無職さんのデンドロ履歴書 作:リリアーナを照れさせ隊
□■決闘都市ギデオン
「これが兄貴の新しい店か」
「寿司屋とはまた粋だのう」
あなたがちょうど仕込みを終えた時、レイ・スターリングとネメシスは現れた。
酢飯の匂いに釣られたのだろう。彼のメイデンは異常なまでの食欲を発揮することで知られている。
当然、あなたの反応は決まっている。
両手を広げて歓待の心持ちを示す。記念すべきお客様第一号&第二号を迎え入れる姿勢だ。
へいらっしゃ。何を握りやしょ。
「なんで無職さんが板前に?」
というわけで今日のお仕事である。
今日の依頼内容はスシ職人。
あなたは居抜きで臨時の寿司屋を営んでいた。
看板はクマのデザイン。資本関係は明白だ。
ちなみに
「兄貴いないのかよ」
「クマニーサンは別によかろう。今日は食事に来たのだからな。店主よ、メニューはどこだ?」
あなたは湯呑みを取り出した。
「寿司屋にあるやつだのう。しかしこれは」
「こっちで漢字はニッチ過ぎるな……しかも自動翻訳ついてないぞ。日本人以外読めないだろ」
デンドロは自動翻訳機能により、発話や文字が<マスター>の母国語にデフォルトで翻訳される。
ただし、単語の『意味』ではなく『音』や『形』を意識した場合はその限りではない。
スシのチャワンはカンジがあってこそ。
レジェンドあなたはこだわりにこだわり抜いて、漢字の『形』を絵画のように描写した。良し。
「まあいいや。書いてあるネタは食べられるってことだな。それじゃ烏賊と鯖を」
「私は鮪と海老を貰おう!」
へい、おまち。
「…………店主。これは何だ?」
イカ、サバ、マグロ、エビである。
見ての通りだが、問題があっただろうか。
あなたは質問の理由にまるで見当がつかない。
ご注文の寿司をあなたは提供している。
「寿司は寿司でも、ちらし寿司ではないか!?」
悲しいかな。あなたは正式な修行を積んだ寿司職人ではない。なんちゃってスシ職人である。
本職はシャリを握るまで何年も下積みが必要であり、すなわち、あなたは本来なら寿司を握る資格があると言えるのだろうか? いやない(反語)。
なので、握らない方向でスシを提供する。
「ええいこの頭無職が! 私は握り寿司の気分なのだ、そもクマニーサンが店を任せたなら相応の腕があるということではないのか!?」
怒るか褒めるかどちらかにすればよいものを。
やはり空腹で気が立っている。騒がしくても客は客、あなたはネメシスの要望に応えて寿司を握った。
へい、はまち。
「もぐもぐ……ムグッ」
ネメシスは倒れた。
「ネメシィィィィィィィィィス!?」
「急に寿司を摂取した事による、一時的なしょっく症状でござるな。安静にしていれば問題ござらぬ」
「ギデオン忍軍の人! いやそうか……寿司といえば忍者……なのか……?」
「天地仕込みのその腕前、拙者達も楽しみにしていたでござる。是非ご相伴に預かりたく」
「ささ、伯爵殿こちらへ」
「……帰っていい?」
「ギデオン伯爵まで呼んでるの!?」
お忍びのお偉い様から、他国の旅人まで。
堰を切ったように次々とお客様が訪れる。
あなたの腕の振るい時がやってきた。店を預かるスシ職人として、あなたはあなたのお仕事を全うする。
できるあなたは並行して注文を捌くのだ。
3番卓、5番卓、そして11番卓!
へい、はまち。
「美味しそうね。はい、フィガロ」
「ありがとうハンニャ。カリフォルニアロールとは別なのかな?」
あれはSUSHIであって寿司ではない。
王国が誇る脳筋<超級>カップルに、あなたは内心怯えながら補足を入れる。なんでいるんですか?
答えは簡単。あなたが広告宣伝に励んだから。シュウの知り合いが来店するのは当然の帰結であった。
へい、こまち。
『XD』
「ベヘモットの分はサビ抜き、ですか。当然ですね」
ハリネズミこと【獣王】を抱えた怪獣が眼前に。
なんでいるんですか?
「【破壊王】の新しい店というから来てみれば……無職だけとは拍子抜けです。まぁ、私にはどうでもいいことですが。こんなものでも腹の足しにはなるでしょう」
レヴィアタンは寿司を食し、硬直する。
「……!? これ、は」
彼女の劇的な変化に、あなたはドヤ顔をした。
おんやぁ〜? 如何したでござるかぁ〜?
まるで美味いと感じたようでござるなぁ〜?
「調子に乗らないでください。この程度……」
おやおや〜? 手が止まってないでござるよ〜?
口ではどうとでも言えるが、体は正直だ。
あなたは完全勝利を達成してガッツポーズする。
「何を……何を、した……ッ! 無職ッ!」
今回の寿司は種も仕掛けもあるだけだ。
あなたはおもむろに手を叩いた。
厨房から現れるのは、青い乙女。
シルキー大先生のご登場である。
クマニーサンお手製の銀シャリ。
シルキー大先生の建物に対するバフ。
そして、あなたの《料理》スキルが合わされば、普通に美味いスシができあがるという寸法よ。
「最後で味が落ちてないか?」
誠に遺憾である。調整と言っていただきたい。
シュウの料理は味覚を破壊する。さらにシルキー大先生のバフを加算したら大量破壊兵器の完成だ。
市場の味に落とし込むまで悪戦苦闘した、あなたの頑張りは褒められて然るべきであろう。
あなたは【
とっておきの赤酢を混ぜたシャリは、もはや至高の領域に到達している。なぜシュウは酢飯を作るだけで人死にを出すのか。非常識にも限度がある。
へい、たまち。
「美味いな。友人にいい土産話ができそうだ」
まるで吸血鬼のステレオタイプのような色白の男が、寿司に舌鼓を打つ。
どこかで見た覚えがある顔だ。しかしあなたの灰色の頭脳でも、記憶のサルベージは時間がかかる。
いかにも貴族のヴァンパイア染みた男にワインをペアリングしつつ、あなたは思考を切り上げた。
あ、“性欲”のブラッド・O。
――空気が凍った。
こめかみに血管を浮かべたオーがグラスを割り。
異変を察した<超級>が剣呑な雰囲気を放つ。
ギデオン伯爵とシルキーを背にかばい、あなたは嫌々、物騒な客の相手をすることになる。
寿司屋で刃傷沙汰なぞ天地でも起こらない。
王国の治安も落ちるところまで落ちたか。
だいたい悪いのは頭のおかしい<超級>である。
あなたは殺伐とした極限環境に殺意が漲った。
「何してんの!? 早く謝れ無職! 刀とか抜いてる場合じゃないだろ!」
しかし、殺気には殺意で応えねばならぬ。
殺らなければ殺られる。常識である。
天地の習いはわりとどこでも通用する。あなたは無法末法の諸行無常を嘆いて涙を流した。
「いつも、いつも……その二つ名で呼ばれる方の気持ちを考えた事があるか? 吸血鬼=性的とかレッテル張られて、HENTAIと同類扱いされて! 俺が! 何を! したって言うんだよぉ!?」
吸血氏族の王、【鮮血帝】オーは慟哭した。
「品のない騒がしさですね。ベヘモットの食事中だというのに、目障りな」
【怪獣女王 レヴィアタン】は立ち上がる。
「フィガロ」
「うん、頼むよ。万が一の時は……僕が止める」
決闘王者、フィガロの視線が鋭さを増した。
「《
そしてハンニャの必殺スキルと、あなたのスキル宣言は同時に、
「「「…………!」」」
「……」(『食事中は静かに』)
乱入者は店の片隅に座っていた。
一言も発さず、既製品の魔力式ペンで空中に文字を綴った、陰鬱な雰囲気のヘッドホン男。
「……」(『他の方の迷惑です』)
白く、冷たい、沈黙の霧が立ち込める。
濃霧に包まれた全員が言葉を失っていた。
否、【獣王】だけは別だった。彼女だけは特典武具の耐性で戒めの呪詛を免れている。
だが【獣王】は動かない。戦う理由がないからだ。
下手人を含めた全員を殺害する能力があり、しかし王国の市街地での戦闘という暴挙が、所属する皇国に与える影響を考えた結果。取るに足らない小競り合いで問題を増やす事は一利もない。
「……ああ、すまない。取り乱した」
「あら? 声が出るようになったわ」
霧を収納した男は無言で筆談を続ける。
「……」(『落ち着かれましたね』)
「ありがとう。ところで君は?」
「……」(『私の名前はナハト・ムジークです。好きな食べ物はサーモンです』)
「好物は聞いてないが……」
「……」(『かっぱ巻きください』)
「そこはサーモンじゃないのかよ!?」
あなたは救世主に感謝を述べて、早速サーモンとかっぱ巻きの盛り合わせを用意するのだった。
◇◆
寿司は作れなかった。
「もぐもぐ……む? どうしたレイよ」
ネメシスが食材を丸ごと平らげていたからだ。
「ネメシスぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
後日、あなたはレイ宛の請求書をしたためて雇用主のシュウに報告した。諸々の経費を差し引いて黒字になったのは、経営上手なあなただからこそだろう。
◇◆◇
「……」(『ごめんなさい。お寿司、テイクアウトができませんでした』)
「なぬー!? なーにをしている貴様! それでも我が<テン・コマンドメンツ>の一員か!?」
「……」(『美味しかったです』)
「ぐぬぬ……失態は次の働きで挽回してもらうぞ! “寡黙絶叫”【
『無職さんのデンドロ履歴書』は原作者の海道 左近先生を応援しています。
・ネメシス
食べ物ネタの鉄板オチ要員。つよすぎる。
・ギデオン伯爵
やめて! 彼の胃袋はもう限界よ!
・クマニーサン
弟に請求できるわけねえだろクマー!?
原作本編→やはり頭がおかしい。
・【鮮血帝】
おいたわしやオー陛下。
友人に気晴らしの王国観光を勧められたんでしょう。
【念力術師】
二次オリジョブ。たぶん下級職。
ベクトル操作魔法ではなく、超能力的な方面のスキルを覚えるジョブ。