無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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履歴書その4

 □■とある記者の記録

 

 ・漆原の大洪水

 日時:■■■■年■月■日

 場所:天地北部 漆原領

 被害:死者およそ8,500人

 概要:漆原領内で祀られていた“水神”による大規模な豪雨を発端とする洪水。ないしその水害による一連の人的・物的損失のこと。肥沃な耕作地含む領地の八割が水没及び土砂で埋まり、多くの領民が命を落とした。元凶の“水神”は北玄院家の依頼で派遣された【勇者】草薙刀理によって討伐済み。この地を治めていた漆原の一族は本家・分家いずれも死亡が確認されており、大名不在となったため【征夷大将軍】の直轄地になった。現在も復興は遅々として進んでいない。

 特記事項①:“水神”の正体は不明。真偽不確かな風聞が錯綜しており、確定に至っていない(添付資料1-1参照のこと)。討伐した【勇者】本人の報告から<マスター>の関与が濃厚。《真偽判定》後に当該<マスター>は天地全域で指名手配された。しかし<DIN>のデータに該当する特徴の人物が確認できなかったことから、【勇者】は軽度の混乱状態にあったのではないかと推察される。その他有力な候補は漆原領内の湖水に生息する神話級モンスター【大蛟】。漆原家は代々神事を担い、旱魃の際は雨乞いの祈祷を行った記録が残っている(添付資料1-2参照)。

 特記事項②:生存者なし。当時領地を離れていた【侍従長頭】蝸牛真宵の証言によると、事件当日は領地を挙げての婚礼が催されていた(参考資料1-3)。近隣から親類縁者を呼び招いたため、血縁は全員被害に遭ったものと見られている。結果として漆原家の家宝、名刀百選【髪切】の所在は分からず。鍛治ギルドが管理する印で現存していることは確認されており名刀百選の登録は変わらずとなっている。補足として事件当日に【勇者】から現妖刀四十二染【分御髪】の目撃・通報がなされている。【髪切】との関連性については調査中。

 

 

 

 ・宝物庫強盗未遂事件

 日時:■■■■年○月○日

 場所:黄河帝国 龍都<最奥宝物庫>

 被害:皇宮内装及び警備術式の破損

 概要:『覆面水着強盗団』を名乗るグループによる皇宮宝物庫の侵入及び襲撃。夥しい破壊活動こそ許したが<最奥宝物庫>は突破されず、盗難被害は発生しなかった。主犯は【博物王】スキエンティア・エスト・ポテンティア。認識阻害付きの目出し帽で顔を隠していたものの、特徴的な口調と笑い方から即座に身元が判明した。当人は容疑を否定したが《真偽判定》に反応あり。逃亡したため黄河帝国全域で指名手配となった。【博物王】はカルディナに亡命して今も活動を続けている。その他メンバーの素性は詳細不明。<マスター>・ティアンの判別すらつかず、黄河帝国は詳しい調査を続けている。※後日【盗賊王】ゼタによる同<最奥宝物庫>窃盗事件が発生したので、こちらの取材はペンディング中。

 特記事項:実行犯の目撃情報は【博物王】一人のみ。ただし彼が何もない空中に幾度と話しかけていたこと、単独では到底困難な侵入・戦闘記録から協力者の存在は明白である。後方人員あるいは強力な認識阻害持ちの前衛複数人がメンバーにいたと推察される。関係者の証言によると「光を素通しする透明な肌着?のような輪郭がうっすら視認できた」とあり、主犯と関係が深い【失業王】が容疑者として挙げられた。だが事件発生時刻に現場と離れた地点で【失業王】の姿が目撃されていることから、証拠不十分のため不起訴になった(添付資料2-1)。捜査に協力した<マスター>は容疑者のアリバイ工作を主張していたが全員が謎のデスペナルティを遂げている(「クソ、頭のおかしい無職が……!」添付資料2-2よりデスペナルティ明けの被害者Aの発言を抜粋)。

 

 

 

 ・奴隷王朝滅亡事件

 日時:■■■■年○月△日

 場所:カルディナ東部国境付近

 被害:死者およそ一万人以上

 概要:カルディナと黄河帝国に挟まれた小国家、カドモン王国の消滅。一夜にして王侯貴族から奴隷まで国民全員が殺害された。犯人は【失業王】。メイヘムの“国絶やし”に並ぶ<マスター>による大量虐殺だが、周辺国家が異変に気付いた時には既に犯行が終わっていたためか、世間的な知名度は些か低い。長らく犯人像が不明だったところ、今回カドモンに士官していた<マスター>の証言で初めて真相が明らかになった。まず【失業王】は夜闇に乗じてカドモン王を暗殺。その後一人残らず国内ティアンの首を刎ねて殺し回ったという(添付資料3-1〜3-3)。

 特記事項:カドモン王国はカルディナ向けの奴隷輸出で富を築いた『人買い国家』である。シェアは市場の三割と決して少なくない。カドモン滅亡後は入れ替わりで“伯爵”を名乗る奴隷商人が台頭している。事件との関係性及びカルディナ情勢の変化について要確認。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■天地・北玄院家領内

 

 照りつける太陽の下、青々と茂る畑があった。

 修羅が蔓延る天地は内乱と殺戮が常である。

 だが、それで農耕を始めとする一次産業が疎かになるかといえば実のところそうではない。むしろ大陸西方の国家と比べても食糧自給率は高い方である。

 理由は単純。腹が減っては戦はできぬからだ。

 従軍時の兵糧、自らが管理する領地の生活。

 年がら年中斬り合いと戦闘に頭を支配された頭天地な猪武者どもとて、一応は人間なので食事が必要なのだ。

 

 こうした背景から農耕系のジョブに就く者は、戦闘職、鍛治師に次いで重宝される。

 わざわざ天地に所属する修羅な<マスター>は戦闘職に偏重気味だが、ここに一組、物好きな例外がいた。

 

「今日もいい天気」

 

 麦わら帽子をかぶり、嘆息する女性。

 その奥で草刈り鎌を振るう男性。

 

「あらあら〜。豊作ね」

 

「……フン」

 

 男性は山盛りの野菜を籠に詰める。

 名を【大農家】豊穣爺斎種吐木。通称じいちゃん。

 どこにでもいる農民である。

 

 それを世の誰より嬉しそうに、楽しげに、種吐木の<エンブリオ>……TYPE:メイデンwithフォートレス【家庭妻園 デメテル】は眺めていた。

 まるで愛しい我が子を抱くように、丁寧にひとつひとつ野菜を検分するデメテルであったが、何かに気付いてふと顔を上げる。

 

「テル? どうした」

 

「お客さんみたいよ〜」

 

 たなびく雲が落とす影。その合間を縫うシルエット。

 空を見上げると、振り袖の女性が飛んでいた。

 女性は種吐木に手を振って危なげなく着地。

 天地風ながら丈を切り詰めたミニスカート、翼のように広げたその裾を折り畳み一礼する。

 

「ごきげんよう」

 

「何しに来た」

 

「あら、連れないのね。全然ファッションじゃないわ……まあ構わないけれど。用事があるのはデメテルによ。頼まれていた夏服を届けに来たの」

 

「記憶にないわね〜? 年かしら〜」

 

「確かにあなたの寸法で拵えた特注品よ。炎天下に長時間いても体調を崩さないよう、純竜の水鱗を織り込んだ着物。ファッションに溢れたオーダーね」

 

 女性の言葉を聞き、種吐木は苦虫を噛み潰したかのような表情になる。

 

「……手違いだ。帰れ」

 

「ええ了解したわ。じゃあ持ち帰るけど、本当にそれでいいのね。おじいちゃん?」

 

 女性は意味ありげに問いかける。

 同時にデメテルに視線を向け、言外に伏した意図をメイデンはしかと汲み取った。

 

「種吐木さん……? もしかして、私のために?」

 

「…………」

 

「あらあら……そうなのね〜。せっかく選んでくれたんだもの。いただいたらいけないかしら」

 

「……好きにしろ」

 

 種吐木はぶっきらぼうに答えた。

 着物を受け取り、相棒に渡す。

 女性は後方で腕組みをして二人を見守っていた。

 

「素直じゃないわね」

 

「俺から受け取りに行くと言った。話が違うぞシル」

 

「私の中のファッションが熟したのよ。すぐに届けないとファッションじゃないの」

 

「意味が分からん……」

 

 これが【織姫(テキスタイル・プリンセス)】シル・クロウドの真骨頂。

 下手をすると修羅より話が通じない女。

 しかし彼女は北玄院家で、いやさ天地でも有数の職人であり。専門分野において右に出る者はいないと称される、生産系超級職の座に就いた<マスター>だ。

 気質はともかくとして腕()()は確かである。

 

 彼女、シルの着物は領地ひとつの価値がある……などと、面白半分に持て囃す輩がいる程度には。

 

 彼女は気さくだが、気まぐれで気難しい。

 大名に報酬を山と積まれても依頼を断り。

 かと思えば、無償で手がけた衣服を贈答する。

 なぜならファッションだから。そう宣うのだ。

 

 故に。

 

「見つけたぞ! “羽衣天女”ッ」

 

 依頼を断られた者達に襲われるのは日常で。

 血気に逸った武士に刀を突きつけられる。これもまた、シルにとっての日常なのである。

 

「今日こそ俺に着物を仕立ててもらおうか!」

 

「どこの馬の骨? 見て分かる通り取込み中よ。出直して来なさいアンポンタン」

 

「き、貴様ァ……炭林北玄院家嫡男のこの俺を、言うに事欠いて馬の骨……アンポンタンだと!?」

 

 激昂した武士は腰から刀を引き抜いた。

 物陰に隠れていた従者、忍び合わせて四名。

 超級職とはいえ生産系。しかも丸腰の女性相手に。

 仕事を依頼する立場であることを踏まえて、何から何まで救えない愚かさであった。ただし。

 

「……炭林は傍流だが、北玄院家に連なる一族だ。面倒な揉め事を持ち込んでくれたな」

 

「その点は謝罪するわ。ついでにお願いなのだけど、後で証言してもらえない?」

 

「何を」

 

「先に抜いたのはあちらだって事」

 

「フン……いいだろう。俺は手を出さんぞ。それと畑に近寄らせるな」

 

 関わり合いになりたくもない、と感情を露わにして種吐木は傍観の姿勢。デメテルも同様に一歩下がる。

 

「くくっ、今ならまだ許してやらなくもないぞ? 泣いて俺に詫びを入れるならな」

 

「……ノーファッション」

 

「ん?」

 

「耳が遠くて聞こえなかった? 今のはね。()()()()()()()()()()殿()、と言ったのよ」

 

「……ッ!! 殺せ!」

 

 主人の号令で配下が飛び出す。

 先頭に槍使い、中衛に忍び、後衛に弓手。

 腐っても四大大名家に仕える武芸者である。天地の常としてレベル500に到達した猛者達だ。

 それぞれ上級職の奥義を発動している、直撃すれば貧弱なシルのHPは一息で消し飛ぶだろう。

 

 シルは慣れた様子で――カメラを構えた。

 現実世界でいうところのポラロイドカメラ。

 撮影してすぐに写真を現像できる構造のもの。

 

 敵を捉えて、シャッターを押す。

 彼女の動作は一秒とかからない。

 

「な――んだ、これは……?」

 

 真っ先に異変に気付いたのは槍使いだった。

 彼が修めた槍術は速度重視の流派だ。

 ゆえに槍捌きを阻害しない軽鎧で武装していたのに。

 

「田植え服……だと……!?」

 

 いつの間にか武器防具が消えて、身に着けた衣服は農作業に適した意匠に早変わりしていた。

 愛用の長槍は農作業用の鍬に。嘘でしょ。

 

 周囲を見回せば、忍びと弓手はそれぞれ大根とにんじんの着ぐるみ姿で息苦しさに悶えていた。

 あまりに珍妙で奇天烈な埒外の外法。考えられる原因はひとつ、<エンブリオ>しかあり得ない。

 

「何をした【織姫】!?」

 

「あなた達、何も知らずに来たのね」

 

 シルは肩をすくめた。たった一人で武装解除と無力化を成し得た彼女だが、特に感慨は湧かない。

 だっていつもの事だもの。こんな日常なんて、やはり天地の修羅は頭がおかしい。彼女のフレンドがこの場にいたら真顔でそんな風に呟いただろう。

 

「ぐっ……」

 

 唯一(かろうじてシルに存在した一抹の良識と理性のおかげで)無事だったバカ殿は劣勢を覆すべく、拙い一計を案じた。武芸者ならざる卑劣な一手。即ち人質。

 移動系スキルで加速したバカ殿は、最もか弱く無害そうな者、デメテルに狙いを定め、

 

『YasaaaaiOishiiiiiiii!』

 

 ――()()()()()()()()()()

 

 畑の土から飛び出した野菜の群れ。

 二足歩行の【デーコン・アシ】、お盆によく見る形状の【九冠馬ー】、滴る血痕を舐める【キラートマト】。

 デメテルのスキルで品種魔改良されたモンスター野菜どもが、与し易い獲物の気配に暴れ出したのだ。

 

「どこまでもノットファッションな」

 

 宙を舞うバカ殿にフォーカスを合わせて、シルは<エンブリオ>のシャッターを切る。

 

「――あなたにはそれがお似合いよ」

 

 カボチャの着ぐるみを見下ろして。

 シルはもう一度、深いため息を吐いた。

 

 

 

 

「ところであの野菜、やり過ぎじゃない?」

 

「連中は野生(野良)だ。俺は使役していない」

 

「あ、そうなの……」

 

 

 ◇◆

 

 

 帰り際。シルが手製の羽衣で飛び立とうとすると、種吐木が新聞を投げつけた。

 

「持って行け。面白い記事が載っている」

 

「<DIN>の? 正確だけど別に面白さは……」

 

 ないだろう、と続く言葉を飲み込む。

 言ってはなんだが。確かに面白かったからだ。

 一面を飾るその記事は、彼女らが活動する天地から程遠い西方の出来事について記してあり。

 シルと種吐木に共通する知人が写真に撮られていた。

 

「あの無職、何をしてるのかしら」

 

「全くだ」

 

「あらあら〜。これはいっぱい野菜を送らないといけないわね〜。三人? 四人分?」

 

「悪いけど失礼するわ……なんだか久しぶりに創作意欲が湧いてきたの」

 

「花嫁衣装か?」

 

「それもファッションだけどね」

 

 シルは倉庫に仕舞った着物に想いを馳せて、しかし雑念をふりはらう。なぜならファッションでないからだ。

 

「このニュースを見たら……それを飛び越して仕立てなくちゃいけない服があるでしょう?」




・透明な水着
主人公の水着。【織姫】が作成した。
オーダー通りのナイスファッションよね。

・《ドレスアップ・ファッション》
シル・クロウドの<エンブリオ>、TYPE:カリキュレーター【クロートー・ラケシス・アトロポス】の固有スキル。
登録した衣服を被写体に着せる。元の装備は本人のアイテムボックスに収納される。つまり強制装備変更スキル。


諸般の事情により更新頻度が著しく落ちます。
申し訳ないので、皆様からネタを募集しようと思いました。天才。ネタを焚べるほど加速しますからね。
応募いただいた内容は作品で使わせていただく可能性がある点、予めご了承下さい。使わない可能性もあるので何卒よろしくお願いします。

①無職にやってほしいお仕事
 例)警察官、消防車、カードショップ店員など

②無職に就いてほしいジョブ
 下級職・上級職(超級職は無し)
 ※原作にないジョブでもOKです。

③無職と共演してほしいキャラ
 もっと活躍が見たいキャラ
 ※原作キャラ、当作の二次キャラ両方OK
  他所様の作品のキャラはNGです。
  リリアーナもNGです。ちゃんと書くから。

④深掘りしてほしいエピソード
 例)無職とエストの天地脱出珍道中

今話(82話)の感想欄で上記①〜④の番号を添えてお送りくださいませ。他の話の感想欄はややこしくなるので無視します。よろしく。
感想を書くの面倒な人はアンケート入れてね。

あなたが深掘りしてほしいキャラクターは?

  • バーベナ
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  • 【コクレア・イデア】
  • テンコマメンバー
  • グラウンド・ウォーカー
  • シル・クロウド
  • 豊穣爺斎種吐木
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