安全圏に移動して自分に蘇生魔法を唱える、これしかあるまい。あなたは一目散に逃げ出した。

 

「《コール・デヴィル・ギーガナイト》!」

 

 次々と現れる伝説級悪魔。

 行手を阻むように、あなたを取り囲む【ギーガナイト】の数は数十をゆうに超えていた。

 下手したら数百単位で召喚されている。

 ローガンはここまで頭の悪い戦闘スタイルではなかったはずだが、と思索を巡らす暇もない。

 あなたはあと少しで光の塵になってしまう。

 

「【獣王】とあの数の【ギーガナイト】がいれば、他の護衛が落ちても問題ないわけか」

 

「二体でも苦戦したのにのう……!」

 

「フハハハハッ! どうだ無職、どうだ“不屈”! これが俺の新しい力だ!」

 

 今それどころじゃないんで、後にして。

 あなたは超々音速機動で悪魔の囲みを抜けた。

 あなたの足捌きに【ギーガナイト】はついて来れない。バフを加味しても奴らのAGIは一万五千ほど。ブロックしたいならステータスが一桁足りないのである。

 

 生還を確信したあなたの眼前にヤマアラシ。

 なんと“物理最強”のエントリーだ。嘘でしょ?

 

『CU』

 

 あなたの二倍近い速度で繰り出される拳。

 直撃を貰い、もんどりうって転がるあなた。再び悪魔と《絶死結界》の中に押し戻されてしまう。

 肉球パンチなんてヤワなもんじゃねえ、もっと恐ろしいモノの片鱗を味わったぜ……。

 

「普通は原型留めないレベルでグチャグチャになりますけどね。なんで生きてるんです?」

 

 あなたはマリーの言葉に訂正を加える。

 生きてはいない。HPはとっくにゼロよ。

 とはいえ防御が功を奏した。肉体が粉微塵になると蘇生魔法の成功率は下がるのだ。

 

 あなたは扶桑月夜を糾弾する。

 こんな体にした責任を取ってもらおうか、と。

 

「うち悪くないえー」

 

 どうして<超級>は話が通じないのだろう。

 ともあれ。あなたは復活した。

 

 同時に《絶死結界》が解除される。

 敵戦力の大半が人間から悪魔になった以上、扶桑月夜も効果が薄いと考えたのだろう。

 この戦いが終わったら出るところに出なければならぬ、あなたは決心を固めて殺意が漲った。

 

 あなたがドタバタ蘇生魔法を唱える間に、戦況は大きく動いていた。

 

 王国の護衛戦力、扶桑月夜の信者こと<月世の会>の一団が【獣王】に虐殺され。

 クラウディアとアルティミアは煌玉馬に乗って仲良くお空で殺し合い(デート)に。

 シュウはガーディアン体のレヴィアタンを連れ出してどこぞへと消えてしまった。マジかよ兄弟。

 

『……OMG』

 

 これには【獣王】も呆れ顔である。

 まったく困ったクマとヤマアラシであるな。

 コミュニケーション能力に定評のあるあなたはベヘモットの心中をお察しして励ましの言葉を送る。

 

『……違うけど。……指示通り、あなたの蘇生を止められ(足止めでき)なかったから……でも、少しは楽しめそう?』

 

 ベヘモットはあなたをロックオンした。

 どうして<超級>は話が通じないのだろう?

 争いを嫌う平和主義者のあなたは、暴力の化身な【獣王】に付き合う訳がない。ノーサンキューである。

 そういうのはレイ・スターリングの役割だ。

 

 一仕事終えたあなたは選択を迫られる。

 引き続き雇われ戦力として皇国の<超級>と刃を交えてもいいし、襲撃を受ける王都に向かってもいい。

 あなたの内心は後者に傾いている。

 王都にはリリアーナがいる。あなたは心配する立場にないかもしれないが、もし万が一……。

 

 あなたは踵を返した。

 王国とあなたを嵌めたクラウディアへの落とし前は次の機会で差し支えないだろう。

 どの道、個人的な事情を含めても、彼女の命までは奪えない。王族殺害は国際指名手配の第一歩だ。

 今度会ったら死んだ方がマシなレベルの辱めを味わってもらう。実に愉しみである。

 

 お先に失礼します。お疲れ様でした。

 できるあなたは退勤時の挨拶を欠かさない。

 

「本当に帰るの? この状況で?」

 

「いえレイさん。襲撃された王都に戦力を回すこと自体は()()です。この人なら間に合う可能性がある。ただ……この場で<超級>二人を相手取るには……」

 

「俺たちの戦力が足りない、か」

 

 レイは己の力不足にほぞを噛む。

 現状はルークの分析通り。あなたの見立てだと【獣王】一人でどうにか、というレベル。

 更にレヴィアタンや【魔将軍】が加わったなら、勝率は小数点の彼方を通り越してゼロになる。

 ゆえにシュウは“物理最強”を分断するため、単独レヴィアタンと怪獣大決戦()したのだろう。

 

「……無職さん! 頼む、手を貸してくれ!」

 

 レイは迷わなかった。

 

 それはつまり、お仕事だろうか。

 あなたは静かに問いかける。

 

「ああ、依頼内容は【魔将軍】の討伐。報酬は……俺ができることなら何でもする!」

 

 今、何でもするって言ったよね?

 あなたは言質を取った。

 依頼主とあなたが揃う。これはお仕事である。

 ならば謹んで拝命しよう、と。あなたは逸る気持ちを抑えて頷いた。さっさと片付けて王都に行くで。

 

 ほなサービス残業や。

 

 あなたはカツラをかぶった。

 

 あなたは【ミスティコ】を飲み干した。

 

 あなたは【勇者】になった。

 

 あなたはアイテムを取り出した。

 

 山盛りの【リソース・チャージャー】。

 腕輪型のアクセサリー。

 重量感たっぷりの埴輪。

 

 ――《コール・デヴィル・ゼロオーバー》。

 

 あなたは莫大なリソースを含む生贄を捧げて。

 

 ――《極大(マキシマイズ)》。

 

 サブジョブに置いた【魔将軍】のスキルで、神話級の悪魔を召喚する。

 

「な……!?」

 

 ローガンは言葉を失っている。

 当然だろう。自分が最も信頼する切り札、【ゼロオーバー】が敵方に付いているのだから。

 

「お、俺ですら【ゼロオーバー】を喚ぶ時には特典武具を捧げないといけないんだぞ……それを、こんな簡単に……しかも《極大》、だと?」

 

 あなたは運営主催イベントでエストが溜め込んだ財宝をいくつもかっぱらっている。

 ひとつが【大小喚の輪(ビッグ・オア・スモール)】という装備品だ。

 コストを増減させて召喚モンスターを強化ないし弱体化できるアクセサリーだが、使い勝手が非常に悪い。

 強化する場合、コストは数倍〜数十倍に。そのくせ強化率は増加したコストの十分の一にとどまる。

 

 同じくエストから奪った大量のヒヒイロカネ(神話級金属)でないと、到底賄えないコストであった。

 ちなみに埴輪のアイテム名は【DX超合金等身大あなた(高品質ヒヒイロカネver)】である。

 

 見て閣下、神話級悪魔よ。

 

 見て神話級悪魔、閣下よ。

 

「ふざけるな……! 認められるか!」

 

 あなたは寛容な心で他者の意見を受け入れる。

 仰る通り、これでは単なるおふざけだ。

 

 でも大丈夫! おかわりがあるよ!

 

「……はぁ?」

 

 あなたは笑顔で追加の《コール・デヴィル・ゼロオーバー》を連打した。えいえいおー!

 二個、三個と砕け散る等身大あなた!

 背後に整列する【ゼロオーバー】の壮観なこと!

 やっぱ【将軍】シリーズは数揃えてなんぼだね!

 【魔将軍】鬼つええ! このまま逆らうやつら全員ブッ殺していこうぜ!

 

 召喚師系統の《多重同時召喚》で召喚数を上乗せしているため、あなたの出費は鰻登り。なお今回の経費はレイに請求する腹つもりであった。

 

 しかしコストパフォーマンスが最悪である。

 ローガンは実質ノーコストで同じことができる。

 そう考えるとあなたは羨ましい気持ちで胸が一杯に埋め尽くされた。ルンペルすげー。

 

 彼ならバフスキルの効率も良いのだろう。

 あなたは悪魔の強化で少し無理を通した。

 

 《ブーステッド・デヴィル・ストレングス》。

 《ブーステッド・デヴィル・エンデュランス》。

 《ブーステッド・デヴィル・アジリティ》。

 それぞれ悪魔のSTR・END・AGIを20%強化する【魔将軍】の固有スキルだ。神話級悪魔の軍団にバフをかけているせいで、あなたのMPはゴリゴリ削れている。

 

 従魔師系統の《魔物強化》。

 本来【魔将軍】はシナジーがないため使用できないが、【勇者】の《全連結(フルリンク)》があれば問題ない。

 

 付与術師系統の全体強化魔法。

 強化量は術者の最大MPに依存する割合バフだって、【龍帝】の恩恵で数千万のMPを誇るあなたは十全に扱える。

 

 軍師系統の《軍略》。

 味方全体にかかるバフの効果量を高めるスキル。

 

 しめて二枚の《インターン》のストック消費。

 関連サブジョブを再就職したことによる戦力低下。

 有事に備えて蓄えた埴輪の放出。

 これらのデメリットを受け入れて、あなたが過剰とも言える攻勢を選んだ理由は単純だ。

 

「待て無職! こんなの……」

 

 悪いが急いでいる。道をあけろ。

 あなたは冷淡に告げ、ローガンを視界から外す。

 彼が率いる伝説級悪魔(【ギーガナイト】)の軍団は、神話級悪魔(【ゼロオーバー】)の群れにより全滅した。

 

 

 ◇

 

 

 後にレイ・スターリングはこう語る。

 

 圧倒している無職の方が余裕がなかった。

 ふざけている様に見えて顔色は蒼白で。

 追加でもうひとつ仕事を依頼していたら、自分達はどうなったか分からないと。

 

 それを聞いたあなたは彼の心配を笑い飛ばした。

 レイはどうやら誤解している。

 やるならまず皇国からでしょ、と。

 あなたは依頼主を尊重する<マスター>なのだ。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「いらっしゃい。チュートリアル以来かしら」

 

「私はチェシャの代理よ。あの子は用事があって対応できないから、その穴埋めね」

 

「『アバターの恨み』? でも急いでいるのよね。私に怒りをぶつけている時間がアナタにあるのかしら。早く向かわないと彼女、死んでしまうわよ」

 

「いいえ。これは単なる演算の結果。アナタがどうなろうと、彼女がどうなろうと、私は気にしない。運営が一人を特別扱いするわけないでしょう?」

 

「だから今回の件、私は判断を決めかねているのよ。イベント報酬とは言ってもね。原則、私達はアナタ達に干渉しない。特に<超級>であるアナタには」

 

「冗談よ。運営としての仕事は果たすわ。アナタだってそのはずよ。これまでも、今回も」

 

「……あら」

 

「そう……アナタは、もう、()()()()()()()()

 

「考えてみれば当然よね。“あなた”が<超級>に進化したきっかけは彼女だもの」

 

「申請を受諾したわ。アナタも考えたわね。確かにサービス初期はフレンド機能の拡張スキルをイベントで配布したけれど、これは実装されずに終わった」

 

朋友の側に転移する機能(フレンドワープ)なんて便利過ぎるもの」

 

「それと、このスキルは一度しか使えない。というより使わせないと表現するのが正しいわね。理由はゲームバランスの崩壊を防ぐため、と答えておくわ」

 

「……心外ね。ご覧の通り、仕事はしているでしょう」

 

「プレイヤーネーム:■■■の転送開始」

 

 

 ◇◆◇

 

 

『助けてください』

 

 あなたは確かに聞き入れた。

 であるならば、一も二もなく応えよう。

 助けるとも。()()()()()()()()()()()

 

 あなたは満身創痍の女騎士を見た。

 傷ついても色褪せない美しい輝き。

 その命脈が繋がっていることに安堵する。

 ティアンとフレンド登録できる仕様でよかった。

 

 さて、あなたの大切な友人(リリアーナ)を傷つけた不届者はどこだ。決して許してはおけぬ。

 

「今あなたが斬ったそれです」

 

 さよか。

 

 あなたはどこにでもいる<マスター>である。

 ただ、本日はちょっとキレている。




・ハンプティ
プライベート(シュウのバトルを観戦していた)のいいところで呼び出されたので不機嫌。
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