無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

84 / 102
里親と名付け親

 □■王都アルテア

 

 謎の幼女様、リリアーナをママと呼ぶ。

 

 当然ながら冒険者ギルドは静まり返った。

 居合わせた面々は己の耳を疑い、正気を疑い、そして現実と世界の常識を疑う。

 

 致し方ない事だろう。

 ここは王都。アルター王国の心臓部だ。

 まさか国民的アイドルのような立場をほしいままにするリリアーナに……こ、子供……?

 

 事実なら天地が逆転するレベルのスキャンダルだ。

 皇国との戦争前だというに、国家所属の<マスター>がごっそり離脱してもおかしくない。

 

 補足すると上記の天地は天と地、即ち世界を意味するのであって、頭のネジが吹き飛んだ修羅の巣窟たる人斬りの国を指してはいない。

 あなたは野盗PK修羅末法と四拍子揃った古巣での生活を思い返して殺意が漲った。あんな国は滅びてしまえばいいのに。なお実行すると嬉々として修羅が集まってくるので、可能不可能を検討するまでもなく却下である。

 

 あなたがハイライトのない死んだ瞳で遠くを見つめている間にも、野次馬は次々と憶測を囁いている。

 以下、あなたの聴覚が拾った反応を抜粋する。

 

 

 

 相手は誰だ殺す。殺すどこの馬の骨だ殺す。

 彼女、何歳だっけ。いくつで産んだ設定……?

 いや養子だろ。じじじ実子じゃないはははずずず。

 養子は養子で物議。というか血縁っぽい。死ねる。

 

 

 

 阿鼻叫喚。見るに耐えない光景だ。

 主にリリファンを始め、隠れファンの方や、そうでなくとも好意的な立場だった皆様は混乱に陥っていた。

 

 しかし、冷静沈着でクールなあなたは一味違う。

 どう考えても彼らの早とちりである。

 見れば少女はまだ幼い。おおかた母親とリリアーナを見間違う、あるいは呼び間違えたのだろう。

 あなたクラスのコミュ強になると会話を交わす前に相手を理解してのける。彼らパンピーはあなたの爪の垢を煎じて飲むべきだ、とあなたは呆れ果てて首を振る。

 

「ええと、勘違いじゃないかしら」

 

 リリアーナが硬直から復活した。

 まさかのママ呼び。まだ未婚なのに。相手だっていないことはなくなくなくもゴニョゴニョ、という内心の葛藤を経て、驚愕をどうにか飲み干した様子である。

 

 流石はアルター王国近衛騎士団副団長。

 並大抵のトラブルに彼女は屈しないッ……!

 

「ふぇ……」

 

 おっと幼女様、ここで禁断の涙目。

 女の涙は最強の武器と言います。まして幼い身であれば尚のこと。これには近衛騎士団副団長もタジタジだ、さてどうするリリアーナ。

 

 実況と解説はあなたとバーベナでお送りしております。

 

「暇なの?」

 

「あの、そこにいるのは分かってますからね! ふざけるのは大概にしてもらえますか!?」

 

 やれやれ。しょうがないな、と。

 あなたは助け舟を出すことにした。

 

 ミスティコで普段使いのアバターに変身。

 野卑な冒険者稼業は店じまいとなる。

 これで見た目に怯えられることはないだろう。

 

 あなたは少女に名前を尋ねた。

 

「ぅ、ひぐ……」

 

 俯いて泣いてばかりでは言葉が届かず。

 あなたの存在にすら気付いていない。

 これには歴戦の【ハンティング・ドッグ・ポーター】も困ってしまってチベスナ顔だ。

 

『ワンワンワヲーン』

 

「なんで犬コロ呼んだ」

 

 ドッグセラピー的な?

 

「今じゃないって。というか、早く泣き止ませてよ。俺、子供の泣き声うるさくて苦手なんですけど」

 

 人の心を失ったバーベナは従魔の【HDP】に任せてぐるぐる巻きでよいが、幼女様は別だ。

 あなたはリリアーナにひとつの提案を投げる。

 もう認知してしまうのが早いのでは? と。

 

「認知って何ですか! 他人事だと思って(?)……違いますからね、私はそのような行為をしたことはありませんし、アルティミア殿下に誓って潔白な身の上で」

 

「《真偽判定》反応したけど」

 

「あ」

 

「え、マジぃ?」

 

 自信満々だったリリアーナの目が左右に泳ぎ出す。

 これは一体どうした事だろう。

 あなたは記憶を掘り返したがまるで見当がつかない。

 当然である。宿屋でリリアーナとベッドを共にした事実*1は小数点の彼方に抹消したのだから。よってあなたは何も知らないし、何も覚えていないのだ。

 

 そも、あなたは彼女に手を出していない。

 手を出してきた(文字通り)のは彼女からだ。

 

 嗚呼おいたわしや第一王女殿下。

 偽りの誓いを立てた女騎士をお許しください。

 

「(ですから誤解です!? ……それはそれとして、後でお話があります。具体的にはあなたのその態度と、言葉の選び方について。みっちりと)」

 

 誠に遺憾である。あなたは沈黙を保ったというのに。

 視線と視線でやり取りするあなた達。目配せの意味は分からずとも何かを感じ取ったのだろう、周囲のざわめきが徐々に熱を帯びる。

 

 

 

 お、おいこれ……まさか嘘だろ?

 いや落ち着けまだだ。まだ物証がない!

 スタンバーイ……レディ……。

 

 

 

 修羅に負けず劣らずの殺気が突き刺さる。

 王国とは信じがたい治安の悪さ、これのどこが牧歌的な騎士国家? ギスギス世紀末円卓に改名しろ。

 

 あなたは舌打ちしつつ、牽制で愛刀に手を添える。

 幸い本日リリファン精鋭は始末済みのため、確たる証拠がなければ、半分暴徒化した野次馬連中はあなたに手を出さない。かろうじて良識派の欠片を残している。

 

 あなたはできる限り穏やかに言葉を重ねる。

 

 認知するとは、話を合わせるという意味である。

 ひとまず事情を聞き出さない事には始まらない。

 お仕事において最初に依頼人の要望や意見の聞き取りが大事であるように、人間関係は何よりコミュニケーションが重要だ。これは基本であり、常識である。

 

「なるほど。ええ、意図は分かりました。ですがこの子に嘘を吐くのはいくらなんでも酷では? それに話を合わせるだけで解決するとは思えないんですけど」

 

「ママじゃないの……?」

 

「ま、ママですよー」

 

 リリアーナは即折れた。己の尊厳と平穏を投げ捨てて、迷子を笑顔にすることを選んだ。

 マーベラス、実にマーベラスだ。

 心細い幼女様も安堵する一言。聖人聖母もかくやの慈愛の精神だ。これにはあなたも大興奮してしまう。

 おまけでリリアーナママの新規ボイスに脳をやられた野次馬も、全体の三割が再起不能に陥った。

 

 やはり母親とは包み込む愛があってこそ。

 あなたのフレンドのような、全人類のママを自称するなんちゃってままごと女とは格が違う。

 恵まれない孤児を世話するのはよいが、慈善活動なら慈善活動らしく、母を名乗るなら母らしく、責任と自覚を持ってお仕事に臨むべきである。

 エヴァ・リヴァイアサンにはそれが欠けているから駄目なのだ。おまけに子供を誘拐・監禁するとか、やはりHENTAIは頭がおかしい。

 

 閑話休題。

 

 幼い少女はリリアーナの手を握る。

 先程と比べてだいぶ落ち着きを見せていた。

 寄る辺なき社会の中、母親という頼れる庇護者を見つけたからであろう。ふつくしきかな親子愛。

 

 これで話が進む。全員ほうと安堵した。

 その瞬間であった。

 

 何かに気付いた幼女様が、あなたの裾を掴んだ。

 

「パパ?」

 

「「「……パパぁ!!?!」」」

 

 右手にリリアーナ、左手にあなた。

 そんな幼女様はご満悦である。

 しかし、あなた達の内心は穏やかではない。

 

「な、は、えぇ……? パパ……子持ち……? どういう事ですか! 私、何も聞いていませんけど!? いったいどこの誰との間に子供なんて!」

 

「いや他にあるでしょ」

 

「そ、そうですよね……失礼しました。大事なのは愛情。血の繋がりは唯一絶対ではないもの」

 

「リリアーナ。ねえリリアーナ? お願いだから正気に戻って? 俺を一人置き去りにしないで?」

 

 どうやらリリアーナは錯乱している。

 あなたは冷静に、彼女の勘違いを指摘した。

 

 今し方ジョブスキル各種で確かめた限り、こちらの幼女様は間違いなくリリアーナの血を引いている。

 血の繋がり云々はまったくの杞憂であろう、と。

 後継者問題は解決だ。やったねダーリン!

 これでグランドリア家の未来は明るい。

 

「じゃあ何です!? この子は私とあなたの……こ、子供だって言うんですか……」

 

 そうは言ってないじゃんね。

 

 途中で内容を理解したのか、リリアーナの声は尻すぼみになる。照れるなら口に出さなければよいものを。

 あなたの様子を窺いつつ、顔を背ける徹底ぶり。

 初心な仕草は余計に誘引力を醸し出す。

 流れる御髪から覗いた可憐な耳は桜色に染まり。

 ほんのり茹だるそれから、あなたは驚異的な精神力を発揮して視線を逸らし、伸ばしかけた手を抑える。

 デンドロは全年齢対象版のパッケージである。

 

 あなたは保健体育の授業を履修済みなので、赤ちゃんの発生経路をそこはかとなく理解している。

 コウノトリがキャベツ畑におしべとめしべを運んで来るんでしょ。あなたは有識者なのでその辺りの大人の事情にも詳しいのだ。

 そしてリリアーナの自宅にキャベツ畑はない。ついでに繰り返すと、デンドロは全年齢対象版のパッケージである。よって証明完了、QED。

 

「これ本気で言ってるのか分かんねえな……でも、ティアンと子供を作るのは難しいって聞いたけど。システム上は不可能じゃないの?」

 

 バーベナの言は正しい。

 

 ログアウト時、体外に流出した<マスター>の一部……血液などの体液はアバターと同時に消滅する。

 よって子孫繁栄は現実的に困難だ。

 ただし、細胞が別の一生命として存在を確立した場合は前述の仕組みから除かれる。<マスター>と異なる存在として生まれるのだ。

 過去にフレンドから教わった隠し仕様を、あなたは我が物顔で喧伝した。現状で悪用の目処は立っていない。

 

 じゃけん『面接』して『就職』まで進めたら、システム上は子供を作る事が可能である。

 

「否定しろよぉ! せっかく人が丸く収めようとしてやってんのにさあ!?」

 

 補足2。デンドロは全年齢対象版のパッケージである。未成年者のR18描写は法令で禁止されている。

 だというのにレジェンダリア君はさぁ……世界観設定の検閲と配慮がまるで足りていない。リアルなVRゲームを作るのは素晴らしいが、最後まで仕事をしろ運営。

 

「つまりそういうことで、婚前の身であんなことやこんなことを、あなたと……駄目ですいけませんそんなこと、まだ曖昧な関係でふしだらが過ぎるといいますか、いえ毎度のことですが、流石に今回は一線を超えているというか、こういうのは二人の時間を十分にとってからというのが一般的かと思いますし、やはり相談なしにというのは如何なものかと……! それに私、ぜんぜん覚えていないんですけど! 記憶にありませんけど!」

 

 もちろんあなたの記憶も存在しない。

 

 だが、あなたは歴戦の古兵だ。

 数々の乙女ゲーを攻略した手練手管と、生来の類稀なコミュニケーション能力があれば、この場を丸く収めることなど朝飯前である。

 

 きっと、これは何かの間違いだ。

 あなたは堂々と言い訳した。

 

「私との関係は一夜の過ちだと?」

 

 興奮状態の早口から一転して、底冷えする詰問。

 さながら感情のフリーフォールである。

 リリアーナの寒暖差で風邪をひきそうだぜ。

 

 積み上げた好感度が崩れ落ちる音が聞こえる。

 嗚呼、まさに祇園精舎の鐘の声。

 いやまだ舞える、諸行無常を味わうのは性急だ。

 

 あなたは慌てて弁明を重ねる。

 リリアーナとあなたの関係は短いが、それは決して一昼夜に留まるようなものではないのだ。

 たった一回で終わりなんて、とんでもない!

 

「これから何度も“そういうこと”を……だ、大胆過ぎませんか!? まだ昼前で、公共の場ですよ!」

 

 リリアーナには【聖騎士】の就職条件を満たすため、これからも良い関係を維持していきたいものだ。

 王国重鎮ティアンとのコネは、珍しいお仕事に繋がる。何度でもあなたに仕事を紹介していただきたい。

 そんな打算が内心の半分くらい。残り半分は、あなたを友人と呼んだ奇特な彼女との日々を得難く思う故に。

 

 昼前だの人前だのは関係ない。

 あなたは、あなたの心のままに生きている。

 あなたは(デンドロのサービスが継続する限り)五年十年その先を見据えて末長い付き合いを望んでいる。

 不束者ですがどうぞよろしくお願いいたします。

 

「へぇあ!? あ、はい……こちらこそ……?」

 

 パーフェクトコミュニケーション。

 あなたは無事に難題を踏破した!

 やはりあなたのコミュ力は世界一。

 フレンドにゴミだのカスだのボケだのと吐き捨てられるが常のあなたの会話術だが、結果はこの通り。

 あなたのフレンド達は人を見る目がないのだろう。

 

「ないのはリリアーナの男運だよなぁ……あ、俺は先に帰るんで。そこの連中は自分でなんとかしてよね」

 

 帰り際にバーベナは野次馬を指差す。

 

 

 

 もう殺すしかなくなっちゃったよ……。

 殺す殺す殺す殺すKILLKILL!

 今だいけっ! ゴーゴーゴー!

 

 

 

 暴徒、襲来。

 野次馬の五割があなたをPKにかかる。

 あなたは殺意が漲った。が、幼女様とリリアーナを巻き添えにはできぬ。つまり逃げの一手だ。

 

 あなたはコンプライアンスに配慮して、事前に断りを入れる。これからリリアーナを抱きます。失礼。

 

「早速ですか!?」

 

 早速もなにも。

 まずは落ち着ける場所に移動すべきだ。

 火急ゆえ返答を待つ余裕はない。親しき仲にも礼儀は必要だが、命には変えられないのである。

 

 あなたはリリアーナを腕に抱き、幼女様を肩車。

 押し寄せる暴徒から逃走するのだった。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

「『無職とリリアーナの間に第一子誕生』……この記事はどういう意味か説明してもらえる?」

 

 あなたは執務室で正座した。

 アルティミアと【聖剣】の圧に負けた形である。

 

 邪魔が入らない場所、即ち王城に逃げ込んだあなた達だったが、アルティミアに謁見したらこれだ。

 王国の新聞記者は仕事が早過ぎる。

 あなたはマスメディアのお仕事振りを賞賛し、同時にマスコミの野次馬根性へ盛大に舌打ちした。

 

「やっぱり斬り落としておくべきだったわね。いえ、今からでも遅くはないかしら……」

 

 アルティミアの殺気は留まるところを知らない。

 西方で天地適正が高めのティアンは珍しい。

 あなたが知りたくなかった事実である。

 

「で、なぜリリアーナは隅で縮まっているの」

 

「いえその、心の準備を……」

 

「鎧を脱ぐ必要があって? 怒っていないから落ち着いて。はぁ……アナタ、最近この無職に似てきたわね」

 

「心外ですが!?」

 

 頭を抱えるアルティミア。抗議するリリアーナ。

 二人のやり取りは、まるであなたが奇人変人非常識人であるかのような口振りだ。

 誠に遺憾である。あなたは常識人だというのに。

 

「歓談中に失礼。待たせてしまったかな?」

 

 ちょうど話の合間を見計らったように、インテグラがするりと入室する。

 彼女は幼い少女の手を引いていた。

 

「ママ!」

 

 幼女様はリリアーナの元に駆け寄る。

 

「何回見ても信じがたいけれど、小さい頃のリリアーナによく似ているわね……それでインテグラ。検査の結果はどうだったの?」

 

「そうだね。結論から述べると、この子はリリアーナの子供で間違いない」

 

 王国きっての頭脳を誇る【大賢者】は、突如として現れた謎の子供の素性調査を報告した。

 

「彼女の持つ遺伝子情報が、リリアーナと無職のそれと一致した。後者は特典武具で編んだ仮の肉体……今の姿から採取したサンプルとね。つまり生物学上は二人の子供であると断言できるよ」

 

「死になさい無職」

 

 ノータイム【聖剣】はよろしくない。

 

「ちなみに前置きを入れたのは発生経路が不明だからだ。この子供は、()()()()()()()()()()定かではない」

 

「……どういう事?」

 

「簡単な話さ。リリアーナ、君は処女だろ?」

 

 紳士あなたは鼓膜を潰した。

 

「しょっ!? インテグラッ!」

 

「気にする事はない。ここには私達と、その無職しかいないのだからね。コレとはもうそれなりに深い付き合いなんだろう? 今さらという奴さ」

 

「違います!」

 

「悪かった。からかいの度が過ぎたね。話を戻すと、こちらのお嬢さんはリリアーナの子供でありながら、別の場所で産まれて成長している。体外出産というべきかな」

 

「そんな事が可能なの?」

 

「理論上は可能だよ。でも普通は難しいだろうね。ティアン同士ならまだしも、<マスター>との掛け合わせだし。そもそも君と無職が出会ってからまだ一年も経っていないだろう。なのに幼少期に差し掛かる年齢の子供がいる時点でおかしいんだよ」

 

 言われてみればその通り、不可思議である。

 もちろんあなたは気付いていたが。

 

「あと、問題はそれだけではなくてね。リリアーナは別に好きで子供を作ったわけじゃないんだろう?」

 

「ええ、まあ」

 

「なら第三者が勝手に子供を作った事になる。それも君達二人に断りなくだ」

 

「……!」

 

「誰が、何のために。それを判断するには情報が足りないけれど、あまり愉快なやり口じゃないね」

 

 軽い語り口に反し、インテグラは顔を顰めていた。

 リリアーナとアルティミア、そしてインテグラの三人は幼少の頃より親しい幼馴染みであるという。

 頭のおかしい【大賢者】であっても、友人を貶めるような真似は許しがたいのだろう。あなたも同感だ。

 

「その子から話を聞く事はできないかしら」

 

「試してみるといい」

 

 場の重苦しい雰囲気を感じ取って、幼女様は不安そうにあなた達を見つめていた。

 第一王女は公務で培ったハイソな振る舞いで、表面上は穏やかに、幼女様へ質問を投げかける。

 

「自分の名前は分かる?」

 

「……」

 

「どこから来たの? 知り合いは?」

 

「……」

 

 幼女様は答えない。

 ずっとこの調子だよ、と肩をすくめるインテグラ。

 どうやら幼女様の情報は期待できそうにない。

 

「というわけだ。彼女の取り扱いは一任するよ」

 

「そのまま送り返すわけにはいかないけれど、かといって城に置いておくのも……」

 

 本人の目の前で口に出さないが、アルティミアは新手の工作活動を疑っているようだ。是非もない。

 皇国のフランクリン然り、カルディナ然り。

 幼気な子供の見た目で工作員や劇物を送り込む手法はわりとポピュラーであったりする。

 修羅の国こと天地でも謀略は一定数行われる。回りくどいやり方より合戦と天誅が好まれるだけで、総数としてはそれなりに内乱しているからだ。

 

「でしたら私が預かります」

 

 そんな中、手を挙げたのはリリアーナだった。

 

「どうも懐かれていますし、色々と融通が効きます。……それに私の子供なら私が面倒を見るのが筋かと」

 

「聞いたわね無職。仕事よ」

 

 イエス、ユアハイネス。

 あなたは最敬礼で勅令を拝命した。

 

 リリアーナ単独で子供の面倒を見るのは困難だ。

 なぜなら日中は近衞騎士のお仕事がある。

 加えて住居の問題だ。グランドリア宅はミリアーヌが暮らしている。有事の際は身の安全が保障できぬ。

 

 そんな感じでお仕事の時間である。

 依頼内容は幼女様の世話及び監視だ。

 報酬は要相談。恐らくプライスレスと思われる。

 

「当面の間、屋敷を用意させるわ。他に必要なものがあったら言いなさい」

 

 あなたは気前の良い依頼主が大好きだ。

 ヒュー! 第一王女殿下は太っ腹!

 

「女性の体型に言及するのはやめなさい。斬るわよ」

 

 どうして。心の底から褒めただけなのに。

 

「それより、名前が無いのは不便ですね。この子の事はなんと呼んだらいいんでしょう?」

 

「リリアーナ達で決めたらいい。実際に世話をするのは二人なんだからね」

 

「と言われても……」

 

 あなたとリリアーナは顔を見合わせる。

 これが従来の育成ゲームなら、思いつきとインスピレーションで適当な名前を付けるところ。

 しかしデンドロは圧倒的なリアル感を売りにするVRMMORPGだ。真面目な場面でふざけると、手痛いしっぺ返しを味わう羽目になる。

 具体的にはティアンの好感度が急下降したり、トゥルーエンドの分岐喪失であったり。

 

 …………。

 

 …………。

 

 …………。

 

 あなたは幼い少女の元まで歩き、膝をつく。

 大切な友人とよく似た彼女の前で。

 

 ――ネフィ。

 

「ねふぃ……?」

 

 ネフィ。

 今日からは、それが幼女様の名前である。

 

「ネフィ……ネフィ! わたし、ネフィ!」

 

 気に入っていただけたようで重畳である。

 流石はコミュ力最強おばけのあなた。

 名付け親としても最高クラスの業前を証明してしまい、いやあ困った困ったと頭をかいた。

 

「素敵な名前でよかったわね。……ところで、何か由来や意味があるんですか?」

 

 ……あなたはそっと目を逸らした。

 

「ちょっと! どうして何も言わないんです!?」

*1
9話参照




デンドロ十周年おめでとうございます。
原作は記念すべきタイミングなのに、こんな二次創作を書いてていいのか……?

・主人公
名付け親。由来は絶対に口外しない。

・リリアーナ
里親(実親)。恋人より先に娘ができた。

・アルティミア
今宵の【聖剣】は血に飢えているわ。
夜道に気をつけなさい。

・インテグラ
<エンブリオ>(劣化“化身”)の痕跡を感知した。
不確定情報なので誰にも報告していない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。