無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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酒場の看板娘

 □■王都アルテア

 

 あなたは仕事を選ばない<マスター>だ。

 この選ばないとは、働かないという意味ではなく、選り好みをしないということである。

 未来は依頼内容と報酬次第なのだ。

 

 勤務時間中に絡んできたリリファン精鋭を軒先でぶちのめして、美少女あなたは喧騒飛び交う酒場に戻った。

 天井に吊るした肉の塊を小突き、狭い店内全てに聞こえるように、大きな声を張り上げる。

 

 大変お騒がせしましたお客様。こちら当店からのお詫びの印、嘘吐き(バーベナ)のハムでございます。

 

「ヒューヒュー!」

「よっ、待ってましたー!」

「かわいい男のストッキングで濾したエールは最高でおじゃるな!」

 

「ちょっと待てぇぇぇぇぇい!?」

 

 景気の良い野次が聞こえる。

 あなたはレジェンダリアの混沌を思い返した。

 ふち舐め男は今も元気でやっているのだろうか。

 

 そんなこんなで今日のお仕事である。

 あなたが受けたクエストは酒場の給仕。

 制服支給。賄いあり。学生さん歓迎。

 飲食業ゆえ、長い黒髪をツインテールに結んだ美少女ウェイトレスあなたに刮目せよ。

 

「そうじゃない! なんで何もしてないのに簀巻きで吊るされなきゃならないのさぁ!?」

 

 胸に手を当てて省みるとよいだろう。

 バーベナの罪は報連相の欠如。

 具体的には、強くなりたいとあなたに教えを乞う立場に関わらず、タキオンの仕様を隠蔽したことだ。

 おまけに運営主催イベントで修羅と引き合わせた事件を忘れたとは言わせない。

 いくらあなたがお仕事を選ばないといっても許される行為と許されない蛮行が存在する。確信犯は死刑。

 

「スゥ……いやそのぅ……テヘペロ⭐︎」

 

 あなたは愛刀の鯉口を切った。

 

「いやだ! 薄切りスライスはいやだぁ!?」

 

 少しは反省して心を改めることができないのか。

 世の中かわいいだけでは駄目なのだ。

 おら媚びるな雄豚め。逃げようと暴れるなら、人の目を気にせず見苦しく足掻いてみせるがいい。

 

 ともあれ。

 仕事中のあなたはバーベナにかまけてばかりではいられない。テーブルの注文を受けて料理を運ぶ。

 ピークタイムはかきいれ時だ。一仕事を終えた労働者、冒険者、騎士、<マスター>が酒を片手に議論を交わしている光景を横目に、あなたは愛想を振りまいた。

 

 講和会議と王都襲撃から数日。

 未だ王国のお茶の間はこの話題で持ちきりだ。

 やれ第二次騎鋼戦争で総動員令が発布されるだの、王城襲撃の実行犯は一人生き残っていて今も街に潜伏しているだの、根も葉もない噂話がとめどない。

 

「あ、無職さんじゃん」

「講和会議のこと聞かせろー」

「副団長と初めての共同作業(ケーキ入刀)したって聞いたけど本当? マジなら責任取りなよ」

「だからリリファン荒れてたんか」

 

 酔っ払いの戯言は話半分に聞き流すこと。

 それが酒場の給仕をするコツである。

 とりあえず有名どころのティアンは全員無事である、とだけ返してあなたは仕事に集中した。

 

「てかなんで酒場で働いてんだおかしいだろ」

「給仕クエって初心者向けですよね?」

「<超級>なら高難易度クエスト受けろよ」

 

 あなたは受ける者が少ないお仕事を率先してこなしているだけである。文句があるならお前が働け。

 初心者向けクエストは誰でも受注できるから。

 店番なり、薬草採取なり、都市清掃なり。わりと王国のティアンは君達を必要としている。

 

「や、ゲームで接客業とかマジないわ」

 

 これだから<マスター>という連中は。

 あなたは盛大に舌打ちした。

 お仕事に対する敬意に欠けている。ひとまず口に出した男のベーコンは焦げた切れ端にしてやった。

 

 オーダーをまとめて厨房に伝えると、酒場の料理人にして店主のティアンはあなたに泣きついてきた。

 

「なんか今日お客さん多くない? しかも他の子、みんな風邪で休むって連絡が……」

 

 店が回らないよ、と頭を抱える店主。

 客入りが良い理由はあなたが宣伝したからで何の不思議もないが、後者は中々のトラブルだ。

 

「まずいよ、この後は団体の予約があるのに」

 

 実のところ、給仕をあなた一人で回すことは可能だ。《影分身の術》を使えば不可能ではない。

 しかし、今日のあなたは酒場の一従業員である。雇われあなたは黙って店主の指示に従うのみ。

 スーパーアルバイター検定3級の資格を有するあなたの処世術。世界よ、これがコミュニケーションだ。

 

「無言で固まらないで!? ああ、この際もう誰でもいいから助けてくれぇ!」

 

 拝命した。店主の緊急クエスト発令である。

 したらば人を集めなくては。

 

「ふぅ〜ん? まあ? どうしてもって言うなら? バベちん協力してあげなくもないけどぉ〜?」

 

 チェンジ。

 

「チェンジて!? おいこら舐めんなよ無職お願いしますこの縄ほどいてぇ!」

 

 

 ◇◆

 

 

 本日のご予約は合計で三団体。<AETL連合>と<リリアーナFC>、<バビロニア戦闘団>である。

 

 きっと厳しい戦いになるだろう、と。

 あなたは粒揃いの給仕達に激励を飛ばす。

 だが不可能なミッションではないはずだ。

 忘れることなかれ。我々は看板娘である。

 

「はいなのじゃ!」

 

「おいこら」

 

 人が幸先の良いスタートを切ろうとしているところに、どうしてバーベナは邪魔をするのだろう。

 

「いや駄目でしょ。なんで王女様いるの」

 

 給仕服のバーベナが指差すのは、同じく一回り小さな制服に身を包んだエリちゃん。

 城から脱走した第二王女エリザベート殿下とよく似ているが……今回は他人の空似ということにする。

 

「うむ! ひさしぶりじゃなバーベナ。しかしきょうのわらわは『エリちゃん』じゃ。はじめましてなのじゃ」

 

「隠すなら上手くやってくれないかなぁ!?」

 

 あなたが《偽装》を施すので問題ないだろう。

 

 しかとお目付け役も控えているので安心だ。

 あなたはエリちゃんの連れを見やる。

 

 一人は仮面を付けた謎の剣聖Aだ。

 腰に帯びた【アルター】の存在感が尋常ではない。

 

「あの……第一王じ」

 

「謎の剣聖Aよ」

 

「いやでもそれ【聖剣】」

 

「あら。今なにか仰って?」

 

「ぴぃっ!? なんでもないですぅ……」

 

 剣風でバーベナの前髪を断ち切る業前。

 実にお見事である。あなたは口笛を吹いた。

 

「話があるから後で王城に来なさい無職」

 

 はい。

 

「あの。なぜ私まで……?」

 

「うむ! リリアーナにあっておるのじゃ!」

 

「あ、ありがとうございます殿下。これが終わったら速やかに帰城していただけますと……」

 

 最後に更衣室から出てきたのはリリアーナ。

 エリザベート捜索中のところを確保した。

 しかし王城関係者はわりと暇なのだろうか。

 

「全く暇ではないですね。今頃はリンドス卿一人で現場を指揮しているでしょう」

 

 哀れリンドス卿。病み上がりだというのに。

 後で差し入れを届けよう。あなたは真心を発揮した。

 

 あなたは【猛毒王】と交戦した近衛騎士団の治療に手を貸したので、彼らの負傷を直接目にしている。

 やはり王国のティアンは働き過ぎだ。少しはあなたにお仕事を分けてくれたらよいものを。

 しかし特に事後処理や王城修理など、セキュリティの都合で<マスター>はお呼びでないらしい。

 

 あなたができたのは簡単な事務仕事と、街の復興作業ぐらいなもの。あとはいつも通りの日々である。

 

「……あなたの方こそ大丈夫ですか?」

 

 リリアーナの気遣いに感謝を示し、あなたは特段異常や問題はない旨を告げる。

 ステータスの不具合は一過性のものだった。

 要するにバフの解除に近い仕組みだろう。

 あなたは地道なレベル上げで、元の能力に近い数値までステータスを戻している。

 

 他の問題といえば愛刀の不調であろうか。

 【髭剃】の力で権能を削がれた愛刀は、以前より出力が低下しているようだ。体感でおよそ二割減。

 だが、毛フェチは変わらずだった。今も押さえていないと美女の毛髪に興奮して鞘走りそうである。

 抜かせるな。抜いたら折らねばならぬ。

 

 気分を切り替えるため、あなたは手を叩いた。

 酒場に暗い顔は似合わない。

 

 いくわよ、あなたたち!

 

「ああいえ、それ(身体)もそうなのですが。(ここ)が大丈夫かとお聞きしています」

 

 あまりに直接的な罵倒。誠に遺憾である。

 気心が知れた関係特有のくだけたやり取りに、あなたはほんの少し心が満たされた。

 なお、決してマゾ気質ではないので注意すべし。それはあなたのフレンドの領分であるからして。

 

 付け加えると、あなたは看板娘である。

 これは文字通りの意味で()()()()となる。

 具体的にはベニヤ板並みのわずかな厚みと、二次元的な絵柄で、店内の装飾に同化している。

 

「さっきまで普通の人間でしたよね!?」

 

 はいはい、さすミス*1

 

「人手不足の今、なぜ自分から戦力外に……」

 

 これはあなたの灰色の頭脳が導き出した結論だ。

 今回の助っ人は王女二人とリリアーナ。

 本日の団体客は<AETL連合>など。

 ファンクラブの飲み会に推しがご登場……前世でどんな徳を積めば、と驚愕するレベルの事件となる。

 ここに酒が入ればさあ大変。<マスター>はアルコールで酔わないが、場の雰囲気に酔うことはある。

 

 あなたは<AETL連合>オーナーのパトリオットを信頼している。しかしメンバーに暴走する輩が出てこないとは限らぬ。<リリアーナFC>は言わずもがな。

 

 あなたは考えられるトラブルを事前に排除すべく! 気遣いの鬼として! 立て看板となる!

 

 具体的には、お触り厳禁を徹底する。

 触りたければ看板娘あなたを触るように。

 写真も看板娘あなたと撮るように。絵柄とポーズ、キャラクターは要相談。チェキ一枚で一万リルな。

 

 触手を生やせば配膳できるし。

 戦力を減らさず事前に問題対策を図る。

 マーベラス、実にマーベラスだ。

 あなたの有能さはとどまるところをしらない。

 

「皆さんの看板を準備したらよいのでは?」

 

 正論は時に人を傷つける。

 あなたは身をもってそれを痛感した。

 

 

 ◇◆

 

 

 あなたは団体客を無事に捌いた。

 最終的に記者会見を開催した点については誠に遺憾であるが、概ね問題はなかったと言えよう。

 何よりライザーとヴォイニッチを常識人枠で召喚できたことが幸いした。アホとバカとあなたのフレンドは彼らの振る舞いを見習ってほしいものだ。

 いきなり第三王女を呼べと言われても、そういうコンセプトのお店ではないのである。

 

 あなたは手早く閉店作業を片付ける。

 

 他の従業員は退勤済みだ。子供は寝る時間である、エリザベートを遅くまで働かせるわけにはいかない。

 多忙な第一王女と副団長も同様だ。

 どさくさでバーベナは逃げた。後で折檻確定な。

 

 清掃を終え、あとは帰るだけという段階で来客の鈴が鳴った。

 

『夜分遅くに失礼致します。まだやっていますか?』

 

 扉を開けたのは物腰柔らかな老齢の男性だ。

 どこかの屋敷に仕える執事だろうか。

 顔を仮面で覆い隠しているが、美少女あなたを前にして微かに息を呑んだことは誤魔化せない。

 

 今日はもう店仕舞いだ、とあなたは答えた。

 

『……困りましたね。牛の乳を探しているのですが、この時間帯に開いている店はどこも品切れでして』

 

 老執事は帰る気配がない。

 よってあなたからアクションを起こす必要がある。

 あなたは冷たく彼を追い払ってもいいし、お客様は神様だ精神に則って時間外労働に勤しんでもいい。

 

 ……ちょっと待ちな。

 あなたは後者を選んだ。理由は「それっぽいから」だ。それ以上でも、それ以下でもない。

 

 ミルクが余っていたはずだとあなたは厨房を物色する。そんな最中、あなたは人の気配を感じた。

 愛刀を《瞬間装備》して抜刀。曲者の首元に刃を突きつける。あなたの背後を取るなど百年早い。

 

「わ、私です! リリアーナです!」

 

 曲者の正体は給仕服姿のリリアーナだった。

 先に帰宅したはずでは? あなたは首を傾げる。

 

「いえ、その……忘れものをしてしまい」

 

 何やらモニョモニョと口ごもるリリアーナ。あなたに視線を向けては逸らすことを繰り返す。

 

「ええと、実はですね? あなたに聞きたいことが……あったんですけど……いえやっぱり……うぅ、どうしてエリザベート殿下はこのような辱めを私に……」

 

 不審な様子にあなたは疑念が強まる。と同時に、彼女の背後に置かれたアイテムボックスにお目当てのミルクが入っていることを思い出した。

 

 とりあえず、()()()()()()()()

 あなたは笑顔でお願いした。

 

「は……はあぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」

 

 リリアーナは両腕を体の前で組んで絶叫した。

 あなたの鼓膜は弾けた。《ヒール》。

 

「な、なななな何を言い出すんですか突然!」

 

 突然も何も、欲しいから頼んだのである。

 あなたは急ぎ(牛の)乳が必要だ。

 

「そうは見えませんが!? というか、……なんて出せるわけないでしょう普通に考えてッ!」

 

 そこにあるのを出してくれたらいいよ、と。

 あなたはリリアーナ(の背後)を指差した。

 

「い、今ここで!?」

 

 だから、(アイテムボックスからミルクを出してくれと)そう言っているのだが。

 

「い、いくら夜中に二人きりだからといって流石にそれは……え? 私がおかしいんですか? いえ落ち着いて。冷静になるのよリリアーナ。いくらこの人でもいきなり服を脱がせるような真似をするわけが」

 

 ……なぜ服を脱ぐ必要が?

 

「脱がずにするのがお好みなんです!?」

 

 好みとかの問題なんです?

 

 冗談はよし子ちゃん。リリアーナは大人の女性なのだから(ミルクを取り出す)経験くらいあるだろう。

 あまり人を揶揄うのはよしてもらいたい。

 

「わ、私ってそんな風に思われていたんですか? 違いますからね! そもそも私はまだ……そういうのは……したこと、ないですし。こういうのは本当に大切な相手と段階を踏んで進めていくべき事柄だと思いますっ!」

 

 嘘でしょ? リリアーナがそこまでの箱入り娘であったとは、あなたもつゆ知らず。

 しかし未経験というなら彼女の恥ずかしがりようも納得がいく。人が当たり前にできることをしたことがないというのは羞恥心を覚えて当然。

 熟れた林檎の如く朱に染まったリリアーナに愛嬌と庇護欲をひしひしと感じながら、あなたは追求をやめて、生暖かい視線で見守ることにした。

 リリアーナは今日この場、この時、この瞬間、大人の階段を登るのだ。

 

「そもそも何のために今……」

 

 飲むから。

 

「の!? っ、却下! 却下です! 最低! 変態!」

 

 ポカポカとあなたを叩くリリアーナ。

 たかがミルクでそんな言わんでも……とあなたは釈然としない気分になるが致し方ない。

 諦めたあなたは自分でリリアーナ(の後ろにあるアイテムボックス)に手を伸ばす。

 

「あ……」

 

 体幹の問題で自然と壁に手をつき、悶えるリリアーナに覆い被さる姿勢に。これ壁ドンじゃんね。

 

「まって……こ、こころのじゅんびが……」

 

 あなたは聞く耳を持たない。

 

「や……だめ、です……まだちゃんときいてない……のに……おねがい……ですから……」

 

 おい変な声を出すのはやめてもらおうか。

 あなたは反射的に防音魔法を使用した。

 昨今はコンプライアンスがうるさいのだ。

 デンドロの運営は寛容だが、あなたたちは常にアカウントBANのリスクを抱えている。

 

 ミルクひとつ取るだけで???

 やっぱりこのゲームクソゲーだろ。

 

 あなたが思考の迷路をさまよう間に、リリアーナは無抵抗で仰向けになり、あなたを見つめた。

 

「このふく、どうですか?」

 

 彼女の潤んだ瞳が、触れる吐息が、言葉の熱が。

 あなたを縛る。決して捕らえて離さない。

 

「か……かわいい、でしょうか」

 

 暗がりで微かな光を反射するプラチナブロンド。ホワイトプリムに飾られた金糸は一房に束ねられ、しかし、無秩序に乱れている。

 清潔感を意識した重ねエプロンドレスは襞が崩れて、さらにはうなじから鎖骨にかけての蠱惑的な曲線美と上気した艶やかな肌が露わになっていた。

 ゆっくりと呼気に合わせて上下する膨らみが、密着するあなたの胸部と時に触れ合い、あるいは離れ、あなたの全身に茹だるような昂りを伝播させていく。

 

 あなたは熱に浮かされたまま、口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミルク取ったどー!

 

「は?」

 

 あなたは牛の乳を片手に荒ぶる鷹のポーズ。

 目を白黒させるリリアーナから離れて、困難なミッション達成の喜びを示すように小躍りする。

 やったねダーリン、明日はホームランよ。

 

「…………」

 

 こほんと小さな咳払いで仕切り直し。

 あなたはリリアーナの問いに答える。

 

 普段見ない格好だが非常に似合っている。

 実に可憐で、美しく、可愛らしい。

 あなたポイント100点のパーフェクトだ。

 やはり新規衣装の実装は最高でござるな。

 

 ではそういうことで。

 あなたは老執事にミルクを届けるため退室した。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「…………」

 

 一方、残されたリリアーナはというと。

 

「…………」

 

 今し方の出来事を反芻して。

 

「…………そ」

 

 厨房の酒瓶を掴んで一気飲み、

 

「そういうことじゃ……ないんですよぉっ!」

 

 勢いよく空瓶を叩きつけた。

 

「は? なんです? ミルク? 全部私の勘違い? 人を馬鹿にするのも大概にしてください――!」

 

 酒精の力を借りて湧き上がる感情を吐露する。

 防音魔法に遮られてその内心を聞く者はいない。

 軽やかな夢見心地も、湯気が出そうな暑さも。

 全部お酒のせいだもん。きっとそうよ、と。

 リリアーナは自分自身に言い聞かせる。

 

 だってそうでなかったら。

 あまりに『らしからぬ』言動に過ぎた。

 近衞騎士として、ミリアーヌの姉として。

 理想の自分からかけ離れた、まるで物語に描かれる恋を知らない生娘のような……。

 

「……っ!」

 

 頭から水をかぶる。

 

(でも……ちゃんと褒めてはくれるんですね)

 

 不思議と上がる口角を指で戻し、戻し。

 全然消えてくれない火照りと酔いを覚ますため、リリアーナはもう一度、頭を冷やすのだった。

 

 

 ◇◆◇

 

 

【リリアーナ】王国近衞騎士団副団長リリアーナ・グランドリアの魅力を語るスレ99998【かわいい】

 

11:名無しのリリファン

どうしようみんな助けて

俺リリアーナのこと好きになっちまう

 

12:名無しのリリファン

よ う こ そ

 

13:名無しのリリファン

今日もまたライバルが一人

 

14:名無しのリリファン

おいでおいで(沼)

 

15:名無しのリリファン

おい、その先は地獄だぞ

 

16:名無しのリリファン

罠でもいい! 罠でもいいんだ!

 

17:名無しのリリファン

リリアーナの可愛さは万病に効く

 

18:名無しのリリファン

リアル難病入院患者ワイ、デンドロで推し活始めてから病状回復したからこれはガチ

 

19:名無しのリリファン

マジかよ兄弟

 

20:名無しのリリファン

病は気からと言うけども……

 

21:名無しのリリファン

>>19

マジだぜ兄弟

医者が言うには体内に新種の抗体が生まれたとか

 

ワイの抗体あれば特効薬できるらしいから

同じ病気のお前らも待っててくれよな!

 

22:名無しのリリファン

ありがとう抗体ニキ

同じ病気か分からないけど生きる希望が持てた

もう少しだけ頑張ってみる

 

23:名無しのリリファン

泣いた

 

24:名無しのリリファン

いい話やな

 

25:名無しのリリファン

おかしいな……室内なのに雨が

 

26:名無しのリリファン

いや晴れだよ

 

27:名無しのリリファン

関係なくない?

 

28:名無しのリリファン

というわけで

みんな<リリアーナFC>で精鋭になろう!

 

29:名無しのリリファン

導線が綺麗すぎてうさんくさい

 

30:名無しのリリファン

台無しにするな

 

31:名無しのリリファン

かえれ

 

32:名無しのリリファン

ひっこめ

 

33:名無しのリリファン

リリファンの恥晒しめ

 

34:名無しのリリファン

今日も例のアホに絡んだって本当ですか

 

35:名無しのリリファン

人様に迷惑かけて恥ずかしくないの?

 

36:名無しのリリファン

リリアーナに迷惑かけない程度にする……つもり

ただ筆頭がね、ごめんよ

 

37:名無しのリリファン

うんうん

 

38:名無しのリリファン

禿同

 

39:名無しのリリファン

また髪の話してる……

 

40:名無しのリリファン

モテない男の僻みは見苦しいのう

年齢=彼女無し歴の俺、低みの見物

 

41:名無しのリリファン

オノレ……のやつは最近荒れてるからね

 

42:名無しのリリファン

悪いやつではないんだよ

ただ過激派なだけで

 

43:名無しのリリファン

悪い人ではないのよ

諦めが悪いだけで

 

44:名無しのリリファン

悪い男じゃないんよ

タイミングと方法が悪いだけで

 

45:名無しのリリファン

悪い人ではないんですよ

まだ500リル返してくれないけど

 

46:名無しのリリファン

悪いやつではないよ?

ただ愛情表現が下手くそなだけ

 

47:名無しのリリファン

ダメじゃねえか

 

48:名無しのリリファン

わりとオノレ……には感謝してる

間接的にリリアーナの表情が豊かになる

 

49:名無しのリリファン

たしかに最近のリリアーナかわいいよな

なんかこう、キラキラしてる

 

50:名無しのリリファン

それってぇ……

 

51:名無しのリリファン

やめろ聞きとうない! 聞きとうない!

 

52:名無しのリリファン

無職と一緒にいる時は特にそう

 

53:名無しの無職

(´・ω・`)

 

54:名無しのリリファン

ホゲェェェェァァァァぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎(ブリブリグチュグチュベチョバシャ)

 

55:名無しのリリファン

あぁ〜^脳が破壊されるんじゃ〜

 

56:名無しのリリファン

でもリリアーナの照れ顔が見れる

 

57:名無しのリリファン

>>53

なんだ今の

 

58:名無しのリリファン

本人が幸せならオッケーです……

 

とはならんッッッ!

 

59:名無しのリリファン

逆に考えるんだ

あそこにいるのが自分だったら

 

60:名無しのリリファン

解釈違いです

 

61:名無しのリリファン

お、厄介オタク

 

62:名無しのリリファン

一口にリリファンといっても派閥はそれぞれ

 

63:名無しのリリファン

みんな落ち着け

リリアーナの美しい御尊顔をみろ

【画像】

 

64:名無しのリリファン

かわいい

 

65:名無しのリリファン

かわいい

 

66:名無しのリリファン

かわいい

 

67:名無しのリリファン

かわいい

 

68:名無しのリリファン

かわいい

 

69:名無しのリリファン

好き

 

70:名無しのリリファン

メロい

 

71:名無しのリリファン

リリアーナ、結婚しよう

 

72:名無しのリリファン

>>71

ここがお前の墓場だ

 

73:名無しのリリファン

>>71

遺言はそれで満足か?

 

74:名無しのリリファン

>>71

式は式でも葬式をあげてやるよ

 

75:名無しのリリファン

では自分はこちらを

【画像】

 

76:名無しのリリファン

あ゛っ!? いい……

 

77:名無しのリリファン

こーれーは叡智ですよ

 

78:名無しのリリファン

チ。

 

79:名無しのリリファン

安都クイン様のイラストじゃねえか!

すこ

 

80:名無しのリリファン

ニートのくせに絵は上手いなクイン様

 

81:名無しのリリファン

だからクイン様の配信やめられない

俺はリリファンだが働き蟻でもあるんだ……

 

82:名無しのリリファン

有罪

 

83:名無しのリリファン

厳しい、厳しくない?

 

84:名無しのリリファン

まあまあ、推しは乗り換えるものではなく増えるものといいますし

 

85:名無しのリリファン

いや胸を盛りすぎ

リリアーナの胸部装甲はもっと美しく

 

86:名無しのリリファン

そっち?

 

87:名無しのリリファン

そこらへんも派閥があるからなぁ

 

88:名無しのリリファン

あがってた新作ですの余

【画像】

 

89:名無しのリリファン

ファッ!?

 

90:名無しのリリファン

酒場の看板娘リリアーナ……だと……?

 

91:名無しのリリファン

ポニーテールやば

 

92:名無しのリリファン

なんという破壊力!

これがアルター王国の希望か!

 

93:名無しのリリファン

かわいい

 

94:名無しのリリファン

かわいい

 

95:名無しのリリファン

すき

 

96:名無しのリリファン

かわいい

 

97:名無しのリリファン

かんわいいいいい

 

98:名無しのリリファン

ありがとう、ありがとうクイン様……!

感謝……! 圧倒的感謝……!

嬉しいのでクイン様のファンやめます

 

99:名無しのリリファン

俺、働き蟻になるわ(お気に入り解除ポチー)

 

100:名無しのリリファン

いい心掛け……じゃねえですわ余!?

ちなみにこれSSをもとにしてますの余〜

 

101:名無しのリリファン

スクリーンショット……待てつまり

 

102:名無しのリリファン

王国所属ワイ、高みの見物

実際にゲーム内であった光景なんですねぇ!

 

103:名無しのリリファン

おい<リリアーナFC>

 

104:名無しのリリファン

精鋭? 聞いてないんですけど?

 

105:名無しのリリファン

…………

 

106:名無しのリリファン

…………

 

107:名無しのリリファン

…………

 

108:名無しのリリファン

お前らファンやめろ

 

109:名無しのリリファン

王国所属でない貴卿らが悪い

 

110:名無しのリリファン

俺だって……俺だってなぁ……

リリアーナと同じ街に住みたい(皇国所属)

 

111:名無しのリリファン

敵国じゃん去ね

 

112:名無しのリリファン

えーんがちょ

 

113:名無しのリリファン

やめろマジで泣く

 

114:名無しのリリファン

心情的にも情勢的にも難しいよな

>>110

ところでお前リリアーナの美少女プラモ作ってるやつだろSNS見てるぞ

 

115:名無しのリリファン

ぬッ!? なぜそれを……!?

 

116:名無しのリリファン

サブスク課金したからがんばって(はあと)

 

117:名無しのリリファン

やさしい……すき

嬉しいから新作あげるね◯INEやってる?てかどこ住み?

 

118:名無しのリリファン

今見てきた

かわいい

 

119:名無しのリリファン

あ゛……すこ

 

120:名無しのリリファン

こだわりが垣間見える

お主さては相当なリリファンだな?

 

121:名無しのリリファン

サイズ比ぴったりだスゲー

 

122:名無しのリリファン

俺はリリアーナの体型を照合できるお前が怖い

 

123:名無しのリリファン

……これキャストオフできる?

 

124:名無しのリリファン

 

125:名無しのリリファン

ガタッ

 

126:名無しのリリファン

でーきーまーせん

 

127:名無しのリリファン

できないんかい!

 

128:名無しのリリファン

よかった……殺さずに済む

 

129:名無しのリリファン

ド物騒

 

130:名無しのリリファン

ところでみんな

謝罪記者会見についてはスルーなの

 

131:名無しのリリファン

それ聞いちゃう?

 

132:名無しのリリファン

やだやだやだやだ!

 

133:名無しのリリファン

リリアーナはね

清楚で可憐で純朴で天然で

なんというか、救いがないと駄目なのよ

 

134:名無しのリリファン

お外走ってくりゅ……

 

135:名無しのリリファン

聖地巡礼(王都3周)

 

136:名無しのリリファン

触れないようにしてたのに

 

137:名無しのリリファン

まずWebに上がってた動画はなに

 

138:名無しのリリファン

リリ&無職「ケーキの材料になってもらいます」

パンケーキの魔神「──なんです?」

 

139:名無しのリリファン

違うもん! 王都襲撃の戦闘映像だもん!

有志がまとめたリリアーナ活躍VTRだもん!

 

140:名無しのリリファン

こんなのもうティロ・フィナーレや

 

141:名無しのリリファン

だから説明責任を果たしたんですね

ちゃんと誤解を解くあの人の姿勢は好き

それはそれとして恒星煙突ドロップキックってなんだよ頭おかしいのか()

 

142:名無しのリリファン

BGMと編集に悪意があるよ

最後のシーンお姫様抱っこじゃん

 

143:名無しのリリファン

ちが……違うもん……本当だもん……

 

144:名無しの“伯爵”

映像はノーカット無加工ですよ

 

145:名無しのリリファン

あ゛あ゛!?

 

146:名無しのリリファン

嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

*1
「さすが神話級特典武具の【ミスティコ】さん」の意




それでは皆様ご昌和ください。せーのっ、

・第二王女
ねるまえのホットミルクおいしいのじゃ!

・第三王女
エリザベート姉さまが喜んでくれるなら、用意させた甲斐があったわ。

・抗体ニキ
パピプペポのパ。

・安都クイン
巣篭もり女王蟻系バーチャル配信者。
主にデンドロ関連の動画を投稿している。
ファンネームは働き蟻。ファンからの愛称は安得院。
「そこはクイン様じゃねーんですの余!?」
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