無職さんのデンドロ履歴書 作:リリアーナを照れさせ隊
管理のため、前話の感想欄は採用時に返信させていただきます。
銅等級冒険者
□■王都アルテア
昼間の冒険者ギルドは賑わっていた。
依頼を受ける者、パーティメンバーを探す者、クエストから帰還した者。彼らが入り混じっているからだ。
あなたは雑踏をつまみに一杯ひっかける。
手にしたジョッキは酒精入りかもしれないし、そうでないかもしれない。
あなたが酔いどれならば前者だ。反面、未成年なら後者である事だろう。いずれにせよ些細な問題だ。
シュレーディンガーのエールで
あなたは雰囲気だけで(自分に)酔っている。
今日のあなたは冒険者あなた。
命を種銭に荒事を担う日雇人である。
学生やサラリーマンがお洒落な喫茶店で勉強や仕事に励むように、できる冒険者はギルドの酒場にたむろするという創作物のセオリーを踏襲するあなた。
他の冒険者を観察して時折り口を挟む、という冴えない中年ギルドマン仕草に勤しんでいる。
手が震えるのは炭酸飲料のせいであって、お仕事の禁断症状では決してない。サボっているように見えてこれもお仕事なのだ。窓際社員だって出社するという立派なお仕事をこなしている。それと大体同じである。
「あの、初心者に絡むのはやめていただけると……」
「目を合わせるな。何で因縁つけられるか分からん」
「さっきの連中、その場でジャンプさせられてたぞ」
熱い風評被害の数々。誠に遺憾である。
あなたは高難易度の依頼を知らずと受注する初心者を静止して、ついでに絡んできたリリファンを表に叩き出しただけだというのに。臨時収入で懐があったけえな。
「ねえねえ、そこの(チョロそうな)おにーさん。ヒマならパーティに入らない?」
また新たにギルドを訪れた一党だろうか。
あなたは勧誘を受けた。
時間を持て余しているようでいて、あなたは忙しい。
それはそれとしてお仕事なら引き受ける所存だ。
詳しい話を聞くため、あなたは耳を傾ける。
目的と面子、そして何より大事な報酬。
あなたは値段相応の働きをする<マスター>だ。
装備した認識票を指で弾き、不敵な笑み。
こちらブロンズランクの冒険者であるからして。
「へぇ〜すごーい。……ギルドのランクなんてあるの? 初耳なんですけど」
デンドロの冒険者ギルドにランクは存在しない。
認識票はあなたの手製である。
「自称どころか詐称じゃねーか」
馴染み深いキレ味のツッコミである。
あなたがふと顔を上げると見知った相手。
しかし、彼はまだあなたに気付いていない様子だ。
せっかくなので少し泳がせてみる事にした。
「こほん……今からレベリングするんだけど、パーティが足りなくて。よかったらどうですぅ?」
異論はない、あなたは端的にそう答える。
見たところ相手はレベル400前後だ。
あなたは《看破》で確認したので間違いない。
仲間が同レベル帯と仮定して手頃な狩場を複数、並行してクエストを進行できる地点を提案する。
あなたのおすすめは<淫魔の宮>だ。
前人未踏の【魔王】転職用ダンジョンをクリアしてみたいと、あなたは心の片隅で画策している。
お仲間もいるのだから、老若男女を誑かすバーベナにとってはお似合いのダンジョンだろう。
「げぇ、無職!?」
あなたはバーベナを簀巻きにした。
なんだこの輪っかと翼。
「だましたな! 汚いぞこの野郎!」
人聞きの悪いセリフを捲し立てるのはやめてもらいたいじゃんね。あなたは穏やかに反論した。
あなたはミスティコで普段と異なる外見になり、趣味のお仕事を満喫していたに過ぎない。
誘蛾灯に惹かれる蛾のようにホイホイ釣られたのは愚かで救いようのないバーベナの方である。
ついでに補足すると、バーベナはメインジョブを【守護天使】に入れ替えているようである。
司祭系統から派生するレア上級職。種族が天使に変わるため外見で判別しやすいジョブだ。
厳しい就職条件と相まって、現状バーベナ以外に就いている人間をあなたは知らない。
「な、なにさ。別にジョブ変えたっていいじゃん! 文句あんのかよぅ!」
あなたが気に食わないのは彼の態度だ。
隠れてコソコソやる必要がどこにある。
ましてや、あなたに気付いて即逃亡。それが失敗したら開き直るという性根の腐り具合。
あなたが転職を咎めて、簀巻きにして、首を刎ねる悪鬼羅刹の畜生であるかのような行動ではないか。
あなたは天地の修羅のような野蛮人ではない。
博愛主義の平和主義者であるからして。
あなたはあまりの悲しみに殺意が漲った。
思わず愛刀の鯉口を切ってしまうほどだ。
「ぴいっ!?」
あなた達のじゃれ合いを目撃した通行人は皆一様に目を逸らし、ひそひそと囁きを交わす。
一部の人間はバーベナのパンツを撮影する。
なんと天使verは本邦初公開らしい。
ここであなたは会話ターンに移行した。
理由は簡単。情報を吐かせるためだ。
バーベナは何かを隠している。
あなたの鼻はバーベナからお仕事の匂いを嗅ぎ取った。無論、比喩である。
まず、あなたは二人分の飲み物を注文する。
ギルドに対する迷惑料の意味を込めて。
「え、おごり? やった」
当然バーベナは自腹である。
「クソがよぉ……じゃあ一番安いやつで」
彼は肩肘をついてウィンドウを操作する。
野良パーティの仲間に連絡を入れたのだろう。
指の動きで『頭のおかしいバカに捕まった』と打ち込んだと分かり、あなたは愛刀にゴーサインを出した。
「ギャアアア! 髪が、髪が伸びるぅ!?」
「…………!(毛ぇ!)」
「ざっけんなこの毛フェチ! あ、でも髪サラサラで艶が出てる……だから何さ!? さっさとやめさせろ! すみませんすみません謝るから、あんたの情報をそこかしこに売り捌いた事は謝るからぁ!」
あなたは優雅に二杯目のジョッキを傾ける。
命乞いを肴に飲むドリンクは最高でござるな。
一息ついて。冒険者の流儀に則り、あなたは告げた。
表に出ろ。あるいは知っている事を全て吐け、と。
「違うんだよぅ……ちょっとギャンブルで懐が寂しくて、小遣い稼ぎをしただけでぇ……後はグレーな取引する時にあんたの名前を借りたくらい」
初耳の余罪がぽろぽろとこぼれ落ちる。
叩けばホコリが舞う布団のようだ。
しかし、そうじゃない。ケジメ案件だが違うのだ。
あなたが知りたいのは……ジョブの情報。
バーベナは
「な、なんのこと〜?」
とぼけても、あなたの目は誤魔化せない。
わざわざジョブビルドを崩して【守護天使】に就職し、レベル上げに励む理由は何故だろうか。
バーベナ個人の好み? なくはない。
あなたの知らないシナジー? 可能性はある。
イベント報酬で特典武具を入手したようであるし。
だが、最もシンプルであり得るのは。
守護天使派生の超級職を狙っているということ。
ロストしていた【守護天使】のその先。
たった一席の頂点は現在空席とみられる。
前提の上級職時点で失伝していたのだから。
超級職の条件も、また同様に。
あなたは手隙の時間に調べているが未だ確認が取れていない……ただ、ある程度の予想はつけられる。
「チッ……」
バーベナは葛藤の末、声量を一段階下げた。
「そうだよ。でも条件は教えない。たとえ何をされたって絶対に話してやるもんか」
問題ない。
「ま、俺が就いた後なら土下座すれば教えてあげてもいいけど……ん? は? なんて?」
問題はない。あなたは笑顔で繰り返す。
あなたは情報の有無を確認したかっただけ。
無理に聞き出すつもりは微塵もない。
「え、こわ。仏みたいな顔しちゃって」
あなたは自分だけの可能性を探していた。
様々なお仕事を体験する、具体的にはジョブに就職する事を目的として、ライフワークにしている。
極論あなたはジョブに就職できればいい。なので先着一名にこだわる必要はなかったりする。
あなたには【テラーカイブ】がある。
逸話級特典武具であるそれは、自分を殺害した相手の情報を収集するというスキルを持つ。
ジョブの詳細についても然り。
また、あなたの<超級エンブリオ>【天職才人 グリゴリ】は就職条件を達成した超級職にお試しで就職できるスキル《スペリオル・インターン》を発現している。
じゃあ、後で殺してもらえばよくね?
強いて言うならば。
どこの誰とも知れぬ輩に横取りされるより。
バーベナが超級職に就いた方が手間がない。
なので応援している、と。あなたは本心からバーベナにエールを送った。新ジョブ解禁が楽しみだなあ!
運営はもっと仕事しろ。アプデはよ。
「つまり俺が超級職になったら、あんたをぶっ殺せるってわけね。上等! 俄然やる気が湧いてきた!」
ただで殺されるつもりはないが。
バーベナに無抵抗で負けるのは、あなたの自尊心がそこはかとなくズタボロの襤褸布になるためだ。
あなたは被虐趣味を持ち合わせていない。
かつて修羅の山狩にあった時のように、持てる全てを用いた徹底抗戦の構えを取るだろう。
「素直に死んどけよ。やだよ本気で戦うの。しかも情報を取られるなら、体感2割くらい損してるじゃん。教えてもらうの大変だったんだぞ。黒星の紹介で十二刀流のヤバ女子と戦ったりして……」
あなたは知る由もないが、情報と引き換えに決闘を所望した十二刀流のヤバ女子(東青殿家所属)は『自分より速い相手を斬る練習になりますね。ところで黒星さん。この特典武具、知人以外の……例えば王国の方を呼べるのでしょうか……?』などと満足そうにオンライン女子会()を楽しんだという。
そんな背景事情を知る由もないので、あなたは普通にドン引きした。バーベナが戦闘狂になっちゃった。
あと十二刀流とか頭おかしいだろ。物理と人間の肉体に許されたスタイルじゃない。
「あれと同類は心外なんですけどぉ」
雑談は程々に、あなたは支度を整える。
バーベナのクエストに参加しますか?
「マジ? ついてくんなよ」
あなた達が押し問答していると、視界の隅、冒険者ギルドの扉がゆっくりと開いた。
ギルドは人の出入りが多い。故に普段は特筆すべき出来事ではないのだが、あなたを含む室内の全員は新たな来訪者に視線を注ぐ。
「女の子……?」
まだ小さな子供だった。
どこか既視感を覚える顔立ちだ。
あなたは脳内ストレージを漁ったが、リリアーナとミリアーヌしか検索結果に上がらない。あなたの灰色の頭脳はどうも休業期間らしい。
「おいおい、ここはガキが来る場所じゃないぜえ」
「お子様は帰ってママのミルクでも飲んでな」
彼女の不安な顔を見かねたのだろう。
心優しいギルドマンが一人、幼女に声をかける。
そう、それは親切な冒険者あなた。
へ、へへ……お嬢ちゃん可愛いね……一人?
「「「アウト」」」
あなたは裏に連行された。解せぬ。
もしや強面がマイナスに働いたのだろうか。
おかげで子供は泣き出す寸前である。
レジェンダリアで慈善活動に従事する<
「HENTAIじゃんか」
お仕事をこなす者に常人もHENTAIもない。
たとえ頭のおかしい奇人変人であろうと、己の職分を全うする人間にあなたは多大な敬意を払う。
あなたのフレンドのような、あるいはバーベナのような一癖も二癖もある連中は一度あなたを見習って常識を身に付けるべきだとは考えるが。
「鏡いる?」
あなたは丁重にお断りした。
銅等級の冒険者には過ぎた代物であるからして。
「てかさ、あの子どっかで見たような顔立ちだよね。紋章ないからティアンだろうけど」
バーベナは首だけ出して子供を観察する。
裏で反省するあなたの監視を継続しながらだ。
正座あなたが《聞き耳》スキルで会話を拾うと、今はギルドの職員が対応しているようだった。
「迷子だって。だいたい小学生……六、七歳くらいかな。パニックになってら。ありゃダメだ」
あなたはおもむろにジョブをリセットした。
あなたは無職になった。
監督、自分いけます。
「何の自信があってほざいてんの?」
子供が怯える理由は威圧感であろう。
ならば、幼女レベルのか弱さを発揮すればいい。
丁度クールタイムが明けたミスティコを使い、あなたはポメラニアンになる用意ができている。
「あ、リリアーナ来た。あんたはお役御免だよ」
さよか。
本職の官憲に任せておけばもう安心だろう。
リリアーナは騎士の中の騎士、言うなればエリート警察官のようなものである。
本来の彼女のお仕事は王族の護衛などであって、市政の問題を解決する役職であるのかは疑問が残る。
やはり王国の人手不足は深刻な問題だった。
あなたは雇用創出の機会にやる気が漲った。
さて。あなたがまたしても問題を起こしやがった、という一報に慌てて飛んできたリリアーナは、冒険者ギルドのど真ん中で泣く幼女に気付いた。
すぐにその元に駆け寄り、膝をつく。
問題児あなたと泣いている子供を天秤にかけ、逡巡せず後者を取る。まさしくリリアーナは騎士の鑑。
あなたはテンションが上がって口笛を吹いた。
子供の顔が綻ぶ様を微笑ましげに眺め、
「――
――幼女様の爆弾発言に耳を疑った。
縋りついた子供は、リリアーナを指差して。
グランドリア家譲りの金髪を揺らして。
静まり返った空気を気に留めず、うら若き母親との出会いを喜ぶのだった。
・主人公
耳クソかっぽじった。でかいの取れた。
別に聞き間違いじゃないですよ。
・リリファン
騒然。待て、まだ慌てるような時間じゃない。
・黒星
ふへへ、フレンドふえた……うれしい……。
でもこの友達なんか修羅くない?
・華牙重兵衛
東青殿傘下の領地に便利な特典武具持ちがいると聞いて。