無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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超重力下筋力トレーニング

 □■レジェンダリア某所

 

 あなたはデイリーミッションを達成した。

 忘れた頃に不意打ち気味で初見殺しがやってくるログインボーナスの回収。リリファンの襲撃を鼻歌混じりでぶちのめし。冒険者ギルドで塩漬けになっている不人気依頼を片付けて、ようやく自由時間が訪れる。

 

 あなたは至極真っ当で勤勉な労働者だ。

 常に向上心を抱き、たゆまぬ努力を続けている。

 お仕事は一日にしてならず。怠惰は敵である。

 

 そのためには心身の健康が必要不可欠だ。

 理由は簡単。労働者は体が資本だから。

 人間には体力というステータスがあり、日々の活動で徐々にその総量を減らしていく。

 最大値が多いほど、精力的にお仕事ができる。

 また肉体を鍛えることで精神が安定するという研究結果が出ていたり、出ていなかったりするとか云々。

 仮に仕事で理不尽な思いをしても、障害を物理的に殴り倒せるならオールオッケーとなる。報酬を踏み倒す不心得者をあなたは決して許さない。

 

 とりあえず筋肉を鍛えて損はない。

 あなたはここまでの総括を述べた。

 まずはお手軽な腕立て伏せがおすすめだ、と。あなたは地を這うバーベナを見下ろした。

 

「動けないが?」

 

 重力百倍だから致し方ないね。

 

 現在あなた達がいるマップは<重力の井戸>。

 レジェンダリアにおいても特殊環境に分類される秘境であり、エリア全体に常時重力変動が発生する。

 振れ幅は最低100G。地球の重力が1Gで常人の筋力がSTR換算10であることを踏まえると、特化上級職並みのステータスが無ければ立ち上がれすらしない。

 

 また上限は不明。攻略wikiでは瞬間5000Gを観測した記録が残っている。STR五万、つまり超級職相当のステータスを要求されるわけだ。

 明らかにバランス調整を間違えている。

 仕事しろ運営。やはりデンドロはクソゲーである。

 

「くそぅ……あんたがレベル上げにタダ乗りさせてくれるなんておかしいと思ったんだ……俺のバカっ」

 

 補足すると、あなたはバーベナの同行を許可していない。普段と異なる狩場に儲けの匂いを嗅ぎつけて、彼が勝手に尾けてきただけである。自業自得ともいう。

 追い払うのも面倒なので、一回痛い目を見た方がよいと考えたあなたの騙し討ち(別に騙してない)だ。

 

 バーベナの嗅覚はあながち外れていない。

 このマップに生息する敵は環境に適応した強力なモンスターである。経験値はたっぷり。また狩場に篭る人の少なさから、ドロップ素材は高額で取引されている。

 自分で装備を強化するにしろ、売却して資金源にするにしろ、難易度に見合う成果を得られるはずだ。

 

 高重力環境でモンスターを討伐できたら、という但し書きがつくが。

 

 あなたはバーベナの武運を祈った。

 死なないように頑張るといい。あなたは行く。

 

「うぇっ!? やばいヤバいって、こんな無防備なところを襲われたら……ちょ待ちなよぅ!」

 

 背後でバーベナの焦った声が聞こえる。

 しかし、今日はそれどころではないのだ。

 あなたの頭を占めるのは最近発見されたジョブ。

 重力魔法特化の上級職【鈍重術師(グラビトンマンサー)】の就職条件を達成するというタスクがあるために。

 

 条件は至ってシンプル、<重力の井戸>マップ内で一定数モンスターを魔法で討伐すること。

 魔術師ビルドは前衛系ステータスが貧弱になる欠点から達成は困難だが、グリゴリで五桁超えのSTRを保持するあなたには何の関係もない話だ。ステータス任せのゴリ押しで容易にクリアできる。

 

 もののついでだ。バーベナも条件を満たしておくとよいだろう。就職する予定がないとしても、お仕事の選択肢は広げておくべきである。

 

「いい事思いついた、みたいな顔で笑うなバカ! こちとら命の危機なんですけどッ」

 

 地べたでギャンギャン吠えるバーベナ。

 しかし、あなたの視点だと最低限のレベル上げは可能であるように見受けられた。

 筋力値こそ不足しているが、百倍の重力でミンチになっていない。つまり彼は耐久力を鍛えている。

 

「ギクッ」

 

 《看破》で確認すると、あなたが教えた研磨魔術師理論ではとても賄えないEND、そしてメインジョブが【黄砂術師】ではなく【()()()()()()()()()。わざわざ奥義が使えない下級職に戻す理由とは、はてさて如何に?

 

「えぇ〜なんのことかなぁ〜? バベちんぜんぜんわかんな〜い⭐︎」

 

 あなたの知らない特典武具、ではあるまい。

 ジョブを見直す必要が皆無だからだ。

 

 目を泳がせるバーベナに、あなたは愛刀の鯉口を切るか迷って……やる気満々の柄から手を離す。

 なんすか髪切らないんすか。そんな愛刀の物欲しげな訴えを無視して、あなたはダンジョンの奥に進む。

 

 あなたが与えたジョブビルドは、過去あの日あの時点のバーベナにとって最適な構成だ。

 本人にとって最適なジョブビルドは時と共に移ろい、変わりゆくものである。ひとつのお仕事に留まらず転職する人がいるように。筋トレで古い筋肉を破壊して、新しい筋組織に成長させるように。

 

 あなたはお仕事に真摯な<マスター>だ。

 キャリアアップを目指す姿勢は尊重すべきである。

 

 それはそれとして、バーベナは簀巻きにする。

 タイヤ引きで負荷をかけるようにズリズリと。

 より多くモンスターが生息する奥地まで運んでやろうという、心優しいあなたの気配りであった。

 

「痛い痛いお尻が擦れる! 擦りむけちゃフベっ」




・主人公
ハムストリング魔法。
はー筋肉筋肉。やっぱ筋肉だな。

・バーベナ
砂嵐が重力影響下に。条件達成ならず。
見ろよ、このぷにぷにな二の腕をよぉ!
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