無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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しばらく短めな日常ほのぼの小話が続きます


西方の大賢者

 □■???

 

 あなたは無数の本棚が並ぶ空間にいた。

 さながら図書館か、書庫のような、叡智の海。

 全て理解しようとすれば、否、見つめているだけでも、あなたの脳は焼け焦げてしまうだろう。

 

 さぁ、検索を始めよう。

 

 あなたは一人で格好をつけた。

 

「驚いたね。ここに私以外の人間が来るとは」

 

 嗚呼、なんということでしょう。

 先客が物珍しそうにあなたを眺めている。

 あなたは一人ではない。今回この言葉がもたらす感情は正ではなく、恥の一文字だった。

 

 あなたは女性に会釈する。

 挨拶はお仕事の、ひいては人間関係の基本だ。

 ましてやお偉いさん相手なら当然の礼儀。

 

「君と直接話すのは初めてかな。直接という表現が適切かは議論の余地があるけれど。私が当代【大賢者(アーチ・ワイズマン)】インテグラ・フラグマンだよ」

 

 おっす、オラ無職。

 

「君達の世界ではお決まりの冗句だね」

 

 どうやら運営にはド◯ゴンボールのファンが潜んでいるらしい。黄河とか珠とかそのまんまである。

 あなたはティアン(NPC)の軽快なレスポンスと、それを成しえる高度な人工知能技術に改めて感激した。

 やはりデンドロは神ゲーでござるな。

 

「ちなみに最初のモノマネも知っているよ。()()()()()()()()、といった感覚なんだけど……その理由については語るまでもないね? 君が《大いなる書庫(アーク・ライブラリー)》を使って、私と脳内情報を同期したからさ」

 

 あなたとインテグラがいる空間は、【大賢者】の奥義《大いなる書庫》の効果で形成された精神世界。

 あるいは記憶領域と呼ぶべき場所だった。

 

「実に興味深いね。【大賢者】が同時に複数人存在するというのは、私が記憶する限り前例がない。横紙破りここに極まれりだ。非常識が過ぎる」

 

 古来より賢者は三人と相場が決まっているものだ。

 聖書にもそう書いてある。

 つまりあと一人はいても不思議ではない。

 

 現在、あなたはアルティミアに呼び出されて、王城でこっぴどくお叱りを受けている最中だ。

 リリアーナもリンドス卿も助けてくれず。上手い解決策がないか、あなたは先人の叡智に頼った。

 アバターのあなたは意識を飛ばしたまま、適当に相槌を打っているような状態と思われる。

 

 暇だしついでに奥義の試し撃ちしようぜ!

 本音を言うとそんな感じである。

 

 あなたとて、非がある場合は批難を受け止める。

 だが今日のアルティミアはそうではない。

 

 途中までは、近衞騎士団の治療を<月世の会>経由で担当したあなたに対するお気持ち表明、次にリリアーナにまとわりつく悪い虫ことあなたの不用心な行動に伴う良縁クラッシュの危険性、と妥当なご指摘であった。

 ゆえにあなたは今後注意に励むようできるだけ努力するつもりであると反省を態度で示した。

 

 でもさあ、看板娘アルティミアをレイに見られたからどうこうは流石に知ったことじゃないじゃんね?

 

 たすけてフラえも〜ん。

 

「今の君は私と同じ記憶を辿れる。リリアーナやアルティミアの幼馴染である、この私とね。つまり会話するより頭を動かす方が効率的だよ……ああなるほど。どうやら《大いなる書庫》の情報量に君の脳が耐えきれないらしいね。君達に分かりやすい表現だと、低スペックというやつだ。処理落ちしてしまっている」

 

 軽めにあなたはディスられた。

 誰のCPUが骨董品じゃい、と憤慨する。

 

「コツを手ほどきしてあげよう。まず記憶の保存についてだけど、全体の上書きは絶対にやめてくれたまえ」

 

 あなたは教えの通りに記憶を記録する。

 お肉、人参、玉葱、じゃがいも……。

 

「それは他所でやってくれるかい?」

 

 インテグラは買い物メモを握り潰した。

 やむなくあなたは過去の経験を思い返す。

 ここまでの冒険をレポートに記録しますか?

 

「私にゴミのような記憶を見せるんじゃないよ」

 

 誠に遺憾である。あなたは悲しみに浸った。

 悪いのはだいたいあなたのフレンドだ。

 押し寄せる修羅、蔓延るHENTAI。あなたの周りに集まるのは話の通じない非常識人ばかりなのだ。

 

「気を取り直して、次に記憶の閲覧方法だ。ここには歴代【大賢者】が継承した膨大な魔法理論や知識が保管されている。君の脳は全てを処理しきれず、単なる書庫としてしか認識できていない状態なんだろう。中身を確認するには情報量の削減が必要と考えられる」

 

 頭に入っているが取り出せない状態。

 理由は<マスター>が有する精神保護だろう。

 ゆえに情報の閲覧、そして恐らく保存も、<マスター>であるあなたには制限が課せられている。

 裏を返すと精神保護なしでは廃人になるというわけだ。そんなものを平然と受け入れてしまえる【大賢者】インテグラはやはり頭がおかしいと考えられる。

 

「つまり『検索』をかければいいのさ」

 

 インテグラはあなたの言葉を引用する。

 

「たとえば、『アルティミア』『幼少期』『視覚情報』と単語を並べると……こんな感じだね」

 

 インテグラの言葉ひとつで本棚が整理整頓される。

 彼女は眼前に移動した本棚から一冊を取り出して、その中身を軽くめくった。

 

「これは剣の稽古をするアルティミア。リリアーナも一緒だね。それと三人で野営した時。こっちは夜会で貴族にお披露目をした光景……おっとすまない。君にとっては面白くもない話だろう? 彼女らのプライバシーを鑑みてこの辺りの記憶は閲覧できないようにしておこう。良識的な常識人と名高い<マスター>なら乙女の秘密を暴いたりしないと私は信じているとも」

 

 あなたは覗き魔でもストーカーでもない。

 ゆえに問題ないといえる。しかしインテグラの言葉に含み(マウント)を感じ、あなたは鼻で笑い飛ばした。

 

 なんだァ? 思い出バトルか?

 

 あなたは博愛主義者だが、売られたケンカは熨斗をつけて買い占めることを厭わないタイプでもある。

 脳内フォルダのリリアーナ秘蔵イベントスチルを展開。インテグラをギャフンと言わせる思い出を探す。

 

 幼馴染だか【大賢者】だか知らないが。

 あなたとの決定的な戦力差を教えてやろう。

 

「なるほど。ではアルティミアに報告しておくよ。リリアーナを誑かす無職とやらの行いを、ね」

 

 謀ったな。

 

 

 ◇◆

 

 

 語るまでもなく、叱られタイムが大幅に延長した。

 


 

・《大いなる書庫》

【大賢者】の奥義。脳内情報の一部を任意に記録し、自由に引き出すことができる書庫。内部ではほとんど時間が過ぎず、空間は非常に広大。未完成の魔法理論などを次代に託す程度に機能が限定されたスキル。

 

【NOT FOUND】

 

【NOT FOUND】

 

【ERROR】

 

【ERROR】

 

【ERROR】【ERROR】【ERROR】

 

 …………

 

 …………

 

 …………

 

【閲覧制限】

 

【閲覧制限】

 

【閲覧禁止】

 

【閲覧禁止】

 

【精神隔壁】【記憶閉塞】【魂魄保護】

 

【パスワードを入力してください】

 

_

 

■■■■■■(我らの時代は)■■■■■(再び輝ける)■■■■■■■(夜明けを迎える)_

 

【申請承認】

 

【閲覧制限限定解除】

 

……()()()

初代フラグマンの改造により、記録容量を限界まで増設、さらに一度に引き継ぐ知識量のリミッターも外し、使用者の全記憶を保存できるようになっている。

性質上、人間性や人格を損なう危険はいくらでもあり、膨大な知識に耐えられる才能がないと使用しただけで廃人になってしまう可能性も。

 

これによりインテグラは歴代【大賢者】の2,000年を超える記憶を継承している。

ハイエンドに与えられる<無限職(インフィニット・ジョブ)>や<終焉(ゲームオーバー)>に関する知識や、当代【邪神】の正体についても。

 

頭のおかしい無職は理論上【()()()()()()()()()()

下手にレベルを上げた場合の危険性を恐れ、《大いなる書庫》は大幅に閲覧制限をかける必要が生じた。

インテグラが本当に隠したかったのはこっち。

おつむよわよわの無職は検索しないと見つけられない情報だが、万が一を排除するためである。

 

・インテグラ

主人公への評価

「公私両方で信頼できない、俗物的な悪い蟲」

「ただし――仕事相手としては信用できる」

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