無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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二人の共同作業

 □■王都アルテア・王城

 

 飛び出した【失業王】は《虎歩(シュクチ)》で加速する。

 虚空を踏みしめる変則機動で死角に入る算段だ。

 一呼吸で老爺の首は落ちるが道理。

 

 しかし【コクレア・イデア】に焦りはない。

 

(……左薙、と見せかけての袈裟斬り)

 

 視界に映った無職は立ち止まっているようなもの。

 動作の微々たること。逃げるのは容易だった。

 

 ゆるりと妖刀の間合いから離れる。

 それも周囲の認識では瞬きより短い間に。

 まるで時間停止に等しい異能だが、見かけほど便利なものではないと老爺が何より理解している。

 

 【侍従長頭】の奥義、《パーフェクト・サービス》。

 非戦闘時に限定した相対速度の補正……時間停止にも匹敵する自身へのAGI加算バフである。

 戦闘に転用できるスキルではなく、ゆえに【コクレア・イデア】は条件を維持した上で逃走に徹する。

 

 条件のひとつは『屋内』であること。

 老爺は超級職のスキルを最大限活用するため、“改人”となる際に異空間への収容能力を付与された。

 レジェンダリア産の魔法馬車を素材に、強度と空間拡張機能を強化した蝸牛の殻。

 一度内部に囚われたなら、自力で外界との境界線に到達することはおよそ不可能な広さを誇る。

 

(相手は無防備。しかし欲目を出せば狩られる。ここは焦らず、逃げの一手に限りますか)

 

 槍を手に、殺意を向けた瞬間に加速は途絶える。

 唯一の利点を捨てたら老爺に勝ち目はない。

 

 侍従系統の役目は専ら屋敷の管理であり、野外で、ましてや戦場で力を振るう機会など不要。

 陣中では事情も異なろうが、少なくとも世界の前任管理者はそうあるべきと技能を定めたのだろう。

 

 老爺は己の非才に口惜しさを感じるばかりだ。

 彼が戦闘系超級職であったのなら。

 正面から仇に挑み、潔い結末を迎えただろうか。

 あるいは主家の災禍に駆けつけられたやもしれぬ。

 何もかも無意味な仮定である。

 

 あの日、老爺は北玄院家に赴いていた。

 主命であった。娘の婚姻の儀に相応しい支度を。

 宴の用意も、賓客も、手筈は整えていたのに。

 我が事のように祝言を喜ぶ大名は、【織姫】手製の装束を譲り受けて来いと戯言を口にした。

 使者は老爺しかいなかった。四大大名家が抱える食客の<マスター>に無理を通すことができるのは。

 

 老爺が離れている間に事件は起きて。

 主家の凶報を知った老爺は、偶然その場に居合わせた【勇者】草薙刀理に懇願した。

 

(【勇者】は下手人を討ち取った。ですが<マスター>は三日後に生き返る……余りにも、やるせない)

 

 仕える家を失い、死に場所を失い、最後に残ったものは虚脱感だった。

 

『でしたら復讐されては? 私なら例えばこのように』

 

『コッコッコッ。あっしらは骨を拾っちゃやれませんが。ちょうど良い御仁を紹介してやりましょう。ラ・クリマさんという方でございやしてねえ』

 

 十中八九、甘言の類いで間違いなかった。

 だが導かれるままに力を求めて機会を待った。

 

 そして今、万に一つの好機が巡ってきた。

 

(なんと情けない我が身でしょう)

 

 彼は外道に唆されて悪鬼に堕ちた。

 報復のため他者に縋り。

 悪業に手を染めて無辜の人間を巻き込む。

 

(私には手段を選ぶ自由もない)

 

 己の誇りと仕えた家の名を汚す罪深さを自覚してなお、感情を優先する未熟さを老爺は恥じた。

 

 それでも導き出した唯一の勝ち筋。

 この方法なら、己の目的(復讐)を遂げることができる()()()()()()と気付いてしまった。

 

 故に――彼は小数点の彼方に手を伸ばす。

 

 無職を軽くあしらう【コクレア・イデア】。

 彼我の速度差は圧倒的なもの。常に老爺は一定の距離を保ち、妖刀の間合いに身を置かない。

 魔法も同様だ。西方の詠唱式魔法は見てから範囲外に。東方式の魔法は発動前に対処する。

 老爺は掃除の要領で散らばる符をひとところに集める。家事の範囲とみなされ、奥義の加速は途切れない。

 

 回避できない攻撃の予兆は妨害する。

 空間内に配置した調度品。これらを模様替えのように、無職の動作を妨げる位置に移動させる。

 

 これこそ空間破壊を防いだ理屈である。《破壊権限》は攻撃で発動するスキルだ。攻撃とその対象甲の軌道上に別の物質乙を置き、『乙に対する攻撃』とみなす。

 ただでさえ無職の攻撃力は異常だ。純粋な力技で殻を突破されるリスクを踏まえ、【コクレア・イデア】はあらかじめゼタに対策を授けられていた。

 

「…………」

 

 のれんに腕押しを理解した【失業王】。

 周囲を観察してから得心がいったと頷いた。

 

 直後、攻勢が激しさを増す(ハードからルナティックに)

 

 無職は攻めの性質を切り替えた。先程までのような【コクレア・イデア】を狙う偏差攻撃ではない。

 無差別に、無造作に、乱雑に。

 当たろうが当たらまいが関係ない。とにかく広範囲に、老爺が阻止できない妖刀による同時多段魔法。

 メインを単体攻撃から全体攻撃に変えて、【コクレア・イデア】の逃げ道を潰しにかかる。

 

 老爺の速度ならば回避は容易だ。

 やすやすと雷雨の弾幕を潜り抜けられるだろう。

 

(……まずい)

 

 だが、老爺は有利が崩れたことを悟り。

 

 ――何がまずい? 言ってみろ。

 ――無職は笑顔で首を取りにかかる。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 あなたは【侍従長頭】というジョブをご存知だ。

 なぜなら過去に文献を調べたからである。

 一度でいいから有能執事になってみたいものだ、という第六形態あなたの試みは超級職先着おひとり様限定サービスというクソゲー仕様により頓挫した。

 

 閑話休題。

 

 あなたは敵の速度のカラクリを見抜いた。

 なるほど【侍従長頭】の奥義であると。

 これは『非戦闘状態』『屋内』に加えて、『人間の側に移動する』という制限が課せられている。

 本来は屋敷内で主人に呼ばれた際、いちもにもなく駆けつけるための移動用スキルであるからだ。

 

 あなたは落雷で焦げた床板を引っ剥がして、その下に隠された試験管を摘み上げる。

 座標指定用のホムンクルスとは考えたものだ。

 異空間の各所に隠した小さなホムンクルス……人造のティアンを対象に奥義を発動して、必要に応じて移動先を切り替えていたのだろうと推測される。

 けれど残念無念ごめんあそばせ。視界内の人造生命ベイビーは丸ごと感電であの世行きである。

 

 もう【コクレア・イデア】は逃げられない。

 

『魔法の範囲の外に置いたホムンクルスは健在ですが……いけませんね。既に詰みのようだ』

 

 老爺は周囲を見回してため息を吐いた。

 ご推察の通り、あなたがホムンクルス大量虐殺したのは有視界の射程圏内のみである。

 異空間は広大なので、老爺が逃走を図った場合、仕切り直しのイタチごっことなる恐れが高い。

 

 なので事前に逃走を封じている。

 

『四方を囲う怨念の糸。無理に突破したなら、私は細切れになってしまうでしょうね』

 

 張り巡らされた射干玉の繊維は注視してようやく視認できるか細い繊維であり、一本が生半可な妖刀を優に上回る斬れ味を誇る鋼糸。

 

 要するに髪の毛であった。

 

「…………!(まずは髪の毛を一日中いじくる)」

 

 妖刀四十二染が一振り【分御髪】。

 その限定奥義と呼ぶべき《髪斬》だ。

 髪の毛を具現化する毛フェチの執念おそるべし。

 

 ともあれ。あなたは老爺に選択肢を与えた。

 

 本日のスケジュールはこちら。

 手段を選ばないビターな復讐デッドエンド。現在進行中のご予定でございますが、念のため。

 今ならたったの50リルで武士の誉れ正々堂々トッピングに変更可能。バチクソお得でございます。

 

『なぜそのような提案を?』

 

 あなたは遍くお仕事に敬意を払うべきと考えている。

 それは決して社会通念上の職業に限らない。

 例えば正義の味方や、復讐者も然り。

 老爺がどのような選択をしようと、あなたは、決して嘲りはしないのだと言葉を紡ぐ。

 

 あなたは悲劇も嗜むが、喜劇の方が好きなのだ。

 それがダメでも比較的幸せな結末が好みである。

 メリーバッドエンドをハッピーエンドと混ぜる、カスの錬金術師のようなあなたのフレンドとは違う。

 

 それはそれとして、襲って来る連中は容赦なく返り討ちにする。あなたは自分を大切にする遊戯派だ。

 

『話には聞いていましたが、やはり…… あなた方(<マスター>)はどこまでも自由なのですね』

 

 いいからさっさと決めてちょうだいな。

 早くリリアーナと合流したいという本音を漏らしつつ、あなたは老爺に決断を促した。

 このまま何もせず首を落とされたいのだろうか。

 

『しかし』

 

 あなたに背中を向けた【コクレア・イデア】は。

 

『私には果たすべき責があります』

 

 毛髪の囲いの外側目掛けて加速する。

 殻の装甲を盾代わりに、触れれば両断の網へと。

 

『今更それは捨てられませんよ……!』

 

 切り裂かれ、傷ついてなお。

 老爺は泣かず。しかして赤い涙を流す。

 

 改人の強靭な肉体と再生力で無理を押す【コクレア・イデア】だがやはり無謀であった。

 何より致命的なのは、頼りの速度を発揮するため、足を踏み出さなければならぬのに。

 加速した状態で鋭利な刃物()に衝突すれば断ち切られるのは必定。そうでなくとも反動が肉体を襲う。

 傷つき足を止めた【コクレア・イデア】は蜘蛛の巣に囚われた羽虫のように絡め取られた。

 

 あなたは静かに五秒数えた。

 最低限の譲歩であり、黙祷だった。

 彼があなたを前にして成し得た戦果である。

 

 では、死ぬがよい。

 

 あなたは愛刀に魔力を注いだ。

 今のあなたは埴輪に頼らず、自前のコストで愛刀の欲求を満たすことができる。

 毛フェチの残留怨念。漆原の水神というエッセンスを核に据えて、練り合わせたMPとSPを形に。

 愛刀転じた白鱗の蛟が動けぬ老爺を睥睨した。

 

 その顎が痩身を呑み込み、

 

「…………!?」

 

 白竜の仮初の躰は内側から弾け飛んで。

 

 あなたの眼前に()()()()()老爺が現れる。

 

『こそげ、【髭剃】』

 

 驚愕のあまり、あなたはノータイムで迎撃。

 速度差は残酷に行動順を決定する。

 あなた本気の拳が老爺の顔面に突き刺さり、【コクレア・イデア】は地平線ならぬ異空間の彼方へ。

 

 同時に、あなたは……

 

 

 ◇◆

 

 

 名槍【髭剃】は由緒正しい天地の業物である。

 過去の【征夷大将軍】が刀匠に命じて造らせたそれは、元々一対の刀であったとされる。

 刀匠が鍛えた二振りの姉妹剣。その片割れ。

 より正確に述べるなら、先に打たれた刀の『安全装置』として用意された名刀だ。

 

 幾度の戦乱で刀身が折れ、槍の穂先として打ち直された今も秘めた力は失われていない。

 

 【髭剃】は()()()()()

 

 刃に映した対象のあるべき姿を捉えて、生来の輪郭からはみ出した余計なリソースを切除する。

 魔性の権能を切り取る姉妹剣を管理し、溜まるばかりの容量を削除するため造られたのである。

 

 故に此度、【髭剃】は本来の役目を果たす。

 怨念に染まった退魔の太刀……白竜として実体化した権能の一部を刈り取る形で。

 

 

 ◇◆

 

 

 あなたは異空間から脱出した。

 

 眼前には血塗れの老爺が倒れている。

 満身創痍である。限界を超えたダメージを受けて、殻の中からあなたを放出したのだろう。

 もはや指一本動かすことができないようだ。

 

「ご無事でしたか!」

 

 あなたの元にリリアーナが駆け寄る。

 はて【怪物王】はどこだと周囲を見渡すと、異形は既に力尽きて倒れていた。リリアーナ大金星である。

 

 されど当然の結果か。

 リリアーナと【怪物王】の差は超級職。

 即ちステータスの格差が最大の問題だった。

 あなたの支援魔法で差を縮めてやれば、あとは自力の勝負となる。狂戦士染みた【怪物王】は明らかに技巧とかけ離れていた。リリアーナが負ける要素はない。

 

 あなたはドヤ顔で胸を張った。

 見なよ、あなたの友人(リリアーナ)を。

 言語化すると大体そんな感じである。

 

「なんですいきなり……というか、別にあなたのではないんですが!?」

 

 彼女の指摘は右から左。

 無敵モードのあなたは死角しかない。ふし穴である。

 

 とはいえ、完全勝利かというと。

 必ずしも断言できない事態にあなたは陥った。

 

 あなたは無職()になった。

 

 具体的には、ステータスが一桁〜二桁に。

 レベル0の無職相当に低下している。

 

 あなたの<超級エンブリオ>【天職才人 グリゴリ】は過去に就職したジョブのステータスを保持できる。

 必殺スキル《労働の権利と義務を有す(グリゴリ)》の効果だ。

 それが機能停止。ステータスの加算値、バフを含めた数値がグレーアウトしているのだ。

 残るは【失業王】の貧弱なステータスのみである。

 

 老爺が手にした槍の効果だとあなたは推測する。

 就職可能ジョブは変化ないためスキル無効化ではない。あくまでステータスの初期化……否、加算ステータスの一時的な紐付けが解除された状態といえよう。

 どちらにせよ、今のあなたが子供にも負ける無職に成り下がった事実は大差ない。

 

『やはり、届きませんか』

 

 リリアーナの無事を悔やむ【コクレア・イデア】。

 微かな怨嗟は、何故だろうか、穏やかに響く。

 

 急ぎ敵の首を刎ねなくては、息の根を止めないと何をしでかすか分からない、とあなたは慌てた。

 天地の修羅は最後まで殺意たっぷりだもんな。

 だが弱体化あなたは愛刀を持つのも一苦労である。

 

『……最期にひとつお尋ねしたい。聞き入れてもらえるのなら、この首は如何様にも』

 

 どのみち長くはないので、と。

 瀕死の老爺は戦意を散らして乞い願う。

 

『本当に、あなたは濡羽様を()()()()()のですか?』

 

 …………。

 

 …………。

 

 …………。

 

 あなたは端的に回答した。

 それを聞いた老爺は項垂れる。

 

 あなたは愛刀に指示を出した。

 彼の急所に毛髪を絡め、首を落とす瞬間。

 

『■■■■■■■■■■■■――!!』

 ――伏した怪物が吼え猛る。

 

 背後を振り返り、あなたは目を見開いた。

 斃れた【怪物王】が起き上がるという予想外。

 リリアーナも驚愕に固まる。直接戦った彼女は、敵の討伐を確認していたのだろうが。

 

 怪物は――埒外ゆえに怪物と呼ばれるのだ。

 

 不死身の強靭さを発揮してのけた【怪物王】はしかし、既に人の姿を保っていない。

 爛れた脂肪。赫々とした瞳孔。輪郭は崩れて泥状に溶け出し、直視しがたい肉塊が蠢いている。

 節々から突き出した無数の骨刀が唸り。

 内蔵する怨念は可視化されるレベルに凝縮され、高まっていく様子が感じ取れた。

 

 接合パーツの意図的な暴走。つまり自爆。

 有識者あなたの見立てなら、王都が丸ごとクレーターになる威力を叩き出すだろう。

 

『いけない……鎮まれモンストロ……!』

 

 最も焦りを浮かべたのは意外にも老爺だった。

 一度は戦意を失った躰に鞭を打ち、槍を構える。

 だが【怪物王】の方が一手早い。肥大した肉塊から伸びる骨刀が二本、【コクレア・イデア】を貫いて、そのまま腐肉の内側に引き摺り込む。

 

『ぐっ……!?』

 

 復讐を果たせなかった男は、あなたが首を刎ねる前に、怪物の腹に落ちて消えた。

 

 幾許かの既視感(デジャヴ)をあなたに残して。

 

 あなたはグリゴリの頁を連続で破った。

 超音速機動で突撃したあなたに肉塊の魔の手が迫るが、全てすり抜けるので回避は不要だ。

 肉塊まで辿り着いたあなたは【絶影】の《消ノ術》を解除して、【暗殺王】の奥義《相死相殺》を発動。

 接触及び自分の死を条件とする耐性無視の即死効果で相打ちを狙うも……スキルの不発を確認して後退した。

 

 あかん、もう死んどる。

 

 あなたは【怪物王】の殺害を試みた。

 殺して自爆を阻止するためである。しかし、既に【怪物王】の生命活動は停止していた。

 これが意味するところは即ち。

 

「【()()()()()()()()()()()()()?」

 

 リリアーナは青褪めた表情でつぶやく。

 

「何か方法はありませんか!? このままでは殿下や、王都の人々まで巻き添えに!」

 

 あなたは大抵のお仕事をこなす<マスター>だ。

 しかし……今のあなたは分が悪い。

 

 本日《インターン》のストック五枚、そして【ミスティコ】と【ロールバック】を使用済み。クールタイムが開けるのは先の話。

 ステータス保持はまだ不具合を起こしており、あなた十八番の【失業王】とグリゴリのコンボも使えない。

 愛刀はガス欠。こちらも相当怨念を削られて、大規模魔法のコストが不足している。

 おまけに現在就職している【絶影】と【暗殺王】は有効打に欠けている。これらは隠密・対人戦闘特化のジョブである。自爆を止める、あるいは敵を肉片すら残さずに殲滅するようなスキルは持ち合わせていないのだ。

 

 このままでは全員まとめてゲームオーバー。

 皮肉なことに【コクレア・イデア】の復讐は達成間近まで進んでいた。

 

「そんな……いえ、それでも」

 

 肉塊は廊下を侵食して拡大を始める。

 王城を覆い尽くした時、臨界に達するだろう。

 

 あなたはタイムリミットまでのわずかな時間を自由に行動する権利がある。

 リリアーナを連れて王都から脱出してもいいし、自分だけログアウトしてもいい。

 

 もちろん、この場に留まることだって。

 

 リリアーナの心はまだ折れていない。

 この期に及んで解決策を探している。

 自分の無力を知りながら、それでも王国のため、困難に立ち向かわんとする黄金の精神。

 

 やはり女騎士って奴は最高でござるな!

 あなたのテンションは天井突破した。

 

 悩む彼女にあなたは告げる。

 先程述べた通り、あなた一人では難しいが。

 あなた達……リリアーナと二人ならば。

 この事態を打開できる可能性がある、と。

 

「ならもったいぶらずに早く教えてくださいッ! 今のやり取りに何の意味があったんですか!! 時間がないって分かっているでしょう!?」

 

 怒られた。解せぬ。

 あれー? ここは逆転の目が見えて希望が溢れるシーンじゃないのー? あなたは訝しんだ。

 

 ともあれ。

 あなたは【聖騎士】になった。

 残りの【リソース・チャージャー】を使ってジョブのレベルを100まで引き上げる。

 

 パンパカパーン!

 あなたは《グランドクロス》を覚えた!

 

 あなたのグリゴリは一度リセットしたジョブに再就職する際、レベルとスキルを一から鍛える必要がある。

 なので再就職した直後は弱体化するのが常である。スキルを覚え直すのは楽ではない。

 

 だが【聖騎士】の奥義《グランドクロス》の条件は『【聖騎士】のジョブクエストで助けた人数×0.5%の確率で、レベルアップ時に習得』だ。

 これまで数多のお仕事をこなしたあなたは100%の確率でレベルアップ時に再習得できる。

 やはり積み重ねた経験は決して無駄にならない。

 

「いきます――《グランドクロス》!」

 

 迸る光の奔流。聖なる十字が肉塊を焼く。

 ただの《グランドクロス》じゃねえぞ。

 リリアーナと累ねる《グランドクロス》、“累ね《グランドクロス》”である。

 

 通称“累ね”と呼ばれるシステム外スキル。

 複数人が同じスキルを同一のタイミングで発動させることで、威力と射程を伸ばす高度な連携技術だ。

 

「あの、一応これ近衛騎士でも限られた人間しか扱えない技術なのですが……?」

 

 近衛騎士団の切り札ってカッコいいよね。

 でもまあ? あなたとリリアーナは友人(マブ)なので?

 息を合わせるくらいは余裕のよっちゃんである。

 本当はコソ練の成果だったりする。内緒である。

 

 腐った山盛りパンケーキのような肉塊に聖属性は効果バツグンだ。あなたの見立て通り、一部のパーツがアンデッド由来の性質を帯びているようだった。

 弱点特攻でより火力を増した光の奥義は、肉塊の侵食を妨げて、末端を消し飛ばしている。

 

 あなた達は肉塊を押し込むように前進。

 徐々に肉塊の体積を削っていく。

 

 だが一定の境界線を超えると歩みが止まる。

 肉塊の増殖と、奥義の殲滅速度が拮抗する地点。

 自爆阻止には肉塊を根絶せねばならず、あなたとリリアーナ二人の“累ね"では出力不足だった。

 

「ッ……」

 

 ……厳しいか。

 あなたの疑念で“累ね”が揺らぎ。

 

 

 

 

 

『こそげ――【髭剃】』

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()

 膨れ上がった肉片がまるで自重に耐えかねたかのように剥がれ落ち、肉塊の内側に隠された核……【怪物王】だったモノが表出する。

 

 す、隙ありィィぃぃぃぃぃッ!!

 

 あなた渾身のドロップキック。

 肉塊の核を廊下の一角に押しやることに成功した。

 

 核は海属性魔法らしき壁に隔離される。

 それは天に伸びる円筒のような囲いだった。

 あなたは城の地下避難区画で急激に高まる熱源反応と、呼応する結界魔法の起動を知覚し、これを利用した。

 

 直後、眩い光が壁から漏れ出す。

 あなたはリリアーナを抱えて全力疾走。

 太陽が燃え尽きたような光熱と音から背を向けたので、蒸発する肉塊を見届けることはついぞなかった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 後日関係者から耳にした話によると、あなたが利用した現象は【炎王】フュエル・ラズバーンと当代【大賢者】インテグラ・セドナ・クラリース・フラグマンによる魔法合戦だったのだという。

 

 あなたは凝り固まった己の認識を改めた。

 やはりティアンも大概、頭がおかしい。




なぜか知りませんが、皆さん誤字報告やここすきに飛ばれますね……いや本当に理由は分からないのですが……

・主人公
実は割と、相当追い詰められていた。
お姫様抱っこで味方と合流した。

・リリアーナ
歩けますからッ! 下ろしてください!?

・肉塊
魔◯柱ハーゲンティ。
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